蒼天航路 (王欣太 原案 李学仁)

 

当時私はコンビニの店員で、全ての雑誌をチェックしており、とうぜん「モーニング」もかならず読んでいた。その時のモーニングには、特に私の目当ての漫画もなく、ただ惰性と時間の浪費のためだけに、なんの感動も感情もなくただ目を通すだけだった。そんな時、私の目に新連載の告知が飛び込んできた。その告知は見開きページいっぱいに、劇画的な画風の軍勢が描かれていた。それが新連載「蒼天航路」だった。

今やメジャー作品にまで上り詰めたネオ三国志。三国志マニアである私は当然のごとく第1話から期待を抱いた。三度の飯より三国志世代には待ちに待った風の作品である。。モーニング紙上で大々的に告知された新連載「乱世の奸勇、曹操猛徳を主人公に据えた全く新しい視点の三国志」と言うあおり文句に私は大きな期待を抱きと同時に何とも言えない不安を広げていた。
「新しい視点の三国志。」
これはなんとも危険な色を孕んだ言葉である。いまさら旧来の三国志を出来る訳がないのだ。実際、横山三国志以降はとくにこれと言った漫画は出ていない。それどころか小説にしても吉川三国志を超えたものは出なかった。唯一私が旧来の形を踏襲した作品で好きなのはNHKの「人形劇三国志」くらいである。
曹操を主役に据えたとしても、すでにそれは新しい試みと言える物ではなかった。劉備が主役の時代は光栄のシミュレーションゲーム「三国志」及び「爆笑三国志」によって完全に幕は下りていた。時代は曹操の有能さを認め、三国志の主人公に曹操をもってくると言うのは、時代の必然とすら思えた。

そんな思いで私は蒼天航路第1話を読んだ。圧倒的な画力!素晴らしい構成力! すべてが想像を超えて私を包み込んだ。正直な感想はすごい作品が始まった、であった。そして私の不安は絶望に近い物に変わっていた。

それは曹操が少年であったからである。
物語は曹操の少年時代から始まる。これには私は愕然とさせられた。考えても見て欲しい、横山三国志は60巻にも渡る超大作だが、曹操が登場した時はすでに齢30、1軍を率いる身分で登場し、その死までは50巻以上を費やすことになる。その間、曹操は常に舞台から身を引かない。常に中心人物である。それを蒼天航路は少年時代からやろうと言うのである。それもあの画風である。横山光輝とは対照的な大ゴマと見開きを多用する迫力のある作風は、必然的にページ数を増やし、ストーリーを遅くする。
「いったい何巻まで続ければ、この物語は終焉をむかえるのか?」
当然の疑問に、私はこう答えていた。
「おそらく、この作品は曹操の青春時代を描いて終るであろう。よく続いても君主となって軍勢を率いた時点で終るのではないか?」
今から言えば、この考えは王欣太の実力を過小評価していたともとれるだろうが、当時の(今でも?)のモーニングはそういった感じの作品が多かったし、キレイに終るにはそれしかないと思われた。

しかし未だに蒼天航路は続いている。それも作品のクオリティを上げ続け、さらにストーリーは深くなり、新しい境地に私達をいざなっている。今までこれをどの力のある作品があっただろうか? 三国志という手垢のついた物語の上に、これほどまで突出した作品が生まれ得ると誰が想像できただろうか。蒼天航路はすべての常識を超えて存在しつづける。

こっからはディティールにこだわってみます。気楽にいくっす。

まずなにが良いって、英雄が英雄たる所。他の作品ではほんの端役にすぎない人物、って言うかただの馬鹿に過ぎない人物、も蒼天航路では素晴らしい英雄として出てきます。宦官、董卓、陳宮、除栄、袁紹。すべて他の作品では脇役(ただの馬鹿)です。なのにどうでしょう、こいつらのすごさったら! 董卓なんて作中では最強なんじゃないでしょうか? 現在は袁紹がメチャクチャ強いです。普通はこいつらを強くは出来ません。そんなことをすれば主役が目立たなくなりかねませんし、そんなに有能な人物ばかりでは作者の負担が多すぎます。能力の高い人物を想像するには作者にも相応の能力を要求します。それも作品世界を壊さないような。そんなのはすでに常人の仕事ではありません。すごすぎます。天才です。他の作家も見習え! 特に田中芳樹! 自分で無能なキャラ作っといてそいつを罵るな!

そんな素敵なゴンタ君ですが、イタイ事もしています。それは猿術です。おっと間違い。袁術です。かれは作中で猿です。…それって姓からの連想ですか? 作中のキャラクターにも猿呼ばわりです。それじゃ片山まさゆきの「スイート三国志」と同じですよ。むこうは完全なギャグ漫画ですが、それと同じって…。でもたしか初登場の時点では別に猿じゃなかったのになぁ。パクったのか?片チンを?近麻ファンだったとか?
もしかしたら、原作者のイさん(映画監督)がお亡くなりになった時期と重なっているかもしれません。そう言った事もあるかも。

KING☆GONTA(王欣太)さんは(何とか)漫画賞の受賞の言葉で、自分は以前は建築をやっていたと語っていました。また「人形劇三国志」で人形を作ったアニメーション監督の川本喜八郎さんも建築の出身です。オレも建築なんだけど、なれっかな、あんな風に。

 

GENIUS LOCI