●N大工学部助教授、ミステリィ作家森博嗣氏●
『すべてがミステリィになる』
99年6月12日
<名古屋大学・経済学部第1講義室>



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前回のレポート同様、レポートという名の感想になってます。


●『講演会レポート』という名の感想●

 500人ほど入る大きめの教室は満席。ただでさえ暑いのに、皆の熱気が暑さに拍車をかけます。
 森先生は渋めのカーキ色っぽいシャツで登場。いつものようににこやかに御挨拶です。恒例の「森」という字についての説明はなしで、OHPで本日のテーマが映し出されました。

●OHPで写しだされた『本日話す予定のテーマ』は次の通り。

 (1)不思議(Mystery)

 (2)日常(Ordinary)

 (3)空想と現実(Imaginary&Reality)

 (4)技術(Technology)

 (5)予定(Previously)

 (6)客観(Objectivity)

 前回のテーマも6つでしたが、6つにこだわっているのか、偶然なのかは謎であります。


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(A)ブーメラン

 トンネルの話をしようと思ったとのことですが、あまり「日常」ではないのでパスされて、以前話されたブーメランの話の補足説明です。『ジャイロ効果』などと聞くと私なんかは頭がウニになってしまいますが、先生がかみくだいて話すととてもわかりやすい(ような気がします)。ブーメランの何がすごいかと言いますと、ブーメランを投げたら返ってくるという技術よりも、その原理を知らなくても誰でもそれを確認、体験できることです。それが技術(Technology)の最終形なのだそうです。しらないうちにパソコンの調子が悪くなったり、強制終了したりしても、使い手が悪いのではなく、そのようになってしまう(パソコンの)技術に問題があるのです。

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(B)ゴジラ

 人間の目は電磁波をとらえるアンテナというお話。
 ここでまず、聞いてた人たちは「???」となります。最初に先生が「ゴジラの話」と言ったのに、それと人間の目の話の接点が全くわからないからです。「???」な間に今度はアンテナの話。アンテナは棒のようなものが何本かあって、ひとつですが、そのうちの一本がアンテナの役割をしていて、他の数本はそれを助けるためにあるのだそうです。そしてそのアンテナの長さは「周波数をとらえるのに必要な長さ」というのが決まっているのです。ですから、ゴジラの目の大きさ(長さ)はあれではおかしいはず>これが不思議(Mystery)です。

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(C)縮尺の話

 映画などで巨大虫などが出てくるが、あれは変。虫は小さいからあの細い足でOKとのこと。物は大きくなるほど弱くなるそう。だからウルトラマンはあの大きさでは、地面に足がめりこんでしまうのです。ゴジラの足は大きいから大丈夫かもしれませんが、あの体型では餌を食べるのがむずかしいはず。ゴジラはどうやって餌を食べるのでしょう。ということで、これが空想と現実(Imaginary&Reality)。

 バクテリアは仕組みが簡単で生命力あり。これが進化すると血管や道管などのパイプラインで養分を送るが、木は植物としては大きすぎて、水分をどうやって上まで送り込むのか。これは先生は答えをだしませんでした。日常(Ordinary)の謎です。

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(D)「人間はどれくらいの速度に耐えられるか」

 上は学生からよくある質問。これに対して先生は「上からは2Gまで、下からは6Gまで、訓練次第で9Gまで可能」と答えていたが、実はどれだけでも耐えられることに気付いたとのこと。
 ちなみに先生が以前「ジェットコースター同好会」に入っていたときの話が、結構ウケました。一番後ろに乗って、その間は他の会員が、乗ってる人間がちゃんと両手をあげてるか下から見てチェックするのだそうです。ちなみにシャトルループは一瞬6G。落ちる系統(バンジージャンプとか)は2G。
 しかし身体の一部だけひっぱられるのでアンバランスになり、耐えられないのであって、それさえクリアすれば、無限に可能。たとえば磁場をゆがめて磁場の谷間に落ちていくロケットも可能では? とのこと。これが技術(Technology)。

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(E)OHP〜小説について

 ます、3月の講演会でも公開された「インターネット検索ヒットランキング」が登場。その後、先生のおやじギャグが飛び出し、静けさが襲いました。
 次に作品タイトルの一覧。先生がタイトルで一番好きなのは『詩的私的ジャック』。好きな一冊は『まどろみ消去』。小説としては『数奇にして模型』がわけわからないところが良い、と思っているとのこと。また『夏のレプリカ』も好きだそう。人気があるのは『今はもうない』です。
 しかし私は実は世間で(たぶん)代表作と言われている『すべてがFになる』より『夏のレプリカ』の方が好きという、割と変わりものですので、先生が『夏のレプリカ』を好きと聞いて、ちょっと嬉しい気持ち。結局、より多くの人間に好まれる作品というのは、ポイントがわかりやすくて、作者が読者の近くに降りてきてるのだと私は思うのです。複雑であればある程、理解したり、感動したり、衝撃を受けたりする人間は、限られてくるのだと思います。どちらが優れている、というようなことは一概には言えませんが、私は複雑なものから何かを見い出す方が好きみたいです。
 あと『そして二人だけになった』について、ぽろりともらした言葉に対して「今のはナシ!」と言った先生が、とってもキュートでした!

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(F)ミスディレクション

 メールはいっぱい来るが、たとえば「黒猫」については名前についてや宇宙人についての話に注目してる人が多かったそう。しかしそれは先生の罠・・もとい技! であり、水が流れるように道筋を作っていく、ミスディレクションとのこと。
 京極夏彦の『絡新婦の理』なども、密室トリックが2つもありながら、他の方に読者が目を向けるように作られています。だからたとえば今回の講演についてもその技はしかけられており、答えの出されなかった「木はどうやって水を吸い上げるのか」などに話が集中するに違いないし、それは意図されたものでありましょう。
 これらの話の後、五角形の対角線の問題2問についてのお話。これは1問目がミスディレクションとなり、それを知らなければ思い付いたはずの、2問目のエレガントな考え方からそらす為の道筋です。

 ということで、
 身の回りの常識を疑って生きていくのが、インテリジェンスな生き方。
 というような結論で、講演は終ったのでした。

 今回私がもっとも印象に残ったのはミスディレクションについてのお話でした。

 この後、質問会。どうも昨年の講演会にくらべると、今年の3月のといい、今回といい、なんだかいっぷう変わった人が多いように思います(笑)。次回はどうなることでしょうか。