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レ・ミゼラブル
少女コゼット  ストーリー詳細

第1話 ファンティーヌとコゼット
 1810年代後半のフランス郊外の花畑の中を、3歳になる娘コゼットを連れ、母ファンティーヌはパリから仕事を探して歩いてきました。パリでは仕事がなく田舎に行けば仕事があると聞かされ、地方に働き先を求めてやって来たのです。モンフェルメイユ村まで来た二人は住み込みで働ける仕事を探しますが、不景気の上に子連れではどこからも雇ってもらえません。パン屋の旦那からモントルイユ・シュル・メールの町では景気のいい工場があって、どんどん人を雇っていると教えてもらいますが、ここからモントルイユ・シュル・メールの町までは遠く、子供連れで歩ける距離ではありませんでした。
 ファンティーヌが悩んでいる時、テナルディエのおかみがファンティーヌの事を自分の経営する宿屋ワーテルロー亭の客だと思って声をかけてきました。ファンティーヌから事情を聴いたおかみは客ではないと知るとファンティーヌを邪険に扱いますが、話を聞いていた主人のテナルディエはファンティーヌがパリで住んでいた家や家財道具を売った知ると、ファンティーヌから金をむしり取れると考え、子供を預かろうと言い出したのです。ファンティーヌはコゼットと離れて暮らす事など考えられない事でしたが、これまで仕事を探しても子供連れでは相手にされないし、仕事を見つけてコゼットと一緒に住む事のできる家を見つければ、すぐにコゼットを迎えに来る事ができるのだし、それにテナルディエ夫妻にはコゼットと同じくらいの年頃のエポニーヌアゼルマの二人の女の子がいたのでコゼットが寂しがる事はないと考え、ファンティーヌは悩んだあげくにコゼットをテナルディエ夫妻に預ける事にしました。テナルディエはコゼットを育てる事など考えてもおらず、ファンティーヌから養育費を騙し取り、コゼットを奴隷のようにこき使うのが目的でしたが、ファンティーヌはそれに気付かないまま一ヶ月7フランの養育費を半年分前払いと、さらに保証金15フランの合わせて57フランもの大金を払ってしまいます。
 ファンティーヌはコゼットを呼ぶと、自分は遠くに働きに行くからコゼットはここで暮らすようにと言います。コゼットはお母さんと離れるのが嫌で泣き出してしまいますが、家が見つかったらすぐに迎えに来るという言葉を信じて、コゼットは我慢してここに残る事にしました。それでもだんだん遠くなっていくお母さんの姿を見ると涙を止める事ができませんでした。お母さんの姿が見えなくなった頃、おかみはコゼットを薄汚い仕事着に着替えさせ、家の前の掃除を命じます。コゼットには何が起きたのか理解できませんでした。
 モントルイユ・シュル・メールの町に到着したファンティーヌはマドレーヌの黒ガラス工場が繁盛し、今ではマドレーヌはモントルイユ・シュル・メールの町の市長にまでなっていると聞きます。その時、ファンティーヌの目の前をパンを盗んだ少年が逃げていったのです。少年はマドレーヌに捕まってしまいますが、マドレーヌさんは少年に盗んだパンを返させると、市役所まで連れて行ってパンと牛乳を差し出したのです。少年には理解できませんでしたが、マドレーヌは腹を空かせた家族の為に罪を犯そうとしている者をほっておくわけにはいかなかったのです。マドレーヌは腹を空かせた家族の為にアランという名の少年にパンを持たせると、アランを雑用係として雇いたいから明日の朝8時にここに来るように言います。アランは捨て台詞を吐いて帰っていきますが、アランにはマドレーヌの事が気になって仕方がありませんでした。
 ファンティーヌは無事マドレーヌの工場で働ける事になり、これでお金を貯めて家を見つければ、すぐにコゼットを呼び戻して一緒に暮らせるようになると安心していました。しかしその頃コゼットはおかみからひどい仕打ちを受け、ボロボロの汚い仕事着を着てこき使われていたのです。
第2話 ジャン・ヴァルジャンの秘密
 コゼットはおかみから掃除を厳しく言いつけられ、おまけに赤ん坊のガヴローシュの世話まで命じられます。おかみはエポニーヌとアゼルマの2人の娘には優しかったのですが、息子であるガヴローシュにはまったく興味がなく、ガヴローシュが泣いても世話もしなかったのです。まだ3歳のコゼットはお母さんが恋しかったのですが、それでもお母さんと一緒に暮らせる日を信じてお母さんの帰りを待ちながら一生懸命働きました。そしてファンティーヌはコゼットがワーテルロー亭で厳しく辛い日々を送っている事を知らぬまま、無事にマドレーヌの経営する黒ガラス工場で働き始めます。
 アランは市役所の前で悩んでいました。泥棒をした自分を雇いたいと言うマドレーヌがどうしても理解できなかったのですが、それでも仕事は欲しかったのです。アランは意を決して市役所に入っていきました。するとマドレーヌは1000フランもの大金を修道院の病院にいるシスター・サンプリスまで届けてほしいとアランに依頼したのです。いきなり1000フランもの大金を渡されたアランは、このお金をそのまま持ち逃げしようかとも考えましたが、どうしてもマドレーヌの恩を裏切る事ができず、シスター・サンプリスまでお金を届けに来ました。アランはこの1000フランは貧しい人々からお金を取らなくても治療できるようにマドレーヌが寄付をしてくれたお金だとシスター・サンプリスから聞かされ、ますますマドレーヌの事が理解できなくなります。アランのお母さんは病気になった時、お金がなくて医者に診てもらう事ができずに亡くなっていました。アランはお母さんがこの町に住んでいれば死ぬ事はなかったと思うといたたまれない気持ちでした。そしてマドレーヌのやり方をとことん見てやろうと決心するのでした。
 ある朝、アランが仕事でマドレーヌのところに行くと、マドレーヌは新聞を広げて考え事をしていました。その新聞にはディーニュの町のミリエル司教が亡くなったと書かれていたのです。マドレーヌはミリエル司教に大変お世話になっていたのです。ミリエル司教はどんな人にも分け隔てなく優しくしてくれました。そしてマドレーヌはジャン・ヴァルジャンという一人の男の話を始めたのです。
 ジャン・ヴァルジャンは飢えた甥と姪の為にたった一つのパンを盗み、何度も逃げようとした為に19年もの長い間、監獄に入っていたのです。罪を償って監獄を出ても世間の目は冷たく、宿に泊まる事はもちろん、食事の注文でさえ断られた。そんな時、ミリエル司教がジャン・ヴァルジャンを家に招き入れ、温かい食事と柔らかいベッドを提供したのです。ところがジャン・ヴァルジャンはミリエル司教の家から銀の食器を盗んで逃げ出したのです。ジャン・ヴァルジャンはすぐに警察に捕まりミリエル司教の家まで連れ戻されました。ジャン・ヴァルジャンは当然ミリエル司教から泥棒と責められると思っていましたが、ミリエル司教は銀の食器はジャン・ヴァルジャンにあげたものだと言うのです。そればかりか銀の燭台も差し上げると言ったのに忘れていったと言って、銀の食器だけでなく銀の燭台までジャン・ヴァルジャンに渡しました。ミリエル司教は「決して忘れてはなりませんぞ、あなたがその銀を心正しき人になる為に使うと約束した事を」と言うのでした。
 その話を聞いたアランは、その後ジャン・ヴァルジャンがどうなったかをマドレーヌに尋ねますが、さすがのマドレーヌも自分がジャン・ヴァルジャンだと名乗る勇気はありませんでした。しかしアランにはマドレーヌがミリエル司教のような人だと思わずにはいられませんでした。
 それから3年が経過しました。3年たってもお母さんは迎えに来る事はなく、6歳になったコゼットはワーテルロー亭でおかみやエポニーヌ、アゼルマから毎日のようにいじめられこき使われていました。それでもコゼットが愛情を注いで育てたガヴローシュだけはコゼットに味方し、コゼットのよき理解者でした。コゼットは朝起きたら今日はお母さんが迎えに来てくれるかなと思い、夜になれば明日はお母さんが迎えに来てくれるかなと思っていました。コゼットにとってお母さんが自分を迎えに来る事だけが唯一の楽しみだったのです。そしてファンティーヌはコゼットの様子を伝えるテナルディエからの嘘の手紙を信じて、早くコゼットに逢える日を心待ちにするのでした。
第3話 新しい友だち シュシュ
 今日もコゼットは朝から馬小屋の掃除、洗い物、水汲み、洗濯、二階の掃除と、おかみから罵声を浴びせられながらこき使われます。テナルディエは酒屋の借金を返すお金の工面に苦労しますが、お金を返す期限が10日、間に合いそうにありません。そこでおかみはコゼットを酒屋のところに行かせてお金を返すのを1ヶ月待ってもらうようにお願いに行かせます。酒屋はコゼットの頼みでも聞き入れようとはしませんでしたが、聞いてもらえないと食事が食べさせてもらえなくなるコゼットは一生懸命頼んだおかげで10日だけ待ってもらえる事になりました。
 酒屋からの帰り、コゼットはガヴローシュと一緒に野原で休憩していると、小さな白い子犬を見つけました。コゼットはその子犬をシュシュと名付けて遊びましたが、コゼット達が帰ろうとするとシュシュも一緒についてきてしまいます。コゼットはとてもテナルディエやおかみがシュシュを飼ってくれるとは思えなかったのですが、シュシュはどこまでもついてくるので仕方なく馬小屋で隠れて飼う事にしました。ワーテルロー亭に戻ったコゼットはおかみから帰りが遅いと散々怒られ、借金の支払いも10日遅らせれば大丈夫なはずなのに、1ヶ月遅らせる事ができなかったからと食事抜きにさせられてしまうのでした。
 市長室で仕事をしているマドレーヌの元に一人の男がやってきました、彼はジャヴェール警部といい、モントルイユ・シュル・メールの警察署に配属になった就任の挨拶に来たのです。ジャヴェールはマドレーヌを見ると、自分がツーロンで看守の仕事をしていた時にジャン・ヴァルジャンという名の力持ちの大男が服役しており、その男にマドレーヌが似ていると言うのでした。その夜マドレーヌが通りを歩いている時、酔っぱらったフォーシュルヴァンに会いました。フォーシュルヴァンは昔はお偉い先生と呼ばれるほど羽振りもよかったのですが、マドレーヌがこの町に来て以来、落ちぶれてしまい、マドレーヌの事を恨んでいたのです。フォーシュルヴァンはマドレーヌが昔どんな悪事をやってきたかわからない、今に化けの皮をはがしてやるからなと言うのでした。
 その夜、シュシュが鳴き止まないので仕方なくコゼットはシュシュと一緒に馬小屋で寝ます。ところが朝になって宿屋にたった一つしかないシーツやエポニーヌの大切な服がボロボロにされていました。ガヴローシュがシュシュを隠していた事がバレてしまい、おかみはそれをコゼットの仕業と決めつめ、激怒したおかみは竹ぼうきでコゼットが気絶するまで殴り続けます。そんな事も知らないファンティーヌはコゼットの事を想いながら、早く迎えに行くからとコゼットに手紙を書くのでした。
第4話 お母さんの手紙
 ファンティーヌは愛する一人娘のコゼットに手紙を書きました。しかしコゼットはまだ字が読めないので、テナルディエへの手紙にコゼットへ読んでもらえるように書き添えました。数日後、ワーテルロー亭ではテナルディエはモントルイユ・シュル・メールから手紙が来たと大喜びです。テナルディエはファンティーヌがコゼットの養育費に送った7フランを封筒から取り出すと、中の手紙には目もくれずに暖炉に投げ込んでしまったのです。それを見ていたコゼットはお母さんからの手紙を何とか暖炉から回収しようとしますが、おかみに怒鳴られコゼットは手紙を暖炉から取り出す事はできませんでした。
 ある日の事、モンフェルメイユ村に若い神父がやってきました。モンフェルメイユ村の神父は病気で亡くなってしまったので、新しい神父としてモンフェルメイユ村の教会にリシャールがやってきて、村を一軒一軒挨拶に回っていたのです。
 ファンティーヌは工場に新しくやってきたダリアに親切にした事から親しくなります。ダリアはもらったばかりの給料で何かおいしいものでも食べに行きませんかとファンティーヌを誘いますが、ファンティーヌは用があるからと断ってしまいます。ファンティーヌは同僚のゼフィーヌ達から、何か隠し事をしているに違いないと疑われてしまいます。しかしファンティーヌはコゼットの次の誕生日にはコゼットを連れ戻す事ができるように一生懸命お金を貯めていたのです。
 コゼットはエポニーヌの忘れ物を届けに学校までやって来ました。コゼットはエポニーヌを探して教室をのぞき見しているうちに、単語の書き取りの授業に熱中してしまいます。コゼットは字が読めればお母さんから来た手紙を読む事ができると考え、どうにかして字を学びたかったのです。コゼットは学校からの帰り、書き取りの授業を思い出しながら単語をガブローシュと一緒に口ずさんでいた時、教会に新しく赴任した神父のリシャールと出会い自分の名前の綴りを教えてもらいます。帰りが遅くなったコゼットは、またもやおかみから怒られそうになりますが、そこへリシャールも挨拶に立ち寄ったのです。コゼットはどうにかおかみから殴られずに済みましたが、テナルディエは迷惑をかけるコゼットの為にファンティーヌに請求する養育費を10フランに値上げすると言うのでした。
 コゼットはテナルディエ夫妻の目を盗んで暖炉にまだ残っていたお母さんからの手紙を取り出し、薪運びの合間に手紙を見ました。コゼットはまだ字を読む事ができませんでしたが、今日神父さんから教えてもらったばかりの自分の名前の綴りが、お母さんからの手紙のあちらこちらに書かれていたのです。それを見たコゼットはお母さんの想いを募らせ、早く迎えに来てと夜空を見上げるのでした。
第5話 ジャヴェールの疑惑
 雨の日に馬車を走らせていたフォーシュルヴァンは石に乗り上げて馬車は車輪が外れてしまい、フォーシュルヴァンは馬車の下敷きになってしまいます。アランから知らせを聞いたマドレーヌは事故現場に駆けつけました。ジャヴェール警部は蹄鉄屋からジャッキを持ってくるよう手配しますが、マドレーヌはそれでは間に合わないと言って自ら荷馬車を持ち上げようとします。誰もが人間の力では荷馬車を持ち上げる事などできるはずかないと考えていましたが、ジャヴェールだけはツーロンの監獄にいた怪力のジャン・ヴァルジャンなら持ち上げる事ができるかもしれないと言います。マドレーヌは怪力を発揮し、見物人と協力して荷馬車を持ち上げ、無事フォーシュルヴァンを助け出す事ができました。しかしジャヴェールはますますマドレーヌがジャン・ヴァルジャンではないかと疑念を強めるのでした。
 フォーシュルヴァンは膝を痛めており、もう重い荷物を持ったりする荷馬車の仕事はできそうにありませんでした。しかも荷馬車は壊れ馬は亡くなっていたのです。フォーシュルヴァンはこれからどうやって生活すればいいのかと悲観に暮れますが、見舞いに来たマドレーヌは馬車が壊れていたり馬が死んだ事などは一言も言わずに、悲観に暮れるフォーシルヴァンを励ますかのように荷馬車と馬を買い取らせてもらい、もっと体をいたわるような仕事を探しておこうと言ってくれたのです。フォーシュルヴァンは今まで忌み嫌っていたマドレーヌが自分の為になぜこれだけ親切にしてくれるのか理解できませんでした。それを聞いたマドレーヌは「人を助けるのに理由などいらないでしょう」と言うのです。フォーシュルヴァンは今までの自分が恥ずかしくなって涙を流してマドレーヌに謝るのでした。
 ある夜の事、アランの家にジャヴェール警部がやって来ました。そしてマドレーヌがこの町に来る前の事を知っていたら教えてほしいと言うのです。アランはマドレーヌの過去を知らなかったので何も答えませんでしたが、翌日、それを聞いたマドレーヌは自分がジャン・ヴァルジャンだと悟られてしまった事を理解します。そしてファンティーヌも同僚のゼフィーヌ達から、お金を貯め込んで郵便局に何度も行っている事から、男でもいるのではないかと疑いの目で見られてしまいます。
 コゼットはワーテルロー亭での仕事を早めに終わらせて、教会で神父さんに字を教えてもらうのが日課になっていました。神父さんだけでなくエポニーヌのクラスメイトのトロンもコゼットを応援してくれます。ところがエポニーヌはトロンに片思いしていたので、トロンが自分ではなくコゼットを選んだ事が悔しくて家のベッドで悔しさを噛みしめ、コゼットへの憎しみをますます深めていきます。
 この日はワーテルロー亭の宿泊客がとても多く、コゼットは料理を出したりテーブルを片付けたりするので大忙しです。ところが宿泊客の一人がモントルイユ・シュル・メールに立ち寄って黒ガラスの細工を土産に買ってきたと聞いて、コゼットは思わずその黒ガラスを見せてもらいます。それはお母さんのいる町で作られた土産で、まるでお母さんが作ったような気がしたのです。翌日、その宿泊客は黒ガラスをなくしてしまいました。もし見つかったら届けてほしいと言って宿泊客は帰っていきますが、エポニーヌはコゼットが盗んだのだと言いだします。おかみはコゼットを殴りつけようとしますが、シュシュが黒ガラスを見つけてくれたおかげでコゼットの疑いは晴れ、コゼットは宿泊客を追いかけて無事黒ガラスを返す事ができました。コゼットはその宿泊客にモントルイユ・シュル・メールがどんな町かを尋ねます。賑やかですてきな町だったと聞かされ、コゼットはお母さんのいるまだ見ぬモントルイユ・シュル・メールの町に想いをはせるのでした。
 夜にファンティーヌの部屋を訪れたゼフィーヌはファンティーヌの書いた手紙に、コゼットという名前が書かれているのを目にします。それが何の名前かゼフィーヌにはわかりませんでしたが、大切な人の名前である事はわかりました。
第6話 コゼットの誕生日
 ファンティーヌは子供のいる事がゼフィーヌ達同僚に気付かれてしまい、工場の中で噂になってしまいます。しかしファンティーヌはコゼットと一緒に暮らせるようになるなら何があっても辛抱するつもりでした。そして切り詰めた生活をしたおかげでお金も貯まってきたし、今度のコゼットの8歳の誕生日にはコゼットを迎えに行こうと決心します。一方コゼットはお母さんに早く迎えに来てと手紙に書きたかったので、一生懸命字を覚えるのでした。
 ジャヴェール警部はマドレーヌがこのモントルイユ・シュル・メールの町に来た時の事を知っている人物を突き止めました。マドレーヌはモントルイユ・シュル・メールの町で発生した火事の現場に偶然居合わせ、燃えさかる家の中から子供を助け出したのです。その助け出した子供が憲兵隊長の子供だった事からマドレーヌはこの町に住み着き取り立てられるようになり、火事のせいで通行証も財産もすべて燃えてしまい、一文無しから身を起こした立派な人だと言うのです。それを聞いたジャヴェールはマドレーヌの過去は闇の中にあると考えるのでした。
 ファンティーヌはゼフィーヌから意地悪された事からトラブルになり、それがメイエの目の前で起きた事と、子供がいるという理由からファンティーヌは黒ガラス工場を首になってしまいます。このままではコゼットと一緒に暮らす事ができなくなってしまうと考えたファンティーヌは、親切なマドレーヌならこの状況を何とかしてくれるに違いないと考えマドレーヌに面会を求めますが、運悪くその時マドレーヌは体調が悪くて倒れてしまい、面会は叶いませんでした。黒ガラス工場を首になったファンティーヌは、それからもモントルイユ・シュル・メールの町を仕事を探して歩き回りますが、仕事はなかなか見つかりません。ようやく縫い仕事を見つけますが、シャツ1枚につき12スーという安い賃金でしかありませんでした。それでもファンティーヌはそこで働こうとしますが、テナルディエからコゼットが病気になって医者に診てもらうから40フラン送れとの手紙が来たのです。ファンティーヌにとって40フランは大金でしたが、コゼットの為にファンティーヌは疑いもなく40フランを送ってしまいます。しかしワーテルロー亭ではファンティーヌから40フランが届いたとテナルディエは大喜びし、この分だとまだまだ搾り取れそうだから、月々の養育費を15フランに値上げしようと考えるのでした。
 ファンティーヌは夜になってもロウソクも灯さずにコゼットへの誕生日プレゼントを縫っていました。そんな時、同じ下宿に住んでいるマルグリットがロウソクを持ってやって来ると、一緒に仕事をしようと言ってファンティーヌを励ましてくれたのです。ファンティーヌはこれまでずっと気を張っていた事もあって優しい言葉をかけられて思わず泣き出してしまうのでした。
 数日後、ワーテルロー亭にファンティーヌから分厚い封筒が届きました。テナルディエとおかみは金目の物を送ってきたのかと期待しますが、入っていたのは刺繍の入った香りの袋でした。それはファンティーヌがコゼットの誕生日プレゼントに送った物でしたが、おかみはそれをコゼットに渡そうとせず、エポニーヌに渡してしまいます。コゼットはお母さんからの大切な誕生日プレゼントを受け取る事ができませんでしたが、お母さんが自分の事を忘れていなかったとわかっただけでも嬉しかったのです。エポニーヌは香りの袋を持って学校に行きました。そしてそれをトロンに見せると、トロンは中にカードが入っているのを見つけました。そのカードには「お誕生日おめでとう、コゼット」と書かれていたのです。エポニーヌは学校で大恥をかきました。そして家に帰るとそれをすべてコゼットのせいにしてしまったのです。コゼットもまたお母さんがコゼットの為に作ってくれた香りの袋をエポニーヌに捨てられた事にショックを受けてしまいます。その夜ガヴローシュはシュシュと一緒にエポニーヌの捨てた香りの袋を探しに行きました。シュシュの鼻を頼りに何とか見つけ出し、それをコゼットに渡すと、コゼットは嬉しさのあまりガヴローシュとシュシュを抱きしめて涙を流して喜びました。そしてコゼットは香りの袋の中に「お誕生日おめでとう、コゼット」と書かれたカードがあるのを見つけると、カードを抱きしめながら「お母さんありがとう」と言うのでした。
第7話 迷子のエポニーヌ
 ある日の事、コゼットが客間の掃除をしていると新聞が置き忘れていました。コゼットは字を勉強したおかげで新聞を少しは読めるようになっており、新聞を読んで色々な事を勉強しました。そんな時、ワーテルロー亭にパリ帰りのお客であるベランジェが立ち寄りました。夕食の時、食卓を囲みながらエポニーヌはベランジェの土産話に聞き入り、華やかな都・パリへの憧れを募らせていきます。モンフェルメイユ村から出た事のないエポニーヌにとって、パリはまさに憧れの地でした。コゼットは仕事をしながらもベランジェの話を聞くうちに、自分が幼少の時代にパリに住んでいた頃の事を想い出します。しかしおかみでさえ行った事のないパリにコゼットが住んでいたと聞いておかみは怒りだし、コゼットはまたしても食事抜きにされてしまいます。それでもコゼットはパリでお母さんと一緒に暮らした頃の事を想い出し幸せでした。
 ベランジェはすっかりコゼットの事が気に入ってしまい、翌日コゼットを呼び出すと、パリでの記憶を想い出させるようにとセーヌ川の絵をコゼットにあげ、パリのおいしいお菓子まで与えます。それをのぞき見していたアゼルマはパリのお菓子を自分が食べたい為におかみを呼びに行きますが、おかみとエポニーヌとアゼルマが来た時には既にコゼットは食べた後でした。
 エポニーヌはコゼットが憧れのパリを知っている事にショックを隠せませんでした。エポニーヌはコゼットがパリの絵を持っている事さえ許せず、絵を盗もうとしますがそれがどこにあるかもわかりません。おかみたちにも相手にされず、エポニーヌはイライラを募らせ、とうとうパリへと一人で家出してしまいます。エポニーヌの家出に気付いたテナルディエ夫妻は村人に協力してもらいエポニーヌを探します。コゼットもシュシュの鼻を頼りにエポニーヌを探すと、エポニーヌはコゼットがいつも水汲みに行く森への道で迷子になっていたのです。エポニーヌは意地を張って家には帰らないと言いますが、一人で森の中に残るほどの勇気もなく、コゼット達の後を追いかけて無事家に戻るのでした。
 黒ガラス工場を首になり、おまけにテナルディエ夫妻に金をむしり取られるファンティーヌはいよいよお金に困るようになり、次々と身の回りの物を質屋に入れてお金を工面しますが、とうとう家賃も払えなくなってしまいます。ファンティーヌは仕事がないかと服屋に行くと、服屋では大量の縫い物を3日間で完成させねばならず困っていました。それはとてもファンティーヌ一人でできる量ではありませんでしたが、ファンティーヌはどうしてもお金が必要だったので、無理して仕事を引き受けてしまいます。ファンティーヌは夜もろくに眠らずに縫い物の仕事に精を出しました。しかし約束の3日間ではすべてを終わらせる事はできませんでした。ファンティーヌは服屋の主人に謝りますが主人は約束を守れなかったからと言ってお金を払ってくれませんでした。とうとうファンティーヌは家賃が払えなくなり荷物をまとめて部屋を出ると、行くあてもないまま冬の近づいたモントルイユ・シュル・メールの町を歩き続けるのでした。
第8話 お母さんのスカート
 住む家も仕事も失ったファンティーヌは住み込みで働ける場所を探してモントルイユ・シュル・メールの町を歩き回りますが、仕事は見つかりませんでした。ファンティーヌは郵便局に立ち寄りテナルディエからの手紙を受け取ります。手紙にはコゼットの病気は治ったと書かれていましたが、これから冬を迎えるのに、また病気が悪くならないように暖かい毛のスカートを買いたいから、すぐに10フラン送るようにと書かれていました。住む場所も仕事もなく、パンを買うお金にさえ不自由しているファンティーヌにとって10フランは、とても送る事のできるお金ではありませんでした。しかしファンティーヌはどうしてもコゼットの為に暖かい服を買ってやりたくなり、ファンティーヌは意を決すると理髪店に行き自分の美しい金色の髪を10フランで売るのでした。
 数日後、ワーテルロー亭にファンティーヌから大きな荷物が届きました。テナルディエ夫妻はファンティーヌが10フラン送ってきたと思っていましたが、中身は女の子向けのスカートだったのでがっかりしてしまいます。コゼットはお母さんが自分の為に送ってくれたのだと思うと嬉しさがこみ上げてきますが、そのスカートはコゼットの目の前でアゼルマに横取りされてしまいます。
 家を追われたファンティーヌは川辺の橋の下の小屋で仲間と暮らしていました。それでもコゼットへの養育費を稼ぐ為、市場や広場で身を粉のようにして働きます。ファンティーヌはひどい暮らしの為に体を壊し、ひどい咳をするようになっていました。そしてテナルディエ夫妻への送金も遅れがちになり、ファンティーヌはとりあえず5フランだけでも先に送金しようとしますが、スリにお金をすられてしまい、コゼットの養育費を送る事はできなくなってしまいました。ファンティーヌはお金を盗まれたと警察に届けますが、ファンティーヌの身なりがひどかった事から物乞いに来たと思われ追い返されてしまいます。
 追い詰められたファンティーヌは身なりのひどい自分がお金を持っていると思われるはずがないのにスリにお金をすられた事から、橋の下の小屋の仲間が盗んだのだと思い込み、仲間に悪態をつくと橋の下の小屋も引き払ってしまいます。そして行くあてもなく町をさまよっているところをアランの目に目撃されました。ファンティーヌは自分がこんな目に遭っているのは何もかもマドレーヌのせいだと言います。マドレーヌが黒ガラス工場を首にしたから落ちぶれてしまったとファンティーヌは思い込んでいました。それを聞いたアランはその事をマドレーヌに報告すると、マドレーヌはすぐに工員を首にしたメイエの元に向かいます。マドレーヌはメイエから工員が隠し子がいる事を話さなかったので首にしたと聞いて、なぜ工員が隠していたかを尋ねたのかと聞きますが、メイエにはわかりませんでした。
 一方、ワーテルロー亭ではファンティーヌからの送金が途絶えた事でテナルディエとおかみはコゼットが母親から見捨てられたとコゼットをバカにします。コゼットは自分の事をどんなに言われてもひたすら我慢しましたが、お母さんの事を悪く言われるのだけは我慢ができず、「お母さんは来るもん、絶対私を迎えに来るって約束したから」と涙ながらに言うのでした。
 ファンティーヌはとうとう冬の路上に裸足で街角に立って物乞いまで始めてしまいます。しかし通りすがりの人から背中に雪を入れられるという嫌がらせを受けた事に腹を立てて殴りかかった事から警察沙汰になり、ファンティーヌは警察に捕まってしまうのでした。
第9話 テナルディエの悪だくみ
 警察に捕まったファンティーヌはジャヴェール警部による即決裁判で禁固6ヶ月が言い渡されます。ファンティーヌは6ヶ月も牢屋に閉じ込められたらコゼットへの送金ができなくなると哀願しますが聞き入れられません。そこへマドレーヌがやって来ました。ファンティーヌはマドレーヌのせいで自分が落ちぶれてしまったと思い込んでいたので、マドレーヌを見るなりマドレーヌの頬をビンタします。しかしマドレーヌは怒るどころかファンティーヌを釈放するようジャヴェールを説得しファンティーヌを連れて帰ります。ファンティーヌは修道院の病院に運ばれました。ファンティーヌはひどい暮らしの為に病気となり、ファンティーヌを診察した医者はもう助からないだろうと言います。それほどまでに病気はファンティーヌの体をむしばんでいたのです。
 おかみはファンティーヌが養育費を送ってこなくなったので、ますますコゼットに辛くあたるようになります。コゼットは木枯らしの吹く寒い玄関前を夜に掃除するよう言われて外に追い出され、食事も与えられません。コゼットはいくら掃いても次から次へと枯れ葉が舞ってくる寒い木枯らしの中、「早く迎えに来て、お母さん」とつぶやくのでした。
 ファンティーヌが目を覚ますと病院のベッドに寝かされマドレーヌが看病していました。マドレーヌは自分のせいでファンティーヌに辛い思いをさせてしまった事を謝ると、コゼットを引き取りに行って、この町で親子で暮らせるようにしようと言ってくれたのです。ファンティーヌはこれほどまで親切にしてくれるマドレーヌを恨んでいた事を恥ずかしく思い泣いて謝りますが、マドレーヌは謝らなければならないのは自分の方だと言うと、ファンティーヌを首にしたメイエもファンティーヌに謝るのでした。そしてメイエがモンフェルメイユ村のワーテルロー亭までコゼットを引き取りに行く事になりました。ファンティーヌはコゼットとやっと一緒に暮らせるようになると泣いて喜びました。
 早速メイエは馬車でモンフェルメイユ村に向かいワーテルロー亭に行きます。メイエはおかみにコゼットを引き取りに来たと告げると、おかみはようやく厄介払いができると大喜びです。しかしテナルディエはコゼットの養育費が滞っていると言うと、メイエは未払いの養育費130フランに加えて今までのお礼として、合わせて200フランを差し出したのです。テナルディエはここでも悪知恵を働かせ、この打ち出の小槌から金をせしめ取ろうと考え、コゼットが夏の流行病にかかった時の治療費やコゼットがうっかりと壊してしまった教会の花瓶、コゼットの為に買ってやったパリの絵の代金など、でまかせを並べ立て、合わせて530フランを請求したのです。さすがにこれだけの大金をメイエは持ち合わせていませんでした。そこでファンティーヌが重い病気なのでコゼットだけでも連れて帰らせてほしいと言いますが、テナルディエは金の成る木を簡単に手放そうとしません。そこでメイエはコゼットを一目だけでも見せてほしいとお願いすると、おかみは困ってしまいました。なぜならコゼットを見せると大切に育てていない事がばれてしまうのです。そこでおかみはエポニーヌをコゼットになりきらせようとしますが、エポニーヌはどうしてもコゼットになろうとはしません。それを聞いていたアゼルマは焼き菓子とリンゴとキャンディと引き替えに自らコゼットの身代わりになり、まんまとメイエはテナルディエ夫妻に騙されてしまいます。テナルディエは思いもよらずに転がり込んできた大金に、もっとメイエからせしめてやろうと企むのでした。
 メイエはモントルイユ・シュル・メールに戻ると、事の一部始終をマドレーヌに報告しました。マドレーヌは残りの借金も自分が面倒を見ると言いますが、テナルディエには不信感を抱いていたので、今度は自分がモンフェルメイユ村のワーテルロー亭まで行く事にしました。
 その夜マドレーヌが市役所で仕事をしているとジャヴェール警部がやって来ました。そしてジャヴェールはマドレーヌがジャン・ヴァルジャンではないかとパリの警視庁に告発したと言うのです。しかし警視庁からの回答はあり得ないとの事でした。なぜなら本物のジャン・ヴァルジャンがリンゴを盗んだ罪で捕まったのです。リンゴを盗んだ罪だけなら罪も軽いものでしたが、ジャン・ヴァルジャンには少年から銀貨を盗んで逃走を続けている罪もあったので終身刑は間逃れません。裁判は明日アラスの町で行われるとの事でした。それを聞いたマドレーヌは自分の身代わりにそのシャンマチウという男が捕まって終身刑になってしまう事が我慢できませんでした。自らジャン・ヴァルジャンである事を名乗り出るべきか、それともこのままマドレーヌとして暮らすか。マドレーヌは市長室で悩み続けるのでした。
第10話 迷いのマドレーヌ
 ファンティーヌは体の衰弱も激しく、一日も早くコゼットに逢わせてあげなければならないような状況でした。マドレーヌはファンティーヌの看病をしながら、自分にはコゼットを連れ戻すという使命もあるし、何よりこの町でまだまだやり残した事がたくさんあるので、自分がジャン・ヴァルジャンだと名乗り出る事はできないと考えますが、その為に無関係なシャンマチウが投獄されるのが本当に許されるのかマドレーヌにはわかりません。マドレーヌは悩み続けました。明日アラスの町で裁判が開かれますが、アラスの町にはここから半日もかかるので、今から馬車を乗り継いだとしてももう間に合わないのです。マドレーヌはシャンマチウもリンゴを盗んだという罪があるのだし、運が悪かったのだと考えます。そしてマドレーヌはシャンマチウがジャン・ヴァルジャンとして徒刑場に行けば自分は晴れて自由の身となれると考え、自分がジャン・ヴァルジャンである唯一の証拠であるミリエル司教から頂いた銀の燭台を暖炉に投げ込んで証拠を消そうとしますが、マドレーヌはミリエル司教が言っていた「決して忘れてはなりませんぞ、あなたがその銀を心正しき人になる為に使うと約束した事を」という言葉を想い出し、どうしてもマドレーヌには銀の燭台を暖炉に投げ込む事ができませんでした。
 悩み続けたマドレーヌは疲れの為眠ってしまい、夢の中でミリエル司教とジャン・ヴァルジャンの身代わりになったシャンマチウの姿を見ました。夢から覚めたマドレーヌはシャン・マチユに自分の罪を被せる事はできないと考え、夜明け前から馬車を駆ってアラスの町へと走るのでした。
 コゼットは今日も朝からエポニーヌとおかみのいじめにあい、朝から食事も食べる事ができませんでした。コゼットは朝食抜きでそのまま買い物に行かされますが、お腹が空きすぎて途中の道端で倒れてしまったのです。神父のリシャールに助けられコゼットは教会でパンを食べさせてもらいました。リシャールはコゼットが倒れるほど何も食べさせないのは問題だと考え、一度テナルディエに話をしようと言ってくれますが、そんな事をされたらおかみからどんな仕打ちをされるかわからないので、コゼットは頑なに拒否してします。コゼットはお母さんからの養育費の送金が止まったのでお母さんに何かあったのではないかと心配でしたが、それを知ったリシャールはコゼットに手紙を書くように勧めます。コゼットはもう手紙を書く事ができるくらい字を勉強していたので、早速リシャールから紙とペンを借りるとお母さんへの手紙を書きます。リシャールもコゼットのお母さんにコゼットの様子を伝える手紙を書き、二人の手紙は一緒に封筒に入れ、ちょうど教会にやってきた郵便配達の人に手渡されました。ところがリシャールが受け取った手紙にはパリの教会に移動するよう通知が書かれていたのです。リシャールは自分がいなくなったらコゼットはどうなってしまうのだろうとしても心配でした。
 郵便配達の人はワーテルロー亭にやって来ました。おかみもファンティーヌに手紙を書いていたので郵便配達に渡すと、おかみは郵便配達の鞄の中にコゼットの手紙が入っているのを見つけました。おかみは一緒の封筒に入れるからと言って郵便配達の止めるのも聞かずにコゼットの手紙を取り上げ、コゼットとリシャールの書いた手紙を読むと、その手紙をそのまま暖炉に投げ込んで燃やしてしまい、自分の手紙だけを封筒に入れて再び郵便配達に渡してしまいます。そんな事は夢にも思わないコゼットは自分の手紙がお母さんに届く事を信じ「お母さん、早く迎えに来て」とつぶやくのでした。
 マドレーヌは一日中馬車を走らせ続け、夕方にようやくアラスの町の裁判所に到着しました。裁判は始まったばかりでマドレーヌは裁判所の傍聴席に座ります。シャンマチウはリンゴを盗んだという罪だけではなく、ジャン・ヴァルジャンとして煙突掃除の子供からお金を盗んだという罪でも裁かれていたのです。それを聞いたマドレーヌはいたたまれない思いでした。自分の犯した罪で何の関係もないシャンマチウが裁かれているのです。ツーロンの徒刑場から証人まで来てシャンマチウがジャン・ヴァルジャンだと証言した為、シャン・マチユの終身刑は決定的でした。しかし裁判が終わろうとしたその時、マドレーヌは立ち上がると、シャンマチウは無罪で自分がジャン・ヴァルジャンだと裁判官の前で名乗り出たのです。マドレーヌは逃げも隠れもしないので自分を逮捕するならいつでもどうぞと検事に言い、自分にはまだやらなければならない事がたくさんあると言ってその場を立ち去るのでした。
第11話 サンプリスの嘘
 日に日に弱るファンティーヌを元気づけながらアランとシスター・サンプリスはマドレーヌの帰りをひたすら待ち続けました。もうファンティーヌの命も長くはないと思われ、一刻も早くコゼットを連れて帰る必要があったのです。そこへ突然マドレーヌが帰ってきました。マドレーヌは疲れ切った顔をしており、髪は一晩のうちに真っ白になっていました。アランはコゼットに逢えたのかをマドレーヌに聞きますが、マドレーヌは事情があってまだコゼットを迎えには行っていないと言います。マドレーヌはファンティーヌを見舞おうとしますが、ファンティーヌはマドレーヌがコゼットを連れて帰るのだけをひたすら待ち続けており、それが彼女の命の支えと聞いてマドレーヌはファンティーヌを見舞わず、すぐにコゼットを迎えに行こうとします。しかし今からコゼットを迎えに行っても、ファンティーヌはコゼットの帰りを待つ事ができないほど弱っていたので、マドレーヌは眠っているファンティーヌを一目だけでも見る事にしました。
 マドレーヌがファンティーヌを見舞っていると、そこへ突然、ジャヴェール警部がやって来ました。ジャヴェールはマドレーヌがジャン・ヴァルジャンという名の犯罪者だと言って逮捕しに来たのです。アランもシスター・サンプリスにも何の事だか理解できませんでした。ジャヴェールはマドレーヌを悪魔のような恐ろしい犯罪者と言い、そればかりか騒ぎに意識を取り戻しコゼットの名前をうわごとのように呼ぶファンティーヌにまでジャヴェールは辛くあたり、「いいか、本当ならお前は監獄行きだ。今すぐにでもこの男と一緒に逮捕しても構わないのだぞ。待ってもコゼットなど来やしない」と言った為、ファンティーヌはコゼットの名前を叫ぶと、ショックのあまりに生きる希望を失い、ファンティーヌは亡くなってしまったのです。マドレーヌはジャヴェールがファンティーヌを殺したのだと怒りをぶつけると、ファンティーヌに向かい「約束します、コゼットは必ず連れ戻すと」と言って祈りを捧げ、マドレーヌはジャヴェールと一緒に警察署に連れて行かれるのでした。
 ワーテルロー亭ではおかみが心配していました。メイエが帰ってからもう何日も経つのにお金を持ってこないばかりか何の連絡もないのです。おかみは530フランもの大金を請求したのがいけなかったのではないかと心配しますが、テナルディエは金づるはこっちの手の中にあるのだからと再び悪知恵を働かせます。一方コゼットはそろそろ手紙がお母さんに届く頃だと思うと嬉しくなり、お母さんからの返事が来る前から次に出すお母さんへの手紙を書こうとします。コゼットにとってお母さんへ手紙を書く事がとても嬉しかったのです。しかし手紙を書きに教会へ行くと、神父のリチャードは荷造りをしていました。リチャードはパリの教会に移動する事になり、明日にも引っ越しが迫っていたのです。リチャードはコゼットの事が心配でしたが、リチャードからもお母さんへ手紙を書いていたのできっと大丈夫だろうと考えていました。
 コゼットはおかみやエポニーヌにいじめられて落ち込む事もありました。しかしガヴローシュとシュシュだけはコゼットの味方で、いつもコゼットを元気づけてくれたのです。しかしガヴローシュはその事が原因でおかみからひどく怒られ納屋に閉じ込められてしまいます。コゼットは自分の為にガヴローシュがひどい目にあった事が耐えられず、「お母さん、私どうしたらいいの? 早くお母さんに逢いたい」と言うのでした。
 警察の留置所に入ったマドレーヌは看守からも虐げられ、食事も与えられません。マドレーヌは想い出しました。人は罪人と見ると手のひらを返したように蔑みの視線を向け、その為にどれほど踏みつけられ立ち直る機会を失った事を。そしてマドレーヌはコインの中に隠し持っていたワイヤーソーを取り出すと留置所の窓にはまった鉄格子を切り脱走したのです。マドレーヌは自分が今、何をすべきなのかを理解し、迷わず行動に出たのです。マドレーヌは自宅に戻ると、安置されているファンティーヌの遺体に祈りを捧げました。アランとシスター・サンプリスは警察に捕まったはずのマドレーヌが戻ってきた事でびっくりしてしまいます。マドレーヌは今まで嘘をついていた事を謝りました。マドレーヌは昔アランがしたように、最初は飢えた甥と姪の為にパンを盗んだだけだった。しかし監獄で虐げられ人々に蔑まれているうちに自分の中の何かが歪んでしまい、人の善意を踏みにじり弱い者からなけなしの金を奪う、いつしかそんな人間になっていたのです。そして銀の燭台は自分の罪深き心を忘れぬよう片時も忘れずに持ち続けていたのです。
 マドレーヌはこれからコゼットを迎えに行くから馬車を用意するようアランに指示します。ところがアランが家を出ようとするとジャヴェール警部と多くの警官がマドレーヌの家に押しかけてきたのです。ジャヴェールはマドレーヌが脱獄し自宅に逃げ込んだと考えていました。そして部屋に踏み込むと、そこにはシスター・サンプリスがいました。シスター・サンプリスは嘘が大嫌いで、今まで一度たりとも嘘をついた事はありません。それゆえジャヴェールもシスター・サンプリスを尊敬していました。ジャヴェールは今夜マドレーヌがここに来なかったかと尋ねますが、シスター・サンプリスは来なかったと嘘をついたのです。それを聞いたジャヴェールはシスター・サンプリスを信じて帰って行きました。マドレーヌは隠れていたカーテンの陰から出てくると、シスター・サンプリスに嘘をつかせてしまった事を謝ります。するとシスター・サンプリスは自分が見たのは徒刑囚のジャン・ヴァルジャンではなく、慈悲深く人々の為に自らの命を犠牲にする事もいとわないマドレーヌ市長ですと言うのでした。
第12話 ひとりぼっちのコゼット
 ジャヴェール警部はモントルイユ・シュル・メールの町に検問を張り巡らせましたが、マドレーヌは警察の網をかいくぐり、モントルイユ・シュル・メールの町を出るとモンフェルメイユ村へと急ぎます。マドレーヌはファンティーヌにコゼットを逢わせる事はできませんでしたが、コゼットを連れ戻す約束だけは何としても守ろうと考えていました。
 ワーテルロー亭では、いつものようにガヴローシュがコゼットの水汲みを一緒に手伝います。ガヴローシュだけはコゼットの味方でした。しかしファンティーヌからの仕送りが途絶え商売もうまくいかなくなってきたテナルディエ夫妻は、ガヴローシュを鍛冶屋に住み込みで奉公に出す事にしたのです。ガヴローシュはコゼットに別れを言う間もないまま、鍛冶屋に無理矢理連れて行かれ、とうとうコゼットはひとりぼっちになってしまいました。今日はクリスマスイブなのに、コゼットはガヴローシュがいなくなった事でますますいじめられ、コゼットはきっとお母さんは迎えに来る、もうお母さんは近くまで来ているに違いないと自分を励ますのでした。
 マドレーヌは馬車を走らせ続け、ようやく馬の休憩と昼食の為に店に入りました。ところがそこへも警察の手が伸びていたのです。しかしマドレーヌは一人の男の手引きで、どうにか警察の追っ手から逃げる事ができました。彼は3年前、仕事をなくし一家で死ぬしかないと考えていた時、黒ガラス工場に雇ってもらいマドレーヌに恩を感じていたのです。彼は警察の手に落ちたマドレーヌの馬車と馬の代わりに自分の馬を、そして変装用に自分の服をマドレーヌに差し出し、そして自分は自ら警察にマドレーヌを見たと言い、マドレーヌは元来た道を戻って行ったと言って嘘の証言をしてマドレーヌを助けます。ジャヴェール警部をはじめとした警察がモントルイユ・シュル・メールの町に戻って行く間に、マドレーヌは何としても今夜中にモンフェルメイユ村に行こうと考え、馬を全速力で走らせるのでした。
 コゼットの事が気に入らなかったエポニーヌは、コゼットにクリスマスプレゼントをあげようと考えました。それは夜に水桶を空にしておく事でした。水桶を常にいっぱいにしておく事がコゼットの仕事の一つだった為、激怒したおかみはクリスマスイブの夜に一人で森の中の水汲み場まで行くようにコゼットに命じ、ついでにパンを買ってくるよう言いつけます。コゼットにとっては通い慣れた水汲み場でしたが、さすがに夜の森はコゼットにとっても怖く、コゼットはひたすらおかみに許しを請いますが、おかみは聞き入れようとしません。とうとうコゼットは冬の木枯らしの舞う寒い夜に、裸足のまま自分に怖くないと言い聞かせ森の中へ入っていきました。コゼットはどうにか真っ暗な森を歩いて水汲み場に行って水を汲みますが、帰る途中で辺りが暗くて転んで水をこぼしてしまい、せっかく怖い思いをして水を汲んだのに、再び水汲み場まで行かなければならなくなり、とうとうコゼットは泣き出してしまいます。
 再び水汲み場まで戻ってきたコゼットは、水を汲もうとしてまたもや転びそうになりますが、その時コゼットはマドレーヌに助けられたのです。マドレーヌは桶がコゼットが持つには大きすぎるように見えたので、一緒に持っていってあげる事にしました。それよりもマドレーヌにはこんな子供を夜に森の中まで水汲みに行かせるのが理解できませんでした。ところがコゼットは水汲みが自分の仕事だから行かないとテナルディエのおかみさんに叱られると言うのです。それを聞いたマドレーヌはもしやと思ってそのコゼットに名前を聞きました。するとその少女こそがマドレーヌの迎えに行くべきコゼットだったのです。マドレーヌはショックでした。メイエはコゼットが健康そうだと言っていたが、目の前の少女は冬だというのにボロボロの寒そうな服を着て、しかも裸足で夜の森を水汲みに行かされているのです。マドレーヌは家まで送っていこうと言いますが、コゼットは知らない人に送ってもらった事がおかみさんに知れたら怒られるからと言って、桶を持つとワーテルロー亭まで一人で帰って行きました。ところがワーテルロー亭に帰ったコゼットはパンを買ってくるのをすっかりと忘れていただけでなく、パンを買うお金の15スーも、どこかに落としてしまっていたのです。
第13話 ジャン・ヴァルジャンとコゼット
 コゼットは15スーを落とした事でおかみから厳しく怒られました。そして落としたのなら見つけてくるまで家には入れないと言われてしまいます。コゼットはこんな真っ暗な夜では見つける事はできないと言いますが、おかみには受け入れられません。その時、マドレーヌことジャン・ヴァルジャンがワーテルロー亭に入ってきたのです。ジャン・ヴァルジャンは薄汚い格好をしていた事から通常の2倍の40スーの宿代を前払いで請求されますが、それをあっさり払うと、コゼットの落としたお金を拾ったと言って20スーを差し出しました。それは明らかにコゼットが落としたお金ではありませんでしたが、おかみの気も収まりコゼットはお金を探しに行かなくてもよくなります。
 ジャン・ヴァルジャンはワーテルロー亭でコゼットの扱われ方を注意深く観察しました。そしておかみになぜコゼットだけボロボロの服を着て働いているのかを尋ねると、母親から預かったけど養育費を送ってこなくなったので働かせていると言います。そしてコゼットが子供達の靴下を編んでいるのを見ると、その靴下を自分が買った事にするからコゼットを休ませてほしいと言って5フラン差し出すと、コゼットに食事をさせてほしいと言ってさらにお金を差し出したのです。テナルディエ夫妻はジャン・ヴァルジャンがなぜコゼットの事を気にかけるのか理解できませんでしたが、言われた通りコゼットにパンとスープを提供します。ジャン・ヴァルジャンのおかげでコゼットは久しぶりの温かいスープを食べさせてもらう事ができました。しかし毎日朝から晩まで働く事しかしなかったコゼットにとって働かずに遊んでいればいいと言われても遊び道具もありません。エポニーヌやアゼルマからバカにされたコゼットを見ていたジャン・ヴァルジャンはワーテルロー亭を出て行くと、エポニーヌやアゼルマでさえ持っていないような立派な人形を買ってコゼットにプレゼントしたのです。テナルディエ夫妻にはジャン・ヴァルジャンがまったく理解できませんでしたが、ジャン・ヴァルジャンがお金を持っていそうだったので、うまく騙してお金をむしり取れるだけむしり取ろうと考えるのでした。
 コゼットも自分が見知らぬおじさんから優しくされ、働かなくていいようになるばかりか、自分が手に届くはずがないとあきらめていた人形までプレゼントされた事が理解できません。それでもコゼットは人形にカトリーヌと名前を付けてかわいがります。それを見ていたエポニーヌは自分の持っている人形よりも立派な人形をプレゼントされたコゼットが面白くありませんでした。そしてクリスマスイブだから自分達はサンタさんが靴にお金を入れていってくれるけど、コゼットは悪い子だから靴にお金は入れてもらえないと言い捨てて部屋に戻ってしまいます。
 おかみはエポニーヌでさえ買ってもらえないような立派な人形をコゼットがプレゼントされた事が気に入らず、明日にでもコゼットを叩き出してしまおうと考えます。ところがテナルディエはジャン・ヴァルジャンからお金をむしり取るべく早くも勘定書を作っていたのです。基本宿泊料は40スーですが、特別室使用料9フラン、夕食3フラン、ロウソク代5フランなど合計23フランもの大金をむしり取ろうと悪知恵を働かせていたのです。
 翌朝、エポニーヌとアゼルマはクリスマスプレゼントとして靴の中にお金が入っていたのをコゼットに見せびらかしに行きますが、コゼットの靴の中には何と金貨が入っていたのです。エポニーヌは面白くありませんでした。みんながコゼットに優しくするのが許せなかったのです。コゼットは今までサンタさんが自分の事を忘れていた分も一緒に持ってきてくれたのだと考えました。そして今日こそはお母さんが迎えに来るような気がしたのです。
 おかみはジャン・ヴァルジャンからお金をせしめる為、コゼットは体が弱くていつも熱を出したり体を壊したりして、そのたびに医者に診せると目の玉が飛び出すくらいお金がかかると言ってジャン・ヴァルジャンの同情を引こうとします。ところがそれを聞いたジャン・ヴァルジャンは「風邪をひく前に暖かい服を着せてみたらどうですか? もう少し栄養のあるものを食べさせれば病気に対する抵抗力もつくでしょう」と言います。おかみは景気が悪いのでコゼットを養うのも大変だと言うと、ジャン・ヴァルジャンはコゼットを引き取ると言うのです。これにはおかみも驚いてしまいました。そこへテナルディエがやって来ました。テナルディエはコゼットを母親から預かったが途中から養育費が滞るようになり、それが溜まりに溜まっていると言うのです。ジャン・ヴァルジャンはいくら払えばコゼットを引き取らせてくれるか単刀直入に聞きました。テナルディエは答えに窮しますが、思い切って1500フランとふっかけたのです。ところが思いもよらぬ事に、ジャン・ヴァルジャンはその場で財布から1500フラン取り出すと即金でテナルディエで渡しコゼットを引き取ったのです。テナルディエはもっと高くふっかけておくべきだったと後悔しました。すぐさまコゼットは呼ばれこれからこのおじさんの子供になってこの家から出て行くのだと言われます。コゼットはびっくりしましたが、コゼットは行くわけにはいかないと言います。コゼットはお母さんが迎えに来るまでここで待ってるってお母さんと約束していたのです。
 テナルディエはジャン・ヴァルジャンからさらに多くの金をむしり取ろうと、さらに悪知恵を働かせました。そして母親から預かった大切な子供を1500フランで売ってしまう事などできないと言いだしたのです。母親からの正式な委任状を持った人であればお金はいらないが、そうでなければコゼットを渡す事はできない、あるいは15000フランのお金なら話は別だが… と言うと、それを聞いていたジャン・ヴァルジャンは財布を取り出しました。テナルディエ夫妻は15000フランもの大金を手にする事ができると大喜びしそうになりましたが、ジャン・ヴァルジャンが財布から取り出したのは紙幣ではなく母親であるファンティーヌからの正式な委任状だったのです。コゼットはお母さんの字だと言って大喜びしますが、テナルディエ夫妻はその正式な委任状の為に15000フランどころか1500フランも受け取る事ができなくなってしまいました。テナルディエはコゼットがここに残りたいと言っていると最後の抵抗を続けますが、コゼットはお母さんからの手紙に、この人と一緒に行くようにと書かれていた事から、迷わず家を出ると言います。テナルディエは金の成る木をみすみす逃してしまった事で思わず泣き出してしまい、いつかきっとジャン・ヴァルジャンに復讐してやろうと決心するのでした。
 コゼットはジャン・ヴァルジャンが持ってきた服に着替えると、ワーテルロー亭を出発しジャン・ヴァルジャンと一緒に歩き始めました。コゼットはお母さんのところに戻る時、ガヴローシュとシュシュも一緒に連れて行く約束をしていました。そこで鍛冶屋に行こうとしますが、そこへガヴローシュがやって来たのです。コゼットはガヴローシュを誘いますが、ガヴローシュは行けないと言います。ガヴローシュは鍛冶屋のおじさんとおばさんが優しいから、自分がいなくなったら寂しがると考えたのです。コゼットはガヴローシュと再会を約束するとジャン・ヴァルジャンと二人でモンフェルメイユ村を旅立つのでした。
第14話 二人きりの旅
 ワーテルロー亭から無事コゼットを連れ出したジャン・ヴァルジャンは、追っ手を避ける為に馬車を乗り換えながらコゼットと共に街道沿いをパリへと向かいます。しかし立ち寄った村でも警察がジャン・ヴァルジャンを探し回っており、このまま真っ直ぐにパリを目指すのは危険だと判断したジャン・ヴァルジャンはコゼットを連れて山を越え、一日中歩き続けました。しかしコゼットの歩みが遅くなった事に気付いたジャン・ヴァルジャンがコゼットの足を確かめると、コゼットの足にはひどい水ぶくれができていました。コゼットは靴など履いた事がなく真冬でも裸足でいたので、慣れない靴を履いて歩いたせいで靴擦れをおこしていたのです。
 ジャン・ヴァルジャンはコゼットがこんな靴擦れを起こしているのに何も言わずに我慢して歩いていた事を不憫に思い、「これからは足が痛かったら痛いと言っていい、お腹が空いたら空いたと私に言っていいんだ、もう誰にも遠慮しなくていいんだよ」と言いますが、コゼットは「大丈夫です、だって私、毎日森まで何度も水汲みに行っていたし、洗濯やお掃除や馬の世話やお皿洗いや、たくさんお仕事してたから、マメができたくらい何でもないわ。それにもうすぐお母さんに逢えるんだもの、お母さん今頃何をしているのかなぁ」と言います。ジャン・ヴァルジャンはコゼットに本当の事を話そうと決心しましたが、その時、通り雨が来たのでジャン・ヴァルジャンとコゼットは近くの小屋で雨宿する事にしました。
 その頃、ジャヴェール警部はジャン・ヴァルジャンが、死んだファンティーヌの娘を迎えに来たのではないかと考えモンフェルメイユ村に来ていました。しかし宿屋にはジャン・ヴァルジャンが泊まった形跡もなく、やはりジャン・ヴァルジャンのような凶悪犯は約束を守るはずがないと考えます。ところが宿屋の夫婦が預かっていた娘をさらわれたとの情報を得たジャヴェールはワーテルロー亭に行きました。するとテナルディエはジャヴェールの持っていた手配書の男が娘同然に育てたコゼットをさらっていったと嘘をついたのです。しかしガヴローシュがコゼットはさらわれたのではなく、ついて行ったのだと証言した為、慌てたおかみがコゼットを渡してほしいという正式な委任状をジャヴェールに見せてしまいます。それを見たジャヴェールはジャン・ヴァルジャンからお金をもらったのかと問いますが、タダでさらっていったと言うと、もしお金をもらっていたら子供を売った罪で逮捕するところだと言われてしまいます。ジャヴェールにはあの凶悪犯であるジャン・ヴァルジャンがファンティーヌとの約束を守った事が理解できませんでした。そして何か裏があるに違いないと考えます。そして小さな村ではよそ者が来たら目立ってしまうので、ジャン・ヴァルジャンは必ずパリを目指すと考えました。
 雨は降り続いた為、ジャン・ヴァルジャンとコゼットはその晩、小屋に泊まる事にしました。コゼットは鞄の中から色々な食べ物を次から次へと取り出してくるジャン・ヴァルジャンを魔法使いのように思ってしまいます。コゼットにとってジャン・ヴァルジャンはおかみさんから助け出してくれたし、カトリーヌをプレゼントしてくれたし、お腹が空けばパンやチーズやビスケットを食べさせてくれる、何でも望みを叶えてくれる魔法使いでした。しかしジャン・ヴァルジャンはコゼットが一番望んでいるお母さんに逢わせる事だけはできないのです。
 その夜コゼットは悪い夢を見ました。おかみさんにひどく叱られる夢を見てうなされていたのです。ひたすら「ごめんなさい」を繰り返すコゼットを起こし、ようやくコゼットは悪夢から目覚めました。ジャン・ヴァルジャンは恐怖に震えるコゼットを抱きしめるとコゼットに言いました。「もう大丈夫だよ、これからは私がずっとそばにいる。君を守るとそうお母さんに誓ったんだ」「おじさん、お母さんパリにいる?」「よく聞いてくれ、お母さんはね、もういないんだ」「いない? どういう事なの」「お母さんは神の国に召されたんだ。最後までコゼットの事を気にかけていたよ」「そう、だから私は黒い服なの?」ジャン・ヴァルジャンはファンティーヌがいつも首からかけていたペンダントを取り出すと「これはお母さんが肌身離さず大切にしていたものだ」と言ってコゼットに手渡しますが、コゼットは「おじさん持っていて」と言ってペンダントを返してしまいます。ジャン・ヴァルジャンは「ファンティーヌ、どうか見守っていてくれ。私はこの命に代えても君の娘を守っていこう」と決心するのでした。
第15話 二人の絆
 ジャヴェール警部はパリへ向かう街道沿いの村々に検問を張りジャン・ヴァルジャンを追いかけましたが、ジャン・ヴァルジャンの行方は依然としてつかめません。ジャン・ヴァルジャンはパリへ直接向かうのは危険と考え、運河と大聖堂のある大きな街に立ち寄りました。賑やかな街並みに目を見張るコゼットは、次から次へと楽しそうに店先を覗き込んでは人形に文字を読んで聞かせて歩きました。
大きな宿に泊まったジャン・ヴァルジャンとコゼットは久しぶりにゆっくりした時を過ごします。食堂に夕食を食べに行った時、二人にガラス細工職人を名乗る男が声をかけてきました。何でもその男はこれからモントルイユ・シュル・メールのガラス細工工場に赴任するが、モントルイユ・シュル・メールでは市長がいなくなって大変な事になっていると言うのです。それでも市長の助手をしていた少年が市長の代わりをしていると聞いてジャン・ヴァルジャンは安心しました。
 翌日、ジャン・ヴァルジャンはコゼットを連れて町を歩きますが、警官に呼び止められそうになってしまいます。これから先ずっとビクビクと警官から隠れ、怯えながら街を歩かなければならないジャン・ヴァルジャンは、自分と一緒にいてコゼットが幸せになれるのだろうか、友達を作って一緒に遊んだり勉強したりできるのだろうか、本当にコゼットの事を思うなら、信用のおける誰かに引き取ってもらった方がいいのではないかと自問します。
 考えた末にジャン・ヴァルジャンはシスター・サンプリスにコゼットを預けようと考えました。しかしシスター・サンプリスの周囲はジャヴェールが見張っている可能性が高かったのでジャン・ヴァルジャンが連れて行くわけにはいきません。そこでジャン・ヴァルジャンは昨夜話をしたガラス細工職人に頼んでコゼットをモントルイユ・シュル・メールのシスター・サンプリスまで連れて行ってもらおうと考えました。ところがガラス細工職人は宿を出たばかりでジャン・ヴァルジャンは慌ててガラス細工職人を探しますが、ふとした事で目を離したすきにコゼットとはぐれてしまったのです。大きな町なのでコゼットはなかなか見つからず、警察に捜索してもらう事もできません。コゼットも橋の上でジャン・ヴァルジャンを探しますが、馬車に轢かれそうになってカトリーヌを橋の上から下を通りかかった船に落としてしまいます。コゼットはジャン・ヴァルジャンとはぐれたばかりかカトリーヌとまではぐれてしまい、意気消沈してしまいます。ジャン・ヴァルジャンはふとした事からカトリーヌを見つけ、慌てて川岸を捜すとコゼットが一人でトボトボと歩いているのが目に入ったのです。コゼットもジャン・ヴァルジャンに気がつくと、ジャン・ヴァルジャンの胸の中に飛び込んで泣きました。ジャン・ヴァルジャンは「コゼット、私が悪かった。もう大丈夫だ。決して一人にはしない」と言うのでした。
第16話 パリのゴルボー屋敷
 ジャン・ヴァルジャンはコゼットをシスター・サンプリスに預けるのは断念し、コゼットを連れて馬車でパリに向かいます。そしてパリの町外れにあるゴルボー屋敷でジャン・ヴァルジャンは部屋を借り、ダンベールと名前を偽って新しい生活を始めます。コゼットは藁ではなく自分のふかふかなベッドが与えられ、そして自分の部屋まであった事から大喜びでした。そしてコゼットは自分が水汲みや掃除や洗濯や薪割りだってできるから、ずっとここにいさせてほしいと言いますが、ジャン・ヴァルジャンは「もう働いたりしなくていいんだよ、コゼットはこれから子供がしなくちゃいけない事だけしていればいいんだ。遊ぶ事、そしてこの世の中の色々な事を勉強するんだ」と言うのでした。
 コゼットはお母さんが亡くなったと聞かされていましたが、コゼットはお母さんがパリのどこかにいるような気がしていました。ジャン・ヴァルジャンは銀の燭台を取り出すと「ミリエル司教様、運命の導きの力によってコゼットを育てていく事になりました。私はあの子を幸せにしたい。どうか神のご加護がありますように」と言って祈りを捧げます。
 次の日は朝からいい天気でした。コゼットはお母さんと暮らしていた頃を想い出したかったのでパリの町を早く見たいと言います。しかしジャン・ヴァルジャンは夕方になったら町に出ると言うのです。コゼットはなぜこんないい天気の日に朝から出かけないのかと不思議に思いますが、ジャン・ヴァルジャンはこれからは目立たないようにひっそりと暮らしていかなければならないと言います。コゼットは理由を尋ねますが、ジャン・ヴァルジャンは今はまだ理由は言えない、けれど私を信じてほしいとしか言いません。コゼットはジャン・ヴァルジャンが何か隠し事をしている事には気付いていましたが、ジャン・ヴァルジャンが優しい人だという事は理解していました。ジャン・ヴァルジャンはコゼットにこれから自分の事をお父さんと呼んでほしいと言います。コゼットはびっくりしますが恥ずかしながらもジャン・ヴァルジャンの事をお父さんと呼ぶのでした。
 ゴルボー屋敷で昼間、ジャン・ヴァルジャンはコゼットに勉強を教える事にしました。読み書き、算数、地理、歴史など一度身に付けた知識は誰にも奪う事のできない大切な財産になるのです。コゼットは一生懸命勉強しました。そして夕方になるとジャン・ヴァルジャンとコゼットはパリの町に出かけます。そんな二人の様子を見ていた屋敷の管理人の老婆は、昼間は部屋にこもって夕方になると出て行く親子を不審に思ってしまいます。ジャン・ヴァルジャンとコゼットはパリの町を歩きますが、そこはパリの下町で、浮浪者やお腹を空かせた子供達が町に溢れ、コゼットが記憶していたお花がいっぱいできれいなところとはほど遠い場所でした。ジャン・ヴァルジャンは「パリはとても広いから天国のようにきれいな場所もあればこんなに汚れた場所もある。幸せいっぱいの人もいれば貧しさや飢えに苦しんでいる人もいる」と言います。コゼットはジャン・ヴァルジャンに絵はがきを1枚買ってもらうと、部屋に戻ってジャン・ヴァルジャンに字を教えてもらいながらガヴローシュとシュシュにはがきを書きました。ジャン・ヴァルジャンはこんな穏やかな時間を過ごすのは生まれて初めてだと思わずにはいられませんでした。
 翌日の夕方、二人は今度はリュクサンブール公園まで散歩に出かけます。それはとても大きな公園でコゼットは大喜びでした。そして輪回しをする子供達を見たコゼットは自分もパリにいた頃、輪回しをした事があると記憶を蘇らせます。そしてコゼットは記憶をたどっていくと、このリュクサンブール公園にもお母さんと一緒に来た想い出があったのです。コゼットはお母さんとこの公園に来た時の事を想い出していると、2歳と3歳の時に公園の木にコゼットの身長を示す印を付けたのを想い出しました。コゼットは一生懸命お母さんとの想い出の木を探しました。広い公園の中に木は無数にありましたが、コゼットは見事にその木を探し当てたのです。8歳になるコゼットにとって2歳と3歳の時に付けた身長の印はとても低いところにありました。それを見たコゼットは「お母さん、お母さんは死んだの? もう逢えないのね。どんなに逢いたいと想っても、どんなに待ち続けていても」「でもコゼット、体は死んでしまっても心はコゼットを見ているよ、お母さんはいつもいつもコゼットを幸せにしたいと思っていたんだ」コゼットはお母さんが身に付けていたペンダントをジャン・ヴァルジャンに見せてもらうと、私が持っているわと言ってお母さんの形見をもらうのでした。
 ジャヴェール警部はパリでジャン・ヴァルジャンの行方を探し続けましたが、広いパリの中ではジャン・ヴァルジャンを探す事は難しく、いつまでもモントルイユ・シュル・メールを留守にする事もできないので、パリを去る事にしました。ところがパリ警察のシャブイエからジャヴェールの熱心な仕事ぶりが評価され、パリ警察への転属を持ちかけられたのです。ジャヴェールは喜んでその話を受け、引き継ぎを済ませる為にモントルイユ・シュル・メールに戻ります。一方、屋敷の管理人の老婆はダンベールことジャン・ヴァルジャンが犯罪者ではないかと考え、ジャン・ヴァルジャンが留守の間に合い鍵を使って部屋の中に入り、ジャン・ヴァルジャンの持ち物を調べ始めました。するとジャン・ヴァルジャンのコートには何千フランもの大金が縫い込まれていたのです。老婆はあんな親子がこれだけの大金を持っている事は何か怪しいに違いないと思ってしまうのでした。
第17話 迫り来るジャヴェール
 春になってもコゼットは学校にも行かず、昼間は部屋でジャン・ヴァルジャンと一緒にずっと勉強し、夕方になると散歩に出かける生活を続けていました。管理人の老婆は何とかコゼットからダンベールことジャン・ヴァルジャンの秘密を聞き出そうとしますが、コゼットは管理人の老婆を怖がっており聞き出す事はできませんでした。コゼットは散歩の途中に市場に行くと、花屋の主人からマリーゴールドの種をもらいました。コゼットはこれを庭に植えて花畑を作るのだと大喜びでした。
 ジャン・ヴァルジャンは散歩に出かけて浮浪者を見るといつも施しを与えていました。ところがその浮浪者が似合わぬ金を持っていると言われて警察に捕まったのです。浮浪者はサンメダル教会の近くでいつも施しをくれる気前のいいやつがお金をくれたのだと言いますが、それを聞いたジャヴェールは、その施しをするのがジャン・ヴァルジャンではないかと考えます。そして教会近くの浮浪者に話を聞くと、たった今その男から施しを受けたという浮浪者に出会ったのです。ジャヴェールはその浮浪者を買収し頼み事をするのでした。
 ジャン・ヴァルジャンは昼間にコゼットを誘ってリュクサンブール公園へ遊びに行く事にしました。ジャン・ヴァルジャンは最近警察から追われる事もなくなり、昼間の外出を控えているのも気にしすぎではないかという気がしていたのです。昼間の公園はコゼットと同じくらいの年頃の子供達が輪回しで楽しく遊んでおり、コゼットもその仲間に加わって遊びました。その夜、コゼットは昼間に公園に行かせてくれた事を何度もジャン・ヴァルジャンにお礼を言いました。それほどまでにコゼットには嬉しかったのです。それを聞いたジャン・ヴァルジャンはこれからも時々は昼間の公園へ出かけようと決心します。
 ある日の事、ジャン・ヴァルジャンが一人で散歩し、いつものように教会近くの浮浪者に施しを与えると、その男の顔はジャヴェールそっくりだったのです。ジャン・ヴァルジャンは慌てて逃げるように立ち去りました。ジャン・ヴァルジャンはジャヴェールがパリに来ているのではないかと考えましたが、あの男の事ばかり考えているからそう見えただけだと考え直します。しかしそれは浮浪者に変装したジャヴェールだったのです。ジャヴェールは施しをした男が確かにジャン・ヴァルジャンに似ていたので、住処を突き止めようと男の後を追いかけました。ジャヴェールは男が入っていった屋敷の管理人を呼び出すと、自分も部屋を借りたいと言います。そして2階に住んでいる親子連れの娘の名前を聞くと、管理人は娘の名前がコゼットだと言うのです。ジャヴェールはあの男がジャン・ヴァルジャンに間違いないと確信しました。そして警察署に戻ると部下を連れてジャン・ヴァルジャンの逮捕に向かうのでした。
 何も知らないジャン・ヴァルジャンはその夜、コゼットに本を読ませていました。その頃、屋敷の周りを多くの警察官が取り囲み、いよいよジャヴェールが部屋の中に踏み込もうとしていたのです。ジャヴェールはジャン・ヴァルジャンのいる部屋を確認しに行きますが、気配を感じたジャン・ヴァルジャンが鍵穴から外の様子を見ると、そこにはジャヴェールの姿があったのです。ジャヴェールはすぐには踏み込まず、寝静まってから踏み込む事にしました。ジャン・ヴァルジャンは慌てて逃走の支度をすると、警察の包囲をかいくぐり裏庭から脱出したのです。ジャン・ヴァルジャンとコゼットは夜のパリの町を走って逃げました。しかし警察に見つかり追われてしまいます。コゼットの走りでは足手まといになるので、ジャン・ヴァルジャンはコゼットを抱いて逃げました。しかしジャン・ヴァルジャンは高い塀に囲まれた袋小路に追い込まれてしまったのです。
第18話 忘れていた再会
 ジャヴェールによって路地に追い込まれたジャン・ヴァルジャンとコゼットは高い塀を乗り越えて間一髪でジャヴェールから逃げ切る事ができました。ジャン・ヴァルジャンとコゼットが逃げ込んだ先は墓場のような場所で、なぜこんな場所がパリの真ん中にあるのかジャン・ヴァルジャンには理解できませんでした。ジャン・ヴァルジャンは納屋にコゼットを休ませ、あたりを調べに行くと、一人の男が何やら仕事をしていました。ジャン・ヴァルジャンは男に声をかけ宿を貸してほしいと頼みます。ところがこの男はジャン・ヴァルジャンの事をマドレーヌと呼んだのです。男は荷車が倒れて下敷きになった時にマドレーヌに助けられたフォーシュルヴァンだったのです。フォーシュルヴァンはここがプチ・ピクピュス修道院だと言い、足をケガして仕事ができなくなった自分をマドレーヌがこの修道院の庭師としてここに自分を送り込んだのだと言います。フォーシュルヴァンにとってマドレーヌはまさに命の恩人のような存在でした。
 ジャン・ヴァルジャンはフォーシュルヴァンの助けを借りる事にしました。フォーシュルヴァンは「あなたにご恩返しができるなら、それは神様のお恵みです」と言って喜んでジャン・ヴァルジャンの願いを聞きます。ところがジャン・ヴァルジャンの頼みは、フォーシュルヴァンが自分について知っている事を誰にも言わないでほしいという事と、自分の事をこれ以上聞かないでほしいというものでした。それを聞いてフォーシュルヴァンはびっくりしてしまいます。
 翌日、ジャヴェールはジャン・ヴァルジャンが忽然と消えた袋小路にもう一度やって来ました。すると街灯にかかっているロープがナイフで切られているのに気付きました。ジャン・ヴァルジャンはこの高い塀を乗り越えたに違いない。そう考えたジャヴェールは塀の向こうのプチ・ピクピュス修道院に行って中を調べようとしますが、修道院は男子禁制の為、ジャヴェールといえども中に入る事はできませんでした。
 ジャン・ヴァルジャンはフォーシュルヴァンに「私がここにいると君に大きな迷惑をかける事になるかもしれない、しかし私達は今ここより他に身を寄せる場所がない」と言います。フォーシュルヴァンはマドレーヌに助けられた事を恩に感じており、いつまでもここにいていいと言いますが、その為にはどうしても一度修道院の外に出る必要がありました。つまり今は修道院に忍び込んだ状態なので、一度外に出た後、正式に中に入る必要があったのです。コゼットはフォーシュルヴァンの背負う籠に入ればわけなく出る事はできますが、問題はジャン・ヴァルジャンでした。フォーシュルヴァンは入ってきた場所からもう一度外に出る事はできないかとジャン・ヴァルジャンに言いますが、ジャヴェールはジャン・ヴァルジャンがプチ・ピクピュス修道院に隠れていると信じて疑わず、外は警官だらけでとても外に出る事はできそうにありませんでした。
 そんな時、修道院のシスターの一人が亡くなりました。通常はシスターが亡くなると修道院の外の墓地に埋葬されるのですが、シスターは信仰心が強くて礼拝堂の地下に埋葬される事を望んだのです。しかもそのシスターは棺桶を寝床代わりにしていました。その寝床にしていた棺桶ごとこっそりと礼拝堂の地下に埋葬されることになりました。しかしその事は部外者には秘密だったので、新たに用意してもらった棺桶は中身の入っていないまま外の墓地に埋葬するよう院長からフォーシュルヴァンに依頼があったのです。そこでその空の棺桶にジャン・ヴァルジャンが入って修道院から外に出ることになったのです。
第19話 預けられたコゼット
 ジャヴェールは厳格な修道院の院長がジャン・ヴァルジャンをかくまうはずがないので、いずれはジャン・ヴァルジャンも動き出すはずだからと、プチ・ピクピュス修道院の包囲を固めます。その頃、フォーシュルヴァンの小屋では修道院から抜け出す計画が着々と進んでいました。院長は空の棺桶を担いで墓地に埋葬するつもりでしたが、その中にジャン・ヴァルジャンが入ることになったのです。フォーシュルヴァンは自分も年だから弟とその子供に庭師として雇い、手伝いをさせてほしいと院長に頼んで、渋々認めてもらうことができました。そしてコゼットは一足先にフォーシュルヴァンが籠に入れて外に連れ出し、果物屋のおばあさんに一晩預かってもらう手はずになっていました。しかしそれを聞いたコゼットは、また預けられてひとりぼっちになってしまうと怯え、小屋から逃げ出してしまいます。危険を顧みずにジャン・ヴァルジャンは修道院の中を探し回り、ようやく馬小屋の藁の中に隠れているのを見つけることができました。コゼットは自分が邪魔だからジャン・ヴァルジャンが自分を預けようとしているのだと思い込んでいました。ジャン・ヴァルジャンはここでコゼットと一緒に暮らす為には一度外に出なければならないので、自分が迎えに行くまでフォーシュルヴァンの知り合いの家で待っていてほしいと言いますが、コゼットは信じようとしません。「お母さんもそう言ったわ、お金を貯めて迎えに行くって。テナルディエさんに私を預けて。でもお母さんは…」「コゼット。約束する、お父さんは必ずお前を迎えに行く。信じてくれ」コゼットは渋々、ジャン・ヴァルジャンと別れて預けられる事になりました。
 コゼットはフォーシュルヴァンの担ぐ籠に入れられて、無事にプチ・ピクピュス修道院を抜け出すことに成功しました。そしてフォーシュルヴァンはコゼットを果物屋に預けると、再び修道院に戻りシスターを礼拝堂の地下に埋葬し、そしてジャン・ヴァルジャンの入った別の棺桶の蓋を閉じて釘で打ち付けます。ジャン・ヴァルジャンの入った棺を乗せた馬車は無事にプチ・ピクピュス修道院を抜け出すことができました。フォーシュルヴァンの計画では墓堀のメチエヌじいさんに金を渡して酒でも飲みに行かせて、その間に棺の蓋を開けてジャン・ヴァルジャンを助け出す予定でした。ところがメチエヌじいさんは年で引退し、代わりにグリビエという若い男が来たのです。フォーシュルヴァンは金を渡して酒でも飲みに行かせようと考えますが、あいにくグリビエは酒は一滴も飲まないと言います。フォーシュルヴァンは何とかジャン・ヴァルジャンを助け出そうとしますが、グリビエは酒も飲まない仕事熱心な男だったので、フォーシュルヴァンはどうしてもグリビエを止めることができず、とうとうジャン・ヴァルジャンの入った棺は墓穴に下ろされ、グリビエによって埋められはじめたのです。フォーシュルヴァンは大変な事になってしまったと思わずにはいられませんでした。
 その頃、コゼットは預けられた先の果物屋で、ジャン・ヴァルジャンの迎えを今か今かと待っていました。ジャン・ヴァルジャンはフォーシュルヴァンの計画が狂った事に気付き、コゼットに二度も悲しい思いをさせる事はできないと棺桶からの脱出をはかりますが、釘でしっかりと打ち付けられた棺桶の蓋は怪力のジャン・ヴァルジャンをもってしても開きませんでした。このまま埋められたらジャン・ヴァルジャンが酸欠で死んでしまうと考えたフォーシュルヴァンはグリビエのポケットから証明書を盗むと、グリビエに証明書はあるかと聞きます。グリビエは証明書を探しますがもちろん見つかりません。グリビエはきっと家に忘れてきたのだと考えますが、証明書がないと15フランの罰金だと聞き慌てて家に取りに帰る事にしました。
 グリビエがその場を立ち去るとフォーシュルヴァンは慌てて棺桶を掘り起こし、バールで棺桶の蓋を開けますが、ジャン・ヴァルジャンは棺桶に横たわったまま息をしていませんでした。フォーシュルヴァンはコゼットに何と言っていいのかと思うと泣き出してしまいます。ところがジャン・ヴァルジャンは息を吹き返したのです。フォーシュルヴァンはほっと胸をなで下ろし、二人は棺桶を埋めてしまい、フォーシュルヴァンはグリビエの家に行って証明書を探して探し回っているグリビエに証明書を手渡すと、穴の中に落ちていたと言い、ついでに棺桶はきちんと埋めて、あんたの仕事は俺が全部代わりにやってきたよと言うのでした。
 夜になっても迎えは来ず、コゼットはまたひとりぼっちになってしまったと落胆していました。そこへジャン・ヴァルジャンとフォーシュルヴァンが迎えにやって来たのです。コゼットは約束を守ってくれたジャン・ヴァルジャンに泣きながら飛びついて喜びます。ジャン・ヴァルジャンはもう二度とこの子を手放すものかと誓うのでした。
第20話 修道院の日々
 ジャン・ヴァルジャンとコゼットはフォーシュルヴァンの荷馬車に隠れて再びプチ・ピクピュス修道院に戻ってきました。修道院はジャヴェール率いる警官が周りを取り囲んでいましたが、修道院から出てくる人は警戒しても、中に入る人にはあまり警戒していなかったのです。再び修道院に戻ったジャン・ヴァルジャンとコゼットはフォーシュルヴァンに案内され、かねてよりお願いしていた通り庭師として雇ってほしいと院長の元を訪れました。ジャン・ヴァルジャンはフォーシュルヴァンの弟のユルティーム・フォーシュルヴァンを名乗り、無事庭師と雇われる事になり、コゼットは修道女として明日から女子学校に通う事になったのです。それを聞いたコゼットは大喜びでした。
 翌日コゼットは女子学校に行きますが、学校が終わるとコゼットは注目の的で、みんなから質問攻めにあいます。なぜなら女子学校の生徒達は長く修道院から出た事がないので、外から来たばかりのコゼットに外の様子を教えてほしかったのです。コゼットはフォーシュルヴァンの小屋に行くと、その時の様子をジャン・ヴァルジャンに楽しく伝えました。しかし女子学校に通うようになったコゼットは、今日から寄宿舎で寝泊まりする為、ジャン・ヴァルジャンと逢えるのは夕方の1時間だけで、それ以外は別れて暮らさなければなりませんでした。それでもコゼットは友達に囲まれて初めての学校生活を存分に楽しみます。
 ジャヴェールがプチ・ピクピュス修道院の周囲を警備していると、強盗に出くわしました。彼らはパトロン=ミネットという犯罪者集団で、パリの町で暗躍していました。シャブイエはこれ以上ジャン・ヴァルジャン逮捕の為に人員を割く事はできないと考え、ジャヴェールにジャン・ヴァルジャンの捜索は打ち切り、パトロン=ミネットの捜査に専念するよう命じます。ジャヴェールもジャン・ヴァルジャンが修道院に隠れているとすれば、とっくに見つかっているはずと考えており、既にジャン・ヴァルジャンはどこかに逃げてしまったのだと考え、パトロン=ミネットの捜査に専念する事にしましたが、いつかきっとジャン・ヴァルジャンを自分の手で見つけてやるのだと誓います。
 ある夜の事、コゼットが眠れぬ夜を過ごしていると、どこからかフルートの音が聞こえてきました。翌日、そのフルートの音色は女生徒達の話題となりましたが、昼間でもそのフルートの曲は聞こえてきたのです。その曲は身分違いの男女の実らぬ恋の曲でした。それからもフルートの音色は聞こえてきましたが、塀の外の様子をうかがう事のできない女生徒達にはどんな人物がフルートを吹いているのか想像するしかありませんでした。しかしある時、コゼットは木の上に登れば塀の外の様子が見えるのではないかと考え、木に登って外の様子を伺うと、そこには優しそうなおじいさんがフルートを吹いていたのです。それを見たベアトリスはみんなは王子様が吹いていると期待しているから、おじいさんが吹いている事は話さない方がいいとコゼットに言うのでした。
 フォーシュルヴァンはジャン・ヴァルジャンがこんな修道院の塀の中で閉じ込められて生活するのは監獄の中で生活しているのと同じではないかと心配します。しかしジャン・ヴァルジャンにとって徒刑場の無益な労働とは違い、ここの労働はもっと純粋で高貴なものだと言うのです。ジャン・ヴァルジャンはジャヴェールの手の届かない高い塀の中でようやく手に入れた平穏な生活に、自分が偶然にこの修道院に入り込んだのもすべて神様の思し召しだと考え、ミリエル司教へと感謝の祈りを捧げるのでした。
 それから5年の月日が流れました。ジャン・ヴァルジャンは相変わらず庭師として修道院で働き、コゼットも修道女として修道院の女子学校で学んでいました。そして塀の外の様子を伺うべく、いつものように塀に耳を当てて外の音を聞いていると馬車の音が聞こえてきました。女生徒達は馬車にきっと王子様が乗っているに違いないと期待と想像をふくらませるのでした。
第21話 マリウス・ポンメルシー
 ベアトリスが修道院の女子学校を離れ、貴族である家族の元に戻ることになりました。仲の良かったコゼットを始めオドレイシャルロットはベアトリスを見送り、別れを悲しみました。そんなベアトリスを見ていたコゼットは、いつか自分もベアトリスのように外の世界に出る日が来るのだろうかと想いをはせるのでした。
 一方、裕福な貴族であるジルノルマン家にマリウスが戻ると、マリウスの父であるポンメルシーが危篤だと祖父のジルノルマンから聞かされます。ジルノルマンはポンメルシーの事を自分の娘をたぶらかし、祖国を裏切った悪人と思い込んでおり、小さい時から祖父によってそう聞かされていたマリウスも自分の父の事を恨んでいました。しかし実の父が危篤とあっては行かないわけにもいかず、すぐにベルノンへ行くようジルノルマンはマリウスに言いますが、マリウスは行く気などありませんでした。マリウスは子供の頃、ポンメルシーに何度も手紙を書きましたが一度として返事を返した事もなく、それ以来、マリウスは自分には父親はいないと決めて生きてきたのです。それを聞いたマリウスの叔母はマリウスにポンメルシーのところに行くよう説得し住所を書いた紙を渡します。マリウスにはその気はありませんでしたが、一晩考えた末、ベルノンの父親の元に向かう事にしました。
 住所を頼りにマリウスか向かうと、そこは小さな一軒の家でした。そしてそこでポンメルシーの友人であるマブーフからポンメルシーが今朝方早くに亡くなった事を知らされます。ところがマリウスが父の息子だと名乗ると、マブーフは驚きました。亡くなったポンメルシーはいつも息子マリウスの事を気にかけ、逢いたがっていたのです。集まっていた人々はポンメルシーが息子と会えた事で安らかに天に召されるだろうと口々に言うのでした。
 マリウスは帰り際、マブーフから手紙を渡されました。それはポンメルシーが生前自分宛に書いた遺書だったのです。マリウスが遺書を読むと遺書には次のように書かれていました。「我が子へ、ナポレオン皇帝はワーテルローの戦いで私を男爵とした。血を流したこの称号も王政復古で否認されたが、私は息子にこれを譲り渡しお前がそれに値する事は言うまでもない。なぜなら私はお前を愛し誇りに思い、我が名を継承するにふさわしいと信じているから」これを読んだマリウスはジルノルマンから聞いていた話と少し違うと感じ、図書館でナポレオンの資料を調べます。そんなマリウスを見ていた同級生のクールフェラックは声をかけました。クールフェラックはマリウスがナポレオン以前の貴族の味方だと思っていましたが、マリウスはナポレオンについて書かれた本を読んでいたのです。マリウスは自分の父がナポレオンの旗の下、ワーテルローの戦いで手柄をあげたが、その父の悪口を祖父から散々聞かされていたのです。初めて見る父の暮らしは質素で慎ましく、集まった人々も決して裕福ではなかったが、心優しく善良そうな人々に見えました。それはマリウスが祖父から聞かされていた父のイメージとは大きく異なるものでした。それ以来、自分は父の事を誤解していたのではないかと考え、ナポレオンの事を調べていたのです。
 ある時、オドレイはコゼットに将来何になるかを尋ねます。コゼットは将来の事は何も考えていませんでした。ところがオドレイは将来シスターになってたくさんの人の心を救う手助けがしたいと言うのです。そんなオドレイの将来の夢を聞いてコゼットは感心してしまいます。ジャン・ヴァルジャンやフォーシュルヴァンもすっかり年を取り、庭仕事も大変になっていました。フォーシュルヴァンはコゼットの将来の為にジャン・ヴァルジャンがここを出る事になっても、自分に遠慮する事はないと言うのでした。
 マリウスが教会へ行くとマブーフが声をかけてきました。マブーフはポンメルシーの古くからの友人で、ポンメルシーの過去を詳しく知っていました。マリウスがまだ幼かった頃、ポンメルシーはジルノルマンからマリウスに逢う事を禁じられていた。もし逢ったらマリウスには財産を継がせないと言われていたのです。ポンメルシーはミサの時に教会で遠くからマリウスを眺める事しかできず、いつも涙を流していました。しかし貧しい自分と暮らすよりもジルノルマン家で暮らす方がマリウスの為になると考え、マリウスに手紙を書く事だけを楽しみに暮らしていたのです。
 それを聞いたマリウスは家に戻るとジルノルマンを問い詰めました。父と逢わせないようにしたのも、父からの手紙を捨てたのもジルノルマンの仕組んだ事だと知ると、今までジルノルマンの言葉を信じて父を軽蔑していたのが間違いだった事に気付いたのです。ジルノルマンはポンメルシーに同情して死に際にでも息子に逢わせようとした事は間違いだったと言ってポンメルシーを罵りますが、マリウスは父を侮辱する事は許さず、二人は仲違いしたままマリウスはジルノルマン家を飛び出してしまいます。そしてマリウスはポンメルシーの書いた遺書の最後に書かれていた、「ワーテルローの戦いで一人の軍曹が私の命を救ってくれた。名前はテナルディエ。もしも彼にあったらできる限りの好意を示してほしい」との言葉に、自分にできるせめてもの償いは、このテナルディエという人に恩返しをする事だと考えます。その頃、ワーテルロー亭ではテナルディエとおかみが借金取りから逃れる為、夜中に荷物をまとめると夜逃げしていたのでした。
第22話 それぞれの旅立ち
 翌日、ガヴローシュとシュシュがワーテルロー亭に行くと、そこはもぬけの殻で廃墟と化していました。そこへ借金取りがやって来たのです。借金取りはテナルディエの息子から父親の借金を取り立てようと考え、鍛冶屋に行きますが、鍛冶屋の旦那はガヴローシュはテナルディエが連れて行ったと嘘を言い、どうにかガヴローシュは難を逃れます。しかしガヴローシュもいつまでも鍛冶屋に隠れている事はできない為、モンフェルメイユ村を出てパリへ向かう事にしました。鍛冶屋の旦那に別れを告げパリに向かうガヴローシュとシュシュ。ガヴローシュにとって5年も前にコゼットから届いたパリの絵はがきだけが頼りでした。
 マリウスとクールフェラックはパリの町で偶然にも再会しました。マリウスは父の遺言書に書いてあったテナルディエに恩返しする為、2ヶ月ほど旅をしていたのです。マリウスはある商人からモンフェルメイユ村のワーテルロー亭の旦那がワーテルローの戦いで将軍を助けたと豪語しており、その旦那の名前もテナルディエというような名前だったと聞き、早速にもモンフェルメイユ村に向かいましたが、既に夜逃げした後でした。マリウスは夜逃げしなければならないほど生活に困っているなら、何としても父の為にテナルディエを救いたいと思わずにはいられませんでした。
 テナルディエの手掛かりが途絶えたマリウスはパリに帰ってきましたが、ジルノルマンの家を飛び出していたので帰る場所もなく、馬車の中で1週間も暮らしていました。それを聞いたクールフェラックは自分のアパートの隣の部屋が空いているから来ないかと持ちかけ、マリウスは喜んでそれに応じ、マリウスはそこで暮らす事になりました。
 マリウスが久しぶりのパリを散策しているとマブーフに出会いました。マリウスはパリの町が貧しい人で溢れているのを目にすると、マブーフはパリの町は景気が悪くなっており、貧しい人はこれからもっと増えると言います。マブーフはマリウスを自分の家に食事に誘いました。具のないスープとパンのみの食事。マリウスにとってそれは貧しい食事でしたが、マブーフはポンメルシーもよくこの家に来て同じ場所に座って食事していたと聞き、なぜだか感慨深くなってしまいます。
 ジルノルマンは孫のマリウスが家を飛び出したものの、そろそろお金が尽きてくる頃だと考え、叔母に様子を見に行かせる事にしました。マリウスはクールフェラックにアパートを紹介してもらったものの予想以上に家賃が高く、そろそろお金が尽きてきており困っていました。そこへ叔母がやってきたのです。叔母はマリウスにジルノルマンが心配しているからと言って戻るように言いますが、もちろんマリウスは戻ろうとはしません。そこで叔母はせめてお金だけでも受け取ってもらおうとしますが、マリウスはおじいさんからのお金は絶対に受け取らないと言って頑なに拒否してしまいます。そしてもう家に戻るつもりはないから、学校を卒業したら弁護士になって自分の力で生きていくと言うのでした。
 プチ・ピクピュス修道院ではオドレイがシスターになりました。それを知ったフォーシュルヴァンは「シスターになる事がここにいる子達のすべての幸せになるかどうか、コゼットはどう思っているんでしょうかね」と言います。それはジャン・ヴァルジャンにもわかりませんでした。ジャン・ヴァルジャンは銀の燭台にロウソクを灯すと「ミリエル司教様、私はここにいさえすればこの上なく平穏な暮らしができます。でもそれが果たしてコゼットにとって同じなのでしょうか」と尋ねるのでした。
 数ヶ月後、フォーシュルヴァンは老衰で亡くなりました。ジャン・ヴァルジャンは、あの日フォーシュルヴァンに出会わなければどうなっていたかと思うと感謝してもしきれませんでした。その夜、ジャン・ヴァルジャンはコゼットにいよいよここを出る時が来たと告げます。そしてジャン・ヴァルジャンは院長の許しを得て、6年間も過ごしたプチ・ピクピュス修道院をいよいよ去る事になったのです。オドレイとシャルロットに見送られコゼットは新たな旅立ちを迎えました。ジャン・ヴァルジャンはジャヴェールがおそらく今も自分を探しているに違いないと考えていました。しかしコゼットの為にもただ今は前に向かって歩いていこうと決心するのでした。
第23話 パリの空の下で
 塀の中からパリの町に出たジャン・ヴァルジャンとコゼットは馬車で新しいアパートに向かいます。6年ぶりに見る外の世界は新鮮で、コゼットは人の多さにびっくりしてしまいます。しかし6年前に比べて貧しい人の数が増えており、コゼットもジャン・ヴァルジャンも心を痛めるのでした。ジャン・ヴァルジャンは今度こそパリの町に腰を落ち着けて暮らそうと考え、アパートの4階に立派な部屋を借りており、コゼットはあまりの立派さに大喜びです。そればかりではなく、ジャン・ヴァルジャンは二人の身の回りの世話をしてもらえるようトゥーサンという名の女中まで雇っていたのです。コゼットは自分の部屋に案内されますが、それはコゼットが見た事もないほどきれいな部屋で、窓から見える景色もすばらしい眺めで、コゼットはうっとりとしてしまいます。
 コゼットには修道院の中にいた頃からずっと行きたかった場所がありました。コゼットはジャン・ヴァルジャンの了解を得ると、早速リュクサンブール公園のお母さんが印を付けた木を見に行きました。6年前に見た時にも低いところに印があると思っていましたが、今見るともっと低く思えたのです。コゼットは修道院の中でもよくお母さんの事を考えていました。コゼットは言いました。「なかなかお母さんが迎えに来てくれなくて悲しかったけど、きっとお母さんはもっと悲しくて辛かったんだろうなって。私をワーテルロー亭に預けた時も、お金がなくて迎えに行けず、それでもいつかきっとと思って必死に働いていた時も、病気になってしまった時も…」「ファンティーヌはいつもどんな時もコゼットの事を考えていた。自分の事よりも大切に。なのに私はコゼットと暮らしたいというファンティーヌの願いをとうとう叶えてあげられなかった」「お母さんがいつもあの空の上から自分を見ていて、いつも守ってくれている」「ファンティーヌ、約束は決して忘れない」と言うのでした。
 マリウスはお金が残り少なくなってしまい、部屋代を用意する為、手持ちの品を売りますが幾らにもなりませんでした。いよいよお金がなくなってしまい、とうとう部屋代が払えなくなってしまいました。マリウスは翻訳の仕事も見つけていましたが、弁護士の勉強もしたかったので仕事ばかりもしていられません。そこでマリウスはクールフェラックに相談し、もっと安い部屋を紹介してもらう事にしました。クールフェラックはゴルボー屋敷を紹介し現地まで足を運びますが、ゴルボー屋敷はジャン・ヴァルジャンが暮らしていた頃に比べてもあばらや同然に荒れ果てており、とても人が住めるようには思えませんでした。しかも管理人のプーゴンは、このゴルボー屋敷がろくでもないゴロツキの溜まり場だからマリウスのような金持ちの住む場所ではないと言いますが月2フランという格安の家賃に目がくらんだマリウスは、このゴルボー屋敷に暮らす事に決め、クールフェラックとプーゴンを驚かせるのでした。
 その日からマリウスはゴルボー屋敷で暮らし始めました。しかし暖炉もない部屋は寒く凍えます。マリウスは窓から夜空を見上げると「お父さん、僕は自分の力だけで生きていきます。そしていつか必ずお父さんの命の恩人を捜し出してお父さんの代わりに恩返しをします」と誓うのでした。
 翌日、マリウスが井戸で水汲みをしていると、その様子を陰から見守る人物がいました。それはテナルディエの娘のエポニーヌでした。そうです、このゴルボー屋敷には夜逃げしてすっかり落ちぶれたテナルディエ一家が住み着いていたのです。汚くみずぼらしい服を着たエポニーヌは身なりのしっかりとしたマリウスに憧れを感じますが、プーゴンに住む世界が違うとまで言われすっかり落ち込んでしまいます。テナルディエは相変わらず悪事を続けて金儲けをしていましたが、その悪事を強制されるエポニーヌはもう嫌気がさしていました。
 コゼットは市場に出かけた時トゥーサンからノートルダム寺院の塔は上まで登る事ができると聞いて、コゼットはぜひとも上からの景色を見てみたいと思い、ジャン・ヴァルジャンにお願いします。ノートルダム寺院の塔は上まで上れる階段が続いており、コゼットは息が切れながらもどうにか上まで登る事ができました。その塔の上から見る景色はすばらしく、まるで鳩になって空を飛んでいるような気分でした。コゼットはこの広いパリで自分はこれからどんな人と出会うのだろうと思うのでした。その時、運命のいたずらのようにテナルディエ一家やガヴローシュとシュシュ、そしてマリウスがパリに集まっていたのです。
第24話 リュクサンブールの出会い
 ジャン・ヴァルジャンとコゼットは貧しい子供達の為に教会でパンを配ります。コゼットは王様が変わってパリの人々の暮らしは前より悪くなったと感じていました。コゼットはワーテルロー亭での辛かった時代の事を想い出すと、飢えた貧しい人々を助ける事はできないものかと考えますが、今のままパンを配り続けるだけでは飢えた人が減る事はないだろうとジャン・ヴァルジャンは言います。それでもジャン・ヴァルジャンは自分達がパンを配り続ければ、彼らは盗みをせずに済むと考えていました。
 クールフェラックはマリウスに声をかけると、革命に入学させると言って酒場に連れて行きました。そこでは大学の学生達が集まって活発に議論していました。そこはアベセ友の会という共和派の集まりで、市民が平和で平等に暮らせる世界を目指していたのです。マリウスはアベセ友の会の中心的存在であるコンブフェールを紹介され、マリウスはメンバーのみんなに紹介されました。フランス大革命で国王を王座から引きずり下ろした時、人々はみんな幸せになるはずでした。次に現れたナポレオンはフランスを率いてヨーロッパを征服しフランスの輝かしい栄光を全世界に轟かせたが、ナポレオンは市民を幸せにする事はできなかった。このアベセ友の会は国王も皇帝も必要とせず王政に反対する組織だとアンジョルラスに説明されます。それを聞いたマリウスは複雑な心境でした。王党派の祖父の意見を捨て、父の家を継いで帝政派を支持した時、自分の立場は決まったと思っていました。しかしマリウスは自分が今どこに向かおうとしているのかわからなくなっていたのです。
 マリウスが悩みながらリュクサンブール公園を歩いている時、金髪のとてもきれいな少女を見ました。マリウスは一目惚れしてしまいますが、それはジャン・ヴァルジャンと一緒に公園に来ていたコゼットだったのです。一目惚れしたのはマリウスだけでなく、コゼットも同様でした。コゼットは翌日から恋煩いで食事も喉を通らなくなってしまいます。マリウスは服をほとんど売ってしまった為、唯一のよそ行きの服を着てコゼットに逢いに散歩に出かけました。マリウスはコゼットにプレゼントしようとゴルボー屋敷の庭に咲くマリーゴールドの花を摘みますが、その花は6年前にコゼット自身が植えた花だという事は知るよしもありませんでした。
 マリウスは昨日コゼットを見かけたリュクサンブール公園に行きますが、コゼットの姿は見あたりません。マリウスは昨日コゼットが座っていたベンチにマリーゴールドの花を置き、帰りかけたその時にコゼットとジャン・ヴァルジャンがやって来たのです。マリウスはしばらく木の陰に隠れてコゼットの様子を見守りました。一方コゼットはベンチにマリーゴールドが置かれているのに気付き手に取ります。コゼットはマリーゴールドを見ると6年前に自分がゴルボー屋敷の庭にマリーゴールドを植えた事を想い出していました。マリウスは勇気を振り絞ってコゼットに声をかけようとしますが、なかなか声をかける事ができません。コゼットもマリウスが声をかけてくれる事を心待ちにしていましたが、結局マリウスは声をかける事のないまま立ち去ってしまうのでした。
 その日の夕食もコゼットは食欲がなく食べませんでした。しかしそんなコゼットを見ていたトゥーサンはコゼットが恋煩いだと気付き、心配するジャン・ヴァルジャンに「お嬢様はお年頃なんですよ」と言います。そして翌日もマリウスは公園に行きコゼットの隣のベンチに座りますが、声をかける事はできませんでした。そんなマリウスの様子を見ていたクールフェラックはマリウスに声をかけました。クールフェラックは再びマリウスをアベセ友の会に誘いに来たのです。
第25話 届かぬ想い
 ジャン・ヴァルジャンとコゼットがいつものようにリュクサンブール公園に向かう途中、コゼットは若くて華やかなドレスを着飾ったきれいな女の人を見ると「あんな衣装を着たらどんな気分かしら」とたいそう羨ましがります。しかしジャン・ヴァルジャンは「お前は今のままだって十分美しいよ、それにそのドレスだってとってもよく似合っている」と言います。
 マリウスは今日こそコゼットに声をかけようとしますが、コゼットはマリウスが自分よりももっときれいで華やかなドレスを着たお嬢さんの方がお似合いだと考え、自分に引け目を感じてマリウスの視線を避けてしまいます。コゼットは地味な服を着てお化粧のやり方だって知らないし、こんな自分をマリウスはどう思っていたのかと考えていたのです。それでもマリウスは勇気を振り絞ってコゼットに声をかけようとしますが、コゼットは公園に来たばかりだというのにマリウスを避けるように帰ってしまうのでした。
 マリウスはがっくりと肩を落とし溜息をつきながらゴルボー屋敷に戻ります。そんなマリウスを陰からこっそりと隠れて見ていたエポニーヌは、マリウスが出かける時には花を摘んで喜んで出かけていったのに、落ち込んで戻ってきた事が気になっていました。エポニーヌはマリウスに恋していましたが、マリウスをこれほどまでに落ち込ませるのはどんな女の人なのだろうと思わずにはいられませんでした。
 今夜もコゼットはほとんど食べずに先にベッドに入りました。熱でもあるのではないかとトゥーサンは心配でした。ジャン・ヴァルジャンはコゼットが着飾った若い娘を見た時、たいそう羨ましがっていたのを思い出し、トゥーサンにその事を話しますが、その時コゼットに「コゼットは十分美しいし着飾る必要などない」と言ったと聞かされたトゥーサンは大きな溜息をつくと「何にもわかってらっしゃらない。いいですか旦那様、母親がいれば年頃の娘にはそれなりのおしゃれをさせるものです。コゼット様もそういうお年頃になられたんですよ。旦那様がそんな事ではコゼット様もおかわいそうです」と言いいます。ジャン・ヴァルジャンはこれまでそんな事を考えもしませんでしたが、トゥーサンから聞かされると「そうか、そういうものか」と言って納得するのでした。
 翌日、一人で町に出たジャン・ヴァルジャンは服屋に足を向けますが、コゼットには派手すぎるドレスばかりでした。そして若い娘の持つような日傘を買い求めようとしますが、ジャン・ヴァルジャンにはコゼットがどんな色が好きなのかもわからず困ってしまい、店頭に展示していた日傘を買い求めます。その帰り、パリに来ていたガヴローシュが盗みを働き警官に追われているところに出くわしました。ジャン・ヴァルジャンも警官から隠れますが、その追いかけていた警官は忘れもしないジャヴェールだったのです。
 コゼットはジャン・ヴァルジャンが黙って出かけていったので心配していました。ジャン・ヴァルジャンが戻ってくるとコゼットは日傘をプレゼントされ大喜びです。そして少し自信を取り戻したコゼットはこの日傘を差してリュクサンブール公園に行こうと決心します。その頃マリウスもリュクサンブール公園に向かっていました。マリウスはもう自分が嫌われたと思い込んでいましたが、それでも公園に足が向かってしまったのです。そんなマリウスをエポニーヌが自己嫌悪に苦しみながらも隠れてこっそりと後をつけていました。再びコゼットとマリウスはリュクサンブール公園で出会いました。日傘をプレゼントされ自信を取り戻していたコゼットはマリウスと目が合うと微笑みかけたのです。マリウスは嫌われたと思っていたのが自分の思い過ごしだとわかり、天にも昇る思いでした。マリウスの視線に気付いたジャン・ヴァルジャンはマリウスが警察の回し者ではないかと考えコゼットを連れてその場を立ち去りますが、ベンチにはハンカチが忘れられていました。そのハンカチにはU・Fとイニシャルが刺繍されていた事からマリウスはコゼットの名前をユルシュールに違いないと思いますが、それはユルティーム・フォーシュルヴァンの偽名を使うジャン・ヴァルジャンの落としたハンカチでした。
 一方、そんなマリウスの様子を陰からこっそり見ていたエポニーヌは叶わぬ恋を知り、泣きながらゴルボー屋敷に戻ります。ところがその途中でテナルディエに呼び止められました。テナルディエは悪事の下調べとして、これから忍び込む家の鍵が壊れた窓や排気口、使用人の数などを調べてくるようエポニーヌに命じたのです。エポニーヌはこれ以上悪事に手を染める事は嫌でしたが、仕事もなくこんな貧乏な生活をしていては、これしか生きていく道はなかったのです。エポニーヌはこんな自分がマリウスと釣り合うはずがないと考えると、思わず泣き出してしまうのでした。
 マリウスはジャン・ヴァルジャンとコゼットの後を尾行し、とうとう家を突き止めました。そしてアパートの管理人から二人の様子を聞き出したのです。しかし不審に思ったその管理人はその事をジャン・ヴァルジャンに報告します。ジャン・ヴァルジャンは自分の事を調べていた男が公園で自分達を見ていた男で、それはジャヴェールが雇って自分達の事を調べているのではないかと考えたのです。
 翌日、マリウスはいつものようにリュクサンブール公園に行きコゼットを待っていました。ハンカチを返して今日こそはコゼットと言葉を交わしたかったのです。しかしいつまで待ってもコゼットは来ませんでした。その頃、ジャン・ヴァルジャンとコゼットは荷物をまとめるとアパートを引き払い、別の場所へ引っ越していたのです。何も知らないマリウスはコゼットが病気になったのではないかと心配しコゼットの住むアパートへ行きますが、既にアパートには誰もおらず引っ越した後でした。マリウスは自分がコゼットの後をつけたから父親が娘を守ろうとして引っ越したのだと考え、自分が何と愚かな事をしたのだと後悔するのでした。
第26話 パリのすれちがい
 ブリュメ通りの古い一軒家に引っ越したジャン・ヴァルジャンとコゼットは家を掃除したり庭の手入れをして過ごしました。コゼットはリュクサンブール公園に行きたいと言いますが、ジャヴェールに嗅ぎつけられたのではないかと疑うジャン・ヴァルジャンは引っ越しして遠くなったからと理由をつけてリュクサンブール公園に行こうとはしません。それを聞いてコゼットはがっかりとしてしまいます。
 その夜コゼットはなぜ急に引っ越す事になったのか考えていました。そして6年前にも急に引っ越した事を想い出していました。その時はジャン・ヴァルジャンは警察に追われて逃げ回っていたのです。フォーシュルヴァンという名前も本当の名前ではありません。コゼットはジャン・ヴァルジャンが何か悪い事をしたから本当の名前を隠しているのではないかと考えますが、ジャン・ヴァルジャンが悪い人でない事はわかっているのだし、これからも信じていようと思いました。そして夜の庭に出たコゼットは庭にマリーゴールドが咲いているのを見て、マリウスの事を想い出すのでした。
 翌日もマリウスはコゼットを求めてリュクサンブール公園へ行きますが、もちろんコゼットは来ません。そこへクールフェラックがやって来ました。クールフェラックはアベセ友の会の集会へ誘います。失恋で苦しむマリウスに必要なのは新しい目的を見つけ、新しい仲間と過ごす時間が必要だと説得します。再びアベセ友の会へ参加したマリウスはそこで楽しい時を過ごしました。機嫌を直してゴルボー屋敷に戻ったマリウスはもうリュクサンブール公園に行くのは止めようと考えますが、もしかしたらコゼットも来ているかもしれないと思うと、いても立ってもいられなくなり、どうしていいのかわからなくなってしまいます。その時マリウスはゴルボー屋敷の庭にひっそりと一株だけ仲間から離れて育っているマリーゴールドの蕾を見つけました。それを見たマリウスはこのマリーゴールドがまるで自分のようだと感じ、このマリーゴールドが咲いたその日に、あと一回だけリュクサンブール公園に行こうと決心するのでした。
 今日も食欲のないコゼットを見たジャン・ヴァルジャンはコゼットを散歩に誘いますが、リュクサンブール公園ではなくメールの城門に行くと聞かされがっかりしてしまいます。川岸の野原で休んでいた二人は馬車の集団を見ました。それは徒刑場へ連れて行かれる徒刑囚でした。コゼットは徒刑場がどんなところかを尋ねますが、ジャン・ヴァルジャンは辛く苦しかった徒刑場での生活を想い出していました。ジャン・ヴァルジャンは今度捕まれば終身刑は確実だったので絶対に捕まるわけにはいかないと決意を新たにします。
 その帰り道、コゼットはゴルボー屋敷の近くを通りかかった事から、6年前ゴルボー屋敷に自分が植えたマリーゴールドがどうなったかを見に行く事にしました。コゼットがゴルボー屋敷に行くとマリーゴールドが一輪だけ咲いていました。コゼットが花壇を立ち去った直後、マリウスは外出するついでに花壇に立ち寄ると、蕾だったマリーゴールドは見事に咲いていたのです。マリウスは明日こそリュクサンブール公園に行こうと決心するのでした。
 翌日、マリウスは咲いた一輪のマリーゴールドを摘むとリュクサンブール公園へ向かいました。マリウスは今日コゼットに逢えなければ、もう二度とリュクサンブール公園には行かない決心を秘めて。その頃コゼットは自宅で庭の手入れを手伝っていました。コゼットはどうしてもリュクサンブール公園へ行きたくて仕方がありませんでした。その頃、ガヴローシュはパンを盗んで警察から追われていた幼い子供を助けます。そして幼い子供にパンが欲しければ教会に行くとパンをもらえると教えます。ガヴローシュは教会の前でパンを配っているのは知っていましたが、自分はパンをもらおうとしませんでした。しかしそのパンを配っている人がジャン・ヴァルジャンとコゼットだったのです。
 トゥーサンは買い物からの帰り、リュクサンブール公園を通りました。するとそこにはマリーゴールドを一輪手にした素敵な青年が座っていたのです。マリーゴールドはコゼットの好きな花でもありました。トゥーサンはこの人がコゼットの好きな人ではないかと直感し、トゥーサンは家に帰った後、その事をコゼットに話したのです。それを聞いたコゼットはいても立ってもいられなくなり、家を飛び出すと一人でリュクサンブール公園に向かって走りました。その頃、リュクサンブール公園ではマリウスがひたすらコゼットの来るのを待ち続けていましたが、そんな女々しいマリウスを見ていたクールフェラックたちアベセ友の会のメンバーが酒に誘い出し、コゼットがリュクサンブール公園いつものベンチに着いた時には既にマリウスの姿はありませんでした。そしてマリウスはコゼットと二度逢えないのだと考え、もう忘れようと決心するのでした。
第27話 飛び出した女の子
 ジャン・ヴァルジャンはコゼットとトゥーサンと一緒に教会に礼拝に行った帰り、神父様から呼び止められました。ジャン・ヴァルジャンは貧しい子供達の為に学校を作る事を計画しており、その事で相談があったのです。コゼットとトゥーサンは教会の中で待ちますが、教会の中には女の人が青ざめて苦しんでおり、コゼットは女性を屋敷まで連れて帰りました。ロザリーヌという名前の女性はひどい過労と栄養失調で倒れてしまったのです。ロザリーヌにはそうしなければならない訳がありました。なぜならロザリーヌはまだ小さい娘ポーレットを知り合いのパン屋に預けて遠くのマルセイユの町に働きに出ていました。ところが一年ぶりに娘を迎えに行くと、娘はパン屋を飛び出して、どこに行ったかわからなくなっていたのです。ロザリーヌはあちこちポーレットを探しましたが、どうしても見つからず神様にお願いしていたところをコゼットに助けられたのです。それを聞いたコゼットはまるで自分の事のように感じてしまい、「大丈夫です、私が探します。お嬢さんを見つけてお母さんに逢わせてあげる」と言います。ロザリーヌは初めて会ったばかりの自分に対して、どうしてそんなに親切にしてくれるのかと尋ねると、ジャン・ヴァルジャンは「あなたが困っていたりするから、ただそれだけです」と答えるのでした。
 コゼットは運命を感じていました。それはロザリーヌとポーレットがまるで自分とお母さんのように思えてならなかったのです。コゼットはジャン・ヴァルジャンと一緒にポーレットを預けていたパン屋に行きますが、パン屋の主人は10日ほど前に黙って出て行ったと言うだけで、それ以上コゼットを相手にしようとはしません。そればかりかせっかく預かってやったのに黙って出て行くとんでもない罰当たりと言い出す始末で、とてもポーレットをかわいがっていたとは思えませんでした。ジャン・ヴァルジャンは6歳の子供が遠くに行くとは思えないのでまだパリの町にいると考え、教会の牧師様にお願いして探すのを手伝ってもらう事にしました。
 ロザリーヌはポーレットに3ヶ月で迎えに行くと約束したのに約束を守らなかったので、自分の事を怒ってパン屋を飛び出したのではないかと考えていました。しかしそれを聞いたコゼットはロザリーヌに自分の身の上を話し「何年も何年もお母さんを待っていたけど、でも嫌いになんかならなかった、お母さんの事ずっとずっと大好きだった。今もとっても逢いたがっていますよ」と言うのでした。
 その頃、アベセ友の会に出入りするようになっていたマリウスは、いまだにコゼットの事が忘れられないでいました。そんなマリウスを慰めようとグランテールは自分の彼女のミレーヌに声をかけ、アベセ友の会のメンバーとミレーヌの友達を誘ってブローニュの森にピクニックに行く事にしたのです。そんな事は聞いていなかったアベセ友の会のメンバーはは翌日集まると、美しい若い娘がたくさんいたのでメンバーもびっくりしてしまいます。ところがピクニックに用意していたお昼のパンを幼い少年に盗まれてしまったのです。アベセ友の会のメンバーはすぐに追いかけて少年を捕まえますが、腹を空かせた少年にパンとリンゴを与えると解放してやりました。しかし少年がお母さんと何かあったのではないかと心配したマリウスは再び少年を追いかけるのでした。
 その頃ジャン・ヴァルジャンとコゼットは教会へ行きますがポーレットはまだ見つかっていませんでした。その時、パン屋の奥さんが教会にやってきてポーレットの事を話してくれたのです。それはポーレットが飛び出す前の日に旦那が手紙もよこさないロザリーヌの悪口を言った為に、それを聞いたポーレットがお母さんを捜して飛び出したのではないかというものでした。そしてポーレットは男の子の服を着て髪も短かったので男の子にしか見えないとも聞かされます。
 マリウスが探している少年は路地裏に隠れていました。するとガヴローシュから声をかけられたのです。少年はすぐに走って逃げ、ガヴローシュは少年を追いかけますが、追いかけるガヴローシュは突然腕を捕まれました。それは父親のテナルディエだったのです。テナルディエは犯罪組織パトロン=ミネットに加わり、これからでかい仕事をするからガヴローシュにも加わるように命じますが、ガヴローシュは自分で生きていくと言ってシュシュと一緒に立ち去ってしまいます。
 アベセ友の会のメンバーは少年を捜しましたがどうしても見つかりません。あきらめてクールフェラックとレーグルが教会に向かうと、そこではコゼットがその少年の似顔絵を頼りに人捜しをしていたのです。その似顔絵を見た二人はすぐに気付きました。一方、マリウスはようやく少年を見つけました。ところがその幼い子供は少年ではなく少女でした。マリウスは少女にお母さんの事を聞きますが、お母さんは自分を捨てたと言うのです。少女は自分がお母さんに捨てられた事が耐えられず、自分からお母さんを捨てようと家を飛び出したのです。それを聞いたマリウスは一緒にお母さんを捜してあげようと言いますが、そこへクールフェラックとレーグルが駆けつけました。そしてお母さんが君の事を探していると言うのです。クールフェラックとレーグルはポーレットを連れて教会へ行こうとしますが、マリウスは翻訳の仕事があるからと言って行こうとしません。レーグルは教会にはマリウスの好きなユルシュールと同じ金髪をしたすごくかわいいお嬢さんがいると言いますが、マリウスは「僕にとっては永遠にユルシュールだけなんだよ」と言って辞退してしまいます。
 ロザリーヌとポーレットは無事に1年ぶりの再会を果たしました。それを見ていたコゼットも自分の事のように涙しました。そしてジャン・ヴァルジャンはトゥーサンに「この世の中にはたくさんのコゼットとファンティーヌ、ポーレットとロザリーヌがいる。私はねトゥーサン、そういう悲しい思いをする親子を少しでも減らしたいんだよ」と言うのでした。
第28話 拾われた手紙
 今日もマリウスは部屋でコゼットの事を考えていました。お腹が空いたマリウスは食べ物を買いに行こうと外に出ますが、ゴルボー屋敷の近くの道で4通の手紙を拾います。マリウスは誰か落とした人はいないかと探しましたが、あいにく誰もいません。仕方なくマリウスは手紙をポケットに入れて買い物に行ってしまいます。その直後、エポニーヌとアゼルマがやって来ました。アゼルマはテナルディエが書いたお金を無心する偽の手紙を落としてしまい慌てて探しに来たのですが、あいにく手紙は見つかりませんでした。
 買い物から帰ってきたマリウスは4通の手紙を見ました。手紙は4通とも宛先は違いましたが、なぜか不思議な事に筆跡は同じなのに差出人まで違っていたのです。手紙の中身はお金を無心する内容でした。一方隣のテナルディエの部屋ではエポニーヌとアゼルマが手紙を落とした事でテナルディエから厳しく怒られていました。テナルディエは隣の学生が頼みもしないのに半年分の家賃を代わりに払ってくれた事から、隣の学生はきっと羽振りがいいに違いないと考え、テナルディエは隣の学生に金を無心する手紙を書きエポニーヌに渡してくるよう命じますが、エポニーヌは拒否します。エポニーヌにとって隣に住む学生は自分の憧れの人であり、そんな人からお金を無心する事などとてもできない事でした。
 しかし翌日、エポニーヌは無理矢理やり隣の学生の部屋に行かさせられます。ところがその手紙を見たマリウスはこの手紙と昨日拾った4通の手紙の筆跡と内容が同じ事に気付き、隣の家族は偽名で書いた手紙を資産家に送って生活費を得ていた事を知ります。マリウスは4通の手紙をエポニーヌに返しますが、手紙は雨に濡れて字が滲んでいましたが、毎週教会のミサに来る金持ちのおじさん宛の手紙だけは無事でした。これを届けたら今晩のご飯代くらいは恵んでくれるかもしれないと言うエポニーヌにマリウスは全財産の5フランを渡すのでした。
 教会のミサに参加したジャン・ヴァルジャンはアゼルマから手紙を渡されました。手紙を見たジャン・ヴァルジャンはアゼルマの家に行こうと言いますが、家がゴルボー屋敷だと聞いたジャン・ヴァルジャンは用事を済ませたら必ず行くからと約束してアゼルマと別れます。ジャン・ヴァルジャンはコゼットと一緒にパン屋に行って飢えに苦しむ家族の為にパンを買い込むとゴルボー屋敷へと向かいました。
 その頃ゴルボー屋敷ではマリウスから恵んでもらったお金でテナルディエが酒を飲んでいました。そこへアゼルマがこれから金持ちが来ると言って戻ってきたのです。テナルディエは金持ちからお金をせしめる為、今以上に貧乏に見えるように部屋にゴミを散らかし、椅子の藁を足で踏み抜き、さらに寒い冬だというのに暖炉の火を消して窓ガラスまで割り、そうでなくてもみずぼらしい服をさらに破ってしまう念の入れようでした。あまりの物音に隣の部屋ではマリウスが壁の隙間からテナルディエの部屋を覗き見します。そこへジャン・ヴァルジャンがコゼットを連れてやって来ました。マリウスは隣の部屋にリュクサンブール公園で出会って以来、姿を見せなくなったユルシュールの姿を見たのです。
第29話 テナルディエの罠
 マリウスは夢を見ているようでした。半年間探し続けたコゼットが壁の向こうにいるのです。ジャン・ヴァルジャンとコゼットは俳優のファバンティアを名乗るテナルディエに食べ物と暖かい服を差し出しました。ところがテナルディエはやって来た金持ちの男の顔に見覚えがありました。それは忘れもしないコゼットを連れ去ったジャン・ヴァルジャンだったのです。テナルディエはその事は胸の内に秘め、運命の巡り合わせに感謝しつつ、ジャン・ヴァルジャンへの復讐を誓います。そしてエポニーヌもコゼットに見覚えがありました。それはリュクサンブール公園で隣に住んでいるマリウスの恋した人だったのです。テナルディエは早速お金の無心を始めました。半年間溜めた家賃の60フランを明日までに用意しないとこの寒空に部屋を追い出されてしまうと言い出したのです。ジャン・ヴァルジャンは今は手持ちが5フランしかないからと言ってその5フランをテナルディエに渡すと、家に戻って60フランを取ってくるから6時にはここに戻ってくると約束し家に戻っていきました。
 隣の部屋で一部始終を覗き見していたマリウスはジャン・ヴァルジャンが部屋を出て行くと慌てて追いかけました。そして馬車で走り去っていくジャン・ヴァルジャンを追ってマリウスも馬車を走らせようとしますが、昨日お金をエポニーヌに恵んだばかりだったので、馬車代を払う事ができずジャン・ヴァルジャンを追いかける事はできませんでした。馬車の中でコゼットはジャン・ヴァルジャンに、もうゴルボー屋敷に行かないでほしいとお願いします。コゼットは気付いていました。ファバンティアを名乗る男がワーテルロー亭のテナルディエそっくりで、エポニーヌやアゼルマもいた事に。それを聞いたジャン・ヴァルジャンはモンフェルメイユ村にいるはずのテナルディエとパリで出会うとは信じられませんでした。
 テナルディエは悪事を企みました。パトロン=ミネットのメンバーであるバベを呼び出すと、6時に事を起こすからとパトロン=ミネットを集めるように依頼します。しかしそれをマリウスが聞いていたのです。マリウスは慌てて警察署に駆け込むとジャヴェール警部に一部始終を報告しました。ジャヴェールはテナルディエがパトロン=ミネットのメンバーでないかと考え、パトロン=ミネットを一網打尽にできるチャンスだと考えたのです。マリウスはコゼットを助ける事ができ、ほっとしましたが、ジャヴェールはマリウスを善良な市民と見込むと、拳銃を取り出して依頼をしたのです。
 コゼットはジャン・ヴァルジャンが再びゴルボー屋敷に行く事を反対しました。テナルディエはジャン・ヴァルジャンを恨んでいたのでジャン・ヴァルジャンに何をするかわからないと言うのです。しかしジャン・ヴァルジャンは相手がテナルディエかどうか自分の目で確かめてこようと言います。そしてもしもテナルディエ一家であれば、なおさら彼らを見捨てるわけにはいかないと言うと、一人でゴルボー屋敷へ向かってしまうのでした。
 6時前になるとエポニーヌとアゼルマは通りの見張りに行かされます。おじさんが60フラン持ってくるだけなのに、なぜ通りを見張らなければならないのかエポニーヌには理解できませんでした。マリウスが隣の部屋を覗き見すると、テナルディエは斧やロープ、鉄パイプを用意し、ジャン・ヴァルジャンに積年の恨みを晴らす準備をしているのが目に入りました。そして腕っ節の強そうなパトロン=ミネットのメンバーも続々とゴルボー屋敷に集まってきました。そして6時ちょうどにジャン・ヴァルジャンが馬車に乗って、ジャヴェール警部率いる警官隊が包囲するゴルボー屋敷にやって来たのです。
 ジャン・ヴァルジャンはテナルディエの部屋に入ると約束の60フランを渡します。しかしそれを受け取ったテナルディエは「世の中にはまったく慈悲深い人がいらっしゃるものだ。見ず知らずの者にポンと60フラン恵んで下さるなんって。だが、これっぽっちのお金では溜まった家賃を払ったら終わりだ」と言うと、パトロン=ミネットのメンバーが手に手に武器を持って部屋に入ってきたのです。そしてテナルディエはワーテルロー亭の看板として掲げていた絵を5000フランで買ってくれたら丸く収めようと提案しました。隣の部屋で覗き見していたマリウスは今こそ拳銃を天井に向けて撃ってジャヴェール警部に合図を送り、警官隊を突入させる時が来たと考えていました。ところがジャン・ヴァルジャンが自分の事に気付いていないと考えたテナルディエは自分がテナルディエだと名乗ったのです。隣で聞いていたマリウスは驚きました。テナルディエはマリウスの父が恩返ししなければならない相手だと遺書に書かれていた相手だったのです。
第30話 残されたコイン
 マリウスは驚きました。テナルディエはマリウスの父の命を救った恩人だと遺書に書かれていましたが、そのテナルディエはパトロン=ミネットに属する悪党だったのです。マリウスはここで拳銃を発砲してジャヴェール警部に合図を送るべきか悩みました。自分が合図を送ると父の恩人であるテナルディエは間違いなく警察に捕まってしまいます。。しかし合図を送らなければ自分の愛するコゼットの父親の命が危ないのです。テナルディエはジャン・ヴァルジャンに散々悪態をつきますが、ジャン・ヴァルジャンは人違いだと言い張ります。そしてジャン・ヴァルジャンはテーブルを振りかざして逃走を図りますが、パトロン=ミネットのメンバーに取り押さえられてしまいます。マリウスはその様子をずっと見ていましたが、結局拳銃を発砲する事はできませんでした。
 ジャン・ヴァルジャンはベッドに縛られました。そしてテナルディエから20万フランもの大金を要求されたのです。ジャン・ヴァルジャンはそんな大金を持ち合わせていないと言いますが、テナルディエはジャン・ヴァルジャンにコゼット宛の手紙を書かせ、コゼットにここに来させるように仕向けます。ジャン・ヴァルジャンが手紙を書くと、すぐにおかみとバベは待ち合わせていた馬車に乗って手紙をコゼットのところに送り届ける事にしました。それを見ていたマリウスはコゼットにまで危険が及んでしまう事を心配しますが、どうしても拳銃の引き金を引く事はできませんでした。
 テナルディエの作戦はこうでした。ジャン・ヴァルジャンの書いた手紙を使ってコゼットを屋敷から連れ出すと、コゼットはそのままパトロン=ミネットのアジトに連れて行き、そしてコゼットと引き替えに身代金として20万フランをジャン・ヴァルジャンに用意させるというものでした。そしてもしジャン・ヴァルジャンが警察にその事を話そうものならコゼットを殺すと言うのです。それを聞いたマリウスは、もしここで拳銃の引き金を引いたらコゼットの命まで危なくなってしまうと思うと、ますます拳銃を発砲して外で待機しているジャヴェール警部に連絡する事ができなくなってしまいます。
 おかみとバベは途中で警察の馬車に追跡されている事に気付きますが、仲間に連絡して警察の追跡を振り切ります。しかしジャン・ヴァルジャンの書いた手紙の住所に行ってみると、そこは人家のないただの野原で、おかみとバベはジャン・ヴァルジャンに騙されたと悔しがります。ジャン・ヴァルジャンはコインの中に隠し持っていたワイヤーソーを取り出すとテナルディエに見えないように縛られたロープを切り始めました。そしておかみとバベが帰ってきた時、ジャン・ヴァルジャンはロープを切るとテナルディエに立ち向かったのです。ジャン・ヴァルジャンは「私には恐れるものは何もない、この命を失う事さえ怖くはない。だがしかし、娘を巻き込む事は断じて許さん。哀れな者たちよ、どうとでも好きにするがいい」と言って火箸で自分の腕を焼くと無抵抗になりました。テナルディエはジャン・ヴァルジャンをズタズタに切り刻んでやると言ってナイフを取り出しますが、それでもマリウスは拳銃の引き金を引く事ができません。その時、マリウスは自分の部屋にエポニーヌが警察と書いた紙があるのを発見し、その紙を丸めて隣の部屋に投げ込んだのです。それを見たおかみは警察が来たと思って慌てました。そしてパトロン=ミネットのメンバーは我先に窓から逃走しようとしますが、その時、窓ガラスを割ってしまい、それを突入の合図と判断したジャヴェール警部は警官隊を突入させテナルディエやおかみを含めてパトロン=ミネットのメンバーは全員警察に逮捕されてしまいます。ジャン・ヴァルジャンはどさくさに紛れて部屋から脱出に成功しました。しかしワイヤーソーを隠したコインを部屋に置き忘れていたのです。それを見たジャヴェールは一番の大物を取り逃がしたのかもしれないと言うのでした。
 悪事を働くのに疲れて、見張りをサボっていたエポニーヌがゴルボー屋敷に戻ってきた時に見たものは、家族全員がロープで縛られ警察に連れて行かれるところでした。そしてジャン・ヴァルジャンの帰りが遅いのを心配したコゼットが迎えに行こうとした時、ジャン・ヴァルジャンはよろめくように帰ってきたのです。
第31話 穏やかなプリュメ通り
 ジャン・ヴァルジャンはテナルディエの罠から抜け出し、どうにか家まで戻る事ができました。心配するコゼットにジャン・ヴァルジャンは、やはりあのファバンティアはテナルディエだったが、テナルディエもおかみも警察に捕まったから安心するように言います。ジャン・ヴァルジャンは疲れたと言って先に休もうとしますが、心配したコゼットがジャン・ヴァルジャンの後を追うと、コゼットはジャン・ヴァルジャンが腕にひどい火傷をしているのに気付きました。コゼットはテナルディエの仕業だと考えてしまいます。
 ジャン・ヴァルジャンの火傷は予想以上にひどく、その日からコゼットが付きっきりで看病しました。コゼットは幼かった頃に熱を出した時、ジャン・ヴァルジャンに付きっきりで看病してもらった事があったので、今度は自分のがジャン・ヴァルジャンを看病するのだと言い張り、トゥーサンの仕事までコゼットが取ってしまいます。そしてジャン・ヴァルジャンとコゼットは久しぶりの穏やかな日々を過ごしました。
 その頃、ゴルボー屋敷ではマリウスが部屋を引き払って出て行く事にしました。マリウスは父の命の恩人が、あの悪党のテナルディエだと知ってショックを受けていました。そして二度と逢えないと思っていたコゼットに逢えたのに、再び行方もわからなくなってしまい、マリウスは父のお墓の前で途方に暮れてしまいます。マリウスはクールフェラックに会うと、クールフェラックの部屋に泊めてほしいとお願いします。
 クールフェラックは部屋に向かいながら貧しさについて語りました。貧しさとは恐ろしいもので、人を無気力にも凶悪な犯罪者にも変えてしまう。彼らが働く意欲を持てるように社会を根本的に変えなければ何の解決にもならないとクールフェラックは考えていたのです。クールフェラックの部屋はゴルボー屋敷に負けないくらいのボロい部屋でした。クールフェラックはこれから貧しい人達の為に革命を起こそうとしているのに贅沢をしてはいけないと現実に目覚めたのです。
 その頃、たった一人になって家まで失ったエポニーヌは夜の町をさまよっていました。するとパトロン=ミネットのメンバーのモンパルナスが一儲けしないかと声をかけてきたのです。これ以上悪事に手を染めたくなかったエポニーヌはモンパルナスの誘いを断ってしまいます。
 ジャン・ヴァルジャンはまだ火傷の傷が癒えていないのに出かけようとします。ジャン・ヴァルジャンが休んでいる間に、貧しくて教育を受けられない子供たちが増え続けているかと思うと、早く教会に行って学校建設の話を進めたかったのです。ジャン・ヴァルジャンは子供たちが貧しさから抜け出す為に教育を受けさせたい、一度身に付けた知識や経験は誰にも奪われる事はない、欲しい物は人から奪えばいいという考えは間違っていると教えたい、人を思いやる心が必要だと考えていたのです。
 ジャン・ヴァルジャンはそれからもコゼットに看病してもらいながら温かい家庭の生活を満喫していました。ジャン・ヴァルジャンはこれが家族の暖かさというものなのか、この私がこんな穏やかで幸せな気持ちになれるなんって、神よ、どんなに感謝してもしきれません。と神に祈ります。ジャン・ヴァルジャンはジャヴェールに捕まる夢を見ました。ジャヴェールはまだ自分を捕まえる事をあきらめていないだろうし、テナルディエやパトロン=ミネットの一味もいつ監獄から出てくるかわからないのです。ジャン・ヴァルジャンは何があってもコゼットを守ろうと決心するのでした。
 マリウスはクールフェラックの部屋に居候になり、そこで翻訳の仕事を続けていました。そして気晴らしに町に出た時、マリウスはパトロン=ミネットのメンバーがフォルス監獄に囚われたとの噂を聞きます。それを聞いたマリウスは決心すると、クールフェラックに金を借ります。マリウスは貧しくて悪事に手を染めたテナルディエが少しでも立ち直るきっかけになればいいと考え、お金を集めていたのです。その考えに賛同したクールフェラックは持ち合わせのお金をすべてマリウスに渡してしまいます。マリウスはこれでテナルディエへの恩返しは終わりにしようと決心するのでした。
 そんな時、マリウスの叔母が様子を見にクールフェラックの部屋にやって来ました。マリウスのおじいさんであるジルノルマンはマリウスがお金に困っているだろうと考え、叔母にお金を持たせましたがマリウスは受け取ろうとはしません。叔母はマリウスがジルノルマンに頭を下げれば再び一緒に暮らせるようになると言いますが、マリウスにとって頭を下げる理由などないと言って拒否してしまうのでした。
第32話 あの日の面影
 ジャン・ヴァルジャンはそれからも療養を続け、ようやく庭に出られるようになりました。コゼットはジャン・ヴァルジャンが元気になって良かったと心から喜びました。その頃、フォルス監獄ではテナルディエがジャン・ヴァルジャンへの恨みをさらにつのらせていました。パトロン=ミネットのメンバーは監獄から出る見込みがない事を知ると脱獄を企てますが、テナルディエは得意の嘘八百を並べ立て、自分も一緒に脱獄させるよう要求します。テナルディエはエポニーヌが脱獄の手助けをしてくれると考えていました。
 そのエポニーヌは懐かしさのあまりゴルボー屋敷を訪れていました。憧れていたマリウスも今では部屋を引き払い、空き家となっていました。エポニーヌにとって家族も恋ももうたくさんで、すべては夢か幻のように感じていました。エポニーヌは町に出ると一人の気楽さを満喫していました。しかし自分には帰る場所がなく、知り合いや友達もなく、どんなに寒くても羽織る上着もお金もないと考えると、エポニーヌはマリウスに逢いたいと心から思ってしまいます。エポニーヌはマリウスがよく来ていたリュクサンブール公園に行くと、そこにマリウスの姿を見かけたのです。エポニーヌはすぐにマリウスを追いかけますが、すぐに見失ってしまうのでした。
 マリウスは久しぶりにマブーフを訪ねました。ところがあれだけ部屋に飾ってあった植物標本や本棚の本が明らかに減っていたのです。それは明らかにお金に困って売ってしまった事を意味していました。マリウスはマブーフに意見を求めにやって来ました。マリウスは何が善で何が悪なのか、何を信じていいのかわからなくなっていたのです。しかしマブーフにも解決策は見いだせませんでした。帰り際、マリウスはマブーフの書いた植物の本を売ってほしいとお願いしますが、マブーフは庭で藍を栽培しており、育てば染料に使えるので高く売れるからと言ってお金を受け取ろうとはしませんでした。
 マリウスが帰った後、マブーフはこのところ日照りが続き、藍が枯れそうになっていたので庭に水まきをしようとしますが、年いったマブーフには井戸の水を汲むのも一苦労で、なかなか水を汲む事ができません。そんなマブーフを見ていたエポニーヌはマブーフの水まきを手伝ってやる事にしました。水まきをするエポニーヌを見たマブーフはエポニーヌが妖精のように見えてしまいます。ところがふとした事からマブーフとマリウスが知り合いだと知ったエポニーヌはマリウスの住んでいる場所を教えてもらうのでした。
 マリウスがクールフェラックの部屋に戻ると玄関先にエポニーヌが待っていました。マリウスはエポニーヌに何か用かと尋ねますが、エポニーヌは「マリウスさんは私に会えて嬉しくないのね、当然よね」と言います。しかしマリウスにもエポニーヌに会って聞きたい事がありました。それはユルシュールの居所を知りたかったのです。それを聞いたエポニーヌは複雑な心境でしたが、マリウスの願いを引き受ける事にしました。
 コゼットが教会に行った帰り、待ち伏せしていたエポニーヌはコゼットの後を尾行し、家を確かめました。そこは大きな家ときれいな庭、そして暖かな家族がありました。それはエポニーヌにはないものばかりでした。窓際に立つコゼットを見ていたエポニーヌは、ユルシュールがコゼットだという事に気付きました。エポニーヌにとっては信じられませんでしたが、マリウスの愛するあの美しい少女が、かつて自分達の家でこき使われていたみずぼらしいコゼットだったのです。エポニーヌはショックでした。いつも汚い格好をさせられいじめられていたコゼットが、今では立派な家に住む美しい少女になり、自分は家も失い汚い格好をして、その日の食事にも困るようになっていたのです。エポニーヌはコゼットの居場所を知らせたら、さぞかしマリウスは喜ぶだろうと思いました。しかしエポニーヌはそこまで惨めな思いはしたくなかったのです。
 打ちひしがれたエポニーヌが町を歩いているとマリウスに呼び止められました。エポニーヌだけが頼りのマリウスはエポニーヌが何か情報を得たのではないかと尋ねると、エポニーヌは静かに家を見つけたと言いました。喜んだマリウスはお礼にお金を渡そうとしますが、エポニーヌはあなたのお金なんか欲しくないのと言って拒否してしまいます。エポニーヌはコゼットがプリュメ通りの大きな屋敷に住んでいると言うと、その場を立ち去ってしまうのでした。その夜、プリュメ通りに向かったマリウスはエポニーヌの言っていた通り、大きな屋敷の窓際にユルシュールの姿を見かけました。しかしマリウスはユルシュールの父親が自分を警戒しているのを知っていたので、今度ばかりは慎重に事を運ぼうと考えます。
 一方、警察署ではゴルボー屋敷から消えた人質の身元が相変わらずわかりませんでした。パトロン=ミネットのメンバーを締め上げても口を割らなかったのです。どうやら逃げた一人はパトロン=ミネットの仲間ではなく、資産家の被害者が警察に関わり合うのを嫌って姿を消したものと思われていました。しかしそれを聞いたジャヴェール警部はコインに隠されたワイヤーソーを取り出すと、「これは徒刑囚が脱獄に使う道具だ。こんな物を持ち歩く資産家などいると思うか?」と言うと、ジャン・ヴァルジャンがこのパリにいる事を確信するのでした。
第33話 あきらめかけた再会
 ようやく元気になったジャン・ヴァルジャンは新しい学校を作る計画に賛同してお金を出してくれる人に会いに、モンフェルメイユ村まで2〜3日家を空ける事になりました。コゼットは心配しますが、ジャン・ヴァルジャンは留守をしっかり守ってくれと言い残し旅立っていきます。モンフェルメイユ村に着いたジャン・ヴァルジャンは、クリスマスイブに初めてコゼットと出会った森の中の水汲み場を訪れ、そこでコゼットの出会いの想い出に浸ります。そしてその夜、ジャン・ヴァルジャンはモンフェルメイユ村の森の中でかつて自分が隠していた大金を掘り出すのでした。
 一方プリュメ通りの屋敷では、外で物音がするのに気付いたコゼットが庭を探すと帽子を被った人影が見えたのです。その時マリウスが庭から慌てて逃げ出していました。マリウスは声もかけずに逃げ出してきた事を恥ずかしく思いました。何度もノックしようとしましたがユルシュールが自分の事を覚えていてくれなかったらと思うと、不安になってノックできなかったのです。それを聞いたアベセ友の会のプルーヴェールは手紙を書いたらどうかと提案しますが、アベセ友の会のメンバーの各人が銘々にラブレターの文面を考えるので、バカにされていると感じたマリウスは飛び出してしまいます。
 翌日、ジャン・ヴァルジャンは大金を持って帰ってきました。しかし夜中に物音がして 帽子を被った人影が見えたというコゼットの言葉にジャン・ヴァルジャンは夜、庭に出ると煙突の陰が帽子を被った人物に見えたのだとコゼットを安心させます。しかしジャン・ヴァルジャンはコゼットの見た人影がジャヴェール警部で、この屋敷がジャヴェールに突き止められてしまったのではと不安になってしまいます。
 その夜マリウスはコゼットへラブレターを書くと、そのラブレターを持って再びプリュメ通りの屋敷に向かいます。そして庭のベンチにラブレターを置くと、そのまま帰って行きました。翌朝、庭に出たコゼットはベンチに手紙が置かれているのを見つけました。震える手で手紙を読んだコゼットは、この手紙を書いたのがコゼットの恋するリュクサンブール公園で見た青年ではないかと考えました。その日コゼットは食事も喉を通りませんでした。その夜ジャン・ヴァルジャンは帰りが遅くなると言って教会に行ってしまいます。昨日と一昨日の物音は、あのリュクサンブール公園で見た青年だったのだと思うとコゼットはいても立ってもいられなくなり、夜になって庭に出ると、昨日ラブレターが置かれていたベンチに座って青年を待つ事にしました。すると物音がしたと思うと、リュクサンブール公園で目を合わせていた青年がやって来たのです。マリウスは「あの、その、勝手に庭に入った事をお許し下さい。手紙は読んでくれましたか? それでその、何と言うか僕は…」と言ったところで、物音に気付いたトゥーサンがランプを持って庭の見回りに来たのです。二人は慌てて木陰に隠れるのでした。
 トゥーサンが去った後、マリウスはコゼットにハンカチを返しました。するとコゼットはそれがお父さんのハンカチだと言うのです。マリウスはてっきりコゼットのハンカチだと思って肌身離さず持ち歩いていたのに、それがお父さんのハンカチだと聞いて頭を抱えてしまいました。マリウスはコゼットの事を心の中で勝手にユルシュールと呼んでいたと言うと、コゼットは思わず笑い出し、私の名前はコゼットと言うのでした。
 その頃フォルス監獄ではパトロン=ミネットのメンバーの一人であるバベが脱獄しました。まずバベ一人が脱獄し、仲間を集めて残りのパトロン=ミネットの脱獄を手伝う計画だったのです。バベの脱獄が成功したのを知るとテナルディエは新たにジャン・ヴァルジャンへの復讐を誓うのでした。
第34話 象の中の子供たち
 翌朝、コゼットはとっても機嫌が良く、元気でした。そしてマリウスもいつものように落ち込んでいるのではなく、人生がバラ色に輝いていました。その日の夜もコゼットがジャン・ヴァルジャンに隠れて庭のベンチで待っているとマリウスはやって来ました。ベンチに座った二人は他愛もない話をしました。マリウスはジャン・ヴァルジャンに自分が嫌われているのではないかと思っていました。しかしコゼットはジャン・ヴァルジャンが貧しい子供達の為に学校を作ろうと教会の神父様と毎日話したり、お金の工面に駆け回っていると言います。それを聞いたマリウスは自分とは大違いだと感じました。マリウスは貧しい人がいるという事も知らずに祖父の元でぬくぬくと暮らしていたのです。
 コゼットはマリウスに自分の過去を話しました。プチ・ピクピュス修道院の事やお母さんに預けられた話、そしてガヴローシュとシュシュの事など。それを聞いたマリウスはパリの町は貧しさで溢れていると感じてしまいます。コゼットは自分みたいにお母さんと離れ離れになる子供がいなくなるように、そんな世の中になればいいと思うのでした。
 その頃ガヴローシュはシュシュと一緒にパリの下町でゴミ箱をあさって食べ物を探していました。ガヴローシュは公園にある大きな象の中に住んでいましたが、なぜかガヴローシュは教会で配っているパンをもらう気にならず、こうしてゴミ箱をあさっていたのです。しかしどこのゴミ箱も不景気で食べ物はありません。ガヴローシュとシュシュはもう3日も何も食べていませんでした。そんな時、ガヴローシュはお腹を空かせた小さな兄弟を見かけました。彼らも住む場所がなくパリの町をさまよっていたのです。気の毒に思ったガヴローシュは兄弟に声をかけ、全財産の1スーでパンを買うと3人と1匹でパンを分けて食べ、自分の住処に向かいます。小さな兄弟は兄はブレソール、弟はユーグといい、お父さんもお母さんも亡くなってしまい親戚のおじさんの家に行くはずだったけど地図を書いた紙をなくしてしまいパリの町をさまよっていたのです。
 ガヴローシュと幼い兄弟が住処に向かって歩いていると、冬だというのに薄着で汚い身なりをした幼い少女が雨に打たれながら歩いてくるのにすれ違いました。ガヴローシュはその幼い少女がまるでコゼットのように感じてしまい、迷う事なく自分のマフラーを与えます。ガヴローシュは少女も行くあてがないのかと思いますが、少女はお母さんの元に向かう途中でした。ようやくガヴローシュの住処に到着しますが、住処は公園の忘れ去られた象の中の家だったので、幼い兄弟はびっくりしてしまいます。象の中は雨風をしのげるしガヴローシュがこしらえたベッドもありました。疲れ切っていた幼い兄弟はガヴローシュに添い寝してもらい、象の中で眠るのでした。
 翌日、ガヴローシュは一人で町に出ました。全財産は昨日使い果たしてしまったので、今日は3人分の食料を調達しなければならなかったのです。ガヴローシュはパン屋に行くと、パンを買ったばかりの女の人にわざとぶつかってパンを落とさせ、その落ちたパンをもらおうとしますが、パン屋の主人に警察に告げ口され、ガヴローシュは警察に捕まりそうになってしまい慌てて逃げ出します。そんな時、パトロン=ミネットのメンバーのモンパルナスがガヴローシュに声をかけました。儲け話があると言って脱獄の手伝いをしないかと持ちかけたのです。もちろんガヴローシュはそんな危ない話に乗るつもりはありませんでしたが、父親も脱獄すると聞いて驚きを隠せませんでした。そしてエポニーヌも毎晩コゼットに逢いに行くマリウスを追いかけ、そして叶わぬ恋に涙するのでした。
第35話 パトロン・ミネットの脱獄
 激しい雷鳴と雨が降る夜、パトロン=ミネットのメンバーにワインを差し入れされた看守はすっかりと酔いつぶれてしまい、その間にパトロン=ミネットのメンバーとテナルディエは壁を破ると煙突の中をよじ登り、屋根に出ました。そして屋根を伝って塀まで走り、とうとうフォルス監獄から脱獄したのです。しかし警備兵に追いかけられて屋根から足を滑らせてしまったテナルディエは塀の上から再び監獄に落ちそうになったところを、突然現れたガブローシュに助けられます。ガヴローシュは悪事に手を染めるつもりはまったくありませんでしたが、自分がこの世の中に生まれてきて良かったと思っていたので、その点だけはテナルディエに感謝していたと言うと走り去っていくのでした。
 ガヴローシュは自分の弟分であるブレソールとユーグにこの町での暮らし方として食料の調達方法を教えます。ブレソールとユーグは教会に行けばパンをもらえると言いますが、ガヴローシュは教会で配っているパンはお年寄りや病気の人達の物で、元気なうちは自分の力で食いぶちを稼ぐのがルールだと考えていました。
 アベセ友の会のメンバーは集結し、行動を起こそうとしていました。貧しい人達の生活はもうギリギリのところまで来ていたのです。パリの町にはアベセ友の会以外にも革命を目指すいくつかのグループがあり、彼らと手を取り合って革命に向かって動き出そうと、アベセ友の会のメンバーは、それぞれのグループと連絡を取るべく動き始めたのです。マリウスはアンジョルラスと一緒に革命を目指すグループを回りました。来るべき日の為に弾薬を作って仕立屋に集める者、労働者を中心としたメンバーの拠点となっている酒場、画家や彫刻家を中心としたメンバーの拠点などを回りました。
 そしてアンジョルラスはマリウスに語ります。「正直言うと僕は少し前から自分達の手でこの国を変えるとか、美しい明日を作るとかそんな事ばかりを考えていた。しかしコンブフェール達と一緒に貧民街に通ううちに自分の甘さに気付いてきたんだ。この前、一人の小さな男の子が死んだ。親を亡くして預けられた先でロクに食べ物を与えられず壁の土を食べて死んだんだ。その子と同じ年の頃、僕はと言うともうお腹がいっぱいだとお菓子を食べ残していた。僕とその子と何が違うのか。僕はたまたま金のある家に生まれ、その子はたまたま貧しい家に生まれた。ただそれだけの違いだ。なあマリウス、その子は死んでしまい、僕はこうして生きている。死んでしまったその子の命はもう何をしたって取り戻せない。けれど今の社会が変われば明日明後日消えてしまう命を助けられるかもしれない。だから僕は…」と言うのでした。
 パリの街では貧しい人達が不衛生な為にコレラに苦しめられ、次々と倒れて亡くなっていました。ジャン・ヴァルジャンも先月は噂を聞いていただけだったが、今月に入って爆発的に広がっている事を実感しました。おかげで学校を作る計画は中断してしまい、先に病気の対策をする事になりました。
 ガヴローシュとブレソール、ユーグの3人はお金持ちの舞踏会に忍び込むと、生ものはその場で食べ、保存のきく物はポケットに詰めて久しぶりの食事にありつく事ができました。そしてその舞踏会を馬車の中からジャン・ヴァルジャンとコゼットが見ていたのです。飢えと病に苦しむ貧しい人達と、そんな貧乏人の苦しみを知らずに毎晩舞踏会に明け暮れる金持ちとの不平等な社会を。
 コゼットはその事をマリウスに話しました。マリウスは「そんな不平等な世の中は長くは続かないよ。不満を持った町の人達が集まり始めているんだ。僕たちの手で世の中を変えなければ。このままではいけない」と言います。そんなマリウスをエポニーヌは毎晩のように後をつけ、陰からじっと見ていました。ところがそこへ脱獄したテナルディエがやって来たのです。テナルディエはこのあたりの家は大きいので金持ちに違いないと考え、忍び込みやすそうな家を物色していたのです。するとこのあたりで一番大きな屋敷を見つけ、ここに忍び込もうと決心します。それはジャン・ヴァルジャンとコゼットの住んでいる屋敷でした。そしてテナルディエはパトロン=ミネットのメンバーを誘ってこの屋敷に忍び込む計画を立てるのでした。
 町では市場の主人が警察に捕まりました。革命の動きをジャヴェール率いる警察が察知して張り込んでいたのです。その知らせはアベセ友の会にも伝わりました。アンジョルラスはこれ以上待てないと考え、決起の時は来たとみんなを扇動しますが、コンブフェールはもう少し待つべきだと主張します。コンブフェールはラマルク将軍が病院を視察しており、ラマルク将軍に政府と民衆の橋渡しをしてもらおうと考えていました。フランス大革命では多くの血が流れました。今度は犠牲を出さなくても市民が一致団結して話し合いを望めばきっとうまくいくと考えていたのです。
第36話 病める都・パリ
 監獄の中でおかみは亭主のテナルディエが脱獄した事を看守から知らされ、亭主からも見捨てられたと落ち込みます。しかしそれを聞いたアゼルマは、もうこれ以上お父さんであるテナルディエの言う事を聞かなくていいかと思うと嬉しくなり、監獄を出たらモンフェルメイユ村に行こうとおかみを誘います。アゼルマはテナルディエに命じられてお金持ちの家にお金を無心する手紙を届けに行くのがとっても嫌でした。ワーテルロー亭もテナルディエが変な儲け話に乗って借金を作らなければ夜逃げすることなく今でも続けられていたのです。そう考えるとアゼルマは監獄を出たら、おかみとエポニーヌの3人で楽しく暮らそうと言うのでした。
 パリの町は警官だらけになり、ガヴローシュ達は食べ物を調達するのが難しくなりました。パン屋から出てくる客にぶつかってパンを落とさせる作戦も、病が流行っている今では危険な作戦だったのでガヴローシュは禁止します。そして警官は貴族達の護衛もしていたので、ますますガヴローシュは食料調達が難しくなりました。ガヴローシュは食料を調達する新しい方法を考案する必要に迫られたのです。
 ジャン・ヴァルジャンとコゼットは教会の病院を訪ねました。そこでは貧しい人々が次々と運び込まれてくる為、ベッドや薬は底をつき、今では床にまで患者が横たわり、野戦病院のようになっていました。ジャン・ヴァルジャンは「貧しい者は飢えて病で倒れるか、盗みを働いて監獄に行くしかないのか」と言うのでした。
 エポニーヌは今夜もコゼットに逢いに来るマリウス見たさに屋敷に来ました。ところがその屋敷を物色する人物を見たのです。その人物はパトロン=ミネットのモンパルナスでした。それを見たエポニーヌはパトロン=ミネットがコゼットの屋敷に忍び込もうとしている事を悟ります。その時マリウスがコゼットに逢いにやって来ました。エポニーヌはモンフェルメイユにいた頃から、神父さんもトロンも、みんながコゼットに親切でした。そして今度はマリウスまでもがコゼットに惹かれているのです。エポニーヌはなぜみんな自分ではなくコゼットばかりに優しくするのか理解できませんでした。そしてエポニーヌはコゼットがパトロン=ミネットに襲われて財産を盗られたら、コゼットだって今までのようにお嬢さんでいられなくなると思うと、いい気味だと考え、モンパルナスにコゼットの家の家族構成などを詳しく教えます。その情報を元にパトロン=ミネットのメンバーはジャン・ヴァルジャンの屋敷の襲撃計画を練ります。明日はジャン・ヴァルジャンが教会の神父さんと夜遅くまで話し合う予定にしていたのをモンパルナスが聞いており、明日の夜が襲撃決行の日となりました。
 その日、ガヴローシュはブレソールとユーグと一緒に橋の上で歌を歌って観客からお金を稼ぎ、そのお金でパンを買って久しぶりにお腹いっぱい食べる事ができました。彼らは初めて自分の力で食いぶちを稼いだのです。
 町を歩いていたジャン・ヴァルジャンは誰かに尾行されている事に気付きました。ジャン・ヴァルジャンは物陰に隠れて尾行している相手を確かめようとしますが、その人物はすれ違いざまに「今夜は家にいろ」と言うと走り去っていったのです。それはエポニーヌでした。
 マリウスは警察に捕まりそうになっていた病人を助けて逆に自分が警察に捕まりそうになってしまいます。どうにかグランテールに助けてもらってマリウスは難を逃れますが、それを知ったアンジョルラスから戒められます。マリウスが今、警察に捕まったらアベセ友の会全員が警察に捕まりかねないのです。ラマルク将軍が病院を視察してからずいぶん経過しましたが、事態は改善するどころかますます悪くなっており、政府は貧民街を見捨てるつもりのようでした。
 その夜、プリュメ通りの屋敷の前に集まったパトロン=ミネットのメンバーとテナルディエは屋敷に侵入しようとしますが、そこをエポニーヌに呼び止められます。エポニーヌはこの家の住人はとても貧乏で1スーのお金も持っていないと言いますが、テナルディエは信用しません。そしてテナルディエが庭に侵入するとエポニーヌが騒ぎ出した為、ジャン・ヴァルジャンに気付かれてしまいます。主人がいないと聞いていたのに主人の声が聞こえてきたので、テナルディエとパトロン=ミネットのメンバーは慌てて逃げ出していきます。その様子を見ていたエポニーヌは「バカみたい、何でコゼットを助けたりしたんだろう」と言います。騒ぎを聞きつけて庭に様子を見に来たジャン・ヴァルジャンは、柵の一部が壊れ、そこに足跡があった事から、誰かがこの家に侵入をはかった事を知るのでした。
 アベセ友の会ではコンブフェールが駆け込んできました。彼はラマルク将軍が倒れたと言うのです。ラマルク将軍もコレラに感染していたのです。アンジョルラスは正確な情報を集める事にしました。
 その夜、ジャン・ヴァルジャンは庭に侵入していたのがジャヴェール率いる警察ではないかと考えます。ジャン・ヴァルジャンにとってパリでまだまだやらなければならない仕事が残っていましたが、コゼットを守る事が自分の使命だと考えます。そこでジャン・ヴァルジャンはパリから遠くなく、ジャヴェールが容易に追いかける事ができず、しかもコゼットとトゥーサンが安全に住める場所を探しました。そして翌朝、ジャン・ヴァルジャンはコゼットとトゥーサンにパリを出てイギリスに行ってみないかと言うのでした。
第37話 マリウスの誤算
 イギリス行きの話を聞いてコゼットはびっくりしました。コゼットはラマルク将軍が病気になり市民は暴動や革命を起こそうとしているという噂を信じたジャン・ヴァルジャンがパリを脱出しようとしているのだと思っていましたが、そうではありませんでした。そしてイギリス行きの話はもうジャン・ヴァルジャンが決めており、一週間後にはここを出発する事になっていたのです。ジャン・ヴァルジャンは文字を知らない貧しい子供達の為に学校を建てようとしていましたが、その計画を中断したままパリを離れるのは後ろ髪を引かれる思いでした。しかしそれ以上にこの屋敷が危険だと感じていたのです。ジャン・ヴァルジャンはファンティーヌを守ってやれなかった事からコゼットだけは守ると決心していたのです。
 パトロン=ミネットのアジトではテナルディエが、また儲け話を持ちかけていました。しかし昨夜エポニーヌによってドジを踏んだばかりなのに、パトロン=ミネットのメンバーは誰もテナルディエの大ボラを信じようとはしません。そればかりか自分達が監獄に入ったのも、元はと言えばテナルディエの計画が甘かったせいだと言い、とうとうテナルディエはパトロン=ミネットからも追放されてしまいます。
 アベセ友の会では革命の議論がされていました。ラマルク将軍の情報は何も入らなくなり、市民の不満は爆発寸前で、今なら革命を起こせば市民は賛同してくれるはずでした。しかしコンブフェールは行動はいつでも起こせるが、今はその時ではない、ラマルク将軍の回復を祈りたいと言って、もう少し待つように言います。それに同調したアベセ友の会のメンバーはもう少し待つ事にしました。
 パリの町は警官だらけになり、妙な雰囲気でした。ガヴローシュは一人でパリの町を歩いていた時、モンパルナスがスリを働くのを目撃しました。ガヴローシュはスリはいけないと考え、モンパルナスにわざとぶつかるとモンパルナスがすったばかりの財布をすりとったのです。ガヴローシュは財布を持ち主に返そうとしますが、既に持ち主は馬車に乗って走り去ってしまい返す事もできません。そんな時、ガヴローシュはマブーフとぶつかってしまいました。マブーフはきれいな本を抱えていました。植物学者だったマブーフにとってそれらの本は50年もかかって1冊1冊本を集めていった、言わば親友のような存在でしたが、これらを売らなければ明日のパンを買えないほどお金にも困っていたのです。
 ガヴローシュは今の世の中は一握りの金持ちだけが贅沢三昧で、貧しい人々は飢えと病に苦しんでいるので、そういう世の中を変える為にみんなが戦おうとしていると言います。しかしそれを聞いたマブーフは「革命か… 未来を変えたいと願うのは未来がある若い人達の特権だな。花は悩んだりしない、小鳥もだ。ただ穏やかに生きている。私はね、残りの人生をそんなふうに静かに過ごしたいんだよ」と言います。マブーフは本は売ってしまいましたがガヴローシュと知り合いになれて幸せでした。そんなマブーフを見ていたガヴローシュはマブーフと別れた後、マブーフの庭に返し損ねた財布を投げ入れます。マブーフはすべて本を売ってしまい、残るは天国に持っていこうとしている一冊を残すのみでした。するとプリュタルクが庭に財布が落ちていたと言って大喜びで財布をマブーフのところに持ってきました。これでもうお金に困らずに暮らしていけるのです。しかしマブーフは落とした人が困っていると言って財布を警察に届けに行くのでした。
 今日もマリウスはジャン・ヴァルジャンに隠れてコゼットと庭で逢います。パリの町の様子を伝えるマリウスにコゼットは来週にはイギリスに行かなければならないと伝えます。驚いたマリウスはいつ戻るのか聞きますが、コゼットにはわかりませんでした。コゼットはマリウスにイギリスにも逢いに来られるかと尋ねますが、マリウスは「僕がどうやって? お金がないんだ、服はボロボロ、家賃は溜め放題、友達に借りたお金も返せないのに、どうやってイギリスに行く旅費を…」と怒りだし、コゼットは泣き出してしまい、マリウスはコゼットを抱きしめます。マリウスもコゼットもお互いに引き離されるのは耐えられませんでした。そこでマリウスは「一つだけ方法がある、明日の夜またここへ来る。その時いい知らせを持ってくるよ、必ず」と言うと帰って行くのでした。
 マリウスと仲違いしていた祖父のジルノルマンは、マリウスが家を飛び出して以来、すっかり老け込み、食事もほとんど食べなくなっていました。ジルノルマンは死ぬ前にマリウスに一目会いたい、今度こそマリウスを許そうと考えていました。そこへマリウスがやって来たのです。ジルノルマンは先程までの弱気な考えはどこへやら、急に強気になってマリウスを迎えました。するとマリウスはジルノルマンに結婚の許しを願い出たのです。フランスでは25歳になるまでは親の承諾なしには結婚ができません。そこでマリウスはコゼットと結婚する為には、どうしてもジルノルマンの許しが必要だったのです。しかしジルノルマンはコゼットが貴族の娘ではなく、ただの庶民の娘だと知ると「その女、名高きジルノルマン家の金目当てでお前に近づいたに決まっている。適当にもてあそんでいればいいのだ」と言うと、マリウスは「あなたはかつて私の父を侮辱しました。そして今、僕の妻となる人を侮辱した。もう何も頼むつもりはありません」と言い残し再び飛び出していきます。それを見たジルノルマンは自分のしでかした過ちに気付き、マリウスは二度と戻ってこないと涙を流して後悔するのでした。
 その頃、アベセ友の会のメンバーはパリの町を視察していました。近く起きるであろう革命で、どこにバリケードを設けて警察と立ち向かえばよいか調査していたのです。
第38話 コゼットとエポニーヌ
 ジャン・ヴァルジャンが家に戻ると庭にしおりが落ちていました。そのしおりはコゼットがマリウスから借りた本を返す時に、誤って落とした物でしたが、ベンチの周りに足跡が残っていた事からジャン・ヴァルジャンはパトロン=ミネットがこの家を狙っているのではないかと考えます。パトロン=ミネットの襲撃を恐れたジャン・ヴァルジャンは今すぐに別の家に引っ越すから荷物をまとめるようとコゼットに言いました。しかしコゼットは一週間後にイギリスに行くのに、なぜ今、別の家に引っ越すのか理解できません。マリウスとの約束があったので、せめて明日まで待てないかとお願いしますが、ジャン・ヴァルジャンは今日でないとだめだと言うのです。コゼットは言いました。「わけを教えて。パリに来てからずっと人目を避けて暮らしてきたわ。ゴルボー屋敷から出た時も、この家に来た時も、いつも逃げるみたいに引っ越して。お父様に何か考えがある事はわかっているわ。だから今までは不思議に思ってもいつも黙って従ってきた。でも私だってもう子供じゃないの。知りたいの、お父様の考えている事。お父様がいつも何かから逃げているのはどうして?」「コゼット、そうだな、私はコゼットに話さなくてはならない事がまだある。しかし今はまだその時ではない。約束する。いつかその時が来れば何もかも話すと。とにかく荷物をまとめなさい」と言うのでした。
 トゥーサンはパトロン=ミネットが監獄を脱獄した事を知っていました。そしてジャン・ヴァルジャンが腕にひどい火傷をして帰ってきた晩にパトロン=ミネットが警察に捕まった事にも気付いていました。たがら脱獄したパトロン=ミネットがこの屋敷に押しかけてくるのではないかと恐れ、それまでにコゼットを安全な場所に逃がそうと思って引っ越しするのだと言います。それだけではありません。トゥーサンはうすうすコゼットが恋をしている事に気付いていました。コゼットはマリウスの事を話しますが、引っ越してしまうとマリウスには逢えなくなってしまうのです。それを聞いたトゥーサンは手紙を書くようコゼットに勧めます。手紙に新しい住所を書いてそれをマリウスに渡せば、マリウスは引っ越した先にも来てくれるようになるのです。それを聞いたコゼットはトゥーサンに抱きついて喜ぶと、急いでマリウスへの手紙を書くのでした。
 アベセ友の会の集まりにプルーヴェールが飛び込んできて、ラマルク将軍が亡くなったと報告しました。それを聞いたアンジョルラスは決心すると「我々の頼りだったたった一本のロープが切れた。ラマルク将軍をなくした今、もはや政府との橋渡しをしてくれる人はいない。残された手段は行動を起こす事のみだ」と言うと、決起の作戦を練る事にしました。明日のラマルク将軍の葬儀の参列には将軍を慕う多くの市民が参列するので、行動を起こすのはその時をおいて他にはありませんでした。一方、パリ市警ではジャヴェール警部が警官を集めると、明日のラマルク将軍の葬儀の参列では不穏分子が反乱を起こすはずだから全力で警戒に当たるよう檄を飛ばします。
 明日の葬儀の参列にはアベセ友の会だけでなく、他の革命のグループも行動を起こす事になりました。それだけではなく軍隊の一個連隊も味方してくれると聞き心強く思います。しかしアベセ友の会では2人のメンバーがバリケードには参加できないと名乗り出ました。彼らには婚約までした彼女がおり、命を危険にさらす事ができなかったのです。そしてアンジョルラスにどうして命をかけてまで行動できるのかと尋ねました。するとアンジョルラスは「今こうしている間にも貧しさや病気に苦しんでいる人達がいる。彼らは今日生きるだけで精一杯で、自分の力ではその苦しみから抜け出せない。誰かが代わって動き出さなければ彼らは助からない。教会でパンを配り、貧しい子供達の為の学校を作ろうとしている人がいると聞いた。それも一つの方法だ。でも僕らは革命を起こす。みんなを助ける為に…」と言うのでした。
 アンジョルラスとコンブフェールは革命の前の静かな時を過ごしていました。コンブフェールは大学に入った頃には今日のような日が来るとは夢にも思っていませんでした。しかしコンブフェールはアンジョルラスと一緒だったからここまで歩いてこられたと言います。そしてこの革命が成功して自由な世の中になったら、自分の田舎に遊びに来ないかと誘うのでした。
 その頃、マリウスはパリの町で落ち込んでいました。コゼットと約束したのに結局何もできなかったのです。パリの町ではラマルク将軍が亡くなった事で市民は殺気立ち、暴動が起きる寸前でした。そんな様子を見たマリウスはコゼットが今はパリにいない方がいいと考え、今夜コゼットにイギリスに行くよう言おうと決心します。今は離れても必ず逢いに行くからと…
 夕暮れには引っ越しの準備が整い、あとは馬車を待つだけとなりました。コゼットはマリウスを待っていましたが、夜にならないとマリウスは来そうになかったので、マリウスが自分に手紙を残したのと同じ方法、つまりベンチに手紙を残す事にしました。ところがその時庭に人影が見えました。その人影はエポニーヌでした。コゼットはガヴローシュの様子を聞きますが、エポニーヌは自分はエポニーヌではないと言い張ります。コゼットは言います。「私、あの頃の辛いと思った事、怖いと思った事、悲しいと思った事、全部忘れたいと思ってね、でも忘れられない」「あの頃ってさ、あんたはどんなひどい目にあっても平気な顔してた」「全然平気じゃなかった。でもお母さんがきっと迎えに来てくれるって信じてたから」「そういうあんたが私をいらいらさせたのよ。私の母さんはいつも目の前にいるのに、遠くにいるあんたの母さんの方があんたを大切にしている気がして。だからあんたの事をずっと嫌いだった。あんたよりきれいな服を着て、ご飯もちゃんと食べられて、学校に行ったり遊んだり、お腹を空かせてずっと働きっぱなしのあんたより私の方が幸せなはずなのに全然そう思えなかった。だからあんたをいじめた。でもいじめればいじめるほど自分が惨めに思えたのよ。だからあんただけは許せない」「私もあんたを許せない、今はまだ。そういえばあのブランコにもう一度一緒に乗りたかったな。今はみんな大きくなっちゃったからもう無理だけど。そっか、あの時はお母さんがそばにいたから、だから本当に楽しかった」「コゼット、ガヴローシュはパリにいる。あの子は賢いから父さん達から離れて一人で生活している。元気よ、シュシュも」「ありがとう、エポニーヌ」「もうこれっきり、もう逢わない」そう言い残してエポニーヌは走り去っていくのでした。
 馬車がやってきてコゼットはジャン・ヴァルジャンと一緒にプリュメ通りの屋敷から引っ越していきました。しばらくすると庭に帽子を落としたエポニーヌが戻ってきました。エポニーヌは「そうよコゼット、私は許さない。絶対に許さない。だからマリウスさんだけは渡さない」と言うと、コゼットがマリウスの為に書いた手紙を持ち去ってしまうのでした。
第39話 1832年6月5日
 コゼットはやはりイギリスに行くべきだ。しばらく逢えなくなるのは辛いが、それもコゼットの為だと考えながら、マリウスはプリュメ通りの屋敷にやって来ました。ところが家には誰もおらず、コゼットは既に引っ越した後でした。マリウスは打ちのめされパリの町を歩くと、いつのまにかリュクサンブール公園に来ていました。そこでもマリウスはコゼットの事ばかりが想い出されました。マリウスはコゼットが急にイギリスに行ってしまったと思っていました。しかしコゼットは自分に必ず手掛かりを残してくれているに違いないと考えると、再びプリュメ通りの屋敷に戻り、ベンチに手紙を残してくれていないかを確認しますが、手紙はありませんでした。
 マブーフの家では手伝いのプリュタルクが倒れてしまいました。医者に診てもらうと流行病ではなくほっとしますが、薬は大変高価な物でした。マブーフは天国に持って行くと決めていた残り一冊の本を手にすると、それを売りに行ったのです。高価な薬のおかげでプリュタルクの危機は去りましたが、もうマブーフには何も残されていませんでした。
 翌日、ラマルク将軍の葬儀は厳かに行われ、参列した市民は口々に「ラマルク将軍万歳、共和制万歳、祖国フランスに自由を」と叫びます。警官は市民を取り押さえようとしますが、ジャヴェール警部が止めました。下手に警察が動けばそれをきっかけとして暴動が起きる可能性が高かったのです。その時、ジャヴェールは市民の中にジャン・ヴァルジャンの姿を見ました。ジャヴェールはすぐに追いかけますが、ジャン・ヴァルジャンは人混みに紛れて姿を消してしまうのでした。
 町の様子を見て回ったジャン・ヴァルジャンは、思った以上に町が危険な状態にあり、いつ暴動が起きてもおかしくない状態だと考えます。ロマルメ通りのアパートに戻ったジャン・ヴァルジャンはコゼットにしばらくの間、町に出るのは止めた方がいいと言います。コゼットはみんなが大変な時に自分だけ安全な場所にいるのは納得できませんでしたが、ジャン・ヴァルジャンからコゼットを守るとファンティーヌと約束したと聞かされ、コゼットは家の中にいる事を承諾しました。
 市民はますます不穏になり、警官が市民に発砲した事を契機に市民は暴徒化し、次々と警官に襲いかかります。それを見ていたアベセ友の会のメンバーも時は来たと考え、コラント酒場にバリケードを築き始めました。一方マブーフも外が騒がしいので通りかかった人に尋ねるとパリで反乱が起きた事を聞かされます。するとマブーフもこんな世の中は変わった方がいいと言ってパリに向かう事にしました。そしてガヴローシュも小さな子供がひもじい思いをする世の中は間違っていると言うと革命に参加するべくパリの町に向かいます。マブーフもガヴローシュもアベセ友の会のメンバーに合流すると、コラント酒場へのバリケード作りに協力しました。ところが変装したジャヴェールもバリケードの中でアベセ友の会のメンバーの行動を監視していたのです。
 マリウスはアベセ友の会のアジトに行きますがそこには誰もいませんでした。マリウスは変装したエポニーヌにコラント酒場のバリケードで仲間が待っていると聞かされ、マリウスも中もの元に駆けつけるのでした。
第40話 革命の夜
 バリケードの中では夜を徹して準備が進められた。男たちは金属を溶かして弾薬を作り、女たちがシーツを裂いて包帯を作っていた。ガヴローシュも革命の参加を名乗り出て、町の偵察に出かける事になりました。
 ジャン・ヴァルジャンはイギリスに渡るつもりでいました。しかしお金は残り少なくなっており、これだけではイギリスに渡るのも不安な状態でした。やはりモンフェルメイユに行って隠したお金をさらに掘り出そうかと考えますが、モンフェルメイユまでは往復で2日もかかるし、何よりこれだけの厳戒態勢の中、パリに戻る事ができるとは思えませんでした。
 コラント酒場のバリケードに向かったマリウスは、偉大なポンメルシー大佐と呼ばれた父に祈って勇気をもらうと、コゼットの為にこの革命をやり遂げて、そして生きて帰ろうと決意します。偵察から帰ってきたガヴローシュはすぐそばまで警察が来ていると報告しました。ガヴローシュは学生の集まりであるアベセ友の会のメンバーが、自分の生活が苦しいわけでもないのになぜ革命をするのか尋ねました。するとアンジョルラスは弱い者や虐げられている者があれば近くにいる少しでも力の強い者がかばわなければならないと言うのでした。
 警官隊がバリケードの前に到着し、いよいよ銃撃戦が始まりました。するとバリケードに立てていた革命の旗が打ち落とされたのです。それを見たマブーフは旗を拾うと再び旗をパリケードに立てますが、その時マブーフは警官隊の銃撃に倒れてしまったのです。マブーフは夢を見ました。プリュタルクが元気になり、本棚には売ったはずの本が戻っていたのです。マブーフは革命がうまく成功したと思い、良かったと言うと息を引き取りました。その時、警官隊がバリケードをよじ登って越えてきたのです。アベセ友の会のメンバーは警官隊に白兵戦を挑み、次々と仲間は負傷していきました。そんな時、ガヴローシュを守ろうとしたプルーヴェールが警官に撃たれそうになります。そこへ駆けつけたのはマリウスでした。マリウスは火薬の詰まった樽を抱え、警官隊が下がらないと警官隊ごと吹き飛ばすと言うのです。マリウスに恐れをなした警官隊は一時退却していきました。警官が退いた後、マリウスはその場にへたり込んでしまいました。しかしアベセ友の会のメンバーはマリウスの勇気ある行動にマリウスを賞賛し、アベセ友の会はいっそう団結を強めるのでした
 ジャン・ヴァルジャンは一人でパリの町を偵察に出かけました。市内にはバリケードが20以上もでき、警察とにらみ合っていました。予想以上の事態にジャン・ヴァルジャンはコゼットを絶対に外に出さないようトゥーサンに言います。一方コゼットはマリウスからの連絡も途絶え、パリの町は革命が始まった事もあり心配でなりませんでした。
第41話 エポニーヌの恋
 エポニーヌはマリウスを追ってバリケードまでやって来ました。エポニーヌは自分のせいでマリウスをこんな危険な場所に来させてしまって申し訳ないと思っていました。しかしマリウスをコゼットにだけは渡したくなかったのです。その時マリウスは偵察の警官と鉢合わせになり、警官の銃が火を噴いたのです。しかしその時マリウスの前にエポニーヌが立ちふさがりエポニーヌが撃たれてしまいました。マリウスはすぐにエポニーヌを運んで治療してもらおうとしますが、エポニーヌはお医者さんよりマリウスのそばがいいと言うと、マリウスをこんな危険な場所に導いたのは自分だと言います。なぜならマリウスが幸せになるのを見たくなかったのです。エポニーヌにとってマリウスが毎日プリュメ通りのあの屋敷の庭に入っていくのがとても辛い事でした。エポニーヌはマリウスを騙したままでいるのが耐えられず、コゼットの手紙を取り出すとマリウスに渡しました。それはコゼットが書き残した新しい住所の書かれた手紙でした。エポニーヌはマリウスをコゼットに逢わせたくなくて、ずっと持っていたのです。マリウスはエポニーヌとコゼットが知り合いだった事を驚きました。
 その時、遠くにガヴローシュの声が聞こえてきました。それを聞いたエポニーヌはすぐにガヴローシュだと気付きます。マリウスはすぐにガヴローシュを呼びに行こうとしますが、エポニーヌはマリウスを放そうとしません。エポニーヌはマリウスに自分を恨んでいるかを尋ねました。「君はいつも僕を助けてくれたじゃないか、今も」「よかった、じゃあ一つだけ約束して。私が死んだら額にキスするって。私にはそれがわかるから。マリウスさん、私あなたにいくらか恋していたみたい」そう言うとエポニーヌは息を引き取りました。エポニーヌの死を見届けたマリウスはエポニーヌの額にキスするのでした。
 コゼットはマリウスの事が心配で、こっそりと町の様子を見てこようとしますが、トゥーサンに見つかって部屋に引き戻されてしまいます。コゼットはマリウスからの連絡がなくなったので何かあったのではないかと心配でたまらなかったのです。こうしている間にも彼は撃たれて傷ついているかもしれないし、助けを求めているかもしれない。そう考えるとコゼットは一人で安全な部屋の中にいる事などできなかったのです。ジャン・ヴァルジャンはこの騒ぎが収まったら2つの事をすべきだと考えます。一つはファンティーヌとの約束の為、そしてコゼットの幸せの為にコゼットをイギリスに連れて行く事。そしてもう一つはパリに戻り貧しさに飢えて苦しむ人々、病める人々を救う事でした。
 コラント酒場ではエポニーヌの死はガヴローシュには秘密にされました。マリウスはコゼットからの手紙を読むとコゼットがまだパリにいる事を知り、自分もコゼット宛の手紙を書きます。その頃、ジャン・ヴァルジャンはコゼットの文箱にあったブロッターにコゼットがマリウスに書いた手紙が写っているのに気付きました。それを見たジャン・ヴァルジャンはコゼットに好きな人がいた事を知ったのです。ジャン・ヴァルジャンの中のコゼットはいまだに昔のままのコゼットだったのに、いつの間にかコゼットが人を愛するほど大きくなっていた事に気付きました。そしてコゼットを守る事ができるのは自分だけだと思っていました。コゼットもそう思っているとジャン・ヴァルジャンは思い込んでいたのです。しかしジャン・ヴァルジャンの知らない間にコゼットはジャン・ヴァルジャンの手を離れ大人になっていたのです。
 マリウスはコゼット宛の手紙を書くと、朝になったらこの手紙をロマルメ通りのアパートに住む娘さんに届けるようガヴローシュに依頼します。ガヴローシュはその仕事を引き受けますが、朝になったら一斉攻撃が始まり、ここへつながる道も封鎖されるはずだから、もうガヴローシュがこんな危険な場所に戻ってくる事はないとマリウスは考えていました。バリケードを出かけようとするガヴローシュは男にぶつかりました。その男に見覚えのあったガヴローシュは必死に過去の記憶をたぐり、男が警官だった事を思い出したのです。「思い出した、あんた警官だな」というガヴローシュの言葉に、その場にいたアベセ友の会の全員の目はジャヴェールに注がれるのでした。
第42話 マリウスからの手紙
 ガヴローシュの言う事は本当でした。ジャヴェールはアベセ友の会のメンバーによって捕らえられ柱にくくりつけられてしまいます。そして朝になったら激戦が始まると考え、女性とけが人は今のうちにバリケードの外に退避する事になりました。ミレーヌはクールフェラックとの別れを惜しむように、別れ際にペンダントを渡しました。クールフェラックはペンダントを受け取ると、パリの町に平和が戻ったらまたみんなでピクニックに行こうと言ってミレーヌと別れました。
 バリケードを出たガヴローシュはパリの警備をかいくぐり夜中にロマルメ通りのアパートに行くと、フォーシュルヴァンの娘さん宛の手紙だと言って管理人に手紙を渡しました。ところがガヴローシュが帰った後、騒ぎを聞いたジャン・ヴァルジャンが来たので、管理人は娘さん宛だと言ってジャン・ヴァルジャンに手紙を渡します。ジャン・ヴァルジャンは手紙を読むと、それはマリウスからの手紙でした。手紙には結婚が許されなかった事、プリュメ通りの屋敷からいつの間にか引っ越していた事、自由を勝ち取る為に戦う事が書かれていたのです。ジャン・ヴァルジャンはコゼットの愛する青年がバリケードの中にいる事を知ると、「彼にもしもの事があったらコゼットはどうなるのだろう? 愛する人を失う悲しみをまたコゼットにあじあわせるわけにはいかない」と言うと、自分がもしも命を落とした時の場合に備えて自分の過去を記した遺書を書き、そして変装用に国民軍の制服を着てバリケードに向かうのでした。
 その夜は満天の星空でした。明日この星空をどんな気持ちで見ているかと思うと、アベセ友の会のメンバーは感慨深くなります。偵察に出たアンジョルラスとコンブフェールはパリの町が静まりかえっている事に気付きました。市民による援軍が期待できそうにないと見込んだコンブフェールは計画を見直し、守るべき家族のある者は今のうちにバリケードを出るように言いました。「人が幸せになる為に僕達は戦っているんだ。家族を不幸にしてはいけない」しかし誰もバリケードを出ようとはしません。そこで家族や守るべき人がある者は強制的にバリケードから出て行ってもらう事になりました。5人が候補として挙げられますが、今となっては警官隊に取り囲まれバリケードを無事に抜け出る事はできそうにありません。そこでコンブフェールは国民軍の制服を取り出すと、これを着ていけば怪しまれる事はないと言いますが、制服は4着しかありませんでした。すると軍服ならここにもう一着あると言ってジャン・ヴァルジャンがバリケードを越えてきたのです。マリウスはコゼットのお父さんが来た事に驚きを隠せませんでした。
 ジャン・ヴァルジャンはマリウスを見ると、それはリュクサンブール公園でよく見かけた青年だと気付きました。あの頃からコゼットはマリウスに恋していたのです。それなのに自分はコゼットの気持ちに気付いてやれず、コゼットを苦しめたのだと思うと後悔の念に駆られます。そして何があってもコゼットの為にこの青年を守っていこうと決心しました。ジャン・ヴァルジャンはこれからは自分に代わってマリウスがコゼットを守っていくのだと考えると、自分の役目はもう終わったのかもしれないとファンティーヌに語りかけるのでした。
 夜明け前にガヴローシュはバリケードに向かってパリの町を駆けていました。ところが昨日は20以上あったバリケードはどこもひどくやられており、残ったバリケードはサンメリー通りとシャンブルリー通りの2つだけと聞かされ、状況が芳しくないと感じたガヴローシュはすぐにみんなに報告しようとバリケードに向かいますが、その途中で軍隊が馬車で巨大な大砲を引いているのを見かけ、驚いてしまいます。
 柱に縛り付けられたジャヴェールはアンジョルラスに語りかけます。「いつまでこんな事を続けるつもりだ」「この国が変わるまで」「国家にたてついてただで済むと思っているのか、何が革命だ、学生の甘い考えだ」「僕達は貧しい人達を助けたい。それを甘い考えだと言うならそれでも構わない。あなたたち警官は金持ちの味方だ。本当に困っている人達を守ろうとはしない」「私が守るのは法律、ただそれだけだ」二人の意見は平行線をたどり続けました。
 夜が明けるとバリケードの前には政府軍が整列し、巨大な大砲を持ち込んでいました。あんな物で砲撃されたらバリケードなどひとたまりもありません。そしてとうとう砲撃が始まったのです。パリの町に轟く大砲の音にコゼットは飛び起きますが、部屋にいるはずのジャン・ヴァルジャンの姿がありません。コゼットはジャン・ヴァルジャンを探しに慌てて外に行こうとしますが、こんな危険な状況で外に行ってはいけないとトゥーサンが止めます。一方アベセ友の会のメンバーは砲撃でバリケードを吹き飛ばされひどい有様でした。ジャン・ヴァルジャンは負傷者を部屋の中に運び入れますが、その部屋の中にはジャヴェールが縛られていたのです。
第43話 ガヴローシュの願い
 政府軍は大砲の次の斉射を準備しますが、それを邪魔する為、アンジョルラスは政府軍の兵士を狙撃しようとしますが、まだ自分と同じくらいの若い兵士にコンブフェールは止めさせます。アンジョルラスは砲撃を止めさせないとバリケードは突破されると言い張りますが、その時ジャン・ヴァルジャンは政府軍兵士の帽子を次々と打ち抜いていったので、狙撃の腕前に恐れをなした政府軍は撤退していきます。その間にもアベセ友の会は壊れたバリケードを補修しようとしますが、今度は政府軍の銃撃が始まり、バリケードでは身動きがとれません。銃弾の飛び交う中をジャン・ヴァルジャンは荷車まで走ると、たった一人で重い荷車を引きずり、バリケードを補修してしまうのでした。
 ジャヴェールはジャン・ヴァルジャンに声をかけました。「ジャン・ヴァルジャン、国家にたてつく共和主義者達の味方などしていったいどんな悪事を企んでいるんだ」「何も企んではいない、少しでもここにいる人達を助けたいだけだ」「信じられるものか」「信じてもらわなくても構わない」と言います。ジャン・ヴァルジャンはコゼットが慕っている青年を助けにバリケードに来たが、そこにジャヴェールまでいたとは。これはやはりコゼットを守る役目を終えて元のジャン・ヴァルジャンに戻れという神のご意志なのかもしれないと思うのでした。
 コゼットはトゥーサンに隠れて家を出るとジャン・ヴァルジャンとマリウスを探してパリの町に出て行きます。コゼットはジャン・ヴァルジャンが教会に行ったのではないかと思って教会を訪れますが、そこにジャン・ヴァルジャンはいませんでした。教会では自分達の為に二つのバリケードにこもって戦ってくれている若者達の無事を願って市民が集まって祈りを捧げていました。教会の牧師さんから残っているバリケードはたった二つだけと聞かされたコゼットは、そのバリケードの場所を聞き出すと教会を後にしました。
 シャンブルリー通りのバリケードではアベセ友の会のメンバーと政府軍との銃撃戦が再び始まりました。しかしアベセ友の会は玉が残り少なく、鉄を溶かして弾を作りながらの銃撃戦となります。それを見ていたガヴローシュはバリケードを出ると、弾の飛び交う中を倒れた政府軍の兵士から弾を集めて回りました。ガヴローシュは弾があれば革命は成功すると信じていたのです。しかし弾を集めて戻る途中、あと少しでバリケードにたどり着くというその時、ガヴローシュは政府軍に撃たれて倒れてしまったのです。ガヴローシュの異変に気付いたシュシュは、遠く離れた公園から駆けつけました。そしてガヴローシュを安全な場所まで引っ張っていきます。そこへバリケードへ向かっていたコゼットがやって来ました。コゼットはシュシュに気付くと再会を喜びますが、その横には男の子が血を流して倒れていました。コゼットが駆け寄るとそれは政府軍に撃たれて意識を失っていたガヴローシュだったのです。ガヴローシュは意識を取り戻すと目の前に見えるコゼットに「ありゃ、天使さんかい? 俺、天国にいるのかな」と言います。コゼットはガヴローシュを医者に診せるべくガヴローシュを抱えて慌ててロマルメ通りのアパートまで戻るのでした。
第44話 未来へのともしび
 ロマルメ通りのアパートに運び込まれたガヴローシュは医者に治療してもらい、何とか一命を取り留めました。あと少し治療が遅かったら命が危なかったと言われ、シュシュがガヴローシュを助けたのだとコゼットはシュシュを抱きしめました。それからもコゼットはガヴローシュの看病を献身的に続けました。トゥーサンはコゼットに二度と一人で外に出ないよう涙を流してコゼットにお願いしました。まだジャン・ヴァルジャンが町から戻ってきていなかったのです。トゥーサンはジャン・ヴァルジャンが一人でゴルボー屋敷に行った時も帰ってきたのだから、今度も旦那様は必ず帰って来ると言うのでした。
 バリケードでは政府軍の銃撃が始まりました。アンジョルラスは応戦しようとしますが、それをジャン・ヴァルジャンが止めます。ジャン・ヴァルジャンは政府軍の目的が我々の弾を枯渇する事にあると考えていました。そして大砲でバリケードが崩された場合に備えてコラント酒場の窓に石を積み上げて、コラント酒場を第二のバリケードにしようと考えました。その頃、サンメリー通りのバリケードも陥落し、いよいよ残るはこのシャンブルリー通りのバリケードだけとなってしまいました。アベセ友の会のメンバーであるレーグルはプルーヴェールがいなくなった事に気付きました。あたりを探すとプルーヴェールは政府軍に捕まって縛られていたのです。アンジョルラスはすぐに捕らえていたジャヴェールと人質を交換しようとしますが、ジャヴェールを連れてくる前にプルーヴェールはアベセ友の会のメンバーの目の前で縛られたまま銃殺されてしまいました。激怒したメンバーは報復にジャヴェールを撃ち殺そうとしますが、ジャン・ヴァルジャンは私に任せてもらえないだろうかと申し出るのでした。
 拳銃を受け取ったジャン・ヴァルジャンはジャヴェールを誰も見ていない裏口に歩かせてバリケードを越えます。ジャヴェールは「私が潜入した事を知って騒ぎに紛れて殺す為に来たんだな。アラスの法廷でのあのシャンマチウの裁判、あの時から私はずっと貴様を追い続けてきた。私さえいなくなれば貴様は自由。どんな悪事も思いのままだ」「ジャヴェール、君は誤解している」「この期に及んで言い訳など。さあ殺すがいい、その銃でひと思いに」と言うと、ジャン・ヴァルジャンは拳銃をしまい、ナイフを取り出すとジャヴェールを縛っていたロープを切ってしまったのです。ジャン・ヴァルジャンは「私が有罪でありながら逃げ続けていたのは、ファンティーヌとの約束を守る為だ。大切な一人娘のコゼットを守り育て、幸せにするという約束を。しかしもうまもなく逃げる必要がなくなる。その時になったら私を逮捕しに来てほしい。私はフォーシュルヴァンという名前でロマルメ通り七番地に住んでいる。さあ早く行きなさい。あなたはもう自由だ」と言ってジャヴェールを解放しました。ジャヴェールは言います。「貴様、何を企んでいる」「何も企んでなどいない」「嘘はつくな、善人ぶっても私にはわかる。貴様はパンを盗み、徒刑場から何度も脱獄し、やっと釈放されたにもかかわらず、すぐにまた少年から銀貨を盗んだ。一度犯罪に手を染めた者が善人になどなれるわけがない」「確かに私は罪を犯した人間だ。しかしディーヌの町のミリエル司教様のおかげで生まれ変わる事ができた」「生まれ変わるだと、誰が信じるか。いいかよく聞け、私は監獄で生まれたんだ。なぜなら私の両親は犯罪者だったからだ。罪人の子は罪人と蔑まれいじめられ、それでも私は自分だけは絶対に罪を犯すまいと誓った。誰からも後ろ指を指されぬよう歯を食いしばって昼も夜もなく努力を重ね、やっと警察官になった。私は両親に悔い改めてほしいと思った。祈るように願っていた。けれど彼らは看守を騙して監獄から逃げだし、自分達の欲の為にさらに恐ろしい罪を重ねた。私はなぁジャン・ヴァルジャン、この手で彼らを捕らえ徒刑場にぶち込んだんだ。もう二度と罪を犯せないように。だから私は貴様を信じない。罪を犯した者は罪人のままだ。人は決して変わらないのだ」ジャン・ヴァルジャンは空に向かって拳銃を発砲すると「人は変わる事ができる。あなたは自由だ」そう言うとジャン・ヴァルジャンは帰って行きます。拳銃の音を聞いたマリウス達はジャン・ヴァルジャンがジャヴェールを処刑したと直感するのでした。
 アンジョルラスはジャン・ヴァルジャンに話しかけました。「結局市民は立ち上がらなかった。革命は失敗です」「ああ、しかし君達のした事は無駄ではない。君達がこのバリケードで灯した明かりは今日立ち上がらなかった人々の心にも小さな火種を残すだろう。いつかその小さな明かりが寄り集まり大きく赤々と燃える時、再び革命が起こりその時こそこの国は変わるんだ。人類の歴史というのは、おそらくそうやって灯されるたくさんの明かりによってゆっくり進んでいくものだ。暗い過去を抜け出し明るい未来へと」「そうですね、未来には飢える子供達も寒さに震えるお年寄りもいなくなる。未来では政府のやり方が間違っていると誰かが思えば、こんなふうに戦わなくても話し合いで解決できるようになる。戦争なんって残酷にものもなくなる。フォーシュルヴァンさんは貧しい子供達の為に学校を作るそうですね」「ああ、それが私の灯す小さな明かりのつもりだよ」「とても立派な明かりです」「軍隊が総攻撃をかけてきたらコラント酒場はもたない。君達の覚悟はわかっている。しかし私は君達に生き延びてもらいたい。生きて未来を見てほしい。だからもしこのバリケードを出られるチャンスがあったら決して逃さないでほしい。命は一つしかないんだ」  いよいよ大砲が用意され政府軍の総攻撃が始まりました。大砲は火を噴いてバリケードを吹き飛ばし、アベセ友の会のメンバーは次々と撃たれていきます。マリウスもバリケードで撃たれてしまいました。そしてクールフェラックもコンブフェールも倒れ、コラント酒場の二階に追い詰められたアンジョルラスとグランテールは政府軍の一斉射撃に倒れてしまい、理想を掲げたアベセ友の会の革命は終わりを迎えました。一方、撃たれたマリウスを抱えてジャン・ヴァルジャンは政府軍から逃げ回りました。そしてマンホールの蓋を開けるとマリウスと共に真っ暗な下水道の中に身を隠すのでした。
第45話 パリの下水道
 ついにすべてのバリケードが陥落し、理想を掲げて革命を起こした学生たちはみんな撃ち殺されてしまいました。瓦礫の中でジャヴェールは必死にジャン・ヴァルジャンを探しますが、ジャン・ヴァルジャンの姿はどこにもありませんでした。しかし瓦礫の中にマンホールを見つけ、ジャン・ヴァルジャンはここから下水道に逃走したと思われました。
 ガヴローシュはようやく意識を取り戻しましたが、コゼットがあまりにも美しい衣装を着ていたので天使様と見間違えてしまいます。そしてコゼットの名前を聞いて、初めてモンフェルメイユ村で別れたコゼットだと気付き、久しぶりの対面に喜びました。コゼットはモンフェルメイユ村でこき使われていた頃、辛い事もあったけどガヴローシュやシュシュと一緒にいる時はそれを忘れられました。コゼットはあの頃と同じだと思いましたが、ガヴローシュはあの頃とあまりにも違うコゼットの衣装に同じとは思えませんでした。
 ガヴローシュはバリケードで戦っていた事を思い出すと、学生達と一緒に再び戦う為にバリケードに戻ろうとします。ところがバリケードにマリウスがいたとガヴローシュから聞いたコゼットは驚きを隠せませんでした。そればかりではなく、ジャン・ヴァルジャンまでがバリケードにいたと言うのです。コゼットはいても立ってもいられなくなり、トゥーサンが止めるのも聞かずに家を飛び出してしまいます。
 パリの下水道を警察はくまなく探しました。これまで数多くの犯罪者が下水道に入りましたが、一人たりとも抜け出せたものはいませんでした。なぜならパリの下水道は迷路のように複雑に入り組んでおり、一度走り込んだら外に出る事はできなかったのです。ジャン・ヴァルジャンは政府軍に撃たれたマリウスを担いで下水道の中を歩き回りました。ジャン・ヴァルジャンは自分に変わってコゼットを守ってくれるであろうマリウスを何としても助けなければならないと考えていました。そして道に迷ったジャン・ヴァルジャンは水の流れを見て下流に向かえばセーヌ川に出られると考え、下流に向かって歩き始めました。そしてジャン・ヴァルジャンを追って下水道を捜索していた警官隊もジャン・ヴァルジャンの真新しい足跡を見つけ、同じように下流に向かって後を追い、とうとうジャン・ヴァルジャンは警官に見つかってしまいます。
 家を飛び出しバリケードまでやって来たコゼットは驚きました。そこには負傷した人々や砲撃で壊されたバリケードの無残な姿があるだけで、ジャン・ヴァルジャンの姿もマリウスの姿もなかったのです。コゼットは近くにいた人に、このバリケードにいた人は全滅したと聞かされました。「潔くて心の優しい若者ばかりだった。自分の為ではなく民衆の為に戦った。だがみんな死んでしまった」それを聞いたコゼットは目の前が真っ暗になる思いでした。それでもコゼットは「死んだりしないわ、マリウスは。また逢う約束をしたんだもの。どこかで生きている、お父様も。フォーシルヴァンさんがいつも言っていたわ、お父様は不死身だって。あんな勇敢な人はいない。巨人のように力持ちで鷲のように敏捷だって、強いだけじゃない。お父様のように温かい人はいないわ。私を残して逝ってしまうなんってそんなひどい事はしない。二人は生きているわ、お母さんどうか私の大切な人を守って下さい」と祈るのでした。
 警察に追われたジャン・ヴァルジャンは下水道の中を逃げ、首まで汚水につかりながらどうにか逃げ切りました。ところがジャン・ヴァルジャンが踏み込んだのは底なし沼で、ジャン・ヴァルジャンはマリウスを抱えたまま泥の中へ沈み始めたのです。ジャン・ヴァルジャンは「神よ、この若者をお救い下さい」と言うと、マリウスを高々と持ち上げたまま底なし沼に沈んでいったのです。しかしその時、天井が崩れ、崩れた瓦礫のおかげでジャン・ヴァルジャンはどうにか底なし沼から抜け出す事ができました。それからもジャン・ヴァルジャンは下水の中を歩き続け、ようやく出口を見つけました。ところが出口の柵には鍵がかかっていて出る事ができません。するとそこへ一人の男がやって来ました。それはテナルディエでした。
 テナルディエは下水道から出てきた男がジャン・ヴァルジャンだと気付かないまま、ジャン・ヴァルジャンが金目当てにマリウスを殺したと勝手に決めつけると、自分の身の上を勝手に話し始めました。テナルディエはその昔、ワーテルローの戦いの時、戦いが終わった後、戦場に転がる敵味方の死体から金目の物を盗んで回っていました。倒れていたポンメルシー将軍のポケットからも多くのお金の入った財布を盗みますが、ちょうどその時将軍は目を覚ましテナルディエは将軍を救った雄志とされたのです。戦争が終わった後テナルディエはその時盗んだお金でモンフェルメイユ村にワーテルロー亭という宿屋を建てたのです。テナルディエはジャン・ヴァルジャンにマリウスから盗んだお金の半分を要求しました。ジャン・ヴァルジャンは何も言わずにお金を払うとテナルディエは扉を開けジャン・ヴァルジャンを解放するのでした。
 下水道を抜けた先はセーヌ川のほとりで、あたりは夕陽で真っ赤に染まっていました。するとそこへジャヴェールが現れたのです。
第46話 ジャヴェールの正義
 ジャン・ヴァルジャンを見つけたジャヴェールは言います。「騒ぎに乗じて姿をくらますつもりだったのだろうジャン・ヴァルジャン」「違う」「俺の命を助け、恩を売っておけば追跡の手をゆるめるとでも思ったのか。やはり俺の考えは間違っていなかった。一度犯罪を犯した者は二度と立ち直れない」「何と言われても構わない、だがこの青年の命だけは助けてやってくれ。肩を撃たれている、早く医者に診せなければ。一刻を争うんだ」「そいつはアベセ友の会か」「そうだ、だが私はこの青年を助けなければならない。何よりも先にこの青年を家族の元に送り届ける。ジャヴェール、私はもう逃げはしない」
 コゼットは家に戻ってきました。コゼットはジャン・ヴァルジャンにもマリウスにも逢えませんでしたがコゼットはジャン・ヴァルジャンが必ずどこかで生きていると信じていました。だから今は自分にできる事を精一杯やろうと考えました。お父様が帰って来るまでは自分がお父様の分まで頑張ろうと決心したのです。
 ジャヴェールはすぐにジャン・ヴァルジャンを捕まえる事なく、ジャン・ヴァルジャンの言う通り先に馬車でマリウスを家族の元に送り届ける事にしました。ジャヴェールはジャン・ヴァルジャンを信用したわけではありません。ジャヴェールは今でも一度犯罪を犯した者が善人に変わる事など決してないと信じていました。確かにツーロンの徒刑場にいた頃、ジャン・ヴァルジャンの心はすさみきっていました。たった一つのパンを盗んだだけでなぜこんな目に遭わなければならないのかと世の中を恨んだ。刑期を終えて出獄しても人々に蔑まれ人の心を信じられなくなってしまいます。そんなジャン・ヴァルジャンに何も聞かずに温かい食事とベッドを提供したのがミリエル司教でした。しかしジャン・ヴァルジャンはミリエル司教の屋敷から銀の食器を盗んで逃げた。翌日ジャン・ヴァルジャンは警察に捕まったが、ミリエル司教はその銀の食器は彼にあげたものだと言い張り、そればかりか銀の燭台までジャン・ヴァルジャンに渡したのです。「決して忘れてはなりませんぞ、あなたがその銀を心正しい人になる為に使うと約束した事を」と言って。それを聞いたジャヴェールはそんな簡単に人が変われるものなら罪人だった私の両親もとっくに心を入れ替えていただろうと言います。しかしジャン・ヴァルジャンはそれまで感じた事のない大きなものをミリエル司教様から頂いた。しかしどうすればいいのかジャン・ヴァルジャンにはわからなかった。何も考えられず道端の石に座り込んでいた時、プチ・ジェルヴェという名の少年が銀貨を落とし、それがジャン・ヴァルジャンの足下に転がってきたのです。少年は銀貨を返してくれるよう要求しましたが、そんな事には気付かなかったジャン・ヴァルジャンは少年を追い返してしまったのです。少年は泥棒だと言って逃げていきましたが、その時ジャン・ヴァルジャンは足下に銀貨が落ちているのに気付きました。しかしその時には少年は去った後で、ジャン・ヴァルジャンは気付かぬうちに泥棒にされてしまったのです。ジャン・ヴァルジャンは泣き叫び罪を犯してしまった事を悔いたが、その事を心から悔い生まれ変わった。そしてミリエル司教様が自分に教えてくれた事を人々に伝える為に自分の命を捧げようと決めたのです。
 馬車はジャン・ヴァルジャンとジャヴェール、そしてケガをしたマリウスを乗せてジルノルマン家目指して走ります。しかしパリの町には崩れたバリケードがいくつもあり、遠回りしないとジルノルマン家にたどり着けそうにありません。しかし遠回りしていたのではマリウスが助からないと考えたジャン・ヴァルジャンは馬車を降りると一人でバリケードを片付け始めたのです。ジャヴェールにはなぜジャン・ヴァルジャンがそこまでするのか理解できませんでした。するとジャン・ヴァルジャンは「母親を失い、恋人まで失わせられない。ファンティーヌとの約束だ。何があっても私はコゼットを守る」と言うのです。ジャヴェールはジャン・ヴァルジャンがまだそんな約束を守ろうとしている事が理解できませんでした。
 ジルノルマン家ではジルノルマンが打ちひしがれていました。マリウスを怒らせて出て行っただけでなく、革命にまで失敗したのです。ジルノルマンはもうマリウスは戻ってこないと考え、マリウスの部屋で昔の想い出に浸っていたのです。するとそこへケガをしたマリウスが運ばれてきました。ジルノルマンはマリウスを抱き上げると「死なせるものか私の大事なマリウス、パリで一番の医者を呼べ」と言うのでした。
 マリウスを家族の元に送り届けたジャン・ヴァルジャンはジャヴェールにもう一つお願いをしました。それはコゼットに逢わせてほしいというものでした。それを聞いたジャヴェールは考えた末に馬車をロマルメ通りに向かわせます。馬車がロマルメ通りに到着するとジャン・ヴァルジャンはジャヴェールを馬車に待たせてコゼットに別れを告げに向かいました。
 その頃ロマルメ通りの屋敷ではコゼットがガヴローシュの看病をしながらジャン・ヴァルジャンの帰りを待ちわびていました。そこへジャン・ヴァルジャンが帰ってきたのです。コゼットは「私、お父様は帰ってくるって信じてた。やっぱりお父様は無事に帰ってきてくれた」と言って泣いて喜びました。ところがジャン・ヴァルジャンは「コゼット、これから話す事をよく聞いてほしい」と言うとコゼットに語り始めました。「私はこれから行かなければならないところがある。昔からの約束でね。約束を守らなければならない時が来たのだ」「どこへ行くのかも私には教えてもらえないの?」「私の机に手紙が入っている。彼の事やこれからの事をすべて書いておいた」「いつ? 戻るのはいつ?」「それは… わからない。コゼット、私はもう行かなければならない。最後に一つだけ伝えておく事がある。マリウス君は家に帰っている、ケガはしているが大事には至らないようだ。もう行くよ」そう言い残してジャン・ヴァルジャンはジャヴェールの待つ馬車へ戻りました。ところが待っているはずの馬車はジャヴェールと共に跡形もなく消えていたのです。ジャン・ヴァルジャンは心配して見に来たコゼットに「コゼット、私は行かなくてもよくなったようだ」と言うのでした。
 ジャヴェールは自分がした事を理解できていませんでした。ジャヴェールにとって法律は絶対の正義でした。法を犯す者は誰であろうとどんな理由があろうと許されるものではなかったのです。しかしジャヴェールはジャン・ヴァルジャンを逃がしました。それもジャン・ヴァルジャンを捕まえるつもりだったにもかかわらず自分の意志で逃がしてしまったのです。ジャヴェールは自らの行動に葛藤していました。ジャン・ヴァルジャンを逃がしたのは学生達に捕まっているところをジャン・ヴァルジャンに解放してもらった恩返しではありませんでした。ジャヴェールは今までずっと正義を貫いて、ファンティーヌを罪人とし、冷たくあたっていました。しかしジャヴェールは本当にそれでいいのか自信が揺らいでいたのです。ジャヴェールは自分が間違っていたのではないかと考えてジャン・ヴァルジャンを逃がしたのかと思うと、ジャヴェールは一人で思い悩みます。しかしジャン・ヴァルジャンの言っていた、人は変わる事ができるという言葉を思い出すと、自分も変わろうと決心するのでした。
 ジルノルマンはマリウスとの確執の事はすっかりと忘れ、ただマリウスが元気になってくれと祈っていました。翌日、ようやくマリウスは意識を取り戻すと、ジルノルマンは神がこの老いぼれの最後の願いを聞き入れて下さったのかと大喜びです。一方パリの警察署ではジャヴェール警部が総監宛に報告書を書きました。それはジャン・ヴァルジャンはバリケードの中で死んだという内容の報告書でした。
第47話 心の絆
 コゼットはマリウスの為に一生懸命ガーゼを縫います。ガヴローシュはブレソールとユーグを思い出すと、寝ている場合ではないと考え部屋を飛び出そうとしますが、ガヴローシュはまだ起き上がれる状態ではなくコゼットに止められてしまいます。コゼットはブレソールとユーグの事をガヴローシュから聞くと、シュシュに頼んで二人のところに連れて行ってもらおうと考えますが、あいにくシュシュはいませんでした。するとジャン・ヴァルジャンが二人を連れて帰ってきたのです。ジャン・ヴァルジャンは教会の帰りに偶然シュシュが走っていくのを見かけて二人を連れ帰ってきたというわけでした。
 ブレソールとユーグの二人はロマルメ通りの屋敷に来ると、トゥーサンの作った料理をおいしそうに平らげました。二人はこれまでこれほどおいしい料理をお腹いっぱい食べた事など一度もなかったのです。コゼットは幸せでした。ジャン・ヴァルジャンもマリウスもガヴローシュもシュシュも帰ってきてくれたのです。これからはいつまでも一緒に暮らそうと思うのでした。
 ジルノルマン家ではジルノルマンが付きっきりでマリウスを看病しました。マリウスはアベセ友の会のメンバーの最期を想い出して熱にうなされます。マリウスの受けた傷は決して浅くはなく、パリ一番の名医をもってしてもマリウスは苦しみ続けるのでした。
 それから一ヶ月が過ぎました。ガヴローシュやブレソール、ユーグもロマルメ通りの屋敷に一緒に住むようになり屋敷は賑やかになりました。ジャン・ヴァルジャンはコレラも下火になってきた事から学校の建設に力を入れ始め、勉強を教える先生も集まりはじめ、まもなく校舎の建設も始まると言います。ガヴローシュは字が読めなかったので学校に行く事は乗り気ではありませんでしたが、ジャン・ヴァルジャンは学校に行って読み書きや算数を学べばそれはもっと大きな力になると言ってガヴローシュを説得するのでした。
 ジルノルマン家ではようやくマリウスは危機を脱しました。後は傷が癒えるまで静かに養生するだけでした。生きようとする本人の意欲が回復の手助けになるはずと医者から聞かされたジルノルマンはどうすればマリウスが生きようと努力するかを考えました。そこには真新しいガーゼが置かれていました。それは毎日コゼットがマリウスの為に一生懸命縫い、毎日ジルノルマン家の屋敷の門番に届けていたものでした。
 さらに一ヶ月が過ぎました。マリウスは熱でうなされる事はなくなり、意識もしっかりしていましたが、まだ動ける状態ではありませんでした。マリウスはアベセ友の会のメンバーがどうなったかを看病にあたっていたメイドに尋ねますが、メイドは知らないと言って答えません。仲間が全員死んだ事を知ったらマリウスはショックを受けるだろうとジルノルマンはメイドに何も話すなと口止めしていたのです。外の様子を知る事のできないマリウスには仲間の事が心配でなりませんでした。
 マリウスは自分がなぜここにいるのかわかりませんでした。あのバリケードから誰がどうやって連れ出したのかわからなかったのです。そしてマリウスはコゼットを想います。今日もコゼットはマリウスの為にガーゼを持ってきました。そんなコゼットの様子を見ていた叔母がその事をジルノルマンに話すと、ジルノルマンはマリウスがかつて話していた結婚相手の娘があのコゼットではないかと気付き、すぐにコゼットを呼び止めるよう命じました。コゼットは屋敷の中に案内されると、マリウスと二ヶ月ぶりの対面を果たしたのです。マリウスはコゼットがイギリスに引っ越したものだと思い込んでいただけに、マリウスはびっくりし、そしてコゼットと再会できた事を喜びました。
 マリウスはコラント酒場のバリケードがどうなったのかをコゼットに尋ねました。コゼットはバリケードの人達はみんな亡くなり、学生で生き残ったのはマリウスただ一人だと言うのです。マリウスにとってそれはショックな事でした。マリウスはバリケードに連れて行ってほしいと言いますが、起き上がる事のではないマリウスにそれはできない事でした。ところがそこへジルノルマンが来ると、馬車を出すから自分の目ですべてを見てくるように言うのでした。
 マリウスはコゼットと一緒に馬車で、かつてバリケードを築いた場所に向かいました。コラント酒場に到着するとバリケードはきれいに取り払われていましたが、砲撃を受けたコラント酒場は当時のままで廃墟のように荒れ果てていました。マリウスは中に入ると当時の仲間を想い出しました。そしてあの時誓った約束、どこまでも一緒に進むというのを想い出します。しかしマリウスだけが生き残りました。その時マリウスの耳にアンジョルラスの声が聞こえてきました。アンジョルラスはマリウスが生き残ったのは果たすべき役目があるからだと言うのです。そしてマリウスに僕らの未来を見届けろと言うのでした。
第48話 コゼットとマリウス
 秋になりマリウスは元気を取り戻し、杖なしで歩けるようになりました。これも毎日看病に来てくれるコゼットのおかげだとジルノルマンもコゼットの事を褒め称えます。マリウスには急いでやらなければならない事がありました。マリウスはあのバリケードから自分を助け出してくれた人を探そうと考えていたのです。最初はそんな事を考える余裕などありませんでしたが、アンジョルラス達の想いを受け継いで生きていこうと考えた時、その人の事が気になり始めたのです。そしてバリケードでもう一人マリウスを助けてくれた人がいました。でもその人はマリウスを銃弾からかばって亡くなったのです。いくら伝えたい事や謝りたい事があっても、もう何も言う事かできないのです。だからもう一人の恩人にだけはきちんと会って感謝の気持ちを伝えたかったのです。
 マリウスは助けられた時の事を何も覚えていませんでした。門番の話ではマリウスが辻馬車で運ばれてきた時、男の人が一緒だったが、暗かったのと驚いたのとで顔は覚えていませんでした。そこでマリウスは自分を運んだ辻馬車の御者を捜す事にしました。パリには何百もの辻馬車があったので、そのうちの一台を特定するのは困難な事でしたが、革命の晩に馬車を走らせていた人は少なく、若い男の死体を運んでいた馬車の噂は有名になっていました。そしてとうとう当時マリウスを運んだゴヨンヌという男を探し当てました。ゴヨンヌはマリウスが生きていた事を知ると、あの人に感謝しなよと言います。何としてもマリウスを助けるんだと言って道をふさいでいたバリケードの瓦礫をものすごい力で押しのけマリウスを助けたのです。あの人がいなければ間違いなくマリウスは死んでいたと言うゴヨンヌに、マリウスはそれがどんな人かを尋ねますが、ゴヨンヌが覚えていたのは体が大きくて穏やかそうな人という事だけでした。しかし馬車に乗ったのはシャンブルリー通りではなく、バリケードから遠く離れたセーヌ川から乗っていたのと、警察の旦那が一緒に乗っていたと聞きます。馬車はジルノルマンの屋敷に行った後、ロマルメ通りに行ったと聞きマリウスもコゼットも驚きました。それはコゼットの家のすぐそばだったからです。
 マリウスはその夜考えました。シャンブルリー通りからセーヌ川までは距離も遠く、その距離を気を失った自分を背負って歩いていたら間違いなく警察に捕まってしまいます。その時マリウスは地下に気付きました。パリの地下には下水道が張り巡らされているのです。しかし下水道は複雑に入り組んでおり、一度入ると出てくるのは困難でした。しかも気を失ったマリウスを背負って下水道を移動する事などできるはずがないように思われました。しかしその時マリウスはひらめきました。コゼットのお父さんのフォーシルヴァンはバリケードを補修する為に荷馬車を持ち上げるほどの力の持ち主でした。彼なら自分を背負って下水道の中を歩く事ができるかもしれない。そしてコゼットも馬車は自分の家のすぐそばで止まり、ジャン・ヴァルジャンが帰ってきた時、マリウスは家に帰ったと言ったのを思い出し、マリウスを助けたのはジャン・ヴァルジャンではないかと考えます。
 ジャン・ヴァルジャンは、もうコゼットの事で心配する事はなくなったと考えていました。マリウスはいい青年だし、あの二人なら力を合わせて人生を切り開いていけるだろうと考えます。それよりジャン・ヴァルジャンにとって気になっていたのは、この先自分がどう生きていくかという事でした。ジャヴェールが自由の身にしてくれたおかげで今までのように逃げ隠れする必要もありませんでした。しかしだからこそミリエル司教様からもらったこの人生の使い方を真剣に考えなければならなかったのです。
 ジャヴェールはシャブイエにバリケードの残党の捜査を切り上げたいと進言しました。パリには彼らよりももっと市民の害になるパトロン=ミネットのような連中が野放しになっていたのです。シャブイエはジャヴェールのこれまでの働きを評価して署内の仕事に昇進させようと言いますが、ジャヴェールはこれまで通り外の仕事がしたいと辞退してしまいます。しかしシャブイエにはジャヴェールがこれまでとは違って生き生きしているように見えました。ジャヴェールは「ジャン・ヴァルジャン、貴様にもらった新しい命、俺は精一杯生きる事で応えよう」と言うのでした。
 マリウスもコゼットもマリウスをバリケードから救い出したのはジャン・ヴァルジャンではないかと思っていました。しかしその事についてジャン・ヴァルジャンは一言も語らなかったのです。コゼットはマリウスに直接聞いてもらえるようお願いしました。マリウスが聞けばジャン・ヴァルジャンも教えてくれそうな気がしたのです。マリウスとコゼットは馬車でコゼットの家に向かいましたが、ジャン・ヴァルジャンは急な仕事ができたと言って出かけたばかりで、明日にならないと戻らないとの事でした。そこへガヴローシュが帰ってきました。マリウスはガヴローシュがコゼットの弟だと聞いてびっくりしてしまいます。なぜならマリウスはガヴローシュが自分の命を救ったエポニーヌの弟だという事を知っていたのです。マリウスはガヴローシュが生きていてくれた事を心から喜びました。そしてマリウスはコゼットとガヴローシュにエポニーヌの事を話しました。ガヴローシュもコゼットもエポニーヌの死を知り涙を流して悲しむのでした。
 ジャン・ヴァルジャンは馬車を走らせモンフェルメイユ村に行くと、再び森の中に隠したお金を掘り出しました。黒ガラスの特許で貯めたお金をコゼットの分を残して、残りは学校を建設したり病院や貧しい人々が働ける職場も作りたいと考えていました。ジャン・ヴァルジャンにはまだやらなければならない事がたくさんありました。
 翌日帰ってきたジャン・ヴァルジャンにマリウスとコゼットはマリウスをバリケードから救ったのはジャン・ヴァルジャンではないのかと尋ねました。ところがジャン・ヴァルジャンは自分ではないと言うのです。自分は総攻撃のどさくさに紛れて倒れていた政府軍の兵士の軍服を着て裏側のバリケードから外に出たと嘘を答えてしまいます。ジャン・ヴァルジャンはコゼットに嘘を言った事を後悔していました。ジャン・ヴァルジャンはマリウスを助けた事を話せば、そこからジャヴェールとの事がわかってしまいそうで怖かったのです。いずれコゼットには自分の過去を打ち明けなければならないとジャン・ヴァルジャンは考えるのでした。
 マリウスは自分を助けてくれた人の手掛かりが途切れてしまいがっかりしてしまいます。ところが二人で歩くうちにリュクサンブール公園に来ていました。二人が出会ったベンチに行くとマリウスは言います。「不思議だけど言葉を交わす前から感じていた。この人が僕の運命の人だって」「私もそうよ。お母さんが逢わせてくれたのかもしれない。この公園はお母さんと遊びに来た想い出の公園だから」「コゼット、僕は来年には弁護士の資格が取れる。そうしたらおじいさまの家を出るよ。勝手に出るわけではなくて、ちゃんとおじいさまに説明して納得してもらっての話だよ。自分の力で生活していきたいんだ。そしてフォーシルヴァンさんと一緒に貧しい人達の手助けがしたい。貧しい人達は法律の知識がないばかりに騙されてしまう。罪を犯してしまいどうやって立ち直るのかわからない人もいる。僕はそんな人達の力になりたいんだ。それが僕にできるあの革命の続きだと思うから。きっとアンジョルラスやクールフェラック達も賛成してくれる」「ええ、きっと」マリウスはコゼットの手を取るとひざまずき「僕と結婚して下さい。貧しい人達の為に働きたいから、きれいなドレスも宝石も買ってあげられない。でも約束する。一生大切にする。いつも全力で守って一緒に幸せを作っていきたい。だから僕と…」「はい、私もマリウスと幸せを作っていきたい」「コゼット…」二人はそう言うと抱き合って喜ぶのでした。
 家に帰ったマリウスはジルノルマンに再びコゼットとの結婚を願い出ました。するとジルノルマンは「よく言ったマリウス」と言ってマリウスに抱きついて喜んでくれたのです。ジルノルマンはその言葉を待っていました。あんなすばらしいお嬢さんを取り逃がしては一生の不覚だと言うと、すぐにフォーシルヴァンさんに正式にご挨拶しようと言うのです。翌日、ジャン・ヴァルジャンはジルノルマン家に呼ばれ、挨拶を交わします。ジルノルマンは二人の結婚をとても喜びました。コゼットは夢の中にいるようで、この幸せがずっと続きますようにと祈るばかりです。しかしジャン・ヴァルジャンは違いました。このままではまた嘘を重ねる事になってしまう。これからの自分がどうすべきなのかを早く決めなければと考えるのでした。
第49話 私のお母さん
 もうすぐ秋も終わろうとしていました。コゼットの結婚式は来年の二月に決まっていましたが、それももうすぐのように思われました。そしてこれから準備で忙しくなりそうでした。コゼットはジャン・ヴァルジャンにモントルイユ・シュル・メールの町に行きたいと言いだします。それはお母さんに結婚を報告する事と、お母さんが自分と一緒に暮らす為に一人で働いていた町を一度でいいから見ておきたかったのです。コゼットはジャン・ヴァルジャンと一緒に行きたかったのですが、ジャン・ヴァルジャンはコゼットがファンティーヌの事を知る為の旅なら一人で行った方がいいと言います。そして教会にシスター・サンプリスがいるから、彼女に手紙で連絡してもらう事になりしまた。それを聞いたガヴローシュも行きたいと言いだします。ガヴローシュはモントルイユ・シュル・メールに行くついでにモンフェルメイユにも行きたかったのです。ジャン・ヴァルジャンは賛成し、コゼットはガヴローシュと二人でモンフェルメイユの村を経由してモントルイユ・シュル・メールの町に行く事になりました。
 コゼットとガヴローシュ、そしてシュシュは馬車に揺られてモンフェルメイユを目指しました。コゼットはお母さんと別れた時、まだ小さかったので覚えている事は多くありませんでした。しかしモンフェルメイユに向かううちに、お母さんとの記憶が次々に蘇ってきました。そしてモンフェルメイユに到着すると、ガヴローシュは鍛冶屋の旦那に出会い、お互い再会を喜びました。ワーテルロー亭は屋根は崩れて廃墟と化し、昔の面影はほとんど残っていませんでした。コゼットはお母さんを待ち続けた丘の上で昔の想い出に浸るのでした。
 そしてファンティーヌが一人で歩いた道を、コゼットも馬車に揺られてモントルイユ・シュル・メールの町に向かいました。途中の町で一泊し、翌日コゼット達はようやくモントルイユ・シュル・メールの町に到着しました。そこでコゼット達はシスター・サンプリスとアランに出会います。ところがコゼットはお父さんの事をほとんど聞かされていなかったので、マドレーヌと言われても何の事だかわかりません。シスター・サンプリスからお父さんはこの町の市長をしていたと聞かされコゼットはびっくりしてしまいます。それだけではありません、モントルイユ・シュル・メールの町の市長は今でもマドレーヌだったのです。
 コゼットはシスター・サンプリスやアランからマドレーヌの事を聞きました。マドレーヌは突然モントルイユ・シュル・メールの町にやって来て、黒ガラス工場を作り、工夫や発明でたちまち工場を大きくし、たくさんの困っている人や貧しい人を雇い入れた事からぜひ市長にと頼まれたのです。そしてマドレーヌは工場で儲けたお金で貧しい人達の為に病院や学校を作ったと聞き、コゼットは今でもパリで貧しい子供達の為に学校を作っていると言うと、アランは自分も含めて多くの人がマドレーヌのおかげで救われたと言いました。コゼットはモントルイユ・シュル・メールの町に来る前の父の事を聞きますが、シスター・サンプリスは「その事についてはいつかお父様がお話しして下さるでしょう。私達が話すべき事ではありません」と言うのでした。
 マドレーヌがただ一人救えなかったのがコゼットの母であるファンティーヌはでした。嘘のつけないシスター・サンプリスはファンティーヌについて知っている事を包み隠さずコゼットに話しました。コゼットの事を隠して黒ガラス工場で働いていた事、そして工場を首になってお金に困りアパートを追い出された事、コゼットに暖かい服を送る為に髪を売った事、体を壊したけど、それでもたった一人の娘の為に力を振り絞って働いた事を話しました。コゼットは考えもしなかったお母さんの身に起きた出来事に涙を流しました。シスター・サンプリスはこの続きを聞くかどうかをコゼットに尋ねますが、コゼットは「聞かせて下さい」と言います。
 シスター・サンプリスは続きを話しました。ファンティーヌはコゼットの為に溜めていたお金を奪われた事、通りがかりの男の人から背中に雪を入れられ、その男を殴ったという罪で逮捕された事、それを知ったマドレーヌがファンティーヌを助けて自宅に保護した事、しかしその時にはもう助からない病にかかっていた事、ファンティーヌはいつもコゼットの話をし、コゼットの名前を呼び、コゼットに逢いたがっていた事、そしてマドレーヌはコゼットを迎えに行こうとしたが、とうとう間に合わなかった事を話しました。その話を聞いたコゼットは涙に暮れ、「私もワーテルロー亭で毎日辛いと思っていたけど、お母さんはもっと辛くて苦しかったのね。お母さん…」と泣き崩れるのでした。
 その頃ジャン・ヴァルジャンは自宅で一人考えていました。コゼットにちゃんとファンティーヌの事を話せるのは、嘘をつく事ができないシスター・サンプリスしかいないと考え、すべてをシスター・サンプリスに託していました。そして辛い話になるが、コゼットならしっかりと受け止める事ができるだろうと考えたのです。ジャン・ヴァルジャンは銀の燭台にロウソクを灯すと「ミリエル司教様、私はずっとコゼットを守る為に生きてきました。でも今思うんです。実は私がコゼットに守られてきたのではないかと。コゼットがそこにいてくれたからこそ私は生きる喜びを噛みしめ心の安らぎを感じる事ができた。そう、コゼットのおかげで言葉にできない幸せをたくさん味わう事ができたのです。しかしコゼットを守るという役目が終わった以上、もう私がコゼットのそばにいる理由はありません。私の人生は銀の食器とこの銀の燭台と共にあの時司教様から頂いたものです。ならば、自分が幸せを味わう為ではなく、助けを必要としている人々の為に使うべきではないでしょうか」と言うのでした。
 コゼットはファンティーヌが働いていた黒ガラス工場を見学しました。コゼットはお母さんがここで働いていたのかと思うと感慨深げでした。そして工場の外れの小さな建物に案内されました。そこはファンティーヌと同じように小さな子供達を持つお母さんが安心して働けるように作った託児所でした。この家の名前はファンティーヌとコゼットの家という名前だと聞いてコゼットは驚きました。それはファンティーヌとコゼットのように悲しい思いをする親子がもう決して現れないようにと作られた場所でした。コゼットは子供達が毎日お母さんに逢えると思うととても嬉しく思うのでした。
 コゼットはお母さんのお墓に墓参りに行き、お母さんのお墓に花を捧げると「お母さん、大好きなお母さん。私、もうすぐお嫁に行きます。いつか私もお母さんになる日が来たらお母さんが私にしてくれたみたいに、その子を大切に大切にします。だからずっと見ていてね。私の一番大好きなお母さん」と言うのでした。
第50話 永遠のリング
 ジャン・ヴァルジャンが願ってやまなかった学校の建設は進み、学校建設のおかげで多くの人が雇われ仕事を得る事ができました。コゼットの結婚式の頃には学校が完成しそうでした。学校ができれば子供達は教育という大きな物を得る事ができる。そうすればただ人から食べ物をもらうだけでなく、自分達の力で生きていくすべを身に付ける事ができるのです。
 マリウスは無事に弁護士の試験に合格し、後はバラ色の未来が待っているだけでした。ジルノルマンはコゼットにマリウスの母親がつけていた宝石を与えると、家にある物はすべてお前達の物だと大盤振る舞いでした。しかしマリウスは結婚したら家を出ると言うのです。マリウスは弁護士の資格が取れたからコゼットと二人で小さな家を借りて自分達の力だけで生きていこうと考えていたのです。それを聞いたジルノルマンは「待てマリウス、ここを出て行くなど許さんぞ。わしは意地を張るのは止めたんだ。だから頼む、これからもここでずっと一緒に暮らしてくれ」と言って二人に心からお願いし、マリウスもコゼットも、しばらくはジルノルマン家で暮らす事にしました。
 ジャン・ヴァルジャンがジルノルマン家に伺った時、ジャン・ヴァルジャンはジルノルマンから一緒にここで住まないかと提案されます。ジャン・ヴァルジャンは辞退しますが、ジルノルマンは言い争いの元になるので政治の話はしない事にしたと言います。王制も共和制もない、ただすべての人間が豊かに、つまり愉快になる事を私は望んでいる。未来は楽しい物でなくてはいかんと言うのでした。
 とうとう学校が完成しました。未来を担う子供達がここで教育を受けると思うと、ジルノルマンはパリの町はこれからどんどん発展していくだろうと思わずにはいられません。ジャン・ヴァルジャンはイギリスには馬車に代わって鉄道が作られていると言います。そしてパリの町にもやがて鉄道が敷かれるようになったら、線路を作る鉄鋼工場を興せばたくさんの貧しい人達を雇う事ができると考えていました。それを聞いたジルノルマンはジャン・ヴァルジャンの考えに感服し、協力を申し出ました。
 いよいよ結婚式の前日がやって来ました。コゼットは荷物をまとめるとジャン・ヴァルジャンの部屋に行きます。ジャン・ヴァルジャンはこうして二人で過ごす夜は最後になると言いますが、コゼットはジャン・ヴァルジャンを悲しませないように時々帰って来ると言います。コゼットは「お父様、初めてお父様に会った時の事を今もはっきりと覚えている。初めてお父さんと呼んだ時の事も」「ああ、だが辛い思いもたくさんさせてしまった。私がコゼットの本当の父親ではなかったから」「ううん、お父様はお父様よ。これまでもこれからも。この世でたった一人のお父様」「コゼット」「これまで育ててくれてありがとう、お父様」と言うのでした。
 その夜ジャン・ヴァルジャンは銀の燭台にロウソクを灯すと「ミリエル司教様、私は過去に犯した過ちをいつか何もかもコゼットに話すと約束していました。しかし今、幸福の絶頂にあるコゼットにそれを告げるのはあまりにもかわいそうです。でもそれは本当にコゼットを思っての事なのか、自分がすべてを話してしまうのがただ怖いだけなのか。ミリエル司教様、私はいったいどうすればいいのでしょうか」と言うのでした。
 翌日、盛大に結婚式は行われました。コゼットとマリウスはみんなから祝福されました。その頃おかみとアゼルマはようやく監獄から出獄し、パリの町を歩いていました。鳴り響く鐘の音に誰かが結婚した事を知ると、アゼルマも自分が幸せになりたいと言います。おかみは今まで散々悪い事をしてきたけど、これからはモンフェルメイユの村に戻ってアゼルマと一緒にエポニーヌの分まで幸せになろうと決心していました。一方パトロン=ミネットを追放されたテナルディエは相変わらず悪事を働き、スリを働いて警察に追われていました。ところがテナルディエはふと結婚式の馬車に乗ったジャン・ヴァルジャンとコゼットを見たのです。自分がこんなに落ちぶれたのはジャン・ヴァルジャンのせいだと信じて疑わなかったテナルディエはジャン・ヴァルジャンへの復讐を誓い、後を追いかけてジルノルマンの屋敷を突き止めてしまいます。
 ジルノルマン家で行われた披露宴では多くの人が参列しました。コゼットの修道院時代のベアトリス、オドレイ、シャルロットも駆けつけ、昔話に花を咲かせます。ジャン・ヴァルジャンは披露宴の途中でみんなに黙って帰ろうとします。それに気付いたマリウスが喜びの挨拶を済ませると、コゼットによろしくと言い残して帰ってしまいます。その夜、家に戻ったジャン・ヴァルジャンは部屋に置いていた銀の燭台を鞄に詰め込むのでした。
 翌朝、ジャン・ヴァルジャンが起きてこないのを気にしたトゥーサンが部屋に行くと、ジャン・ヴァルジャンの姿はありませんでした。朝早くにジルノルマン家を訪れたジャン・ヴァルジャンは庭にマリウスを呼び出すと、語り始めました。「実は私は… 私は昔、徒刑囚だったんだ」
第51話 明かされた真実
 ジャン・ヴァルジャンは語りました。「昔、盗みの罪を犯して監獄に入っていた事があるんだよ。その罪を償って出獄した。しかしその後で自分では気付かずにさらに罪を重ねてしまい、最近までずっと警察に追われる身だった。フォーシルヴァンという名前も偽名だ。私の本当の名前はジャン・ヴァルジャンと言うのだ。私の過去のせいでコゼットには不自由な思いをさせてしまった。いつかはすべてを打ち明けると約束したが、今の私にはその勇気がない。だから私はコゼットの前から姿を消す事にした。このまま過去について何も話さずに父親としてコゼットの近くに留まる事ができればどんなに幸せだろうと思う。しかしその為には嘘を重ねなければならない。現にもういくつもの嘘をついてしまった。過去にコゼットを守る為についてきた嘘ではなく、自分の為でしかない嘘を。それは罪だ。これからは私ではなく君がコゼットのそばにいて、力を合わせて一緒に生きていけばいい」そう言ってジャン・ヴァルジャンはマリウスに貧しい人達の為に職場や病院を建てる為の計画書とその資金を託しました。ジャン・ヴァルジャンは「昔、徒刑場を出た後、私はある方に助けられ、新しい人生をもらったんだ。だから私は自分の人生をかつての自分と同じように無知や貧しさに苦しむ人達を救う為に、その為だけに使わなくてはならない。どうしても一人になる事が必要なんだ」そう言い残すとジャン・ヴァルジャンは姿を消したのです。
 それを聞いたマリウスにはとても信じられませんでした。マリウスはジャン・ヴァルジャンが警察から逃げる為、バリケードの中でジャヴェールを処刑したのではないかと考えましたが、ジャン・ヴァルジャンがこれまでしてきた事を思えばそれはあり得ない事でした。ジャン・ヴァルジャンが自分の利益の為に人の命を奪うような人ではなかったのです。
 そこへトゥーサンが子供達を連れてやって来ました。ジャン・ヴァルジャンの姿が見えないので探していたところ、机の中に手紙が入っていたのです。手紙には「少し長い旅に出るが探さないでほしい。生活費を置いていきます。トゥーサン今までありがとう。ガヴローシュ達を頼みます」と書かれていました。コゼットにもジャン・ヴァルジャンが旅に出た理由はわかりませんでした。しかしそれを聞いていたマリウスは「コゼット、実はさっきお父さんが家にいらしたんだ。僕にも長い旅に出るとおっしゃっていた。事情があるみたいなんだ。何とか引き留めようとしたんだけど一瞬目を離したすきに」「お父様がその旅が必要だとおっしゃるなら誰も止める事はできないわ。でも、ちゃんと会って笑顔で行ってらっしゃいと言いたい」「コゼット、探そう、お父さんを」と言うのでした。
 その夜テナルディエは飲み屋にいました。テナルディエは明日、勝ちの決まった大勝負に出ると言うのです。どでかい運がとうとう回ってきたと考えたテナルディエは、もう二度と金に苦労する事はなくなり、王様みたいな生活が待っているとくだを巻くのでした。
 翌日、変装したテナルディエはジルノルマンの屋敷を目指して歩いていました。ところがその時、ジャヴェール警部の乗った馬車が通りかかったのです。ジャヴェールはすぐにそれがフォルス監獄を脱獄したテナルディエだと気付くと尾行を始めたのです。そうとは知らないテナルディエはジルノルマンの屋敷に行くとテナール男爵を名乗ってマリウスに面会を申し込みました。テナール男爵と対面したマリウスとコゼットはすぐにそれがテナルディエだと見抜きました。しかし面会を断るわけにもいかず、マリウスは警戒しながらも一人でテナルディエの話を聞く事にしました。
 テナルディエはわざとらしい社交辞令の後、フォーシルヴァンの秘密を買ってほしいと持ちかけました。テナルディエはユルティーム・フォーシルヴァンという名前は偽名で、本当の名前はジャン・ヴァルジャンだと言うのです。しかしそれを聞いたマリウスは「そんな事は知っています」と軽くあしらいます。出鼻をくじかれたテナルディエは続いてジャン・ヴァルジャンは昔、徒刑囚だったと言いました。しかしその秘密もマリウスは「それも知っています」と答えます。驚いたテナルディエはジャン・ヴァルジャンが監獄を出た後も罪を重ねて警察に追われていると言うと、負けずにマリウスは「それも知っています。それはすべて過去の話です。そんな事には何の興味もありません。時間の無駄です、もうお引き取り下さい」と答えます。焦ったテナルディエはジャン・ヴァルジャンが殺人と泥棒を働いたと言いだし、それを黙っていてほしければ2万フラン出すように要求したのです。マリウスはそんな事はあり得ないと相手にしませんでしたが、テナルディエは昨年6月の下水道での出来事を語り始めました。
 それは革命騒ぎの日にジャン・ヴァルジャンが人を殺して金を奪い、死体を担いで下水道の中を歩き、その後死体をセーヌ川に流したというものでした。しかしこのジャン・ヴァルジャンが下水道にいたという話だけはマリウスの興味をそそりました。そしてテナルディエはその時死体が身に付けた服を引きちぎり証拠として持っていました。それはマリウスがバリケードの中で身に付けていた、革命を意味する赤いバンダナで、マリウスが持っていたバンダナと破断面が完全に一致したのです。これを見たテナルディエは意味が理解できませんでした。しかしマリウスはすべてを理解していました。テナルディエの言う死体とは自分の事で、あの日、バリケードの中からマリウスを背負って下水道を逃げ、マリウスの命を救ったのがジャン・ヴァルジャンだったという事に。テナルディエはジャン・ヴァルジャンを窮地に陥れるはずが、逆にジャン・ヴァルジャンの名声を上げる事になってしまい、焦ったテナルディエはジャン・ヴァルジャンが極悪人だと言いますが、マリウスは「いい加減にしろ、テナルディエ」と言って一括します。マリウスはゴルボー屋敷でテナルディエの部屋の隣に住んでいたのですべてを知っていました。テナルディエは人違いだと言い張りますが、マリウスは言いました。「間違えるものか、お前はワーテルローで父を助けた恩人だからな」「そんじゃああんた、あの時の将軍の息子なのか?」「将軍じゃない、大佐だ」「だとしたらあんたから恩を返してもらわなきゃな。あの将軍を助ける為に俺がどれだけ苦労した事か」「世間知らずだった昔の僕ならその言葉に騙されていたかもしれない。でも僕は学んだんだ。うわべの言葉ではなく、その行いを見てこそ、その人の真実がわかるのだと。テナルディエ、お前が戦場で父を助けたとはとても思えない。本当は気を失っていた父から金を盗もうとしていたのではないのか」「だったら何だって言うんだい。ここまで来てただで引き下がる俺様じゃないぜ」と言うとナイフを取り出し「さあ、金を出しやがれ」と言うとマリウスに襲いかかりました。ところがその時ドアが開くと警官が飛び込んできたのです。テナルディエは強盗の現行犯で逮捕されました。しかし飛び込んできた警官の顔を見たマリウスは驚きました。それはバリケードでアベセ友の会のメンバーに捕まり、ジャン・ヴァルジャンが処刑したと思っていたジャヴェールだったのです。ジャヴェールは「一度死んだが、ある男に新しい命をもらった。君もよく知っているあの男に」と言うとテナルディエを連行していきました。
 テナルディエは連行されながら「ちきしょう、捕まえても無駄だ。俺様は何度でも脱獄してやるからな」と言うと、ジャヴェールは「だったら何度でも捕まえてやる。いつか貴様が悔い改め、まともな人間に変わるまで何度でもな。テナルディエ、人は変わる事ができるんだ」と言うのでした。テナルディエが連れ去られると、マリウスはコゼットに「君のお父さんは本当にすばらしい人だ。探そう、一刻も早く」と言うのでした。
第52話 銀の燭台
 ジャン・ヴァルジャンがパリを去ってから1年以上が経過しましたが、何の手掛かりもありませんでした。ジャン・ヴァルジャンが望んでやまなかった貧しい子供達の学校は無事に開校し、ガヴローシュやブレソール、ユーグは学校に通うようになりました。そしてマリウスはジルノルマンの屋敷から離れたパリの外れに弁護士事務所を開き、困っている人を助けるようになります。この場所はマリウスがジルノルマンの屋敷を飛び出した時に、初めて借りた想い出の部屋でした。
 その弁護士事務所へトゥーサンが慌てて飛び込んできました。トゥーサンはジャン・ヴァルジャンから手紙が届いたと言うのです。ジルノルマンの屋敷に行ったマリウスとコゼットは、みんなの前でジャン・ヴァルジャンの手紙を読み上げました。その手紙には「愛するコゼット。だいぶ前に時が来たら私の過去について話すと約束したのを覚えていると思う。とうとうその時が来たようだ。今私はパリに行く事ができないので、済まないがマリウスと二人で私のところに来てほしい」と書かれていたのです。すぐにコゼットとマリウスはジャン・ヴァルジャンのいるドボルニ村に馬車で向かいました。馬車に揺られながらコゼットは心配でした。お父さんから手紙が来たのは嬉しかったのですが、お父さんに何かあったのではないかという気がしていたのです。
 馬車は2日も走り続けてようやくドボルニ村に到着しました。すると村人達がコゼットとマリウスの到着を今か今かと待っていたのです。ドボルニ村はとても貧しい村でしたがジャン・ヴァルジャンが来て以来、村人達は助け合うようになり、暮らしが楽になったのです。だから今度は自分達がジャン・ヴァルジャンの役に立とうと、こうして集まっていたのです。そしてコゼットは村人からジャン・ヴァルジャンは重い病気だと教えられました。
 ジャン・ヴァルジャンと一年ぶりの再会を果たしたコゼットは、一緒にパリに帰ってパリのお医者様に診てもらうよう言いますが、ジャン・ヴァルジャンは私はもうまもなく神に召されるのだからと言ってこの村を離れようとはしません。そしてジャン・ヴァルジャンはコゼットに自分の過去を語り始めました。
 「コゼット、私の本当の名前はジャン・ヴァルジャンと言うんだ。私は昔、徒刑囚だった。盗みの罪で監獄に入っていたんだ。その罪を償ったが、その後で少年の銀貨を盗んでしまい、ずっと警察に追われていた。コゼットとパリに来た時、昼間外に出られなかったのはそのせいだ。修道院で暮らす事になったのも、警察の手から逃れる為だった。コゼットにはずいぶん寂しくて不自由な思いをさせたね。だが今まで言えなかった。私の過去を知ったらコゼットが傷つくんじゃないかと思うと…」「お父様、昔何があったとしても私にとってお父様はお父様。小さい頃から私を守って育ててくれて、たくさんの人達を助けて、今も村の人達と助け合って暮らして、本当にすばらしい人。もっと話して、お父様の話を聞きたいの」
 「昔、私はパンを一つ盗んだんだ。私の姉が夫を亡くして7人の子供を抱えていた。私が養おうとしたんだが、生活が苦しくてね」パン屋からパンを盗んだジャン・ヴァルジャンは警察に捕まり懲役5年の判決を受けた。「徒刑場では24601号という番号で呼ばれ、人間らしい扱いは一切受けなかった。私は何度も脱獄しようとした。初めは姉と子供達を助けたいが為に。しかし途中から、ただ捕らえられた獣が檻の中から逃げるように、私は次第に人としての心を失っていったのだ。度重なる脱獄の罪が加わって、結局19年間を徒刑場で過ごした。やっと釈放されても自由にはなれなかった。罪を犯した者は身分証明書として黄色い旅券を持たされるからだ。黄色い旅券を持っているという事は前科者としてあらゆる差別を受けるという事だった。旅券が黄色いという事だけで金を持っていても宿に泊めてもらう事も食事をとる事も断られた。私がミリエル司教様に会ったのはその夜の事だった」教会の軒下で寒さに震えるジャン・ヴァルジャンにミリエル司教は家に来るよう勧めました。ジャン・ヴァルジャンは慌てて黄色い旅券を見せますが、ミリエル司教はそんな物は見せる必要ありませんよと言うのです。「ミリエル司教様は私を家に連れて行き、客として迎え入れ、温かい食事を食べさせて下さった」ジャン・ヴァルジャンは食事を食べるとベッドの用意までしてもらいました。ジャン・ヴァルジャンはミリエル司教に、なぜ俺にそこまでと尋ねると、ミリエル司教は「なぜですと? 目の前で困っている人を助けるのに理由などいりません」と言うのです。
 ジャン・ヴァルジャンは話を続けました。「私の心はすさみきっていた。元徒刑囚ではなく、一人の人間として接してくれた、ただ一人の人だったのに、夜中に銀の食器を盗んで逃げたんだ。しかしすぐに私は警察に捕まり司教様のところに連れて行かれた。私は絶望していた。再び罪を重ね、捕まったら今度は終身刑と知っていたからだ。ところが…」ミリエル司教は「その食器は私が彼に差し上げた物です。ジャン・ヴァルジャン、あなたはこれを忘れていきましたね。この銀の燭台も差し上げると言ったはずですよ。さ、どうぞ。決して忘れてはなりませんぞ。あなたがその銀を心正しい人になる為に使うと約束した事を。あなたのこれまでの魂は私が買い取って神に捧げました。もうあなたの中には暗い考えも悪い心もないのです」
 「私は言葉では言い表せないほどの衝撃を受けた。そして放心状態だった為にプチ・ジェルヴェという少年の落とした銀貨に気付かず返してやる事ができなかった。その時になってやっと私は自分の罪深さを思い知り心に決めたのだ。これからの人生はミリエル司教様が自分にして下さったように人の為に尽くそうと。私は変わった」「それからモントルイユ・シュル・メールに行ったのね」「ああ、そこでミリエル司教様から頂いた銀の食器を売ったお金を元手に黒ガラスの工場を造ったんだ」「お父様、お父様はとてもすばらしい人よ。辛い過去の出来事を聞いて、お父様が私のお父様でよかったって思うわ。大好きよ、お父様」「人は誰も平等にたった一つの命をもらってこの世に生まれてくる。しかし生まれた後の人生は決して平等とは言えない。自由を奪われ貧しさや飢えに苦しむ人々が多くいて、その人達の命が悲しいほど軽く扱われている。けれど、そんな世の中を変える方法はとても簡単な事だ。一人一人がまず自分自身を大切にして、他の人の事も自分と同じように大切にする。それができればいつかきっと誰もが力一杯自分らしく生きられる世界になる。人は変わる事ができる。人類も同じだ」「お父様、パリの学校ではたくさんの子供達が目を輝かせて勉強しているのよ。ガヴローシュもトゥーサンもみんなお父様に逢いたがっているわ。パリに来て、お父様」「コゼット、いいんだ。私は十分に生きたのだから。コゼットのおかげで私にはもったいないくらい幸せに過ごせたんだから。十分すぎる」「お父様、私だってお父様のおかげでどんなに幸せだったか。お父様に守られていたから、世の中のいろんな人達と出会って、自分だけが辛いんじゃないって事も知ったし、何よりもお父さんができた事がとっても幸せなの」「コゼット、ただ一つ悔いが残る。ファンティーヌとコゼットを逢わせられなかった事が…」「お父様、お父様が私を迎えに来た時、森の泉でお母さんの声が聞こえたの。だからあの時、お母さんも一緒に来てくれたんだってわかったわ」「そうか…」
 その時ジャン・ヴァルジャンの目にはミリエル司教様とファンティーヌの姿が映りました。それはコゼットにも見えました。ジャン・ヴァルジャンはコゼットとマリウスに、ミリエル司教からもらった銀の燭台にロウソクを立ててもらうと、「私がミリエル司教様から頂いた闇を照らす明かりを今度は君達が受け継いでいってほしい。そして君達の子供達、その子供達へと… 私はそんなに遠くへ行くわけじゃない。いつも君達を見守っているよ。コゼット、マリウス、幸せに…」そう言い残してジャン・ヴァルジャンはミリエル司教様やファンティーヌの待つ天国に旅立って行きました。
 パリに帰りジャン・ヴァルジャンの葬儀に参列したコゼットは、ジャン・ヴァルジャンのお墓に手を合わせると、「お父さん、お母さんと一緒に見守っていてね」と言います。そこへジャヴェールがやって来ると「ジャン・ヴァルジャン、数奇な人生を生き抜いた男、その生も死もすべて自然のまま。昼が去った後に夜が来るのに」と言うのでした。そして数年後、幼少のコゼットそっくりの子供を連れたコゼットとマリウスがお花畑を歩いていました。子供はコゼットの付けているペンダントがきれいと言います。コゼットはファンティーヌが言っていたように「これはお母さんの大切なペンダントなの。あなたが大きくなったらもらってくれる?」と言うのでした。
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