初冬の泉めぐり
秋 田・六郷湧水群
漂流旅記


 
・泉のまち
仕事の関係で、秋田県に行くことがあった。
そこで、仕事先からの帰り道、「六郷湧水群」なる看板を見つけた。どうせあとは宿へ帰るだけだったので、ちょっと寄り道。
細い路地を進むと、「御台所清水」なんていう案内板があり、車を停めて見に行く。



住宅の裏手にこんこんと湧き出る泉があった。
周りを石垣で囲い、水辺に降りられるようになっており、水仕事がしやすいよう、石の渡り板も備えている。正面 には水の神様を祭っているのであろう、小さな祠もあった。
もちろん、泉の水は清らかで、水深はさほど深くはないが、それでも泉の底ははっきりと見える。
秋田県美郷町の六郷湧水群巡りのホームページ湧水群データベースに よると、この御台所 清水は八月には毎秒21トンもの水が湧き出ているようだが、わたしが訪ねた初冬の季節は毎秒1トンほどだという。
泉の底は一面に小石が敷き詰められており、どこから湧き出しているのかわからなかったし、水面からは水が湧き立つ様子は伺えなかったが、それでも泉の出口 では 相当の水量が流れ出ていた。さぞ冷たいだろうと恐る恐る水に手を浸してみると、予想に反して「ぬるい」と感じる。さきほどのデータベースによると 水温は11.7度。初冬の夕暮れ、気温は5度前後であろうから、ぬるいと感じるのも当然といえば当然であるが。


・次の清水へ
泉の近くの民家には小さな休憩スペースが設けられており、 そこでパンフを入手する。
それによるとどうやら、この町内だけで60箇所以上もの湧水があり、環境庁の全国銘水百選に選ばれたり、国土庁の「水の郷」に認定されるなど、全体が湧 水の中にあるような町であった。
現に、町のどこを掘ってもきれいな清水が湧き出すため、いまだに上水道がないということである。

ということで、つづいて御台所清水の斜向かいにある「キャ ペコ清水」にいく。
ちいさな3つの泉があり、泉の周囲を公園のように整備してある。周りを石積みで囲ってあるのは先ほどの御台所清水と同じだが、サイズが小さい。やはり水辺 まで降りていけるように石段もある。


 

気を良くしたわたしはさらなる泉を求め、次の清水へ向かう。
次は諏訪神社の裏手にあるという「諏訪 清水」である。泉の形がそばを流れる伊勢堂川とあわせ「一心」という形に見えることから「一心清水」とも呼ぶらしい。池の形が「心」という字を模 していると聞くと、まず思い浮かぶのが太宰府天満宮の心字池である。お石の茶屋で、きみがひとつ、僕が半分、梅が枝餅かなんかを食べちゃったりするアレで ある。

なんてことを期待しつつ、「諏訪清水」にたどり着くと…。



…涸れてます。

初冬の夕暮れ、なんだか神社の裏の寂しい場所に来て、なおかつ泉が枯れていると、とてつもなく寒さが身に沁みる。しかし、気を取り直し て辺りを見回してみ ると、どうやら涸れているのは「心」の字の一番上の点に当たる清水だけであり、そのほかの泉はきちんと湧き出ていた。



大宰府の心字池は最初から庭園の一部として「心」という字になるように作られているわけだが、どうもこの「諏訪清水」も庭園として整備されていたような感 じである。「感じてある」というのは、今はその周囲が冬枯れの雑草に覆われており、きちんとした手入れが行われているようには思えなかったからである。
し かし後ほど確認した前述のデータベースによると、「明治14年(1881)明治天皇が東北・北海道視察のため巡幸の際、小休止された御小休所の建物から見 渡す叙景となって いる。」とのことであるので、やはり庭園だったのであろう。
 

・藤清 水
さて、つづいてそのまた先にある「藤清 水」にむかう。



これまた、住宅の裏手にひっそりとたたずむなんとも風情のある泉ではないかい!
初冬の青空が泉の表に映り込む。
ここも、前出のデータベースによると、もともとここも江戸時代に別荘の庭園として整備された泉だったらしく、どうりで趣がある。別荘そのものは残らなかっ たが、泉は残ったということか。
泉の周囲には藤の木があり、泉の名前の由来にもなっているようである。藤の花が咲く季節はさぞかし華やかに彩られるのであろう。
そんな季節の満月の深夜、ひっそりと月明かりに照らされた藤と泉を想像する……。む〜っ、なんかいいっ!
ぜひ見たいっ、なんとしても見たいっ!
しかし、こんなちいさな町で深夜にうろうろしてたら相当不審だろうけど。

この六郷地区には、前述のとおり60箇所もの泉がある。もっと見てみたいという思いが頭をもたげる。
しかしこの勢いですべてを回ろうと思っても、もうすでに日は相当傾いてきている。
そろそろ引き上げ時であろう。

仁手古 サイダー
帰り道、ニテコ清水のそばにある 手づくり工房「湧子ちゃん」に 立ち寄る。地元産品の直売コーナーなどがある販売施設である。名前がなんだか…だが。
店内を見回すと、地場の野菜やら漬物などとともに、地元の豊富な水を活用しているのであろ う、日本酒や豆腐などが売られていた。そしてその横には見慣れぬラベルのサイダーもあった。次の目的地へ向かう車の中で飲もうと、その「仁手古(にてこ) サイダー」を買い求める。
いまどき珍しいビン入りである。360cc入りで130円という価格も良心的に感じる。2本ほど購入する。
店を出て、さて飲もうと思い、はっとする。
「センヌキがない」
ペットボトルなら、キャップを捻ればすぐに飲むことができる。しかし、このサイダー、瓶詰めの上にしっかり王冠がある。
かつて国鉄の車両のボックスシートには必ず「センヌキ」が備えられていたほど瓶詰めの飲料ばかりであったが、ペットボトル全盛の今日、見かけることはほと んどない。
そしてもちろんわたしも普段からセンヌキを常備するような男ではない。
店に戻り、「おばちゃ〜ん、栓抜いてもらえます〜?」



日没近くの斜光線の中で飲む「仁手古サイダー」は、イマドキの炭酸飲料のような攻撃的な味付けに慣らされた自分には、とても「やさしい味」に感じられた。

今日の仕事がうまく行けば、またちょくちょくこの町にくることもあろう。
願わくば、藤の花が咲くころ、また訪れたいものだ。そのときには月を眺めつつ、豆腐で一杯…。
そのためにもこの仕事がんばろ〜っと <動機が不純

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漂流旅記
2004.12.7 (c)おりじゃ