輸送機に乗ってみた 漂流旅記


 
・目的が手段か、手段が目的か
ちょっと岐阜のほうまで行く用事が出来た。
関東地方から岐阜に行くなら、新幹線で行くのが無難なところであろう。高速道路があるので、ちょっと疲れるが車で行くのも悪くないかもしれない。でも、せっかくだから、飛行機で行くってのもいいものである。
が、関東と中部を結ぶ民間航空路線はない(国際線連絡便を除く)。しかし、実は毎日名古屋まで定期便は飛んでいるのだ。ということで、つてを頼って、名古屋に行く飛行機に搭乗できるよう手をまわす…。

持つべきものはヘンな友人(そこ、ヘンなのは自分だとか言うな!)、見事、普通じゃないルートで普通じゃない飛行機の搭乗権(「券」じゃないよ)を入手してきたのである。

で、ある日の朝8時、西武池袋線稲荷山公園駅に降り立つ私がいたのであった。

 

・入間ターミナル
稲荷山公園から徒歩1分の航空自衛隊入間基地の正門に赴く。どうして航空自衛隊に行くカって? そりゃ、名古屋行きの飛行機はここから出るからである。友人の話が正しければ、正門にて姓名を名乗ればそのまま搭乗できる筈である。
恐る恐る警備の方に話しかける。
「あの〜、名古屋まで便乗するおりじゃですが…」
「は? 身分証明書をお願いします」
門に立つ警備の方はあくまでも固い。
そりゃ、日本一固い職場のひとつであろう、ここは。
ごそごそと運転免許証と搭乗許可の案内文書を差し出す。
案内文書によると、受付に行くとそのまま案内してもらえることになっているはずである。

…なにやら警護所の奥のほうでエラい人にわたしの身分証明&文書を見せている。
奥のほうからエラい人が出てくる。

「こんないたずらしちゃだめだよ。いい大人なんだからさぁ。さぁ、帰った帰った」
…と、言われたらどうしようと身構えていたら、
「あ、おりじゃさま、お待ちしてました。こちらへどうぞ」
…あれ? なんだか対応がずいぶんバカッ丁寧だぞ?!
その「こちら」のほうへ行くと、なんと黒塗りの公用車が待っているではないか!
わたしが近づくと、運転手がささっと降りてきて、後部座席のドアを開けるではないかっ!

…友人よ、いったいどのレベルの「つて」に頼ったのだ!

そのまま、黒塗りの公用車の後部座席に納まる。
「それでは車をお出ししますっ!」
恐らく彼も自衛官なのであろう、わたしなんぞに固くなっちゃって、公用車は入間基地内部に向かって走り出す。基地内の西武池袋線踏切を越え、入間基地の滑走路わきにある「入間ターミナル」に着くのであった。

・VIP搭乗口
入間ターミナルには入り口が2つあった。「一般」と「VIP」である。
後部座席で打ち震える本人の心配をよそに、黒塗りの公用車は「VIP専用」の表示のある入り口に横付けされるのであった。

…友人よ、いったいどのレベルの「つて」に頼ったのだっ!

なんだか、運転手の方よりは明らかにエラそうな方がお出迎えしてくれる。
しかもそのエラそうな方が、ホテルのドアボーイみたいにわたしの乗った車のドアを開けるではないかっ!

…友人よ、いったいどのレベルの「つて」に頼ったのだっっ!

そのまま「VIP待合室」とやらに通されるわたしであった。

 

・VIP待合室
なんだかずいぶんふかふかのソファーが並ぶ部屋に通される。
すでにいっしょに便乗されると思しき方もお待ちになっていらっしゃる。
そんなところに
「…あの〜、おりじゃと申しますが…」
などと入っていく。すっごいプレッシャー。「場違い」という文字が頭を駆け巡る。

しかし、一般搭乗者の接待係と思われる自衛官の方が、
「あ、おりじゃさま、お待ちしてました!」
と、声を返してくれる。
どうやら間違いではないようだ。しかし、
「さ、どうぞどうぞ」
と奥のほうに案内されてしまう。扉のプレートには「VIP待合室」。

…友人よ、いったいどのレベルの「つて」に頼ったのだぁっっっ!

わたしのことを一体どのような人物であると言って搭乗許可を得たのであろうか?
まぁ、おかしなことをしないよう、小さくなりつつ出発時間を待つ。

まもなく制服姿の女子自衛官の方がお茶を持ってきてくれる。恐縮することしきり。
さりげなく席を立ち、滑走路側の窓際に立つ。
…おお、われらが搭乗する航空自衛隊輸送機C-1-012号機がすでにスタンバイしているではないか。
明らかに場違いとは承知しつつも、窓越しにぱちり。

室内にある出発案内板には、入間基地より飛び立つ便の搭乗案内が出ている。
それによると、8時30分にはCH47の百里・大滝根経由入間行き、9時には三沢経由のC-1‐011号機による千歳行きがあり、そのあとにわたしが乗る名古屋行きC-1-012号機が9時20分に離陸予定である。ちなみにこの012号機は、名古屋からそのまま福岡、熊本を経由し、那覇基地まで飛んでいくらしい。
その後にも本日は、硫黄島行きやら、千歳直行便などが予定されているようだ。
…硫黄島。行ってみたいなぁ。

ま、そんな妄想に囚われつつも搭乗を待つ。
 

・そして搭乗
いよいよ搭乗時間が近づく。
案内役の自衛官の方が
「すいません、これ、首から掛けておいていただけます?」
とネックレス、じゃなくて認識票を渡してくれる。これで万が一何らかの事故で黒焦げになっても、わたしの遺体は家族の元に戻るわけだ……。おいおい。
ついでに耳栓も渡してくれる。曰くC-1内部は相当騒々しいらしいのだ。やはり民間航空機並とはいかないらしい。
まあ、認識票は規則なんで仕方がない。というか元より拒む理由はない。認識票を首から掛け、搭乗すべく出口に向かう。しかし耳栓はそのままポケットにしまいこむ。どれほどの騒音か、この身を以って体感してみようではないか。

出口ではすでに数十名の自衛官の方が搭乗開始を今や遅しと整列している。なんだか成り行きでVIP待遇になってしまったわたしは、その横をずずずいっと前のほうに行き、列の最前列に並ばされる。こちらが定期便に便乗させていただくと言うのに、こんなにでかいツラしてていいのだろうかとも思うが、案内の方の指示に従っているだけである。下手に逆らうほうが迷惑というものであろう、指示の通りに行動する。
9.11テロのせいであろうか、きっちりと手荷物の検査が行われた上で、いよいよ搭乗である。案内の自衛官の方に導かれ、C-1の前方の搭乗口から乗りこむ。
ふっと後ろを見ると、後方に並んでいたはずの自衛官の皆さんの姿がない。彼らは前部の搭乗口ではなく、後方にぱかっと開いた貨物用扉から乗り込むようだ。

・C-1内部
上下に開く扉の内側のステップを登り、とうとう航空自衛隊の輸送機C-1の内部に潜入した。内部は断熱材兼防音材のビニールのパッドが張り巡らされている。そこに進行方向と平行に布製のシートが3列並ぶ。こりゃ、リクライニングなんてのは全く望みようがない。
また、輸送機だけあって、窓も最小限、しかも頭の上に付いてるので、景色を望むことも不可能。お向かいに座った自衛官の方々の姿を見ながらの旅となる。
 
離陸時間が近づくと、「客室乗務員」担当の方が諸連絡・諸注意を伝達する。あくまでも事務的にあっさりと。
もちろん客室乗務員とはいってもスッチーのおねいさん…ってな訳なくって、自衛官のお兄さん。ま、これも民間航空機じゃないし贅沢言っちゃいけない。

離陸時間が近づき、後方の貨物扉が閉まる。左右の扉が閉じた後、与圧隔壁が上から閉じて、内部は与圧状態となる。薄暗い機内が、後方の扉が閉まったことでますますうす暗くなる。
つづいてエンジンの音が高まり、タキシングが始まる。でも、外が見えないんで何がなんだかよくわからない。小さな窓からは曇った空が見えるばかりである。
それでも、しばらく走った後に大きく曲がり、誘導路から滑走路に入ったらしい。いったん停止した後、エンジン音がさらに大きくなり、滑走開始。スピードがどんどん上がる。横向きに座っているのでお尻がずれる。離陸して機首が上がるとますますお尻が後ろにずれる。シートベルトがあるのでとなりの人にはぶつからないが、それでも姿勢を保つためシートのフレームをしっかりつかんでいる必要がある。周りを見ると自衛官の方々もさりげなくフレームをつかんでいるようである。

  
布張りの椅子

機内の騒音は、覚悟したほどではなかった。一昔前の地下鉄の車内といったところであろうか。やかましいことはやかましいが、いただいた耳栓は必要なかった。ちなみにいっしょに乗っていた航空自衛官の方々は、さすがにしょっちゅう乗っているらしく「マイ耳栓」を持参して搭乗されているようである。民間航空機に比べると乗り心地がよいとは言えない機内で、読書をしている方もいらしたが、ほとんどは目をつぶり、仮眠をとられているようであった。
 

ふと天井を見ると、前後方向に数十本のワイヤーが張られている。
…もしや、このワイヤーで操作しているのであろうか? 丸見えである。
そりゃ、整備性は最高だろうけど、なんだか「これでいいのか?」という疑問が頭をよぎる。
機の姿勢が変わるたびに微妙にケーブルが動いている。きっと方向舵やらなにやらが動いているのだろう。窓の外が見えないので、どのように姿勢が変わっているかは加速度の違いでしか判らないが、ケーブルの動きと加速度の変化の関連が面白い。きっとマニアな人はどのケーブルがどの操作なのかわかるんだろうなぁ。え、わたし?わたしは判りませんよ、そんなこと。だってマニアじゃないしー。
 
・着陸
ベルト着用のサインが消えることなく、離陸から30分ほどで着陸体勢に入る。再度ベルト確認のアナウンスが入る。
しかし外が見えないので、現状がほとんどわからない。床下から油圧モーターの作動音が聞こえる。脚を出したのであろう。着陸は近いらしい。

…と、程なく着陸、エンジン逆噴射。実はこのときが一番うるさかった。
着陸後もごとごとと走りつづけ、しばらくして停止する。
タキシングの途中で名古屋で降りる人の認識票が回収される。この飛行機自体はこのまま那覇まで行くのだが、入間から乗った方のほとんどがここで降りるようだ。ただしひきつづき搭乗される場合も、荷物の積み下ろしもあるので、いったん全員降機し、ターミナルで待つように、などといった案内もされていた。

わたしはどうやらひきつづき「VIP待遇」されているようで、他の民間の便乗者の方々と共に、前方の「人間用搭乗口」から降機したが、そのほかの自衛官の方々は搭乗時と同様、後方の貨物用扉からぞろぞろと降りて行く。
 

C-1を降りると目の前の建物が「小牧基地空輸ターミナル」であった。滑走路を挟んで反対側に名古屋空港のターミナルビルが遠望できる。
ほんとはもっとエプロンに駐機している飛行機を見ていたかったのであるが、案内の自衛官の方が「さ、どうぞこちらに」と引っ張っていってしまう。一応「VIP」らしいし友人に迷惑を掛けるわけにはいかないのでおとなしくターミナルに入る。

ターミナルをほとんどフリーパスで抜けると、出口の前に、空色に白いラインの入った航空自衛隊のマイクロバスが待っていた。そのバスに案内され、航空自衛隊小牧基地を後にしたのであった。


小牧基地空輸ターミナル

つづく?

 表紙へもどる

 
漂流旅記
2002.10.3 (c)おりじゃ