かって、「芦屋エスペラント会」があった...


Kion mi skribis? (9)


La Movado  (2015) 11月号 9頁
エスペラントの本の森に、素敵なお話を求めて(七)

津田 昌夫(愛知)


(先輩)「『モンテ・クリスト伯』が、どれほど本好きに愛されているかについて、もう少し言っておきたいことがあります。岩波書店が創業百年で発表した《読者が選ぶこの一冊》に、『モンテ・クリスト伯』が第10位として入っていました。第一位は夏目漱石の『こころ』だったと思います。判官びいきで、『忠臣蔵』を愛する日本人の好みがよく表われていると思います。そして、これは、まったくの余談ですが、わたしは、こんな大作を読み終えた暁には、新聞広告で気になっていた、ジェラール・ドパルデュー主演の、6時間半に及ぶDVDを、ご褒美として買うんだと決めていました。びっくりしましたねえ。映画版では、ダンテスが、かっての許嫁のメルセデスとめでたく結婚して終わるのですから」

(後輩)「えっ、それでいけないのですか?」

「原作では、ダンテスは奴隷として売られるところを救って養女にしていた王女のエデと結ばれるのです。最後の章で、モンテ・クリスト伯は、メルセデスの息子アルベールとその恋人ヴァランティーヌに、有名なセリフ「待て、しかして希望せよ!(山内義雄訳;エスペラント訳では《Atendi kaj esperi!》 )」を残して、ヨットでエデとともに海上に去って行きます。そして、このセリフ、エスペラント界で良く知られた標語 《Ni laboru kaj esperu!》 とおなじニュアンスなんですね」

「なんだか、『モンテ・クリスト伯爵』を是非読め、と言われているみたいですよ。お奨めのもう一つの翻訳ものの『ニルスの不思議な旅』は、児童文学ではないのですか?」

「ノーベル賞をとった『ニルス』には、スウェーデンの地方に伝わる伝説や昔話、感動的な話をいくつもちりばめてあり、モザイク小説に近い構成です。地誌としての役割もあるので、スウェーデンの各地方に特有の動植物の名前がいっぱい出てきて、辞書を引くのが大変でした。でも、こんな単語は一回きりだから、エスペラントのままで読めばよいと気づき、そういうところは流し読みして、お話の面白さを楽しんだことを覚えています。この本も『モンテ・クリスト伯』と同じように、原著の挿絵つき。ステン・ヨハンソンさんの訳は、易しいエスペラントと言えないまでも、とても読み易いですよ。ステンさんは学習用にカトリーナ・シリーズとして、"La krimo deKatrina" など、少しも面白くない推理ものを3冊出しています。こちらの方は、カバンの片隅に入れておいて、電車やバスを待っている時に読む本とされたらよいと思います」

「エスペラント・オリジナルとしてお奨めのものも、お話は面白いんですか?」

「ローエンシュタインさんの "La sxtona urbo" は、やさしいエスペラントで書かれた歴史小説で、ローマ軍に破れ、石の都ローマに奴隷として連れてこられたケルト民族の一部族の娘、赤毛のビヴァーナが主人公。おなじ作家による二作目の長編 "Morto de artisto" は、暴君として知られるネロが意外にも繊細な芸術的なセンスの持主だったという悲劇仕立て。ローエンシュタインさんの エスペラントが読みやすいと思われたら、これも続けて読まれたら良いと思います。もう一つのお奨めのエスペラント・オリジナル、"Sur sanga tero" は 'homa homo' と呼ばれ、あるいは、'pacho' としてベテランのエスペランティストのあいだで親しまれていたユリオ・バギーさんのモザイク小説。この小説の舞台は1917年のロシア革命後に勃発した市民戦争下のシベリアで、白軍に捕らえられた捕虜の収容所。主人公のバーディーは知識人として、博愛家としてとても素敵です。彼からエスペラントを習い、心からエスペラントの良さを信じてしまうミホックも愛らしい存在です。モザイク小説ということで、感動的なお話を22編も読むことができます。この作品は、相田弥生さんが『流血の大地』として翻訳されています。藤本流で、日本語とエスペラントを並べて読まれたら良いでしょう。バギーさんには "La verda koro" という初心者向けの、教科書風な易しい読み物もあります。"Sur sanga tero" は、地の文も会話もとても美しいエスペラントです」

「お話を聞いて、わたしとしては、アンソロジーより長編小説に挑戦しようかなと...」

「いずれにしても、ぜひ、お奨めしたいことがあります。それは読書ノートを作ることです。普通のノートでも、パソコンのメモでもかまいません。記憶などとてもいい加減ですぐ忘れてしまいます。あらすじや気に入った表現、単語、ことわざなど、あとから読み返すといろいろなことが思い出されて、書きとめておいて良かったと思われるはずです」

                                                                                                (つづく)