なつのロケット H-IIAロケット試験機1号機打ち上げを見に行く
 
漂流旅記


 
・種子島空港 8月27日16:00
鹿児島空港からのYS11から薄曇りの種子島空港に降り立つ。学生時代に屋久島に来た事はあったが、種子島上陸ははじめてである。
いつもわたしは「なんでそんなことのためにそこまでするの?!」と他人から言われるような旅をしているが、今回の「そんなこと」はNASDA(宇宙開発事業団)の最新鋭ロケット『H-IIA』の打ち上げである。この打ち上げを見るために会社の夏休みと決して少なくない交通費を投じてここ種子島までやってきたのである。
・1999年11月15日
実は種子島からのロケット打ち上げは1年9ヶ月ぶりとなる。
1999年11月15日16時29分、H-IIロケット8号機が種子島から打ち上げられた。しかし打ち上げ後3分59秒後、第1段エンジンLE-7が突然破損、地上指令センターからの指示により爆破され、H-IIロケットは宇宙に飛び出すことなく小笠原の海に沈んだ。
H-IIロケット8号機の打ち上げは失敗に終わった。
続けて翌年1月に打ち上げられた宇宙科学研究所のM-V(ミューファイブ)まで打ち上げに失敗し、日本のロケット技術に対する信頼は大きく揺らいでしまった。

しかし、彼らはあきらめなかった。
史上例を見ない深海3000mからのロケットエンジン引き上げを行い、徹底的な原因究明を行った。その一方で『H-II』に代わる新しいロケット『H-IIA』の開発がすすめられた。
…日本の宇宙開発を停滞させないために。
…そしてぼくらの夢を途切れさせないために。
 

・H-IIAロケット試験機1号機
今回打ち上げが行われる『H-IIA』はNASDAが開発した国産大型ロケット『H-II』の発展改良型であり、商業ロケット打ち上げ市場でアメリカやヨーロッパ、ロシアや中国などの並居る国々のロケットと十分渡り合えるだけの性能と価格を実現したロケットである。
すでに実績のあった『H-II』を基礎に開発が行われたが、その開発は国際競争力を持ったロケットにするため、性能は向上させつつも、打ち上げコストは『H-II』の半分にしなければならない、という厳しいものだったという。その結果、『H-IIA』という『H-II』の改良型のような名前を名乗っているが、その実ほとんどすべてが新たに開発され、『H-II』とは別物といっても良いようなロケットとなった。
そして、途中第1段ロケットのエンジン『LE7A』などのトラブルもあり、開発に手間取ったものの、ようやく完成し、この夏、試験機第1号機が宇宙へと飛び出そうとしている。
そう、今回わたしが見に行く打ち上げはその『H-IIA第1号機』の打ち上げなのである。
・種子島宇宙センター
空港そばでレンタカーを借りたわたしは、その足でさっそく種子島宇宙センターに向かう。
道中のあちこちには地元の方々が立てたのであろう、打ち上げ成功を祈る立て看板やら横断幕が目に付く。おそらく他に大きな産業も少ないこの島で、打ち上げは活性化の大きな要因の一つなのであろう。

さて、空港から30分ほどで種子島宇宙センターの中にある竹崎展望台に到着する。ここは今回の打ち上げのプレスセンターとなっており、すでにに私のしりあいの松浦氏がスタンバっているのである。建物内は一応「報道関係者以外立ち入り禁止」になっているが、屋上部分の展望台は特に規制はされていないようだ。松浦氏と連絡をとり、現状の最新情報をいただくと共に、余ったプレスキット(取材用資料集)までいただいてしまう。ほくほく。
さっそく立ち入りが規制されていない展望台から打ち上げ台を望む。と、隣りを見るとNHKのハイビジョンカメラが鎮座ましましている。そう、この展望台は打ち上げ時には一般の立ち入りは規制され、報道関係者用の展望台となるのだ。
駐車場には民放各局の中継車がずらりと並び、打ち上げにむけて着々と準備をしている。

 
竹崎展望台とそこから打ち上げ台を望む

その後、松浦氏と共に今回の打ち上げの取材にいらしている「宇宙作家クラブ」のメンバーである航空評論家の江藤巌氏や上條氏などともご挨拶をし、夕方まできょろきょろしながら時間をつぶす。
・海水浴場にゲートボール場
この竹崎展望台、種子島宇宙センターの中にあるのだが、遠くに打ち上げ台を望んでいるものの、目の前は海水浴場。海水浴客がのどかに泳いでいる。その向こうには芝生が広がり、地元の方がゲートボールに興じている。
プレスセンターからにじみ出てくるせわしなさとのどかな南の島の海水浴場。これらが同居しているのがこの種子島宇宙センターなのであった。
ちなみに海水浴場の目の前にある竹崎展望台の建物にはトイレとシャワーがあり、海水浴客に開放されている。聞くところによると打ち上げ時以外はほとんど開放されているようだ。
…なんとのどかな。
・AZ-1
空いた時間に松浦さんの愛車『AZ-1』を見せてもらう。
バブル絶頂期に何種か製造された小型軽量のボディーの2シータースポーツという「バブル軽自動車」のうちのひとつである。
その他のメーカーが作った同クラスの車はそれなりに普通のデザインであったのだが、このAZ-1を開発したマツダは何を勘違いしたのか、ガルウイングドアを付けてしまったのだ。一気に「バカ車」となったAZ-1は同クラスの車に先駆けて生産中止になってしまう…。
しかし捨てる神あれば拾う神あり。「せっかく乗るんだからバカな車を」という松浦さんに拾われて、今年から松浦さんの愛車として活躍中である。

ところでこのAZ-1、エンジンを車体中央に持ってくるというミッドシップ方式や、空気抵抗を減らすために限りなく低くされた車体など、走行性能重視の設計のため、車内は非常に狭く、居住性が悪い。
しかし、なんと松浦さんはご自宅のある神奈川県からこの車で1500kmの距離を種子島までやってきたというのである。しかも、途中でファンベルトが切れるというアクシデントに遭遇したり、フェリーのキャンセル待ちで本来なら乗れないはずのフェリーに「軽自動車だから」という理由でなんとか乗れたりなど、波乱万丈の行程をこなしてきたそうだ。
すなおに感服。
しかし、根っこがバイク乗りの松浦さん「いやぁ、バイクに比べりゃ天国だね!」 ……う〜ん、比較対象が違うと感想も180度違ってくる。

・柳田旅館と大和温泉
さて、日も傾いてきたので宿へと向かう。
今夜の宿は竹崎展望台から程近い柳田旅館という宿屋。そこになんとこれまた松浦さん他のご好意で宇宙作家クラブの皆様と同宿することが出来たのである。
お名前を聞くとちょっとドキドキする人たちばかりである。粗相の無いようにせねば。
けっこう皿数の多い夕食を終え、そのあと松浦氏と共に「大和温泉」という公衆浴場に出かけることとする。どうぞどうぞというお誘いにせっかくだからAZ-1のハンドルを握らせてもらう。…楽しい。うん、こりゃ、楽しい!
途中少々道に迷ったりもしたが、なんとか大和温泉に到着。大きな風呂でゆっくりと疲れを癒す。う〜ん、まったり。
・NASDAの野田氏
湯上りに松浦さんがどこかに電話をしている。今回の打ち上げ隊の主要メンバーであり、なおかつ宇宙作家クラブメンバーでもある野田氏がこの大和温泉の近くにご宿泊中であり、折角だから軽くお話をということになったそうだ。もちろん松浦氏とである。
この野田氏は今回のH-IIA試験機1号機に積み込まれるペイロード(積み荷)であるVEP−2、DRE、LREの実質的責任者という重職に就かれている方である。そんな方とお話できるなんてっ!
松浦氏が連絡すると、「大和温泉まで迎えに来る」とのことである。恐れ多い。

ほどなく、野田氏登場。
ペイロード責任者と聞いて脂ぎったおじさんを想像していたのだがなんのなんの、小柄ではあるが若々しい感じの方であった。どこか腰を落ち着けられる場所を探しつつ3人で夜の国道を歩く。もともと飲食店が少ないことに加え、8時過ぎということもあり、町外れのお好み焼き屋に流れ着くことになった。道すがら、わたしの趣味のことを説明すると、なかなかベクトルが合うことが判明、一気に打ち解けてしまう。
お好み焼き屋では蒸気機関車のドレンバルブの話から日本の宇宙開発の今後についてまでそうとう幅広い話がなされた。店を出た後、野田氏がぼそっと呟いたことには大変な感銘を受けたが、どんな内容かは内緒だ。
また、その場で野田氏松浦氏お勧めの穴場の見学場所を教えてもらう。しめしめ。
結局すっかり、遅くなってしまい、そのうえ松浦さんの邪魔をしてしまったのではないかという不安を抱きつつ野田氏と別れ、われわれの宿に戻った。

宿では、残りのメンバーと共にH-IIAと日本の宇宙開発……ではなく、ほとんど関係ないあ〜んな話やこ〜んな話などで盛り上がり、焼酎を酌み交わしつつ深夜2時過ぎまで盛り上がる…。
 

・打ち上げ前日
翌日28日は午前中に、昨晩教わった「お勧めの穴場」に向かい、三脚を立てて場所取りをする。やはり知る人ぞ知るという状況のようで、ほとんど人気(ひとけ)はない。それでもわたしのほかにも同様の方がいるようで、すでに何本か三脚が立っている。

場所取りが完了したところで、松浦さんたち宇宙作家クラブのメンバーと合流し、再びプレスセンターのある竹崎展望台に向かう。プレスセンターには入場できないが、一般でも今日までは展望台までは入場できる。
時間つぶしをかねて、竹崎展望台近くの科学技術博物館を見て回る。H-II打ち上げカウントダウンの展示ビデオを見てぐっときたりしつつ、館内を巡る。ロケット好きにはなかなかたまらない内容である。
売店でH-IIAのTシャツや携帯ストラップなどを購入する。

折角だからということで、センター内にある食堂に行ってみる。この食堂はNASDAの社員食堂を兼ねており、メニューはA定食、B定食にうどんそばラーメンにカレーといった、いわゆる「社員食堂風」である。カツカレー500円を食す。注文を受けてからカツを揚げているようでなかなか旨い。

このころから雲が低くなり雨が降り出す。明日の打ち上げが心配になってくる…。

午後3時からの記者会見にあわせ、宇宙作家クラブの残りのメンバーも次々と集まってくる。今回のリーダー的存在である作家の笹本祐一氏や漫画家のあさりよしとお氏、作家の小川一水氏なども到着する。あさり氏は昨年ゆめ牧場でお会いしているが、笹本氏は初対面である。…が、すでに松浦さんより事前説明が合ったようで、あっさり挨拶完了。快くグループに受け入れてくれた。

午後3時からの記者会見ののち、午後4時頃から宇宙作家クラブ取材団の方々とともに種子島宇宙センターを見て回ることにする。一時激しく降っていた雨も、この頃にはすっかり上がり、薄日も差してきている。
打ち上げ当日は立ち入り禁止になる大崎展望台から打ち上げ台を望む。
すでに何度も打ち上げを見に来ている笹本氏や上条氏などから大変わかりやすい説明を受ける。
いやぁ、なんて恵まれた見学なんだ!
 


大崎展望台から打ち上げ台を望む
途中防災センターで「宇宙開発事業団」の名前が入った消防車を見かける。
他のメンバーが見向きもしないものを一生懸命撮影するわたし。…いったい何しに来たんだか。

さあ、明日はいよいよ打ち上げだ!

 
漂流旅記
2001.08.29 (c)おりじゃ