JIM HALL Maniacs

since 2001/12/01


ボーカルアルバムとJ.H その2。

 ニューヨークの溜息と言われるHelen MerrillとJHが共演していました。

・The Feeling Mutual/Helen Merrill Dick Katz/Milestone/1965

 この情報は、BBSで新潟のさいとおさんから頂きました。情報有難うございます。 早速ゲットしまして聴いてみましたところ、内容的によくまとまった良いアルバムではないですか。 1965年といえば、JHはアルコール性疾患で療養を余儀なくされたときで、この録音は その前ということになります。ジャケ写のJHの顔が何となく精彩に欠け元気がなく思えるのは 勝手な思い込みでしょうか。1965年の録音は無いと思っていたのですが、あったんですねぇ!

 JHの出番もそこそこですが、なんと言っても目玉は、Helen MerrillとJHのDuo「Deep in a Dream」 なんです。これは良いです。JHのコード・ワークとHelen Merrillの声質のコラボレーション。 50年代の能天気なモダンスイングスタイルのJHから、挫折や蹉跌や迷妄を通していい意味での陰影が感じられる JHへ自ずと変わりつつあったのでしょうか?このアルバムのコンボの中でのトラックの アドリブ・ソロとは、少々別次元の深みがあるように感じられます。ちなみに、別の ところでも書きましたが「Deep in a Dream」は、最初のリーダーアルバム「Jazz Guitar/1957」で 取り上げられ、「Something Special/1993」ではSoloで演奏しています。これもさいとおさんからの 情報ですが、「A Jazz Portrait of Charlie Mariano/Charlie Mariano/REGINA/1963」の 中で、「Deep in a Dream」がDon SebeskyのアレンジでJH参加のトラックがあります。

 このアルバムには、Thad Jones(Cor)、Ron Carter(b)が参加しており、Dick Katz(p)の トリッキーなアレンジも楽しめ、内容的になかなか良いと思います。お薦めです! ところで、これからは家主の妄想です。読み流して下さい。「CONCIERTO」での「You'd be so nice to come Home to」の採用は一体どこから発想されたのでしょうか?JHは、好きなスタンダード・ナンバー は、結構何度もやるんです。ところが、「You'd be so nice tocome Home to」は「CONCIERTO」でのみ。 CTIの意向だったのか?いや、もしかしたら、精神的肉体的にしんどかった時期のHelen Merrillとの共演 から、彼女のクリフォード・ブラウンとの「You'd be so nice tocome Home to」がよぎったのかもと 妄想しております。

 さて、こちらはジョン・ルイスの積極的なプッシュで出現したアルバムです。

・You Never Know/Nancy Harrow/Atlantic/1962

 このアルバムにJHは参加していますが、バッキング、オブリガート、アドリブ・ソロと まあまあの出番です。ヴォーカル・アルバムとしては 歴史に残る名盤というわけでもないのですが、幾度となく聴いてますと何故か捨てがたい良さがあるんです。 何でなんでしょうか?つらつら考えてみるにNancy Harrowという人のマッタリとした声質とビブラート 、ブルース・フィーリングなんではなかろうか思ってます。前にも書きましたが、ジャズ・ボーカルは不得手領域でありました。 かったるいというか、まどろっこしいというか、インストでタップリ演っていただかないとどうもねぇ! という輩でありました。ところが、最近、加齢のせいもあるのか、食わず嫌いであったのか、 JHがらみのボーカル盤に付き合うようになって、そうだよねぇ、これもありだよねぇと思えるようになったのです。 進化か退行かわかりませんが、楽しみの引出が増えた事は確かです。 多分インストものとは別の聴き方をしているんでしょう。インストものはどうしてもアドリブのライン やサウンド、コンボの絡み具合に集中してしまいますが、ボーカルものは人の声という要因からか 雰囲気がホヨ〜ンと伝わってくるんですよね!インストが分析的局所的に聴いているのに対して、 ボーカル全体的感覚的に聴いており、脳に作用する部分が違うのではと妄想しています。

 Nancy Harrowは、NY生まれ、ナット・ヘンホフの目に止まり、彼の監修で1960年にCandidに 初アルバムを録音。「ビリー・ホリディの演唱を思わせる。」と高い評価を受けた。このアルバムは パリで歌っているところを、ジョン・ルイスに認められ、彼のプッシュにより実を結んだものである。 1969年まで活動、一時家庭で子育てに専念したが、1975年復活、なんと今も現役である。近作は John SnyderのプロデュースによるArtists House盤(2003)というから、何かしら不思議な因縁めいたものを 感じてしまいます。

 日本では、ほとんど知名度がなく、アルバム枚数も少ないのだが、

・Blue & Sentimental/Lurlean Hunter/Atlantic/1960

 にもJHが、Jimmy Giuffre(Arr)つながりで参加しています。JHの出番はそれほどありません。 こちらの方のアルバムも聴けば聴くほど、捨てがたくなってくるんです。Lurlean Hunterと言う方1928年生まれで 1950年代からのアルバムが5枚ほどしかなく、しかもこのアルバム以降、活動してないみたいです。

 ところで、ボーカルアルバムの良さとは、文章でいうと、コラムやエッセイにあたるのでしょうか? まずは、曲の短さにつきるのかなぁと思います。長くて冗長なものもあるのですが、5〜60年代の アルバムは全般的に1曲が短いです。当然、歌が中心で、中編成のコンボの洒脱なアレンジや、 粋でミニマルなアドリブ、この塩梅が心地よい。中篇小説や大河小説にはない、お洒落が凝縮しているような 気がします。弊サイトのコンテンツ、"I"氏の「シナトラを聴こう!」の意味がやっと理解できるように なったのかもしれません。

 さて、こちらの方も日本での知名度は如何なんでしょう?

・The Kitty Kallen Story/Kitty Kallen/Sony Music/1992

 1992年監修のコンピレーション・アルバムで、1942年から1962年までの様々な音源から 絶妙の曲順で構成された2枚組CDです。この中にJH参加の1962年のトラックが3曲入っていますが、 JHがいい味を出しています。

 Kitty Kallenは1922年生まれ。40年代のビッグ・バンドがまだ華やかりし頃の、Jimmy Dossey Orchestraや Harry James Orchestraの歌姫でありました。1954年には、”Little Things Mean A Lot”というヒット曲を 当て、Jukebox Oprators Association of Americaによる”The Most Popular Female singer in America” に選出され、映画にも出演するなどUSでの知名度は凄かったみたいです。Jazz Singerというよりは Popular Singerといったとこでしょうか。その後、暫く活動が途絶え、60年代になって複活、 Bossa Novaナンバーを中心にした「Quiet Nights」というアルバムを発表。 Manny Albamのアレンジで、JHが参加、このアルバムより3曲がピック・アップされています。

 当初この3曲が目当てで、JHがなかなかいい味を出してるなぁ、と思って聴き重ねていく内に、 なんとも捨てがたくなってきたのです。1940年代のレトロな時代を感じる曲調と、50年代、60年代 の曲の編集の妙とでも言いましょうか、決してJazz、Jazzしてないんですけど、全体を愛聴するように なってしまいました。ところで、この「Quiet Nights」というアルバムは、廃盤になって 二度と陽の目は浴びないような気がします。他のトラックも聴いてみたいような……
 

(2003.11.03)