列車内におけるGPSの可能性についての実験および考察 漂流旅記


その1 夜行列車編
サンライズ瀬戸サンライズ瀬戸号 東京駅にて
1、検討項目: 列車内でのGPSによるリアルタイム位置表示は可能か
2、実施日: 2000年1月某日〜某+1日
3、実施場所: 東京→高松間の夜行寝台特急「サンライズ瀬戸」号
2号車25番B寝台個室「シングル」
4、使用機器: ハード-SONY VAIO PCG-C2GPS、ソフト-SONY Navin' You V3.6
5、実施報告:
A)環境設定 今回の実験にあたり最も懸念されるのが、”はたして列車の窓から位置表示に必要なGPS衛星からの位置情報を受信できるのか”という点にあったため、あらかじめ条件的に優れていると見られる2階席を確保した(サンライズ号に使用されるJR西日本の285系車両は2階席の窓は一部屋根まで回り込んでおり、上下方向への視界が他の車両に比べ広く確保可能)。
また、22時から翌日7時までの9時間と長時間の位置表示を予定しており、電源の確保が重要となるが、幸いサンライズ瀬戸号にはシェーバー用として各個室にAC100Vが供給されているため、今回はその電源の利用を予定する。なお、AC100Vの使用が不可能な場合に備え、念のためLLLバッテリーも用意する。
また当該席は一人用個室でもあるため、他の乗客の目を気にする必要が無く、コンピューターやケーブル類を引き回しニタニタする姿を人目にさらすことも無いため、考えうる最高の実験環境であると考えられる。言いかえればこの環境下で実験が失敗した場合、他の列車においても位置表示は不可能であるということになり、今回の実験の成否に大きな期待がかかる。
B)実施状況
1日目 2140
実験者東京駅9番線ホームに到着、サンライズ号の入線を待つ。
2150 サンライズ号入線、実験者乗車。すぐにでも実験機器の設置を行いたいところであるが、個室内に実験機器を広げておくと、車掌検札時に車掌に不審人物としてチェックされる恐れもあり、機器設置は検札終了後とすることとし、発車を待つ。
2200 サンライズ号東京駅を定刻発車。
2220 機器設置状況(サンライズ)検札無事終了。機器設置開始。問題となったのはGPSアンテナの設置位置および方法である。このGPSアンテナの状況如何により今回の実験の成否が決まるといっても過言ではない。結局、最も視野が広くなると思われる、車窓湾曲部の部分にウインドシェードの金具によって挟み込んで設置した。(右画像参照)
また、AC100Vは予定通り問題無く供給されており、電源の供給は予定通り。
2230 Navin'Youに問題発生。使用後数分でフリーズ。再起動を数回繰り返す。どうもジョグダイヤルのソフトが影響しているようなので、ジョグダイヤルを強制終了。その後Navin'Youは安定。
衛星受信状況は思わしくない。常時1〜2個、時には3個程度の衛星位置情報を受信するが、位置表示には至らず。実験の先行きに暗雲が広がる。やはり、進行方向片側の衛生しか受信できない列車の車窓からでは無理なのか。
2321 熱海駅停車。突如位置表示が始まる。受信状況は衛星3〜4個。しかし、すぐに短いトンネルに入り衛星をロスト。トンネル通過後無事位置表示は回復するが、この後長大トンネルとして有名な丹那トンネルに進入、当然衛星ロスト。通過後きちんと位置表示が始まるか不安である。
2335 丹那トンネル通過。やはり位置表示は復活せず。衛星も1〜2個程度しか捕らえることができない。
2340 衛星4個確保、突如位置表示が復活。夜行列車のため実験者「静かに」狂喜乱舞。その後は順調に位置表示を続ける。
ただし、マップマッチング機能が入っていると、自分の位置が線路沿いの道に沿って表示されるため、設定を切る必要があった。また、マップマッチングを切った状態で表示誤差はおおむね最大100m程度であった。これは大きいようであるが実際の使用についてはまったく問題を感じるような範囲ではなかった。
衛星受信状況は、窓側方向の衛星はもちろん、真上や、進行方向の衛星も探知している。トンネルや窓側に山が迫っているような場合などで一時的に衛星をロストすることもあるが、すぐに回復する。
結果として位置表示は十分使用可能である。
またNavin'Youは衛星の受信状況確認のウインドウに時速が表示される。これも非常に有効である。おおむね最高110km/h程度でサンライズ号は順調に走行を続ける。
2日目 0200 実験者シャワーを浴びにシャワールームへ。サンライズ号にはシャワールームが設置されており410円で6分間のシャワーを使用できる。ただしタオルなどの備えは無いので持参する必要あり。
シャワーを浴びている間も実験機器はそのまま位置情報を表示させつづける。電源の心配が無いため、豪勢に電気を使いつづける。
0230 シャワールームより帰還。実験機器は問題無く作動中。
帰還時に確認のところ、サンライズ瀬戸号の乗車率はおおむね20〜30%と非常に低そうであった。実験を行った2号車2階も全10室中使用していたのは2室だけであった。人気列車といわれるサンライズ号であるが、乗車率の意外な低さに驚くとともに、夜行列車の将来に不安を感じてしまう。
0240 実験者就寝。しかし実験機器はそのまま稼動。
途中何度か目を覚まし、そのたびに稼動状況を確認するが、まったく問題無し。
これまで夜行列車で深夜ふと目が覚めたとき、今どのへんを走行中かを把握するには、暗い車窓に目を凝らし、高速で通過する駅の駅名標を読み取り、時刻表と対比し確認するという作業を行ってきたが、それに比べるとはるかに早く正確である。
0627 定刻に岡山駅到着、併結していたサンライズ出雲号を切り離し、瀬戸大橋線へ。
0640 茶屋町駅を通過。ここから先は瀬戸大橋線として近年建設された区間でありトンネルが続くため、GPSによる位置表示がほとんどできなくなる。また、瀬戸大橋自体も鉄道橋上に道路橋があるため、GPS受信が不可能と思われる。高松到着も近いため、実験を終了し、下車のため機器を撤収する。
0726 高松駅定刻到着。下車。実験は成功裏に終了。
6、まとめ: 前項実施報告にある通り、当初の目的とした「列車内でのGPSによるリアルタイム位置表示は可能か」という検討課題に対しては、十分可能であるというという結果を見た。
また、当初は重要視していなかったが、走行する列車の速度もリアルタイムで確認することができた。これもとかく単調になりがちな夜汽車の旅では、大変有効な情報であった。
一方、報告にもある通り、位置情報を得るまでに実験開始から1時間かかっており、何らかの対策が必要と思われる。1時間のロスタイムのうち約20分は使用ソフトNavin'Youの安定性の問題であり、残り約40分は位置情報受信までの衛星探査に費やした時間である。
前者については使用機器のソフトの問題であり、今回の場合は一番怪しいと思われたジョグダイヤルのソフトを強制終了させることにより、一定の成果をあげることができた。今後の要検討事項だが、同時に使用するソフトの検討などやNavin'Youそのもののバージョンアップにより解決可能と思われる。
後者については、はじめて位置情報を取得するまでには長時間を要したことによるが、その後はロスト後も短時間で復帰したということから、最初の位置情報を如何に効率よく取得するかという問題であると考えられる。今回の場合、当初の自分の位置が前回の自動車による実験の終了地点であった千葉県成田であり、今回の実質的な実験開始地点である神奈川県南西部から大きく離れており、最初の位置情報取得に時間がかかったものと思われる。
また、最初の位置情報取得が熱海駅停車中であったことにも注目すべきである。今回の実験の場合、前述のソフトの安定性の問題から実験開始時にはすでにサンライズ号は約100km/h程度で走行しており、実験開始後最初の停車駅が熱海駅であった。この点から位置情報の解析を行うためには、最初の位置情報取得時には高速移動中ではないことが望ましいものと思われる。したがって、これらへの対処としては、乗車前にいったん機器類を起動し、位置情報を取得しておくことが有効であると思われる。
7、さいごに: 今回の実験は無事成功を収め、上下方向に視野の広い車窓という特殊な条件ではあるが列車内から位置情報が取得できることを証明することができた。今後はこの成果を生かし、昼間の特急列車など一般的な状況下においても使用可能であるか、その他の交通機関においてはどのような展開が可能であるかなどの検討を進めていきたい。
以上

 
その2 昼行列車編
宇和海8号宇和海号 宇和島駅にて

1、検討項目: 列車内でのGPSによるリアルタイム位置表示は可能か(昼行列車編)
前回の実験結果を受け、昼行列車においてもGPSによる位置表示が可能であるかを検討する。
2、実施日: 2000年1月某日
3、実施場所: 宇和島→松山間の特急「宇和海8号」号4号車1番A席
4、使用機器: ハード-SONY VAIO PCG-C2GPS、ソフト-SONY Navin' You V3.6
5、実施報告:
A)環境設定 基本的にサンライズ号の実験と同様とするが、今回の車両(JR四国2000系)は車窓がサンライズ号のように上部まで伸びておらず、視野が最も大きくなるよう窓際ぎりぎりにGPSアンテナを設置するにとどめる。
また、前回実験の反省から、宇和島駅出発時に位置情報を取得しておくこととした。
電源については外部電源の確保は不可能である、という観点から全面的にバッテリーを使用することとするが、今回の実験は乗車時間が1時間20分と短時間であり、念のためLLLバッテリーを使用するほかは特に配慮すべき問題は無い。
B)実施状況
0935 宇和島駅宇和海8号の改札開始。今回の実験予定車両は自由席のため、席の確保が最も心配されたが、それほどの混雑ではなく、予定通りの席を確保することができた。
なお、宇和海号の4号車は松山行きの先頭車両であり、1番A席はその車両のもっとも先頭部にあり、しかも運転席と客室内を区切る壁がガラスになっており、前方の展望が可能な席である。
今回この席を確保した理由の一つとして、列車の前方からの目視による線路情報も含めGPSの位置表示の確認作業を行う予定である。
0940 座席確保の後、ホームに出て出発前に位置情報取得を試みる。しかし屋根の無い展望の利く場所にいるにもかかわらず、GPS衛星がひとつも探知できず。
0945 まだ衛星探知できず。よく見てみるといつのまにかフリーズしている。起動後ジョグダイヤルを強制終了するのを失念していた。早速再起動。
0950 再起動し、再び位置情報取得を試みる。ちなみにこの日は南国宇和島には珍しい小雪が舞い、非常に寒い日であった。プラットホームの端のほうで打ち震えつつ、衛星の位置情報受信を待つ。
0955 機器設置状況(宇和海)ひとつ、ふたつと衛星を探知し、4つ目を探知したところで、位置情報取得。位置情報取得後はばらばらと7つほどの衛星情報を得る。いそいで車内に戻り、窓際からの受信体制を整える。
今回は右図の通りGPSアンテナは窓際ぎりぎりに置くこととする。
0957 宇和海8号、宇和島駅を定刻発車。窓際からの衛星情報は3つになってしまったものの、引き続き衛星情報を取得しつづけている。
1001 北宇和島駅通過。予土線と分岐。窓際に山が迫り、衛星をロストし始める。すぐに復帰するが、この先の路線を考えると不安である。
1006 トンネル進入。すべての衛星をロスト。位置情報失う。トンネル通過後、窓側には山が迫り衛星情報取得できず。
1010 伊予吉田駅通過。衛星を3つ確保。位置情報復活。しかしすぐにトンネルに侵入。位置情報を失う。
1013 足元に掃除機用と思われる電源コンセント発見。ACアダプター接続してみると使用可能であった。さっそくバッテリー駆動からAC電源へと切りかえる。
1016 いくつかのトンネルを抜け、卯之町駅停車。その間トンネルや山肌が迫ったりするたびに位置情報を失い、途切れ途切れになるものの、なんとか位置を拾いつつ進んでいる。
1020 山あいであるが、開けた直線の線路を走行。GPSでの速度表示が125km/hを示す。
1025 狭い谷あいを曲がりくねりつつ走行。衛星をロストすることたびたび。時折思い出したように位置情報が復活するものの、すぐに見失う。
1030 なかなか位置情報復活せず。サンライズ号に比べると、直上の衛星からの位置情報取得ができないため、取得できる衛星の個数が限られてしまい、位置表示までに至らないようである。
1054 内子駅停車。ここまで何度か開けた場所を走行したこともあったが、窓の方向と衛星の配置の関係がよくないなどで、2個程度の衛星しか探知できず。ときおり3つの衛星を捉えることもあったが、同じような方向の衛星のためかほとんど位置表示は復活せず。
1105 向井原駅付近で一瞬だけ位置表示復活。松山到着も近いが、この後は平野部の走行になるので最後の望みをかける。
1110 伊予市駅発車後、撤収開始。向井原駅付近以降は衛星の位置も悪く、とうとう位置情報復活はならず。
1113 松山駅到着。実験終了。
6、まとめ 結果としては、前項で述べたとおり、位置情報をたびたび見失い、ときおり思い出したように復活することもあったが、リアルタイムでの表示という点では及第点に達しているとは言いがたいものであった。
この結果についてはいくつかの原因が考えられるが、
イ)車窓からの視界が前回実験に比べ狭かった。特に実施状況1030にも記載の通り、サンライズ号では受信できた直上の衛星が、今回は受信できなかったことが大きいと思われる。このため多数の衛星をとらえることが困難となり位置確定のための情報取得ができなかった。
ロ)今回実験の路線は険しい山間部を走る路線であり、そのためトンネルや切りとおしも多く、衛星情報受信には不利な条件が多かった。またせっかく衛星を捉えても列車がカーブするたびに視界から消えロストするということもたびたびあった。
これらの点のうちイ)について考察すると、ほとんどの列車は直上への視界は無く、列車からのGPSによるリアルタイム位置表示は、限られた車種にのみ以外は実用に達しないレベルであるという結論を導き出すことができる。
また、ロ)からは、車窓風景が単調な区間は位置表示が行われるが、川沿い、峠越えや海岸沿いなどの車窓風景の明媚な区間は位置表示がしにくいということも考察できる。
7、さいごに 前回実験の成功を受け、幾分かの自身を持っての挑戦であったが、当初の目的であるGPSによるリアルタイムの位置表示としては失敗であった。
しかしながら、昼行列車は車窓からの目視による情報が、夜行列車とは比べ物にならないほど多く、また、停車駅や車内放送などで位置情報を補正することができ、実際今回も手動で現在位置付近の地図を表示させて続けていた。
これにより、車窓から見える山や川の名称や、線路、道路などの配置がよくわかり楽しい旅となった。
特に今回の実験の舞台となった宇和島松山間の予讃線・内子線は厳しい地形をいくつもの峠越えによって克服する山岳路線であり、地図情報と前方の展望から地形と線路の配線との関係を実感することができたのは収穫であった。
今後、今回の実験結果を生かし、更なる改善などを図り、より実用性のあるものにしていきたいと思う。
以上
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漂流旅記
2000.01.23 (c)おりじゃ