かって、「芦屋エスペラント会」があった...


Kion mi skribis? (12)


La Movado  (2016) 5月号 7頁
エスペラントの本の森に、素敵なお話を求めて(番外編)


津田 昌夫(愛知)


(先輩)「その後、エスペラントの独習はうまくいっていますか?」

(後輩)「結局、『モンテ・クリスト伯』を読むことにしました。いまは第三章。しっと深い悪者3人が集まったところ。楽しんでます。岩波文庫が助けてくれますから」

「それは良かった。この前言い忘れたのですが、エスペラントの上達のためには、少なくともエスペラントから離れないようにね。そのためにも最小限、例会を休まないように。例会の輪読もペースが遅いのは我慢してサボらないように」

「だいじょうぶです。例会では、エスペラントの勉強以外に、仕事や年齢のちがう方たちと雑談できるので、わたしには良い刺激になっています。新しい人が、特に、若い人がもっと入ってきてくれると、先輩もアドバイスのしがいがあるでしょうね」

「それはもちろん。それでですが、この前お話したとき、エスペラント界には青焼きコピーのような怪しげなのくらいしか本格的なポルノはないと返事しましたよね(注1)。ところが、最近、"Vojagxoal kunigxo"(注2)という、とてつもない、エスペラント・オリジナルのポルノが出ているのを知ったので、『モンテ・クリスト伯』を読み終えたら、あるいは並行して気分転換に、是非、こちらにも挑戦してみたらと、あなたに提案したくて...」

「ポルノに本格的とは...?」

「じゃあ、まじめなポルノと言いかえましょうか。副題がkonfesojdeseksobseditoとなっていて、日本エスペラント協会のホーム・ページにある図書カタログでは、<性に憑(つ)かれた青年に旅の終わりはあるのか>とあります。作者はペン・ネームでDarikOtiraさん。ヤフーで検索したところ、二人の書評者がいずれも、TiaRikardoのアナグラム(言葉遊び)だと解いています。この物語の主人公は英国人で名前がRikardo(英国名はリチャード)だから容易に見当がつきますね。両親は大声で罵りあうほど仲が悪く、転勤を繰り返し、Rikardoは転校の連続で、11歳の時に全寮制の寄宿舎に預けられてやっと落ち着いた、しかし、孤独な生活を送るようになり、以後、両親との関係は全く途絶えます。そんな環境と一人っ子だったせいもあって、友だちもできずに大学へ、そして、就職のためにドイツへ渡り、ポルノ映画に出たりしたせいでドイツの警察に追われる身となるのですが、あやうく英国に逃げ帰ります。自伝風でドキュメンタリー・タッチの、そして、詳細に描かれる女性遍歴が大変に面白い、素敵なお話、大人向けの、そして特に男性向けのお話だとわたしは思います」

「挿絵はついているのですか?」

「いい質問ですね。表紙に19世紀のアカデミズム絵画の巨匠、ウィリアム・アドルフ・ブグローの美しい裸婦像があしらってあるのみで、挿絵はありません。カヴァーをかければ電車の中でも心配なく読めます。そして、なによりエスペラント文が平易で現代的です。360頁余りもある中編小説ですが、あまりにすらすら読み進められるので、きっとびっくりされるでしょう。ポルノ仕立てだからということもあるのでしょうけど」

「さっきは、本格的、今度は、ポルノ仕立て...」

「そうなんです。初めはこれは完全にポルノだと思って読んでいたのですが、いったい、こんなことしてて主人公はこの先どうなるんだ、どう作者は結末をつけるつもりだと、心配になってきて。めでたし、めでたしの結末は明かさないことにしますが。作者はれっきとしたエスペランティストです。それは作中でRikardoが、エスペラント・クラブを作って講習会を開いたり、世界大会に参加したりしすることから分かります。エスペラントの勉強で役に立ったのは"Cxu vikuiras cxine?"と "Surkampo granita"で、特に後者は、エスペラント以外の言語で出版されても売れるのではないかとのコメントもあります。これはネメレさんの作品ですものね。もちろん、世界大会でもナンパに余念がなく、日本人女性のReikoさんも出てきます。ReikoさんはRikardoと夜の浜辺で、日本の女性解放の事情などを含めて素敵な会話を交わします」

「将来の楽しみがまた一つ増えました」

「エスペラントを勉強しなければ、このすごい表紙の本は読めないよ、と友人たちにも知らせましょう」

(おわり)

(注1):Lamovado (2015) 5月号、8頁

(注2):Mondial社、2010年刊