Step.6 アプローチとドリフト

アプローチとドリフトは、別の技術(?)として解説されることが多いのですが、実際には同時に考える必要があります。というのは、キャスティングやドリフトの技術があまりない私たちの場合、流したい部分を上手くドリフトさせられる位置がかなり限られているからです。

Point.1 まずはドリフトを考える

フライを流そうと思う筋は、前章で見つけることができている、と思います。まずは、その部分を自分の技術で上手くドリフトさせられる位置がどこかを考えましょう。一回のキャストでドリフトさせる距離は数十cm〜1mくらいで十分なはずです。このくらいの長さをドラッグがかからずに流すには、どの位置に立って、どうキャストして、どうラインを扱うか−水面につけないようにするのか、つけるとしたらどこにラインを落とすか、メンディングが必要になるか、などを考えていきます。また、バックキャストのスペースなども確認しておきましょう。

自分の技術でドリフトができそうな位置が見つかったら、その場所へ移動する前に、移動することによって潰してしまいそうなポイントがないか、再確認します。もしもそういうポイントがあれば、移動する前にフライを流しておきましょう。

ドリフトの重要性や技術については、いまさら説明する必要もないくらい情報が(雑誌やらビデオやらInternetやらに)ありますので割愛させてもらいます。

さて、立つべき場所が決まったら、そこへ移動するわけですが、このときに不用意に近づいて魚を警戒させてしまっては何にもなりません。慎重に行動することが必要です。が、雑誌などの記事にあるように、しゃがんだりはいつくばったりしなければならない、とか、大岩に身を隠すようにしてキャストすることが(必要な時もありますが)毎回必要ということではありません。

どの程度気を使って行動するか、というと、これはもうケース・バイ・ケースとしかいえません。が、一般的にフラット&スローな流れでは視覚的に魚が見える=魚からもこちらが見えるということが多く、極力姿勢を低くして近づいたり、岩や木、草などの陰に隠れながら近づくことが必要です。魚が見えたときには手遅れ(こちらに気づいて逃げる、または警戒してしまう)ということがよくあります。自分と魚を結ぶ線上に視覚的な遮蔽物を置くように行動することが重要なケース、といえます。

ある程度水面が荒れている部分は、こちらが魚を見つけにくいと同時に魚からもこちらが見えにくいので、上のケースほど姿勢に注意したり遮蔽物を利用する必要はあまりありません。が、ウェーディング(水中に足を入れる)する場合は注意が必要です。

というのは、魚は音や振動に敏感であり、人間のたてる物音や振動で危険を察知してしまうからです。魚は主に内耳で音を感知しますが、その他に側線でも音や水の振動を感知しています。また、水は音や振動(音も振動の一種なのですが、便宜上分けておきます)を大気よりも容易に伝播する物体です。実際に、視覚的なものよりも音や振動で危険を察知して逃げる魚が意外と多いものです。近づいても逃げなかった魚が、フライやリーダーの着水音や振動を感じると飛ぶように逃げ去る、なんてことはめずらしくありません。

Point.3 音無の構え

さて、それではどうすれば音や振動の問題をクリアしながら魚に近づくことができるでしょうか?

むやみに大きな音をたてたり、振動を起こしたりしないことはもちろんですが、もっとも単純にして有効な対処法としては、極力ウェーディングしないことです。キャスティングしにくいから、といってむやみに流れのなかに立ちこむのは、キャスティングする前に魚を追い散らしているようなものです。多少投げにくいは我慢しても、ウェーディングしないで狙える位置を探しましょう。

とはいえ、やはりまったくウェーディングしないわけにもいきません。時には移動のため、時にはキャスティングのために立ちこむ必要が出てきます。そういう時には魚を脅かさないようにウェーディングしなくてはなりません。視覚的には遮蔽物を利用するとよい、と述べましたが、実は音や振動も同じく遮蔽物を利用することで、接近を容易にしてくれます。といっても、そんな遮蔽物なんて渓流はないじゃないか、と思われるかも知れません。いや、実際にとしては存在していません。

それではいったい、音や振動を遮蔽してくれるものは何なのでしょうか?

実は、音や振動自体が、人間のたてる音や振動が魚に伝わるのを防ぐ(あるいは低減してくれる)遮蔽物の役割をしてくれるのです。そして渓流には音が出ているところ、水を振動させているところは無数にあります。そう、落ち込みやガンガンの流れ(特にその流芯)を見てください。そこでは多少人間が乱暴に水音をたてても、その反対側には影響がないくらい音が充満し、振動が波を作り出しています。

これを遮蔽物と考えて、魚と自分の間にこのような遮蔽物が常に存在するようにウェーディングすれば、かなり魚に気づかれません。逆に、落ち込みの下にいる間は大丈夫なのですが、そこからわずかに一歩、落ち込みの上に踏み出すと遮蔽効果が得られなくなり、魚に気づかれやすくなる、ということに注意してください。警戒されるのは距離が近づいたからではなく、遮蔽効果がなくなるかどうかの方が大きいのですから。

Point.4 ルートを考える

視覚的、聴覚的な遮蔽物をうまく利用して、ドリフトに有利な位置、キャスティングしやすい位置に移動する、これがアプローチです。そして、フライを流すレーンは独立して存在しているのではなく、ひとつの流れの中に複数あったり、大きく見れば繋がっていたりするわけですから、アプローチも大きく見ればいくつかの点を結ぶ複数のアプローチ、ルート(移動経路)として考える必要があります。

同じ流れでも、攻める人のドリフト/キャスティングの能力が違えば立つ位置も変わり、自動的にルートも変わってきます。使用するフライがドライとウェット、ニンフといった違いでもキャストの方向が(アップ・ストリームからダウン・ストリームの間で)違ってきますので、これまたルートが違ってきます。

これは、どのルートが正しくて、どのルートが間違っている、という性質のものではありません。強いていえば、魚が釣れたルートが(少なくともキャスティングする前に魚に走られたり警戒されたりしなかったルートが)正解です。ですから、自分自身の技量に見合った正解のルートを見つける努力をすることが重要になってきます。そのためには、常に事前にルートを想定し、魚の反応の有無を見ながら、またポイントに近づいてより細かい観察が可能になったらそれを計算して、ルートを修正し続けるとよいでしょう。

私自身の経験として、初心者が釣れない原因の9割まではレーン(食い筋)の見極めができていないこと、ルート(移動経路)が決められずに下手なアプローチで魚を警戒させてしまうことのふたつに起因していると思います。フライ・パターンの良し悪し、ドリフトやキャスティングの上手い下手以前に釣れない原因を自ら作っているのですから、釣れなくても不思議ではありません。レーンとルートが見えてくるようになると嘘のように魚がフライに反応してくるようになります。ぜひとも自分の目を鍛えてください。

次章(おそらく最終章)ではフライの選び方、ローテーションについて書いてみたいと思います。

渓流のドライ フライフィッシング - Dry Fly Manias Association  / Yanma