Slightly Classic Midium Format

フォクトレンダー ベッサII カラーへリア-105mm/f3.5付

 フォクトレンダー社は18世紀の半ば、モーツアルトが生まれた年に設立された世界で最古のカメラメーカーの一つです。いろいろあって、60年代にはツアイス・イコンに吸収され、その後商標だけローライに売られそして名前だけが残りました。さらに最近になってコシナがフォクトレンダーブランドで相次いでライカマウントのカメラ、レンズを発売していることはご存知のとおりです。(ちなみに「コシナ・フォクトレンダー」のロゴマークはコシナの社長ご所有のベッサIIの軍艦部から起こしたものだそうです)ももともとローライはフォクトレンダー社にいた、フランケとハイデッケの二人が独立して起こした会社なのでまさに因果は巡ったわけです。

 ともあれ、フォクトレンダー(なぜこのような発音になるのか、いまだに疑問ですが)はユニークなカメラを作る会社として有名です。古くは、全金属製のダゲレオタイプ・ポートレート用カメラに始まり、プランジャー巻上げのビテッサにいたるまで、ユニークな機構と独特の操作性を備えたカメラを次々に送り出しました。また、レンズにおいても、ヘリアー、ウルトロン、スコパーなどレンズの歴史上燦然と輝くレンズを世に送り出しています。

 フォクトレンダーは戦前から数多くのスプリングカメラを製造しますが、なかでもベッサシリーズは基本的にブローニーフィルムに6x9の画像を8枚撮れる仕掛けになっており、その中心的な存在でした。ベッサは戦前に大まかに分けて2期と戦後の都合計3期に分類できるようです。

 いずれもすばらしいカメラですが、戦後登場したモデルは、戦前モデルが板金細工だったのに対し、シャーシがアルミ合金によるダイキャストになり、より高精度の加工がなされています。また、戦前、戦後を通じて距離計連動モデルと簡略型モデルに分けられますが、連動距離計なしの戦後モデル、ベッサIはベッサシリーズのなかで唯一二重露光防止装置が組み入れられています。

 戦後のベッサII、スーパーベッサとも呼ばれるこのモデルは、戦後50年ごろから生産されたようで、初期のモデルのシャッターにはコンパーラピッド、後期モデルにはシンクロコンパーがつき、後期モデルにはアクセサリーシューが軍艦部に固定されるようになります。また戦前のベッサシリーズもそうでしたが、一部の機種は6x9に加え、セミ判のフレームに切り替えられるモデルもあります。

 戦前のベッサとの最大の違いは、レンズのコーティングの有無や巻き上げノブがカメラ底から軍艦部に移った点などもさることながら、距離計が一眼式になった点です。もともと戦前のベッサの距離計はかなり見やすいものでしたが、これが一眼式になり速写性が向上しました。

 なお、連動距離計のないベッサIも引き続き発売されますが、このモデルは距離計がない代わりに、二重露光防止装置、セミ判切り替え、近接パララックス補正ファインダーと実は機能的には距離計はないもののベッサIIをしのぐほどのカメラとなっています。

 ベッサIIのレンズは、戦前設計されたスコパー、ヘリアーをカラー対応に再設計したカラースコパー、カラーへリアー、そしてカラーへリアーに新種のガラスをもちいた伝説のアポランターの3種類があり、いずれもその写りには定評があります。特にアポランラーはその個体数もすくなく、いまやコレクターズアイタムとなっており、中古店で見る価格も50万円近くとカラーヘリアー付モデルの3倍強とマニア垂涎のモデルとなっているようです。

 さて、私のベッサIIは初期型、カラーヘリアー付のボディです。ご覧のとおり、左右対称のデザイン的にもとても美しいカメラです。軍艦部はやや倍率の低いファインダー窓をかろうじて隠すだけの薄いものですし、左右シンメトリーを確保するためにわざわざ巻き上げ機構にギアを一枚いれるなどの懲り様です。フォクトレンダー社がこのベッサIIのデザインを重視していたことは、発売当初ファインダーの角窓に対して丸型だった距離計まどをすぐにファインダーと同じ角窓に変更したことからもわかります。(それにしてもどうしてプロミネント35ではそのままにしたのでしょうか?)

 ただ、あまりにもデザインを重視したためか自動巻き止め、二重写し防止などの便利な機能は全くなく、操作はきわめて古典的というか面倒くさいお作法が必要となります。まず、巻き上げは背面の赤窓を見ながらフィルムを巻き上げる赤窓式。もちろんセルフコッキングではありませんから、右手の指でレンズシャッターをチャージする必要があります。

 ピント調整は軍艦部左側にあるノブを回して調整します。このノブの回転がラック・ピニオンにつたえられ、レールの上にのったレンズボードが前後に動いて焦点距離が調整されます。もちろん、ノブの回転は距離計に伝えられファインダー内の二重像を重ねることでピントをあわせることになります。
 これは書くと簡単なのですが、そもそもボディとレンズがかなり離れてしまうスプリングカメラで連動距離計を組み込むことは半端ではなく、実際にこの機構を組み込んだカメラはそう多くはありません。スーパーイコンタのようにドレーカイルを用いて光学的に距離計に連動させる方法は必然的にレンズが前玉回転式になりますし、通常の距離計を連動させるにしても引き出した蛇腹は固定され、蛇腹先端にあるレンズだけをヘリコイドを使って前後させるという方式をとっています。

 したがって、蛇腹を支える支柱とたすきを前後させてピントを合わせる方式は、折畳式のスプリングカメラでは実現が難しく、よほど工作精度に自信がないと採用できない構造です。しかもベッサIIの場合、このレンズボードの駆動も片側からだけたすきが伸びておりこれがレンズボードを支えています。このような片側だけからの駆動機構は、本来であれば両側から支えるべきものですが、そこを片側だけで済ましてしまうところにフォクトレンダー社がその素材、加工精度に絶対の自信を持っていたことが伺われます。

 シャッターはコンパーラピッド。このシャッターは戦前のモデルから使われているものですが、最高速度は1/400までとなっています。その後後期に入るとこれはシンクロコンパ−に変更されます。前ふたを左側にひらくと、ふたについたシャッタートリガーがせり出してきます。レンズをレンズボードに固定するとこのシャッターとレンズシャッターがアームで連動される仕掛けです。このシャッタートリガー、ちょうどピストルの引き金のような形になっており、カメラを構えてゆっくりこの引き金を引くとシャッターが切れる仕掛けになっています。

 カラーへリアー105mm/f3.5はかのトロニエ博士がヘリアーを再設計したといわれるだけあり、大変美しい写りです。たとえばプラナーのようなシャキッとした切れ味はないものの、シャープでなだらかな描写をするすばらしいレンズです。実はこのベッサIIを買うきっかけになったのは、仲良くしていただいている山縣さんにかつての蛇腹カメラからはずしたヘリアーをニコンマウントにして撮影されたプリントを拝見したことがきっかけです。ややフレアーを伴ったプリントでしたが、それは大変美しいものでした。それ以降、いろいろ文献をあさっているうちにやはりカラーへリアー付のベッサが欲しくなったわけです。

 インターネットのオークションでニュージーランドより落札したこのベッサII。少々やれていますが、まあまあきれいなボディで時々お散歩に連れ出しています。カラーヘリアーになりコーティングもされているとはいえ、できればフードは欲しいところですが、37mmという中途半端な口径かつかぶせ式のため、適当な代用品をまだ見つけるに至っていません。開放のふわっとした描写を楽しむためにも是非手に入れたいと思っています。

 はじめての6x9カメラですが、やはり撮影枚数がブローニー一本あたり8枚と少ないのが不便といえば不便です。じっくり撮影することもありますが、そぞろのお散歩につれだして道端の花などを撮影しています。