Leica M6 TTL/Black Paint LHSA Special Edition
− 黒塗りライカの魅力 −
M型ライカを使っていると、誰でも一度はきっと思うことがあります。そう、「黒いライカがほしい。」(笑)。ちまたでは「黒皮病」とよばれる「ブラックペイントライカ症候群」のはじまりです。
ライカの解説書などをみると、「そもそも昔はカメラはみんなブラックペイントだった。これは光線漏れを回避する手段の一つだった。しかし、ライカではDII型よりクロームモデルが登場し、きらきら光るボディが人気となった。その後、カメラがみんなクロームになったことから、逆にブラックペイントの人気が復活し...云々」などと書いてあります。実際、数がそれなりにあるバルナックライカでもブラックペイントは人気で、たとえばDII型など実はクロームモデルの方が数は少ないのにもかかわらずブラックペイントボディの方が高く取引されています。
バルナックライカではDIIIを最後にブラックペイントモデルは姿を消します(もっともIIIaにはごく少数、IIIbには800台、IIIf、IIIgにもグレーの軍用モデルなどなど特殊モデルに少数「塗り」モデルが存在します。なお、戦前、戦後すぐに作られたIIIcにはグレーペイントの軍用モデルが存在します。とくに戦後すぐのモデルについては「ウエッツラーを占領したアメリカ軍がライカの生産を命じたが、戦後の混乱でクロームメッキができず、グレーに塗った」という話しも伝えられています。ともあれ、軍用モデルの塗りについてはいろいろな話しが流布されていている反面、正式な記録など残っていないところから、個々のボディがオリジナルかどうかの見極めは大変難しく専門家でないとわかりません)。その一方で、M3を使い始めたあのアンリ・カルティエ=ブレッソンがきらきら光るクロームボディを隠すためにべたべたに黒いテープを貼って使っていたのを気の毒がったライツが特別にM3に吹きつけ塗装をしたのがM型ブラックペイントの始まりだ、と言われています。もちろんライカをめぐるこの種のエピソードの常で真偽の程は?ですが。

M6TTL/LHSA top view |
ともあれ約3000台のM3,約2000台のM2のブラックペイントモデルが作られ、M4になっても約4000台程度のブラックペイントモデルが作られています。M5以降、「黒いライカ」はごくごく一部の例外(M5の最初のロット、いわばプロトタイプはブラックペイントだったようです。う、欲しい。)を除いてブラッククローム仕上げとなり、あのしっとりとしたペイントの味は失われてしまいました。(もっとも、M3,M2の頃のブラックペイントは戦前のペイントと比べ質が悪く、すぐはがれてしまった、などと言われます。あのしっとりとしたブラックペイントがもどってくるのはM4からで、これは日本製のペイントを導入したためだ、などと言われています。また、M2,M3、特にM3のブラックペイントは非常に人気が高く、オリジナルペイントだと200万円に迫る価格がつけられています。しかし、これとて、何度も塗りなおしを繰り返したボディもあるようで、本当のオリジナルのボディはなかなか手に入らないようです。)
バルナック、M型、いずれにしてもブラックペイントの数は少なく、また、古いボディではその状態も必ずしもいいものではないので、ブラックペイントライカを手に入れるには大金をはたくか、あるいは適当なクロームボディを買ってきてこれをどこかで塗る、という方法のいずれかをとることになります。特に最近ではいろんな色に塗ってくれるところもありますがやはり人気はブラックペイントのようです。私も何度も手持ちのM3やM2をブラックに塗ってもらおうと考えたことがありますが、価格的にもほとんど10万円近くかかってしまうこともあり、今ひとつ踏ん切りがつかずにいました。
− M6TTLスペシャルバージョンの饗宴 −
さて、このようなブラックペイント人気を知ってか知らずか、世紀の変わり目になってライカ社は現行のM6TTLモデルにいろんな特別バージョンという形ですが次々にブラックペイントモデルを投入します。(そもそも、もとになったM6の軍艦部にも何もマークされておらず、ここにいろんなロゴを彫りこんでいろいろ「記念ライカ」を送り出しました。)これらのM6TTLはもちろんブラックペイントということもありますが、M6以来あののっぺりしていた軍艦部に筆記体の「Leica」の文字やその他メーカー名が刻まれていることがその特徴で、とくに「Leica」の文字はM4以来失われていたもので、ライカファン泣かせです。また、これらのブラックペイントモデルは、かつてのライカと同じく、その軍艦部の素材に真鍮をもちいており、ペイントがはげるとあの美しい地金が現れることになります。(通常のモデルはM4-P以来亜鉛ダイキャストだそうです。)

Special LHSA |
無論、これらのモデルは限定モデルということもあり、普通のM6TTLの「正規輸入品価格」のほぼ倍近い価格で発売されました。それでもたとえば、99年の中古カメラ市で売りだされた「ICS」モデルはその一般向け供給数が20台だったこともあり朝早くから松屋前に長蛇の行列ができました。また、2000年にはライカ社より「ミレニアムモデル」と称して巻き上げレバー、巻き戻しノブにM3のものを使ったモデルが2000台限定で発売され、かなりの高額で取引されました。さらに2000年も終わりに近づくと、2000年記念ドラゴンモデル、北欧のどこかの橋の落成記念モデルなどちょっと意味不明のモデルまで売り出されています。むろん、この中でライカ社が自ら正式に作成したモデルはいわゆる「ミレニアムモデル」で、その他のものはライカ社が顧客よりの注文を受けて作成したモデルという具合に分類できます。
一方、アメリカの「Leica Historical Society of America (LHSA)」は会員向けに受注生産という形でM6TTLブラックモデルの生産を発表し、2000年6月一杯まで申し込みを受け付けていました。これがM6TTL/LHSAモデルで、それまで多く作られていた限定バージョンブラックペイントモデルではM3タイプの巻き上げレバーと巻き戻しノブが使われていましたがこのLHSAモデルでは通常のM6TTLと同様、プラスチックの指あてがついた巻き上げれば−にクランク式の巻き戻しに変更されています。
その他細かな点が異なりますが、実際の使用にあたって問題になりそうなのはこの巻き上げレバーと巻き戻しノブだけです。あと正面の「ライカ」エンブレムが赤から黒に変更になったり、軍艦部に刻まれていたボディ番号がアクセサリーシューに戻ったり(これは少し悲しい)、初めてライカ社の工場があるSOLMSの名が軍艦部に刻印されていたりする点が変更点です。(なおなお、あるところから聞いたところでは、ライカ社は今後はこの「SOLMS」銘を刻んだライカは製造しない、としているようで、じつはLHSAの最大の特徴はこの「SOLMS]の5文字にあるという話しです。こういうことは、どうでもいいといえばどうでもいいのですが、やっぱり伝統のWetzlerマークが消えたあとに入れられた文字ということでちょっと気になるところではあります。)
このLHSAスペシャルエディション(と軍艦部背面に書いてあります)の存在をはじめて知ったのはアルパライカさんのHP。LHSAの会員である彼のところに案内状が送られてきたのをHPで公開されたのでした。あれこれお聞きしているうちにほしくなりました。だって、新品のブラックペイントライカなどそうそう滅多に買えるものではありません。その上、LHSAモデルは限定品とはいえ、受付期間に注文を受けたものは全部生産するという受注生産方式なので数に限りがあるわけではなく比較的入手がたやすそうだったことも購入動機の一つです。別にきれいなブラックペイントボディを眺めて楽しもう、というのではなくガンガン使って自分でペイントをはがしてみたい、と思っている向きには最適です。ちなみにお値段はファインダー倍率が0.85のモデルが約2700ドル、0.72モデルが約2600ドルです。
いろいろ悩んでいるうちに締め切り期限が近づいてきました。熟慮の結果、0.72モデルを購入することにし、「もしよければいっしょに申し込みませんか」と暖かいお声をかけていただいた、とりさんにお願いすることにしました。(送金手続き等でとりさんにはいろいろ無理を言わせていただき大変ご迷惑をおかけしました。どうもありがとうございました。)というのはめがねをかけているので0.85モデルだと35mmのフレームもきちんと見えないのでは?と思ったのと、そもそもノーマルのM6を持っていないのでここはベーシックな方を買おうと思ったわけです。また何よりも100ドル安かったのが利いています(笑)
たいへんな苦労をおかけして無事送金完了。しかし待てど暮らせどカメラは届きません。ご友人の分と3台分の大金を送っていただいたとりさんもかなりご心配されたようです。とうとう年末近くになって、ようやく私の分以外の2台の0.85モデルが届いたようです。「うーん、はたして20世紀中に間に合うか」と思っていた私の分はとうとう越年し、とりさんの所を経由した私のところにとどいたのは、なんと「ライカ広場」の浅草新年撮影会の朝でした。
さっそくかねてから用意のケースに入れて撮影。新品のライカなんてもう手にすることはないだろうと思いながらも楽しく一日を過ごしたのでした。
−M6TTLインプレッション−
ライカM6TTLモデルの特徴は、これまでのM6(クラシックなどと呼ばれています)をTTLストロボ撮影が可能なようにストロボ制御回路を追加したため、軍艦部が約2mm強高くなっていることです。これはライカM3以降完成されてきたライカM型のフォームをかなり変えてしまい、あんまり好評とはいえません。確かにこれまでのM型ライカのスタイルは抜群でバランスも取れていたため、わずか2mmちょっとの変更でも大きな変化と感じてしまいます。ライカの歴史の中では、IIIBからダイキャストが導入され横幅が3mm強大きくなり、また、IIIgでは軍艦部が大きく変更されています。もちろんM型ではM5がデザイン的には大きな変更でしたが、それ以降久しぶりの大きなスタイルの変更だといえます。また、軍艦部の高さが増したためファインダー窓にはこれまで下の方に銀メッキがされていましたが上部にも約2mm幅の銀メッキが追加されました。ファインダー窓全体の形はほぼ正方形に近いような印象を受けます。
ファインダー内の露出計の表示は、M6の露出アンダー、露出オーバーを示すLEDに加え、新たに適正露出を示す真中のLEDが追加されました。これにより、適性露出+−0.5段の表示が確実になりました。またシャッターダイアルに露出計への電源を切る「off」の位置が設けられるとともに、ダイアルが大型化され、しかも回転方向がこれまでのライカとは逆になりました。これは「R型と操作性を統一し、ファインダー内のLEDの表示とシャッターダイアルの回転方向を統一するため」とライカ社は説明しています。しかし、実際にほかのM5などと組み合わせて使ってみるとやはり混乱してしまいます。ダイアルを大きくしたのはともかく、回転方向を変更する必要があったのかは疑問です。さらにいえば、露出計のOFFのポジションは設けられましたが、これは単に露出計の電源回路を切断するだけで、シャッターそのものはバルブで切れてしまいます。ここはシャッターロックがほしかったところです。
さらにM6TTLモデルにはファインダー倍率により、3つのモデルがあり、それぞれ0.85、0.72、0.58倍となっています。M6でも0.85倍のモデルが存在しましたが、TTLモデルの導入により、わずか数ロットの生産にとどまり高値を呼ぶこととなりました。また0.58倍モデルは、とかくこれまで見にくいと評判の悪かった28mmのブライトフレームが見やすくなりましたが、どうもこれはヘキサーRF同じ倍率ということもあり、「将来登場するM7はヘキサーRFのOEMではないか」との噂の一つの根拠にもなっています。
なお、M6TTLにはなんと通常「Japanモデル」なるものが登場しました。これは限定版モデルで大変好評だったあの軍艦部の「Leica」のロゴを軍艦部に入れたモデルで、日本の正規代理店であるシーベルヘグナーが輸入したモデルです。(M6TTLの箱にもNHS(日本シーベルヘグナー)と書かれています)ただ、残念なことにこのロゴは軍艦部に刻印されたものではなく単にプリントされたもので、はたしてこのロゴの存在の有無が正規品と平行品の価格差を説明できるかどうかはユーザー次第だと思います。
さて、新品ライカの使い心地は、スムーズでシャッターも軽く...と思いきや、まだ機械がしっくりなじんでいないためか、巻き上げもちょっと期待したほどスムーズではなく、シャッター音もたとえばきちんと調整したM5などより大きめです。まあかつて、「M6はどうも建てつけが悪い」、などと言われた頃より品質は上がっていると思われますが、ライカはやはり使い込んでこそあのスムーズな操作感が実現できるのかもしれません。
肝心のブラックペイントですが、一時M6TTLのミレニアムモデルが出たときにはごく一部で塗りむらがあったり、軍艦部の真中に水平に重ね塗りの線がはいったりしたとのうわさも聞きますが、さすがに何千台も作ったからでしょうか、きわめて美しい仕上がりとなっています。手にすれば吸い付くようなしっとりとした感じで、実際に使うのがためらわれるような出来です。「ブラックペイント」はドイツ語とフランス語で「ラッカー塗り」とかかれていますが、これらの単語はもともと「漆」を意味しているように、まさに漆塗りに近いようなつやと光沢を放っています。
軍艦部にはお約束の「Leica」の文字が、少々間延びした形で入っており、角張った文字で「LEICA CAMERA AG
SOLMS GERMANY」と大文字で刻まれています。この「SOLMS」はウエッツラーから移転したライカ社の工場の所在地ではじめてソルムスの名前が入ったライカとなりました。(もっとも、ライカファンの多くは伝統のあるウエッツラー銘の方がうれしかったかもしれませんが、仕方ありません)残念なのは他のミレニアムモデル、ICSモデルとは異なり、ボディ番号が軍艦部に刻まれていないことです。これは通常のM6と同じくアクセサリーシューに刻まれています。
とはいってもこのM6TTL、コレクションのために購入したのではないので、しっかり使っていますが、やはり裸で持ち歩く勇気はなく純正のケースに入れています。M6から少し背丈が伸びたため、M6用ケースには入らないようで、ライカはTTL用に新しいケースを供給しています。このケース、右手の部分がわずかに形成されており、グリップのような感じでなかなか使いやすく、ホールディングもなかなかのものです。もちろん上カバーはスナップで外れますので底ケースだけを使っています。
ちなみにTTLの売りのストロボですが...専用ストロボ(SF20)あるいはR用のストロボを入手していないのでその実力は未知数です。しかしながら、X接点が1/50のM型ライカでTTLのご利益がどこまであるのかは疑問ですが...