JIM HALL Maniacs

since 2001/12/01

Jim Hallの音色の秘密。

Jim Hallの音色は、"warm","mellow","subtle","rich tone","lightly amplified" と言われている。小生のイメージでは、"アタックはきいているが、円い柔らかい音" である。ところが、よくよく聴いてみると、必ずしもそうではない。録音、環境、アンプ 等の調子もあって、"堅い"音で残っているものもある。

 それでは、Hallの音色を決定的にし、しかも、上記のイメージをリスナーに植え付けた 音色はどのアルバムの音色なのか?それは、"Concierto"である。A面の最初の曲"You'd be so nice to come home" の音色ではないか、と思う。そのへんの事情は、All About JazzのHallへのQ&A(1998)に詳しいので 引用する。

From: Jim Kroger (kroger@ucla.edu)
The sound of your guitar on Concierto has always been the quintessential jazz guitar tone. What were you playing, and how do you get such a fat tone?

JH: Rudy Van Gelder (the engineer) is really responsible for capturing our sounds on "Concierto".
I was using a Gibson GA-50 Tube Amplifier. My guitar was either a D'Aqusto (with pick-up) or a Gibson "ES-175". I also used very light, flat-wound strings.

 D'Agustoはアコースティックギター、B面の"アランフェス"の一部で使用され、A・B面はもっぱらGibson "ES-175"をつかっている。 数年前まで使用していたD'Agustoは、"アランフェス"のヒットの後、D'Agustoがフルアコのエレキギターとして制作したもの。 但し、1978年の少し前から、ES-175は使わなくなっている。"Concierto"の1年後に 録音されたLive in TokyoとJazz Impressinos of Japan では、前者がLive、 後者がスタジオ録音だが、ギター、アンプは同様でも、後者の方が"堅い"音に、仕上がっている。

 ギターの音色を、決定づける要因は、まず、ギターのマイクの特性、トーンコントロール、 弦のゲージ、ピックの堅さ、指盤への左手の指の押し付ける強度、アンプの特性、イコライザー のセッティング等がある。ところが、音色を、常に一定に保つというのは、大変難しい。 会場や、スタジオや、気候によって、簡単に変わってしまうし、ギター、アンプが思うようにコントロール できないこともある。さらに録音サイドの好み・制作サイドのポリシーにどうしても、ある程度影響された 結果が、実際のアルバムの音色と言うことである。

 そこで、1955年から2001年迄のライブ・スタジオ録音を、よーく聴き直してみると、ある傾向が見えてくる。 小生の妄想では、下の様になる。

1)Gibson "ES-175"時代 (1955--1978)

 a)ナチョラル・セッティング (1955--1967)

 Gibson "ES-175"の特性が良く表われた音色。ギターサイドのトーンコントロールは、様々 で、"堅い"時もあれば、比較的"柔らかい時もある。Gibson "ES-175"についてHallは、下の様に 語っている。

"I guess the virtues of guiter are that it gets a good electric sound and has a nice acoustic sound as well.Not as good as a true acoustic guiter of course but it was a nice compromise between the two.Also,it was very comfortable to play,the neck is a nice size and so is the fingerboard."

 b)イレギュラー・セッティング (1968--1978)

 Gibson "ES-175"のギターサイドの、トーンコントロールをほとんど0にした状態。ピックアップ は、指盤よりのフロントのみ使用。It's Nice to Be with You (1969),Where Would I Be (1971), Alone Togther (1972),Concieto (1975),Jim Hall/Live! (1975)の音色がこの状態。イレギュラー という表現をしたが、Harb Ellisはこの音色である。アタックのクリスプ音はひろうが、高倍音 がカットされているので、中音のみブーストされたメロウな音色である。 (追記:伝聞情報であるが、1970年代にJHが来日した時に、楽屋に遊びに行った仲牟礼貞則氏が 175を触らせてもらった所、弦がヤワヤワであった(Light Gage使用)との事。又、渡辺香津美氏の ある雑誌での談によると、JHのアンプのボリュームは、ハウリング寸前のセッティングであったとの事。 田口悌次氏からの生情報によると、JHのピックはヘラヘラの超薄ピックだと言う事を聴いた。 ここ数年の情報で、弦はTop 0.10〜0.11(稀に0.12)、3弦は巻弦でなくプレーン弦のラベラ使用 との情報公開がされた。弦のカスタマイズ、アンプコントロール、ライトゲージの使用等で スラー・ハンマリング・プルダウンが容易になり、しかもクリスプ感のあるアタックと、中太の音色 に安定してきだしたのは、60年代の初めの頃からである。) Gibson "ES-175"は、トーンコントロールをほとんど0にすると、アンプのセッティングにもよるが、 比較的容易にこの音色になる。

 Hallは1965年Herb Ellisの後任でTV番組のオーケストラに3年半在籍するが、その際に申し送りが あったかどうかは定かではない。この時期、相当この音色が気にいっていたと、思われる。 何を隠そう小生もこの音色が大変好きである。ちなみに、Joe Passもアイバニーズのギターに持ち替える 前は、Gibson "ES-175"を使用しており、MPSでの録音"インターコンチネンタル"(1970)では、多少違う といえば違うのだが、同傾向の音色に仕上がっている。多分コードを、指で弾いているのと、 ピッキングの違いであろう。トーンコントロールは上げていたかもしれないが、MPS側のポリシー か、高倍音がカットされて、他社のアルバムに比べマイルドに仕上がっている。

 Gibson "ES-175"の、このギターの特性は、50年から70年中期に製造された製品迄で、80年 代以降の製造になると、ブリッジがローズ・ウッドからメタルに変わり、ピックアップの特性も変わり、簡単には Alone Togther の音色は出なくなってしまった。

2)D'Aqusto時代 (1978--2001)

 a)ナチョラル・セッティング (1978--1988)

   Hallの現在使用しているギターは、Jimmy D'Aquisto氏への特注のギターである。もともと、 Gibson "ES-175"の修理・メンテナンスを氏に依頼していた経緯があった。 (伝聞情報によるが、Gibson "ES-175"は最終的にD'Aquistoにより指盤やピックアップの交換等の カスタマイズがなされ、"アランフェス"の音色はこのカスタマイズされたギターからの音色で オリジナルの175 其の儘ではないようだ。) 当然、Hallが使用していたES-175に関してのノウハウがあり、ネックやフインガー・ボードは、 Hall用に快適に調整された。表のアーチトップの部分は、グラデーションになるべく、 オーバーコート部分を、削りだす予定だったが、Hallの奥さんJaneyの"そのままの方が、セロ みたいでいいじゃない!"との鶴の一声でプレーンのままだ。

 このギターは、バランスがいい。アコーステックな良さと、エレクトリックな良さが175よりも いいみたいだ。以降、175のやや歪んだ感じの音色は、出現しなくなった。Jim Hall and Red Mitchell (1978) や、Power Of Three (1986)の音色は、クリアーであるが、パキパキした堅さがない。 エレクトリックな中にも、アコーステックな良さが常に垣間見える。Hallの求めていたサウンド が実現できる名器にであったのではないだろうか!

 b)アタッチメント・セッティング (1989--2001)

  All Across the City (1989)より、ギターのアタッチメントである"コーラス"を使用する。 Something Special (1993)より、ハーモナイザーを使用する。以後、曲によっては、多用しだす。 うまくいっているものもあるし、そうでないものもあるのではないかと、小生は思っている。 その辺について、Hallのコメントを下に引用する。

CB Do you think that playing a particular guitar and amp is in any way inspirational or do you see the guitar simply as a tool?

JH I do see the guitar as a tool it's true. I think of myself more as a pretty good musician who happens to play the guitar. I also think I'm a decent writer. On the other hand, if the sound is rotten; the amplifier is bad or the sound too edgy that is disturbing to me. Even though in the last few years I've started fooling around with various effects which changes the sound, I still like a basic, what I think of as a Lester Young sound or a Coleman Hawkins sound - that mellow guitar sound. Yes, it is important even though the guitar is a tool.

 ということだが、どうも、小生はビル・フリーゼルあたりがそそのかしたのでは、と妄想 する。老いては、子に従えという格言があるが、Hallも器が大きいというか、度量があるというか、 何でもやってしまい挑戦する求道心には、感服の至りです。

[追記] ・Live At Village West/Ron Carter and Jim Hall (Concord CJ-245/1982)
で既に、一部コーラスを使用していました。訂正してお詫び申し上げます。ということは、 ビル・フリーゼルとは、まだ会っていません。ある雑誌の談話によると アタッチメントを勧めたのは、ボブ・ブルックマイヤーであるとコメントしてました。
・D'Aqustoの後、2004年以降、サドースキーのギターへ乗換えてます。

(2002,01,27.)