Buffalo’66

ニュアンス

主人公のビリー・ブラウンはダメ人間だ。映画は彼が刑務所から出所するトコロから始まるが、彼はすぐに刑務所に戻ろうとする。

「トイレ、貸してくれ!」

主人公のビリー・ブラウンはダメ人間だ。彼にはトモダチが一人しかいない。少し頭が弱いせいで自分の言うことを聞いてくれる。グーンがビリーの唯一のトモダチだ。

主人公のビリー・ブラウンはダメ人間だ。なにより性格が悪い。ワガママで粗暴で、それでいて臆病で意気地なしで女にモテない。唯一のトモダチ、グーンにも乱暴な言葉を浴びせることしかしない。

主人公のビリー・ブラウンはダメ人間だ。彼は両親に「政府の仕事で遠くに行っていた。こんど女房を連れて帰る。」と言う小学生の絵日記並みのウソを付いている。もちろん両親はそんな与太話を信じていない。と言うか、それほど息子に興味を持っていない。彼の母は大のBauffalo(アメフトチーム)ファンで、Baffaloが最後に優勝した1966年にビリーの出産で優勝の瞬間が見られなかった、今でもその事を悔やんでいるような母だし。

主人公のビリー・ブラウンはダメ人間だ。彼は高校時代に好きな女の子を待ち伏せするような内気な少年だった。ようはストーカーだが、名前も覚えてもらえていなかった。

主人公のビリー・ブラウンはダメ人間だ。なにより彼は童貞だ。

***

ヒロインのレイラはアダムスファミリーだ。あの娘がこんなにデップリッパに育ったかと思うと感慨もひとしおだ。

ヒロインのレイラは化粧がアダムスファミリーと一緒だが、妙に童顔で…そう思うと体系もグラマーと言うより幼児体型なような気がしてくる。不思議だ。

ヒロインのレイラは笑わない。アダムスファミリーだからか? あの時のままだ。

ヒロインのレイラは謎の女だ。なんなんだ一体…人間なのか?

 

だからよぉ

何が起こるかっていうとさぁ、女房を連れて行くって言っちまったビリーが対処に困って、街でレイラをさらって脅すのですよ。自分の妻を演じるようにさ。童貞だから女友達がいないので拉致るしか方法が無いのです。童貞ですから拉致の方法は至って乱暴。押さえつけた上に(レイラの)車に引きずりこむっす! でもレイプはしないのです。童貞ですから。レイラに車を運転させつつ(ビリーは童貞なので車の運転なんて出来ません)彼女を脅すビリー。

「俺の顔をつぶしたら二度と口をきかないぞ。うまく演じたら親友になってやる。」

この映画でもひときわ面白くて良いセリフですが、私は不満です。童貞らしくありません。童貞は「犯すぞテメェ! バ、バカにするな! 犯されたいのかぁ!」とか言うほうが正しいです。童貞は犯すと言う言葉がダイスキですから。

そんな事情(ビリーが童貞だと言う事実)を知らないレイラは素っ頓狂な行動を繰り返すビリーに困惑しつつも大人しく従います。恐らく童貞の行動が理解できずに恐かったのでしょう。唯一理解できた言葉は上記の「俺の顔をつぶしたら二度と口をきかないぞ。うまく演じたら親友になってやる。」だけ。このセリフを聞いてちょっとビリーに興味を引かれてしまいます。

童貞は生家に帰って来たわけですが、童貞と両親の再開は感動は一切なく、別に妻を連れていっても歓迎はされませんでした。童貞は一生懸命に妻を演じるレイラに当たり散らすのですが、童貞の戯言を聞く輩はこの家にはいませんでした。

実りの無い再開を終えて、当ても無くドライブを続ける童貞とレイラ。童貞は唯一、本当に唯一得意なボーリングにレイラを誘います。童貞はボーリングの腕だけはプロ級らしいです。マイボールにマイシューズにマイなんか手袋みたいなサポーターまで持っています。ロッカーの中には童貞が高校のころに付け回していた女の写真が。童貞らしく未練がましいこと…。レイラには別れた彼女とか言っておきました。童貞の中ではウソはついてないよーと言う気分のはずです。

ボーリングは結局途中で一回失敗したビリー童貞が切れて終了。二人はデニーズに入る。そこで童貞は初恋の女と再開する。と言っても相手は恋人と一緒、童貞の名前すら覚えていない、高校時代に自分を追いかけていたことだけ覚えている。ププ…童貞さんて高校時代、私の後をずっと付けていたのよね!

童貞はいたたまれなくなりトイレへ。そこで号泣嗚咽。ギャロは最高の演技で悲嘆に暮れます。まるで恋人を殺されたかのように…。でも…良いシーンです。胸にこみ上げるものがあります。あ、もしかしてこのシーンで感情移入する人間てこの映画館(渋谷パルコ内シネクイント)ではごく小数派かしら? などと考えて逃げ出したくなる童貞諸君。つーか泣くなよ。いや、泣くよな…泣く。

傷ついた童貞ことビリーにレイラは「あなたは優しすぎるのよ」と言いますが、それは間違っていると思います。あなたは童貞過ぎるのです。モテなすぎるのです。

冷え切った体を温めようとモーテルに入る二人。童貞にいたく同情したレイラは一生懸命童貞を慰めようとします。体を使ってです。しかしレイラが体に触れるのも拒むビリー。

愛されたことがない彼は、愛しかたも知らなかったのだ。(映画パンフより抜粋)

なんだかこう書くとカッコイイですが、ようするに童貞だったのでどうしたら良いのかわからなかったのです。別にビリーは女性に対して嫌悪感を抱くとか、女性にトラウマを持っていると言うことはないです。あ、トラウマはついさっきできましたが…。普通に女好きのはずです。でも童貞だから…。ううん、童貞が悪いわけじゃ無いのよ…モテないのが悪いの。モテない人間がたまにモテると、モテ馴れていないので、どうしていいのか分からなくなってしまうのです。モテ無免許運転なのです。モテ無免許はモテカーの運転なんて出来ないので、いざモテ正面衝突になりそうになると、急ブレーキか血迷ってアクセル全開、ハンドルを右にきり、そっちは崖だぞ…と言う感じです。

レイラは一緒にオフロに入って、なんとかビリーの心を癒そうとしますが、童貞には逆効果も良いところです。童貞はますます殻を被ってしまいます。皮も被ってしまっていたかもしれませんが、それはまた別のお話し。

狭いベットで二人、横になって微動だにしない。ビリーは何を考えていたのだろう…なんとなく想像はつきますが。

だんだん近づいていく二人。と言うか近づいてくるレイラに引き寄せられるように近づいていく童貞。なんのかんのと言っても童貞だってヤリたいのです。否! 童貞だからこそやりたいのです! おずおずと童貞は、でも勇気を出して、近づいていく。

触れる二人のくちびる。この瞬間、最悪の童貞はとびっきりの天使を手に入れた!

***

今年最高にファンキーでキュートでファッションなラブストーリーは、最悪の童貞の悲哀を描く作品でした。モテる人達の間で大人気の映画ですが、モテない人間にこそ見て欲しい映画です。つーかモテモテさんにはわかんねーだろ?

VINCENT GALLO

ヴィンセント・ギャロ(監督・脚本・主演・音楽)

「今まで誰も愛したことのない人から愛されたいと思わないかい? そりゃ特別に感じるだろうぜ。自分に会う前、今までただの一度も他の男とセックスしたり、愛したり、手紙を書いてない女とセックスするようなことが、人生に何度あると思う? 人ってのは置き換えたり、取り替えたりたりできるもの。だけどこの映画はそうでないものを扱っている。この世界にはこの二人しかいないんだ。前にも後にも二人だけ」

ヴィンセント・ギャロ インタビューより抜粋

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あの頃に戻る?

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