かって、「芦屋エスペラント会」があった...


Kion mi skribis? (6)


La Movado  (2015) 8月号 7頁
エスペラントの本の森に、素敵なお話を求めて(四)

津田 昌夫(愛知)


(後輩)「フォルジュさんはどんな作品を書く人なのですか?」

(先輩)「フォルジュさんのエスペラントは、とても読みやすくてしかもエレガント。 'Saltegotrans jarmiloj' や 'Mr. Tot acxetis mil okulojn' はSF小説ですが、短編小説集の 'La verdaraketo' にある 'ses leteroj' には感心しました。6通の手紙だけで構成された、微笑ましいラブ・ロマンスなのです。そして、"Mia verda breviero" のなかの 'Buntaj intervjuoj' では、世界大会参加者へのインタビューという形で、エスペラントを熱烈に愛してしまった人たちが沢山紹介され、読んでるこちらも胸が熱くなってきます。『エスペラントはもうこれ以上広まらないでくれよ』という人('kontentulo')さえ登場しますから。そのころに、先輩諸氏からすすめられたロセッティさんの自伝風の長編小説、 "Kredu min, sinjorino!" は、'foiro (定期市)' などで、いまならさしずめジャパネット・タカタの前社長のような口調で、あんな甲高い声で、ではないでしょうけど、「水なし調理器」を実演販売する男が主人公。変則アンソロジーの"Vojagxo en E-lando" に、主人公が、出張先で、その地のエスペラント会の例会に出て、その活気なさ、会員たちのエスペラントに対する情熱の欠如、発音のまずさなどにがっかりして、ホテルへ帰ってきて、ベッドに入ったものの、腹立たしくてなかなか寝つけず、おまけに悪夢にうなされるという挿話が紹介されています("Kredu min, sinjorino!" の第13章)。そのエスペラント文の読みやすさ、お話の面白さ、ウィットに富んだ会話やそれぞれの章につけられたタイトル... 文句のつけようがないと思いました。『エスペラントを勉強したら、ご褒美にこんな面白い小説が読める』というキャッチ・コピーがあっても少しもおかしくないとわたしは思っています」

「なるほど、ご褒美ですか。よく、友人に『何でエスペラントなんかやるの? 何の得もないのに。英語ならビジネスや海外旅行、訪日外国人との会話にも役立つだろう』などと言われるけど、『面白い本が読める』というのは、エスペラントを本好きに、先輩の言い方を借りれば素敵なお話し好きに、すすめる時には使えるかも知れませんね」

「間違いなく。これは会員の前川恒雄さんから聞いた話ですけど、前川さんが英国の図書館で研修された時、ある図書館の副館長さんから「エスペラントを話せますか」と聞かれたんだそうです。その時は、まだエスペラントを勉強されていなかったので、「話せません」と答えたら、「それは残念」と言われた、と。わたしはとてもすばらしい話だと思いました。英国人にも、自分たちは言語的に特権階級だと知っていて、申し訳ないと思っている人たちがいる、なんてね。こういうことが知識人のあいだでは起こりうるということは、エスペラントを他人にすすめる時、知っておいて良いと思います。かなり話が脱線しましたが、そんなわけで、フォルジュさんのエスペラントも、ロセッティさんのも、ザメンホフさんのエスペラントとは正反対に読みやすく、これなら日本語と同じように、日常生活でも何の不自由もなく使える、とわたしは確信しました。しかも、それぞれの個人の才覚でとても魅力的に。ちなみに、 "Kredu min, sinjorino!" という言い回しは「エスペラント日本語辞典」の 《kredi》 の項目で用例として<『奥さん、まあだまされたと思って』 〔C. ロセッティ作の小説の題名〕>として、載っていますし、フレドラーさんと挿絵のラックさんの共著の 'Ilustrita Frazeologio' にはこのフレーズも入っています。 "Kredu min,dr. Tonkin!" とか、ちょっと大きな声では言えないのですが、"Knedu min, sinjrino!" などといったとんでもない用例が紹介されています。もう、多くのエスペランティストがこの言い回しを知っているということで、このフレーズこそエスペラント文化の象徴、と言えますね」

「いまお話になっているのは、20年前、30年前の状況ですよね。いまなら、例会に出なくても、もっと言うと、エスペラント会に所属していなくても、一人でパソコンに向かってエスペラントを勉強できる。パソコンでヒヤリングの教材も学べ、ダウンロードすれば本も買わなくてすむ」

「そうですね」

「そんな状況で、本を読むのをおすすめになる」

「ええ、わたしは紙のページをめくりながら、お話しを読むのが好きだから。装丁のすばらしい本を目で見て、手で撫でて、本を開いて印刷の様子もながめたいから」 
   (つづく)