肝臓癌
肝臓には多種類の悪性腫瘍が生じますが、肝細胞がんと胆管細胞がんで95%を占めます。
残りの5%には、小児の肝がんである肝細胞芽腫、成人での肝細胞、胆管細胞混合がん、未分化がん、胆管嚢胞腺(たんかんのうほうせん)がん、カルチノイド腫瘍などがあります。
成人では、肝臓がんの大部分(90%)は肝細胞がんです。
肝癌といえばほぼ肝細胞癌のことです。
肝癌は日本人に多く、西日本に多く、肝細胞がんの発症年齢はおよそ55歳で男性がぞせいの約5倍です。
男性では癌による死因の第3位、女性では第4位です。肝臓がんの95%は、B型肝炎ウイルスまたはC型肝炎ウイルスのいずれかの肝炎ウイルスに感染している人に発生し、アルコール性肝硬変での肝癌の発生はあまりありません。
C型肝炎ウイルスに感染してから約25年経つと肝臓が肝炎から肝硬変になり肝臓がんができやすくなります。
またC型はB型よりもインターフェロン療法が効きやすく、インターフェロンが効果がある場合には肝癌の発生も抑制されます。
B型肝炎ウイルスに関連した例は年々減少傾向ですが、40歳以下の例ではほとんどがB型です。
B 型,C型肝炎ウィルスの感染は血液を介しておこり, 最近の急激な肝癌の増加は戦後の売血制度や輸血を多用した肺結核手術が原因とみられています。
現在は輸血や分娩による感染はほぼ完全に防止可能となっています。
肝臓は予備能力が大きいので肝癌が発生しても自覚症状は比較的少ないため,
内科で慢性肝炎や肝硬変の治療を受けている途中に肝癌の合併を発見される場合が多くなります。
無症状のうちに発見することが大切です。
病状が進んでからの自覚症状としては患者さん自身が右上腹部にしこりを感じたり,
右上腹部痛, 原因不明の発熱, 黄疸等があります。
稀に初発症状が肝癌の破裂による激烈な腹痛とショックであることもあります。
検査は、腹部超音波検査・X線CT・MRIなどがあります。
肝癌が発生しても通常の肝機能検査には異常所見が現れないことが多く、そのため一般的には血中腫瘍マーカーや腹部超音波検査(US)によって癌のスクリーニングが行われています。
腹部超音波検査は肝臓がんを早期に発見するために最も簡単で有効な全く痛みのない検査です。
また、これらの肝画像診断に加えて、肝がんに特異的な腫瘍マーカーの測定が有用です。腫瘍マーカーにはアルファフェトプロテイン(
AFP ) とPIVKA-IIがあります。
一般的にAFPなどの腫瘍マーカーは、がんが存在すると検出され(陽性、AFP10ng以上)、がんの勢いが旺盛で大きく育つと、腫瘍マーカーもそれにつれて値が上昇し、治療をしてがんが小さくなったりなくなってしまえば、腫瘍マーカーの値は下降します。
AFP は肝硬変でも高くなることがありますので,AFPのみで肝癌と診断する訳にはいきません(500ng程度までは上昇しうる)。
PIVKA-IIはAFP が上昇しないタイプの肝癌や早期肝癌の診断に役立ちます。
定期検診の間隔は、単に「肝炎ウイルスに感染している」だけで他に異常がなければ半年に1回で十分です。
肝硬変あるいは肝機能異常や肝予備力低下を伴う慢性肝炎やAFPが軽度上昇している場合は、肝癌の早期診断のため、超音波検査を3-4ヵ月に一度、X線CTあるいはMRIを半年に一度程度行うのがよいとされています。
「肝炎ウイルスに感染していない」方は、肝がんになる確率は極めて低く、肝がんを意識した定期検診は必要ありません。
精密検査としては超音波ガイド下針生検や肝血管造影がおこなわれます。
超音波ガイド下針生検は、超音波で肝臓内部を見ながら肝臓の腫瘍部分に針を刺して少量の組織片をとり、顕微鏡で調べる検査で、必要でなければ行われないこともあります。
肝血管造影は肝臓内を走るどの動脈が癌に栄養を与えているか、脈管侵襲( 門脈, 肝静脈が癌に侵されている) があるかどうかを調べます。
また血管造影をしながら CT 撮影を行い, 通常のCTでは見つけることが難しい主病巣以外の数ミリの癌を診断します。
血管造影は入院して行いますが, これは治療方針の決定に重要な検査です。
治療は、手術(肝切除)・アルコールを入れて固める治療(経皮的エタノール注入療法:PEIT)・血管をつめる治療(肝動脈塞栓術:TAE)の3療法が中心です。
肝切除、肝動脈塞栓術、経皮的エタノール注入療法は、それぞれ長所・短所があり、一概に優劣をつけることはできません。
絶対的な治療法はなく、がんの進みぐあい、肝機能の状況などの条件を十分考慮した上で個々に応じて種々の治療法を組み合わせ、病態に則した最も有効な治療法を行います。
手術療法は、切除可能な癌(病巣が1個だけで大きさも4cm以下である場合や、病巣が複数あって肝臓の一部分に集中し切除し易い場合など)は取り除くことができますが、最も侵襲が大きく、癌の大きさや個数・場所・肝機能などによっては手術が危険な場合もあります。
また、肝癌が再発が多いため最近は切除範囲を縮小した手術が多くなっています。
エタノール注入療法(EIT)は、アルコール攻めです。
超音波で肝臓内部を見ながら肝臓の腫瘍部分に針を刺してエタノールを注入することによって癌細胞を殺します(凝固壊死)。
比較的小さな癌(癌の大きさが3cm 以内、3個以下)が適応となります。侵襲の小さな治療法ですが、癌の場所によって行えないことがあります。肝動脈塞栓術(TAE)は、兵糧攻めです。
肝臓が門脈と肝動脈とから血流を受け,その割合はおよそ4:1なのに肝細胞癌はほとんど肝動脈から栄養されている性質を利用し、血管造影で腫瘍に行く動脈にカテーテル(管)を挿入し、スポンゼルというゼラチンのような物で癌が栄養としている血管の血流れを止めて癌を兵糧攻めにして壊死させます。
それと同時に抗ガン剤を混入したリピオドールを癌の中に注入( ケモリピオドリゼーション)
して癌細胞を叩きます。
門脈の太い所が癌によって完全に塞がれていたり、高度の肝不全や腫瘍内シャントがあるとこの治療法を行うことはできません。
腫瘍の大きさが3cmぐらいまでで、少数であればかなり有効な治療法です。
手術ができない場合の治療法のひとつです。
この他に最近、マイクロ波凝固療法(MCT)が行われるようになっています。
マイクロ波によって癌を焼き殺してしまう方法で(この方法は電子レンジと原理的には同じ)、超音波で肝臓内部を見ながら肝臓の腫瘍部分にマイクロ波電極針を刺入して行います。
壊死範囲は2cm位で壊死効果はPEITよりも確実で、侵襲の小さな治療法ですが、癌の場所や大きさによって行えないことがあります。
また、動注化学療法も行われています。
固有肝動脈内にカテーテル(リザーバー)をいれて留置し、抗癌剤を持続的にあるいは断続的に注入する治療法です。
全身性に抗癌剤を投与する場合と比べ、局所効果は大きく副作用は少なくなります。
このほかに放射線療法や化学療法・温熱療法などがありますが、放射線療法は骨に転移した時など対象が限られます。
また、最近肝臓癌をターゲットとした遺伝子治療の研究が行われています。
肝がんの病期には、がんの進行程度を分類する「ステージ分類」と、肝機能の程度を分類する「臨床病期」とがあります。
ステージ分類は1〜4までの4段階に分けられており、数字が大きいほどがんが進行していることを意味します。
下記のステージ分類はおよその目安です。
| ステージ1 | 単発した直径2cm以下の癌腫で血管侵襲を伴わない。 |
| ステージ2 | 単発した直径2cm以下の癌腫であるが血管侵襲を伴う。または、一葉に限局した最大腫瘍径が2cm以下の多発性癌腫。または、単発した直径2cmを超える癌腫であるが血管侵襲を伴わない。 |
| ステージ3 | 単発した直径2cmを超える癌腫で血管侵襲を伴う。または、一葉に限局した直径2cmを超える多発性癌腫。 |
| ステージ4 | 一葉を越えて存在する多発癌腫。または、門脈または肝静脈の一次分枝の血管侵襲を伴う。 |
臨床病期は1〜3期までで、番号が大きくなるにつれ肝機能が悪くなります。
臨床病期は患者さんがどの程度の治療に耐えられるかという肝臓の予備能力を示すもので、腹水、黄疸、
血清アルブミン値( 蛋白合成能)、ICG(解毒機能)、プロトロンビン活性値( 凝固能)
によって規定されます。
下表の臨床病期はあくまで目安です。
| 1期 | 肝臓障害の自覚症状がない。 |
| 2期 | 症状をたまに自覚する。 |
| 3期 | いつも症状がある。 |
肝がんは、「ステージ分類」4段階×「臨床病期」3段階の計12の病態に分けられることになります。
下表はそれぞれの病態で行われうる治療法の目安です。
|
|
臨床病期:1期 |
臨床病期:2期 |
臨床病期:3期 |
|---|---|---|---|
| ステージ1 | 肝切除、 PEIT、 TAE | 肝切除、 PEIT、TAE | PEIT、 TAE |
| ステージ2 | 肝切除、 PEIT、TAE | 肝切除、 PEIT、TAE | PEIT、 TAE |
| ステージ3 | 肝切除、 TAE | 肝切除、 TAE | TAE |
| ステージ4 | 肝切除、 TAE | 肝切除、 TAE | TAE |
生存率は、各治療法ごとの治療後5年生存率は、肝切除50〜60%(1 年生存率: 84.7% ,3年生存率: 65% ,5年生存率: 46.3%)、エタノール注入療法40〜50%(1 年生存率: 86.4% ,3年生存率: 51.5%)、肝動脈塞栓術10%前後(1 年生存率: 54.4% ,3年生存率: 19.5%,5 年生存率: 9.2%)という報告があります。
TAEとPEI の併用では1 年生存率: 89% ,3年生存率: 53.6%,5 年生存率:28.6%という報告があります。
各治療法がふさわしい病気の程度が違いますので、この数字はそれぞれの治療法の優劣を示すものではありません。
また、種々の治療の併用も一般的で、その結果約半数の方が2 〜3 年生存され, 少数ではありますが10年近く生存された方や完全に癌が消えた方もあります。
しかし、肝炎ウイルスが原因のガンである以上、肝がんが再発することも少なからずあり、定期的検診が極めて重要です。
肝臓癌を早期に発見できたら90%は治ります。切除できた肝臓癌の5年生存率は70%台もあります。
切除できなかった肝臓癌の平均生存期間は3〜4ヶ月であり、5年生存率は約4%しかないという報告もあります。
肝臓癌に関するHP:
国立がんセンター http://wwwinfo.ncc.go.jp/NCC-CIS/pub/0sj/010214.html
愛知県がんセンター http://www.acc.pref.aichi.jp/acc/joho/inform/kanzou.html
金沢医大 http://web.kanazawa-u.ac.jp/~med26/disease/liver.html