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(あっ、負けた!)   


2007年3月6日
「引退させていただきます」


まず始めに、メディア発表に遅れた引退報告になってしまったことをお詫び致します。

既報の通り、私平尾は現役を引退することにしました。一昨年、昨年と、脳震盪の後遺症による複視や視界の歪みに悩まされて、思うように練習すらできない日々を過ごしていました。これまでこのサイトをご覧になって下さっている方々は、このあたりのジタバタもがいている様子は既にご存知かとは思いますが、相手と接触するコンタクト練習をした後に症状が悪くなる場合が多く、その状態をみながら練習強度を上げたり下げたりしていました。もちろん全体練習には参加できず、チームメイトが練習に取り組む様子を眺めながらグランドの端で身体を動かす毎日。回復の目処が立たないということは先が見えないということで、押し寄せてくる不安に潰されないように努めてばかりいた気がします。今思い返してみれば、その不安に抗おうとして湧いてくる活力が、ラグビー選手としての枠にとらわれることなくあらゆる分野に向けて知的好奇心を持つことに繋がったのではないかと思います。「このままじゃアカン、何とかせんと」という思いが生まれたことによって、「今の自分にできることは何か」について形振り構わず真剣に考えることができた。だから、今となってはいい経験だったのかもなと楽観的に感じています。

実は引退を決意したのは昨年の10月。多少の症状が残ろうとも昨年の6月には一度現場に復帰しようと決めて、リハビリや練習に取り組んでいたのですが結局それも叶わず、失意のもとにチームと話し合った結果、そこからさらに11月までの猶予期間を頂きました。その時点で心に決めたのは「これで最後にしよう」ということでした。11月の時点で復帰が叶わないならば引退しよう。退路を断ち、心新たにして復帰を目指しましたが、映画や小説にみられるような奇跡的な復活は夢物語に終わり、突き付けられた現実を粛々と受け止めて自ら幕を引いたというわけです。引退を決意した瞬間、どちらかと言えば「無念」というよりも「スッキリ」したあの感情は今でも覚えていて、おそらくそう感じたのは、6月から11月までの期間に、復帰に向けてのアプローチに精一杯取り組めたからだと思っています。自らの身体に向き合い、自分の考えのもとにリハビリや練習に取り組めたからこそ、後悔の念がそれほど大きくなかったのでしょう。こうした期間を与えて頂いたチームと、僕のわがままに付き合ってくれたトレーナーには心から感謝しています。おかげで気持ちよくピリオドを打つことができました。

昨年の10月以降、試合会場でお会いするファンの方々、CANVAS.リーダーの方々や励ましメールをくださった方々に対しては、心では引退を決めながらに復帰を目指しているフリをしてしまったことを謝ります。本当にごめんなさい。シーズン中だったこともあり、発表を差し控える必要があったためにあのような態度をとる他なかったのです。試合会場でお会いした方々の顔の表情、またメールの文面からは、僕の復帰を心待ちにして下さっている気持ちが伝わってきて、名残惜しく未練がましい気持ちが幾度となく心に去来したかわかりません。まだまだ望まれているのだと感じることができて嬉しくもあり、でもその期待に応えることができなくて切なくもあるあの複雑な感情は、今でも心の中に余韻を残しています。試合に出場するしないに関わらず温かなお声をかけていただき、本当にありがとうございました。

今後の進路は、昨年に引き続いて神戸親和女子大学大学院で修士論文を書くための研究を第一にしながら、SCIXラグビークラブで指導を行っていく予定でいます。目指すところは大学の教員なので、これまで練習に費やしていたエネルギーをそのまま研究に向けようと思っています。今頭の中にあるのは、教育的、文化的な切り口でのスポーツ、子どものためのスポーツの再構築、ラグビーという競技の特色や面白さ、といったテーマで、これらを身体性に根ざした思考のもとに研究していくつもりでいます。

我が神戸製鋼コベルコスティーラーズは今年度より新体制を敷き、捲土重来を目指していきます。現役は引退するけれど、僕が神戸製鋼にいたという事実は僕自身の経験として決して色褪せることなく、今後の歩み方次第ではむしろ密度を増していくだろうと思っています。だから、これからは一OBとしての立場から関わっていきたいと思います。長い人生におけるわずかな現役生活にすべてをぶつけて戦う後輩たちの力になれるような、そんな存在でいられればなあと密かに考えている次第です(チームメイトと急に疎遠になるのが寂しいだけなのかも知れないですが)。

最後になりましたが、ラグビーを通じて知り合うことのできた全ての方々に心より感謝を申し上げます。みなさんのおかげで、19年に渡るラグビー生活はほんまにオモロかったなあと心から実感させていただいております。これからは、これまでとは違った道でさらなる努力を積み重ねていく所存ですので、引き続き平尾剛を応援していただきますようにお願い申し上げます。

長い間、本当にありがとうございました。

(16:00頃…)

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