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アルプスの少女ハイジ  ストーリー詳細

第1話 アルムの山へ
 1877年のスイスのラガーツの町に、5歳になるハイジが、お母さんの妹のデーテのもとで暮らしていました。ハイジは1才の時に両親を亡くし、ほとんどよそに預けられる寂しい日々を過ごしていました。ハイジが5才になったある日、デーテがドイツのフランクフルトに働きに出る為、ハイジはアルムに住むハイジの父親方のおじいさんであるアルムおんじのもとに預けられる事になりました。
 アルムおんじは村人とは一切付き合わず、その頑固と無愛想と気難しさゆえに村人にとって恐怖の象徴でありました。デーテは春だというのにハイジに着れるだけ服を着せて荷物を減らし、ハイジは暑くて仕方ありませんでした。デーテとハイジがデルフリ村にやって来ると、村人たちはデーテがハイジをアルムおんじに預けようとしている事をたいそう驚き、そしてやめるように言いますが、デーテは聞く耳を持ちません。しかしハイジはアルムの山が珍しく、服を全部脱ぎ捨ててシャツとパンツだけになると、さっそく知りあいになった羊飼いのペーターや、山羊と飛び跳ねています。デーテはアルムおんじの住む山小屋に行き、アルムおんじにハイジを預かるように言いますが、おんじは預かる事を断ってしまいます。デーテとアルムおんじはケンカになり、アルムおんじはデーテを山から追い返し、デーテはハイジをアルムおんじのもとに置き去りにして下山してしまうのでした。
 おじいさんはとても気難しい人のようでした。このアルムの山小屋におじいさんと二人っきり、ハイジはどうなってしまうのでしょうか。
第2話 おじいさんの山小屋
 デーテおばさんと別れて山に残ったハイジは、見るもの聞くものがすべて目新しいので心がうきうきと弾んでくるのでした。でも気難し屋のおじいさんはデーテおばさんが山を降りてからもあいかわらず不機嫌でした。しかしハイジはそんな事にはおかまいなしです。ハイジは自分の寝場所を探して屋根裏に行き、窓から見えるアルプスの雄大な自然の景色に感激し、屋根裏に干し草のベッドを作って大喜びです。気難し屋のおじいさんもハイジと話しているうちに、いつになく自分の心が楽しく明るく和んでくるのを不思議な思いで感じていました。
 ハイジはおじいさんと一緒に昼食を食べようとしますが、ハイジは小さいので椅子に座ってもテーブルまで届かず、ハイジは椅子をテーブル代わりにして、おじいさんと一緒に楽しく昼食を食べます。昼食後、おじいさんはハイジの為に背の高い椅子を作り、それを見たハイジは大喜びするのでした。それからもハイジはアルムの大自然を一人で駆け回ります。ハイジは今朝まで預けられていた街中の狭い部屋の事など忘れてしまいました。広々としたアルムのおいしい空気を胸一杯吸って、ハイジの心はどこまでもはずむのでした。
 やがて夜が来ました。外では風が激しく吹き荒れています。おじいさんは一人で眠るハイジが風の音で恐がっているのではないかと心配で、屋根裏部屋に見に行きました。でもハイジは自分で作った真新しい干し草のベッドで暖かそうにスヤスヤと寝息を立てていました。
第3話 牧場で
 アルムの山に朝が来ました。デーテおばさんと別れたハイジはおじいさんと山小屋で初めての朝を迎えたのです。ハイジが目覚めると、既にペーターが山羊を連れて山小屋に来ていました。ペーターは村の人やアルムおんじの山羊を連れてアルムの山に登り、牧場に行って草を食べさせたり面倒を見る仕事をしていたのです。ハイジはペーターに連れられて山羊達と一緒に山の牧場に出かける事にしました。山に登る途中、一面に広がるお花畑や雪を残した深い谷間に感激したハイジは、ベッドの干し草をお花畑にしようと、せっせと摘み始めます。ペーターに山の上にはタカやかわいいのや大角の旦那がいると聞いたハイジは大喜びで山の上まで上がりますが、山の上に着いたとたん、ペーターはくたびれて眠り込んでしまいました。朝早く起きて村中の山羊を連れて来るのですから無理もありません。でも初めてのハイジは、とても眠る気にはなりませんでした。すがすがしい空気の中でお弁当を食べたり、はしゃぎすぎて崖から落っこちそうになったり、それはもう楽しい事ばかりで過ごすのでした。
 やがて夕方になり山を降りる時間になりました。すると夕暮れの陽を浴びたアルムの山々は真っ赤に染まり、その中をタカやかわいいのや大角の旦那が姿を現したのです。それは街中の狭い部屋しか知らないハイジには神秘的な光景でした。山小屋に戻ってきたハイジは、おじいさんにおみやげの花を見せました。ところが花はみんなしおれていたのです。ハイジは「かわいそうに、もう決して摘まないわね。さよなら」と言って花を谷からまきました。ハイジは花がみんなしおれていた事にたいそう心を痛めてしまいました。でも晩御飯になるとすっかりと元気を取り戻し、山の上であった事を次から次へとおじいさんに話すのでした。
 ハイジは「どうして鷹はあんなに鳴いて下に向かって叫んでるの?」と尋ねます。するとおじいさんは「鷹はな、人間が下界にごちゃごちゃと固まって住み、お互い腹を立てあっているのを笑っているのだ。下に向かってこう言ってあざけっているのだ。お前達ももっと独り立ちになって自分の道を行き、私のように高い空を飛んでいれば必ず幸せになれるぞ」と答えます。そうです、おじいさんは村の人々と離れてこの高い山小屋で鷹のように住んでいるのです。おじいさんは鷹の事を話しながら自分の考えを叫んだのでした。その夜ハイジは心地よい干し草のベッドの中でキラキラと光っている山々や、その上の赤いバラの夢を見ました。その中で子山羊のユキちゃんが嬉しそうに駆けて跳ね回っているのでした。
第4話 もう一人の家族
 アルムの山小屋にも夏がやって来ました。今日もハイジはいつものようにペーターと山の牧場へ出かけました。ところが牧場に着いて一休みしかけた時、突然風が強くなり雲行きが怪しくなって来たのです。ペーターとハイジは山羊達を連れて大急ぎで岩棚に隠れて嵐をしのぎましす。それはそれは恐ろしい山の嵐でした。ハイジにとっては、またまた新しい経験でした。自然の変化の恐ろしさ、山の天候は急に変わる事があるのだと初めて知らされたのです。
 嵐が去った後、ハイジは大きな木の下で怪我をした金翅雀(ひわ)のヒナを見つけました。ハイジはヒナを育てようと考えます。ペーターは弱っているから育つはずないと言いますが、ハイジはどうしてもヒナを育てたくて、ペーターをおいて山小屋に戻ってしまうのでした。ヒナを見たおじいさんもヒナが弱っていたので育てるのは無理だと思っていましたが、ハイジはどうしても育てると言い張り、食器に干し草を入れるとヒナの巣を作り、野原を駆け回って生きた餌を捕まえてはヒナに食べさせます。そしてその夜ハイジは自分の枕元にヒナを寝かせて眠りにつくのでした。
 翌日、ハイジはそのかわいいヒナにピッチーという名前を付けて、ピッチーの餌にする虫を探してアルムの山や草原を走り回ります。ハイジはピッチーの世話をする為、ペーターと一緒に山の牧場に行かないと言ったので、とうとうペーターとハイジはケンカしてしまいました。でもハイジはピッチーの事で頭がいっぱいだったのです。
第5話 燃えた手紙
 このところペーターは不機嫌でした。ハイジがピッチーの世話ばかりに気を取られ山の上の牧場に行かなくなったからです。ペーターはつまらなかったのです。ペーターは村から山小屋に行こうとした時、アルムおんじ宛の手紙を預かりました。しかしペーターは山小屋に着くとピッチーばかり相手にしているハイジを見て手紙の事などすっかりと忘れてしまい、山羊を連れてさっさと山の上の牧場に行ってしまうのでした。
 ハイジのおかげで元気を取り戻したピッチーは、もうじっとしている事ができません。そんなピッチーを見ていたハイジは思い切ってピッチーを山に連れて行く事にしました。ペーターの後を追ってハイジはピッチーに飛ぶ練習をさせながら山の牧場へ行きました。ペーターはハイジがまた山に来てくれた事が嬉しくてたまりませんでした。ハイジが来ない日は本当につまらなくて仕方なかったのです。山でのピッチーはもう嬉しくて嬉しくて仕方のないように飛び回りました。
 ところがどうでしょう、ピッチーの頭上に恐ろしい鷹が現れたのです。ハイジもペーターもすっかりと慌ててしまい、ハイジはピッチーを捕まえようとし、そしてペーターは鷹に石を投げたり体当たりして、何とか鷹からピッチーを護り抜くのでした。しかし、ハイジとペーターがピッチーに夢中になっているうちに、子山羊のユキちゃんとハイジの家の山羊のシロクマがどこかに行ってしまったのです。ハイジとペーターは必死になって捜し回りましたが、どこにも姿は見えません。しかも霧が濃くなり何も見えなくなってしまいました。山羊達はどうにか見つかりましたが、霧が深くて迷子になってしまい、ペーター達は霧が晴れるまでじっとしている事にしました。ハイジはとても心細く感じていましたが、そこへおじいさんの飼犬のヨーゼフがやって来たのです。ヨーゼフは道案内をし、どうにか山の牧場に戻ると牧場におじいさんが来ていました。ペーターはてっきりアルムおんじに怒られるものと思っていましたが、おんじは怒る事なく3人で遅くなった昼食を食べるのでした。
 山小屋に戻ったおじいさんはペーターから受け取った手紙をあけました。それはデーテおばさんからの手紙でした。手紙には「いつかハイジを迎えに行きたい」と書かれていたのです。でもおじいさんはもうそんな手紙に用はありません。ハイジはいつの間にかおじいさんにとって誰にも渡せない本当に大事なものになっていたのです。おじいさんはその手紙を暖炉に投げ捨て、燃やしてしまうのでした。
第6話 ひびけ口笛
 夏も終わりに近づき山の生活になじんだハイジはペーターに負けないような山羊飼いになろうと思い始めます。おじいさんの真似をして山羊の乳を搾ってみますが、うまくできません。またペーターのように口笛を吹いて山羊を集めようとするのですが、出るのは変な音ばかりでした。ハイジがペーターと山の牧場に出かけ昼食を食べる時、ハイジはペーターに代わって山羊達を集めようとしますが、口笛は吹けず、山羊達に声をかけても逆にバラバラに散るばかりです。さらに山羊の数を数えようとしても、山羊達は動き回るので数える事もできませんでした。
 おじいさんは久しぶりに山を降りました。おじいさんは高いところに生える固い木を材料にして作ったお椀やスプーン、それに自分で作ったチーズなどを持って村へ下り、それと引き換えに帰りにパンなどを仕入れて帰って来るのです。しかし村に降りると村人達は口々におじいさんの悪口を陰でひそひそと話し、とうとうパン屋で言い争いとなったおじいさんは、村でパンを買う事をあきらめ、さらに下ってマイエンエェルトのパン屋まで行く事にしました。遠いマイエンフェルトの町にはデルフリ村と違って色々な品物がどっさりと店に並んでいました。そこでおじいさんはハイジの為に飴を買って帰るのでした。
 夕方になってペーターはお腹の調子を悪くしてしまいます。そんな時に限って山羊達が騒ぎ始めるのです。ハイジは山羊をなだめようとしますが、山羊達はハイジの言う事を聞かず、騒ぎはいっこうにおさまりません。ハイジは口笛を吹こうとしますが変な音しか出せず、とうとうハイジは泣き出してしまいます。どうにか騒ぎはおさまりましたが、ハイジはショックで山羊飼いになるのをあきらめようとしたその時、試しに口笛を吹いてみると、なんと口笛が鳴ったのです。ハイジは嬉しさのあまり口笛を吹き続け、その音はアルムの山にこだまして、山羊達は集まってきました。ハイジは自分が山羊飼いになれると言って大喜びで口笛を吹き続けるのでした。
 山小屋に戻ったハイジはペーターに教わったおかげで山羊の乳を搾れるようになりました。村から戻ったおじいさんに自分が山羊飼いになれるようになった事を報告し、おじいさんと一緒に口笛を吹き続けるのでした。ハイジは本当にもうすっかり山の子です。そして今のおじいさんにはハイジのいない山の生活など考えられなくなっていました。
第7話 樅の木の音
 ハイジがアルムの山へ来ておじいさんと一緒に暮らすようになってかれこれもう3ヶ月、そろそろ夏も終わろうとしています。ハイジは山の生活にも慣れて山羊の乳も上手に搾れるようになりました。口笛もうまく吹けるようになり、ハイジは今ではもうすっかり山の子です。ハイジが拾った時はヒナだったピッチーも今では一人前の小鳥になっていました。
 アルムの山はこのところ風の強い日が続いています。秋がもうすぐそこまで来ているからです。風が強くなってきたので、おじいさんに山へ行く事を禁じられたハイジは、おじいさんのチーズ作りを手伝うことになりました。ハイジが山に行かないと知ったペーターは、ハイジと一緒に山に行けないのが寂しくて急に機嫌が悪くなってしまいました。それに山羊達はすっかりハイジに慣れていましたから、ハイジが来なくなると山羊達はグズグズしてペーターの言う事をなかなか聞かない事をよく知っていたのです。
 ハイジは樅の木が強い風を受けて轟々と鳴る音にじっと耳を傾けていました。木のずっと先の方で何か重々しい音がするから、何事か話しかけているように思えて、たまらなくハイジを引きつけていたのです。ハイジはおじいさんに山小屋に入るように言われるまで、ずっと樅の木の音を聞いていました。
 ハイジはおじいさんにチーズの作り方を学びます。まず山羊の乳を鍋に入れ火にかけて温めながら焦げないように掻き回し続けます。おじいさんは自分がチーズを作るのをハイジに見せるだけのつもりでいましたが、ハイジはどうしても自分でチーズを作ると言い張ったので、おじいさんはハイジに鍋を掻き回してもらう事にして、おじいさんはその間、干し草の取り込みに行く事にしました。ハイジは一生懸命鍋を掻き回しました。ところが山へ行ったはずのユキちゃんがハイジに会いたくて一人で山小屋に帰ってきたのです。ハイジは鍋を掻き回す事などすっかりと忘れ、ユキちゃんを山へ連れ戻しに行くのでした。
 山から戻ってきたハイジが見たものは、焦げついた鍋を掃除しているおじいさんの姿でした。ハイジはおじいさんに謝ります。するとおじいさんは「いいんだよハイジ、おじいさんの方が悪かったんだ。お前にこんな事を頼むのは無理だったのさ」と言うのでした。おじいさんは一言もハイジを叱りませんでした。だのにハイジはとても悲しかったのです。ミルクを掻き回す事ならハイジにだってちゃんとできるはずでした。少しも無理な事ではなかったのです。ただユキちゃんの事に気を取られた為にミルクを焦がしてしまったのです。
 ハイジが樅の木を見あげていると樅の木がハイジに話しかけます。「ハイジわかればいいんだよ、明日から失敗しないよう頑張ればいいんだ、そうすればおじいさんだってチーズ作りを手伝わせてくれる」ハイジは樅の木が風に鳴る音を聞いていたのでした。次の日ハイジはおじいさんがチーズを作るのを一生懸命手伝いました。山で暮らす事の厳しさをハイジは昨日の事件でよく知ったからなのです。ハイジはこうして一つずつ色々な事を覚えていくのでした。
第8話 ピッチーよどこへ
 ハイジが山の牧場へ行かなくなってからアルムの山にも短い秋が訪れ、新しい雪が峰々を真っ白に輝かせています。すっかり山の子になったハイジには楽しい毎日でしたが、ある朝いつも起こしてくれるはずのピッチーが今朝は姿を見せませんでした。寝坊したハイジは近くを捜し回りますが、呼べど叫べどピッチーは姿を見せません。心配になって探しに行った山でハイジはピッチーを見つけるのですが、ピッチーは呼んでも戻っては来ませんでした。ハイジにはどうしてピッチーが自分の所に戻ってきてくれないのか理解できず、しょんぼりしてしまいます。帰り道でペーターに出会ったハイジはペーターに、どうしてピッチーが起こしに来なくなったのかを尋ねたところ、ペーターは起こすのが面倒になったかハイジが嫌いになったからと適当に答えた為、ハイジは怒って駆け出してしまうのでした。
 山小屋に戻ったハイジはおじいさんに「どうだったね」と尋ねられ、ピッチが姿を見せなくなった悲しさで、おじいさんに泣きながら抱きついてしまいます。そしておじいさんはハイジに「きっと寒くなってきたので暖かいところに引っ越して行ったんだ。ピッチーがいくらハイジの事を好きでも、この寒い山の上では冬を過ごす事はできないんだ。独りぼっちでここにいるより、暖かいところで仲間と一緒に暮らす方がずっといいんだ」と言うのでした。それを聞いて納得したハイジは、おじいさんに「でも、おじいさんはどうして他の人と一緒に暮らさないの? 人間だって鳥と同じでしょ」と尋ねます。おじいさんは答えに困りましたが「鳥にだって色々あるさハイジ、鷹のように一人っきりで暮らす鳥もいるだろ」と答えるのでした。そして春になったらピッチーが帰って来るというおじいさんの言葉を聞いたハイジは、まだ遠い春の訪れを心待ちにするのでした。
 ハイジはピッチーの事でペーターを怒っており、翌日ペーターが朝、山小屋にやって来ても顔も見せません。ペーターはハイジの姿が見られなくてがっかりして山に登って行きます。ペーターは何とかハイジと仲直りしたくてピッチーの代わりとなる小鳥を捕まえようとしますが、なかなか捕まえる事ができませんでした。
 ピッチーがいなくなった事で寂しがっているハイジを見たおじいさんは、ハイジを連れて栗拾いに行く事にしました。おじいさんと一緒に、たくさんの栗を拾い、そして山葡萄まで取る事のできたハイジは大喜びで山小屋に戻って来ると、そこにはペーターが待っていました。ハイジはペーターを無視して山小屋に入ろうとすると、ペーターは昨日の事を謝って、ハイジに小鳥を渡したのです。それはピッチーを失って悲しんでいるハイジを思ってペーターが捕まえた小鳥でした。ハイジはペーターの気持ちに感激し、取ってきたばかりの山葡萄と栗をペーターに分けてあげます。ハイジは「さっきまでペーターの事を悪く思ってたの、ごめんね」と言うのでした。こうして2人は無事に仲直りを果たすのでした。
 ハイジはペーターからピッチーに代わる小鳥をもらいましたが、ハイジはこの小鳥も冬には暖かいところに行く鳥だとおじいさんから聞くと「小鳥はみんなと暮らす方がいいんだもん。ペーターには明日、謝るわ」と言って小鳥を大空に放してやるのでした。「さようなら、ピッチー」と言って…
第9話 白銀のアルム
 アルムの秋はあっという間に過ぎてしまい、山は冬に向かって日1日と寒さを増していました。アルムの山にも初雪が降り、やがて山小屋はすっぽりと雪に包まれてしまいます。雪が降りだすとペーターの山羊飼いの仕事はなくなるので、ハイジはペーターや山羊のユキちゃん達と逢えなくなってちょっぴり寂しいのですが、おじいさんの仕事を手伝ったり樅の木に集まるシカなどの動物達に餌をあげたりして初めての冬を過ごします。アルプスの冬は大変厳しいものでした。でも、新しい喜びを見つけたハイジには、そんな事は少しも苦になりませんでした。
 そんなある日、ペーターがアルムの山小屋にやって来たのです。ハイジはおじいさんと二人っきりで少々退屈気味だったので大喜びでした。ハイジはペーターに冬の間どうしているのかを問うと、ペーターは学校に行っていると言うのです。ハイジは学校に行った事がなかったので、ペーターに色々と学校について聞きました。ペーターは口下手で自分の考えを言葉で言い表すのがとても苦手でしたから、説明するのに大変苦労しました。それでもペーターは学校がどういうところであるかという事や、勉強が難しくて退屈な事、山羊と一緒に暮らしている方がよっぽど楽しい事、しょっちゅう先生に怒られてばかりいてそのたびに友達から笑われている事など、学校での生活をつっかえつっかえ話してくれました。
 ペーターは帰り際、ペーターのおばあさんがハイジに会いたがっているから来てくれないかと言います。ハイジは自分が誰かに呼ばれて会いに行くなどという事は今まで考えたこともなかったので、一瞬返事を忘れるくらいびっくりしてしまいました。ハイジは大喜びでしたが、おじいさんは冬の間は雪が降っているから出歩くのが危険だと言います。おじいさんは雪のせいにしてハイジを止めようとしましたが、本当はハイジが村の人と付き合う事にあまり乗り気ではなかったのです。雪が晴れたら果たしておじいさんは行かせてくれるでしょうか?
第10話 おばあさんの家へ
 吹雪がアルムの山をすっぽりと包み込んでいます。ペーターが山小屋へやって来た次の朝の事、ハイジはペーターのおばあさんを訪ねる事にしていましたが、吹雪で一歩も外に出る事はできません。おじいさんに言われてその日はあきらめたものの、おばあさんの家に行くという考えはハイジの頭の中から離れませんでした。おばあさんに招かれたのですからどうしても行かなければと思ったのです。しかし次の日も、そしてその次の日も吹雪はやみませんでした。そうした5日目、昨日までの吹雪もやんで、みちがえるほどの上天気になりました。ハイジは吹雪がやんだので今日はおばあさんの家に行けると思っていましたが、おじいさんは雪が凍ってくれないとどこにも行けないと言うのです。ハイジにとっては、がっかりでした。
 そして次の日、昨夜一晩で雪が凍ったので、とうとうハイジはおじいさんのソリでペーターの家を訪れる事になりました。おじいさんに送ってもらったハイジを貧しい家で待っていたのは目の不自由なおばあさんの姿でした。ハイジは目が見えないという事が理解できず、おばあさんの目が見えるように窓を開けようとしたり、外に連れ出してあげようとしましたが、おばあさんの「でも私にはもう見えないんだよ。この世界は私にはも明るくならないんだよ、もう決してね」という言葉を聞いたハイジは、夕日に照らされ金色に燃えている山も見る事ができないのだと思うと、おばあさんのひざで泣き崩れてしまいます。ハイジは普段滅多に泣く子ではありませんでしたが、おばあさんの目が見えない事を知った時には、おばあさんがかわいそうでいつまでも泣き続けるのでした。
 ペーターの家はお父さんを亡くし、おばあさんとお母さんのブリギッテとペーターの3人暮らしの為、まだ子供のペーター以外に男手がおらず、雨戸は外れかかり屋根や壁は崩れそうになっていました。それを見たハイジはおじいさんならきっと直してくれると言っておばあさんに約束します。しかしおばあさんやブリギッテは村人の噂通りアルムおんじがそんな親切な事をしてくれるはずがないと思い込んでいました。おばあさんたちはハイジがアルムおんじの山小屋でどのような生活をしているのかとても興味があり、次々にハイジに質問します。ハイジは山小屋に来てからの事や、冬の間どうやって暮らしているかという事などおじいさんとの暮らしを次々とおばあさんに話して聞かせるのでした。おばあさんやブリギッテは、てっきりハイジがアルムおんじに辛くあたられていると思い込んでおり、ハイジの話を聞いても半信半疑でした。
 おばあさんの夢はお祈りの本を読んでもらう事でした。お祈りの本には美しい歌がいくつも書かれており、おばあさんはもう何年もその歌を聞いていないので、一度でいいから歌を聞きたいと思っていたのです。しかしおばあさんは目が見えず、ブリギッテは字が読めないし、学校に行っているペーターも勉強嫌いで字を覚えられなかったのです。ハイジも字は読めませんでしたが、いつかおばあさんに美しい歌を語って聞かせたいと思うのでした。
 ハイジが山小屋に帰ろうとした時、おじいさんはペーターの家まで迎えに来ていました。それを見たブリギッテは、アルムおんじがハイジをかわいがっているのが本当だと悟ったのでした。おじいさんと一緒に山小屋に帰る途中、ハイジはおじいさんにあっちこっち壊れているペーターの家を直してくれるよう頼みます。それを聞いたおじいさんはハイジに「誰がおまえそんな事を言った?」と尋ねると、ハイジは「誰も言わないわ、自分で考えたのよ。だっておじいさんならできるんだもの。ね、明日一緒に行きましょうよ」と言うのです。おじいさんはそれまで、他人の為に何かをしたりした事などありませんでしたが、それがハイジが考えた事だと知ると、ハイジの為に何とかしてやろうと考えたのです。
 次の日、おばあさんとブリギッテは突然家が揺れ始めた為、恐怖に脅えてしまいました。しかしハイジがやって来て、おじいさんが家を直してくれていると説明すると、おばあさんは「神様はまだ私たちの事をお忘れにならなかったのね」と言って大喜びです。おばあさんはアルムおんじに何とかお礼を言おうとしますが、おんじは相変わらずの頑固でした。おじいさんはその日1日、ペーターの家の周りや屋根にのぼったりして壊れている所を全部直してまわりました。長い間なんの楽しみもなかったおばあさんにとって、この日は今までにない幸せな日でした。例え目は見えなくてもおばあさんの心は夕陽に照らされ金色に燃えている山のように明るく輝いていました。
第11話 吹雪の日に
 アルムの冬は厳しく毎日雪は小やみなく降り続いています。おじいさんとペーターの家を直しに行ってからもハイジは短い晴れ間をぬっておばあさんに逢いに行く事を楽しみにしていました。そんなある日、雪がやんで晴れ間が見えて来たので、ハイジはおばあさんの家に行こうととますが、おじいさんは空模様を見ると吹雪になるから行ってはいけないと言います。その時、ふもとから獲物を追って来た猟師達がペーターの案内で山小屋の近くまでやって来ました。ペーターは冬の間、村にやって来る猟師から小遣いをもらって山を案内していたのです。
 猟師達は暖をとろうと山小屋に勝手に入り込みますが、おじいさんに邪険にされ再び猟に出かけようとします。おじいさんはもうすぐ吹雪になるから山を降りるように言いますが、空は晴れていたので猟師達はおじいさんの止めるのも聞かず山の奥深く入って行きました。しかし猟を続けているうちに雲行きが怪しくなり、とうとう吹雪に閉じ込められてしまいます。吹雪がひどくなるにしたがいハイジは段々心配になりました。ハイジがあまりに心配するので、吹雪の中をおじいさんは猟師達を探しに出かけます。案の定、猟師達は吹雪で遭難しており、おじいさんは吹雪の中で倒れていた猟師を一人はヨーゼフの引く犬ぞりに乗せ、もう一人はおじいさんが背中におぶって山小屋まで連れて帰るのでした。おじいさんが山小屋に戻って来た時には、もう夜になっていました。ハイジはおじいさんも猟師達も無事に戻って来た事に大喜びです。そして翌日、元気になった猟師達はおじいさんに礼を言って山を降りて行くのでした。
第12話 春の音
 吹雪に明け暮れていたアルムの山にも春が忍び寄って来ました。いちはやくその気配を感じ取ったハイジはすっかり嬉しくなって野山を駆け回ります。溶けかけた雪の中に美しく咲いている花を見つけたハイジは、おじいさんからそれが春を告げる雪割草の花である事を教えてもらいました。雪割草は春が近づくと雪を押し分けて芽を出し、真っ先に花を咲かせて春の到来を知らせてくれる花なのです。それを知ったハイジは雪割草をおばあさんに届けてあげる事にしました。おばあさんは雪割草の匂いをかいで「ハイジが春を運んで来てくれた」と大喜びするのでした。
 一方アルムの山の谷間では、ここ4〜5日の陽気に冷たく固まっていた雪が緩んで、恐ろしい雪崩れが起こり始めていました。ハイジはペーターとのソリ遊びを楽しみます。最初はペーターの操るソリの後ろにハイジが乗っていましたが、ハイジはどうしても自分がソリを操りたかったので、ペーターに頼んでハイジがソリを操る事になりました。しかし、ハイジの操るソリはとても危険で、何度も転倒し、とうとうペーターが根を上げて再び交代です。ところが今度は同じくソリ遊びしていた村の少年達に因縁をつけられ、ソリ競争する事になりました。勝負はペーター達が勝ったかに見えましたが、ゴールの直前にハイジがソリから落ちそうになってソリは転倒し、惜しくも負けてしまうのでした。
 雨が降りだし雪崩れの危険があったのでおじいさんがハイジを迎えに行きます。ハイジとペーターは雨を避けて林の中を歩き、おじいさんに合流しますが、その時、雪崩が襲いかかり、危うく雪崩に巻き込まれそうになるところをおじいさんに助けられるのでした。ハイジは恐ろしい目にあいました。もしおじいさんが来てくれなかったら… でもそれは春の訪れを知らせてくれるものでもあったのです。そしてアルプスの山々にも、また楽しい春が一歩一歩確かな足音を響かせてやって来ていました。
第13話 再び牧場へ
 厳しかったアルムの冬も過ぎ去り、待ちに待った春がやって来ました。ハイジはもう嬉しくて仕方がありません。それというのも今日からペーターが山羊達を連れて牧場へ登るからです。かわいいユキちゃんや山羊達と久しぶりに会う事ができたハイジは楽しそうに牧場へ向かうのでした。牧場に向かう途中、ハイジは金翅雀の群れに出会いました。ハイジはピッチーが帰って来たと大喜びでしたが、数が多くてどれがピッチーか見分けがつきません。しかしハイジはペーターに「みんなピッチだったわ」と言うと、2人で笑い合うのでした。牧場に着いたハイジは、半年前と変わらない牧場の様子や、久しぶりにタカやかわいいのや大角の旦那に出会えて大喜びします。ハイジは花輪を作り、ペーターや山羊達にも花輪をかけてあげるのでした。
 ハイジ達が久しぶりの牧場に楽しんでいると、突然雨が降って来ました。ペーターの案内で岩棚に避難しますが、そこには見慣れぬ山羊の姿があったのです。ペーター達は隣村の山羊がまぎれ込んで来たのではないかと心配していると、山羊飼いの少年がやって来ました。すると少年はいきなり頭ごなしにペーター達が山羊を泥棒したと言うのです。少年はペーターやハイジの悪口を言うのでペーターと少年は殴り合いのケンカとなってしまいました。しかし少年の方が年が上だった事からペーターは負けそうになりますが、ヨーゼフが応援に来てくれたおかげで、少年は慌てて逃げ帰るのでした。
 牧場から帰って来たハイジを待っていたのは、おじいさんが村で買ってきてくれた帽子でした。アルムの夕焼けも春の暖かさがいっぱいです。おじいさんに買ってもらった帽子、それはハイジの春の装いなのでした。
第14話 悲しいしらせ
 アルムの山にも再び夏が訪れました。ある日、ペーターはユキちゃんの飼い主であるシュトラールさんから、ユキのお乳の出が悪いので、この夏を最後に殺してしまうと聞かされます。それを聞いたペーターはユキちゃんやユキちゃんと仲の良いハイジが気の毒でなりませんでした。ペーターはユキちゃんが殺されてしまう事をハイジに言う事ができませんでしたが、ペーターの様子がおかしいのでハイジが問い詰め、とうとうハイジもユキちゃんが殺される事を知ってしまいます。ハイジはすっかり悲しくなって、泣きながらユキちゃんを抱きしめるのでした。
 お乳の出の悪い山羊が殺されるのは村ではよくある事でした。おじいさんは「村の連中が山羊を飼うのは可愛がってやる為ではない。暮らしの為なんだ。おじいさんだってそうなんだよ。このシロやクマの乳を飲んだり、チーズを作って食べたり、売ってパンに換えたりする為なんだ。だから乳の出ない山羊は…」と言うと、ハイジは「ユキちゃんが殺すされるなんっていや、絶対いや〜」と言って飛び出してしまうのでした。それからもハイジはユキちゃんの事ばかり考えて悲しみました。おじいさんは「この世の中には仕方のない事がいっぱいある。どうにもならない事がいっぱいある。それに負けてしまっては暮らしてはいけない」と言いますが、ハイジには理解できませんでした。
 そんなハイジを見ていたおじいさんは、お乳の出が良くなる薬草がある事を教えてあげます。崖の岩場に生えている、匂いの良い草を食べさせれば、乳の出が良くなるのです。しかしおじいさんにも、今から食べさせて間に合うかどうかわかりませんでした。それでもハイジは、あくる日からペーターと一緒に匂いの良い草を夢中になって身の危険もかえりみず岩場へ探しに出かけました。どんなにユキちゃんの事を思っていても、やはり高い崖を登ったり降りたりするのは、とても恐いし難しい事でした。それでもハイジは少しでもたくさん草を取ろうと一生懸命でした。そしていつの間にか恐さを忘れ、危険な事も忘れてしまうのでした。
 おじいさんはハイジが危険な岩場で草を取っていると知り、次の日から山の牧場にヨーゼフを連れて行く事にしました。おじいさんがヨーゼフを山によこしてくれたので、ハイジとペーターは遠くまで匂いの良い草を探しに行く事ができるようになりました。今はユキちゃんの為にペーターの心もハイジの心も完全に一つになっていました。そしておじいさんも木工用の珍しい木を高い所に取りに行ったついでに、とびきり匂いの良い草を持って帰ってくれる事もありました。時には朝から雨が降ってペーターと山羊達が山に登ってこない事がありました。ハイジはそんな日には心配で1日中落ち着きませんでした。
 夏も終わりに近い頃、霧が出て草取りをあきらめなければならない日が何日か続きました。そしてその霧を吹き払うかのように強い風の吹くあくる日の事。崖の途中に草の生えているのを見つけたハイジはペーターの止めるのも聞かずに崖に登り、風に吹かれて崖から落ちそうになってしまいます。ペーターが助けに行きますが、とうとう二人とも岩場から落ちてしまい、ヨーゼフに助けられるのでした。でもハイジは足をくじいてしまい、ペーターは全身すり傷だらけになってしまうのでした。
第15話 ユキちゃん
 ハイジとペーターは夏中頑張ってユキちゃんに匂いのいい草を食べさせました。やがて秋になりユキちゃんの殺される事などすっかりと忘れていたある朝、突然ペーターはシュトラールさんから「もうユキは山にはやらない」と聞かされます。ペーターはハイジに会って、うなだれながらも「ユキは明日から山には来ないんだ」と言うと、ハイジは泣きながら駆け出してしまうのでした。ユキと別れなくてはならなくなった時、あらためて怒りと悲しみがハイジを襲います。ハイジは泣きながらもペーターに手を引かれて山に登りますが、悲しさのあまり、とうとう途中で「私もう行かない、もう行ったって仕方ないわ」と言ってしゃがみこんでしまいます。ペーターは何とかハイジを慰めようとしますが、ハイジの悲しみはおさまりませんでした。
 ハイジは気を取り直すと、ユキちゃんとの最後の想い出を楽しもうと、ユキちゃんやペーター、ヨーゼフと一緒に牧場を駆け回りました。しかしユキちゃんが今日限りで山には来なくなり殺されてしまうのかと思うと、ハイジは再び泣き出してしまいます。ハイジは食欲もなくて昼食も食べずに匂いの良い草を探して歩きました。ペーターは今さら食べさせても、もうどうしようもないという事を知っていましたが、ハイジには何も言えませんでした。そしてハイジはもうすぐ殺されてしまうユキちゃんに少しでも喜んでもらおうと、泣きながら匂いの良い草を食べさせるのでした。
 夕方になり山羊達は山を降りて来ました。するとハイジはユキちゃんを村には戻さず山小屋で一緒に暮らすと言いだしたのです。そんな事をすればペーターは怒られてしまうのでペーターは反対しましたが、ハイジに「ユキちゃんが殺されてもいいの?」と言われると何も言い返せず、ユキちゃんを山小屋に残したまま村に降りてしまうのでした。ハイジはおじいさんに内緒で一晩ユキちゃんを山小屋にかくまうつもりでしたが、おじいさんに見つかってしまいます。
 その頃、村ではシュトラールさんはペーターがユキちゃんを連れ戻ってこなかった事を厳しく問い詰めていました。ユキちゃんを連れ戻さなければペーターは山羊飼いを首にさせられそうだったので、ペーターは渋々、ユキちゃんがアルムおんじの山小屋にいると言ったのです。その頃おじいさんは、村で騒ぎになっているだろうと考え、ユキちゃんを村に連れて行こうとしていました。それでもハイジは一生懸命ユキちゃんの世話をし、そして乳を搾ってみました。するとハイジにはユキちゃんから搾ったお乳がとてもおいしく感じられたのです。ハイジはすぐにおじいさんにも飲んでもらいました。おじいさんも「いい乳だよハイジ、これだったらどこの山羊にも負けないいい乳だよ」と言ってくれたのです。ハイジは大喜びでした。おじいさんもユキちゃんを村に連れ戻すのを考え直し、一晩ユキちゃんを泊める事にするのでした。
 次の日の朝、ペーターと一緒にシュトラールさんがユキを取り返しにアルムおんじの所にやって来ました。ユキを盗られた事に腹を立てケンカ腰でやって来たシュトラールさんに、おじいさんは山羊の乳を飲ませました。それはユキちゃんの乳だったのです。ユキちゃんはハイジやペーターが夏中頑張って薬草を食べさせたおかげでとってもおいしい乳を出すようになっていたのです。ハイジの必死の説得のおかげでシュトラールさんは「よし、もう1年待ってみよう、ペーター、もう1年ユキをお前に預ける事にするよ」と言うと、ハイジは嬉しさのあまりシュトラールさんに飛びついて喜ぶのでした。そしてシュトラールさんが帰った後、おじいさんは「あいつめ、ハイジに負けおった」と言うのでした。
第16話 デルフリ村
 いつしか秋も過ぎ去りハイジはアルムの山小屋で3度目の冬を迎えました。ある日おじいさんのもとに学校の先生から手紙が来ます。先生からの手紙は冬の間ハイジを学校に通わせるようにという何度目かの催促でした。デルフリ村では冬の間だけ学校があり、8才になれば村の子供は学校に通うのです。ハイジは8歳。今年から学校に行かなければならない年だったのですが、何故かおじいさんはそうした話しをずっと無視しており、先生からの手紙も暖炉の火で燃やしてしまうのでした。
 ソリ遊びにもすっかり慣れたハイジは、ペーターと一緒にソリ遊びを楽しみ、ペーターの家まで行ってかくれんぼをします。ハイジはペーターの家の物置で大きなソリを見つけると、そのソリで再びソリ遊びを始めました。しかしペーターは調子に乗って下まで降りすぎた事に気付き、山小屋に戻ろうと言います。デルフリ村は目の前でした。しかしハイジはどうしてもユキちゃんの姿が見たいと言って1人で村に行くと言いだし、仕方なくペーターも付き合う事にしました。ハイジはユキちゃんと逢えて大喜びでした。
 村からの帰りにハイジは村の子供たちが雪合戦をしているのを見かけ、ハイジも村の子供たちに混じって雪合戦をして楽しく遊びます。ところがハイジが8才になっても学校へ行っていない事を知った子供たちはハイジをバカにし始めます。村人達はアルファベットが言えなかったり右左の区別がつかないハイジを不憫に思い、アルムおんじがハイジを学校に行かせないからだと陰口を言うのでした。
 山小屋に戻ったハイジはおじいさんに「8歳になったら学校に行かなきゃいけないって本当なの?」と聞きます。しかしおじいさんは「そんな必要はない。学校に行かなくても必要な事はここにいたって十分覚えられる。学校なんかに行ったってロクな事はない。くだらん事を覚えてくだらんやつになるのが関の山だ。それより山羊やヨーゼフと一緒に暮らしている方がよっぽど幸せなんだよ」と言うのです。誰にも邪魔されずにハイジと二人っきりで暮らしたいと思っているおじいさん。果たしてこれから先、その願い通りにいくのでしょうか?
第17話 二人のお客さま
 アルムの冬が雪解け水と共に遠くに去り樅の木がそっと春を告げる頃、デルフリ村から一人のお客さんがおじいさんを訪ねて来ました。村の牧師さんです。牧師さんはハイジを学校に行かせるように告げに来たのですが、どうした事かおじいさんはきっぱりと断ってしまいます。おじいさんは冬の凍える寒さの中、ハイジを2時間も歩かせて学校に通わせるのは反対でした。牧師さんはおじいさんが冬の間だけ山を降りて、村から学校に通うようにすればいいと言いますが、村人達と付き合うのが嫌いなおじいさんは、その考えにも反対で、とうとう牧師さんとの話し合いは物別れに終わってしまうのでした。それからというもの、おじいさんはすっかりと不機嫌になり、ハイジの質問にもロクに答えなくなってしまうありさまでした。
 同じ頃、デルフリ村にもう一人のお客さんが訪ねて来ました。それは3年ぶりにフランクフルトからデルフリ村に戻って来たデーテおばさんでした。デーテおばさんはフランクフルトで過ごした3年間の間に、すっかりと町の人になり、着ている衣装は村の人とは違って派手なドレスを着ており、村人達はびっくりしてしまいます。デーテおばさんはハイジを大金持の一人娘の遊び相手としてドイツのフランクフルトへ連れて行くという事でした。
 一晩村に泊まったデーテおばさんは、翌日山小屋に行きました。この日もおじいさんは不機嫌で、デーテおばさんが来ても無視したままでした。でもデーテおばさんは、そんな事は一向に気にする様子もなく、素敵な話があると言ってハイジをフランクフルトに連れて帰るとおじいさんに告げたのです。それを聞いたおじいさんは、とても驚いてしまうのでした。
第18話 離ればなれに
 デーテおばさんはフランクフルトで働いている時、奉公先の親戚でフランクフルトでも一二を争うほどの大金持の屋敷で子供の遊び相手を探しているとの話を聞きました。その屋敷の一人娘は足が弱く体も丈夫ではなく、学校にも行けず一日中家の中に閉じこもっていたので遊び相手が欲しかったのです。それを知ったデーテおばさんは真っ先にハイジの事を思い出し、ハイジを一人娘の遊び相手にしようと屋敷の執事であるロッテンマイヤーさんに会って話を決め、ハイジをおじいさんのもとから連れ戻しに来たのでした。
 でもデーテの思惑とは逆で、おじいさんはハイジをデーテに渡す気はまったくありません。「連れて行けるなら連れて行ってみるがいい、どこにでも勝手に連れて行ってあの子を腐らせてしまえ。もう二度とあの子を連れてわしの前に現れるな」「じゃあ連れて行ってもいいのね」「ハイジがついて行くわけはない」「あら、そんな事、あの子に聞いてみなけりゃ、わかりゃしないわ」「いや、あの子は行かん」「とにかくあの子の気持ちを聞いてみるわ」そう言ってデーテおばさんはおじいさんを残し、外で遊んでいるハイジの所に行ってフランクフルトに一緒に行こうと言います。デーテおばさんは何とかしてハイジをフランクフルトに行かせようとしますが、ハイジはおじいさんのもとを離れたくないと言って聞きません。業を煮やしたデーテはハイジにおじいさんやおばあさんにお土産を持って今日中に帰ってこられるからと嘘をついて何も知らないハイジを連れ出してしまったのです。ハイジはおじいさんにタバコ、ペーターのおばあさんには白パンをお土産に持って帰りたいばかりに、デーテおばさんについて行くのでした。
 ハイジが騙されてついて行くという事をまったく知らないおじいさんはハイジが自分のもとを去って行った事がショックで呆然としてしまいます。デーテおばさんとハイジはペーターに出会いました。ペーターはどこに行くのかハイジに尋ねるとハイジはフランクフルトと答えたのです。ペーターはフランクフルトがどこにあるのか知っていました。一度フランクフルトに行けば当分帰ってこられないと言う事を… そしてハイジはデーテおばさんに引きずられるようにペーターのもとを立ち去って行くのでした。
 ペーターは家に帰るとお母さんのブリギッテやおばあさんにハイジがデーテおばさんにフランクフルトに連れて行かれたと告げました。ハイジが来るのを毎日楽しみにして待っているおばあさんは、見えない目で窓際まで行くと「デーテ、その子を連れて行かないでおくれ」と言います。ハイジはその声を聞いて戻ろうとしますが、デーテおばさんはその声を無視し「グズグズしてると今日中に帰って来られなくなるよ」と嘘をついてハイジの手を引いて、さっさと山を降りてしまうのでした。
 おばあさんは食事も喉を通らず「ハイジはいつになったら帰って来るんだろうねぇ〜 いい事も楽しい事もみんななくなってしまったよ」と言います。それを聞いたペーターはハイジがいつ帰って来るのかアルムおんじに聞こうと山小屋まで行きました。そこでペーターが見たものは落ち込んでいるアルムおんじの姿でした。「もうハイジは帰って来ないんだ。わしには信じられん、まさかハイジがわしからいなくなるなんって」と言うおじいさんにペーターは「おんじのバカ、どうしてハイジを行かせちゃったんだ」と言うと、泣きながらハイジとよく遊んだ山の牧場まで走り、泣き叫ぶのでした。
 ハイジは自分が騙されている事などまったく気付かぬまま、一刻も早くタバコと白パンを買って帰りたいばかりに脇目も振らずに歩き続けました。ペーターのおばあさんの喜ぶ顔が見られると思うと長い坂も少しも苦にはならなかったのです。
第19話 フランクフルトへ
 しかしハイジはマイエンフェルトの町に着いた所でデーテおばさんから真相を聞かされ、怒って山に帰ろうと必死になりますが、とうとうハイジはデーテおばさんにむりやり汽車に乗せられてしまいます。ハイジは汽車のデッキから、見慣れたアルプスの山々が遠ざかっていくのを見て悲しさが込み上げ、涙がとめどもなく流れて来るのでした。ハイジは汽車の中でもずっとしょんぼりしたままです。しかしデーテおばさんから、少しだけフランクフルトにいれば、すぐにアルムの山に白パンとタバコを持って帰れると聞き、再びハイジはだまされてしまうのでした。
 汽車の旅は思いのほか長く、その中で夜を迎えてしまったハイジはおじいさんやペーター、それにペーターのおばあさんの事、そしてまたこれから行くフランクフルトのお屋敷の事を考え小さな胸を痛めます。そしてまたおじいさんやペーター、ペーターのおばあさんもハイジがいなくなった事で心を痛めるのでした。
 翌日の夕方、ようやくフランクフルトに着いたハイジとデーテおばさんはフランクフルトで一番金持ちなゼーゼマン家に向かいます。その頃、ゼーゼマン家では足が不自由で体も丈夫ではない12歳になる一人娘のクララが、ハイジの到着を今か今かと待ちわびていました。デーテおばさんとハイジはゼーゼマン家に到着し無愛想なメイドに屋敷に通されますが、執事のロッテンマイヤーさんはハイジを見た途端、行儀作法や勉学ができていないし年齢も離れすぎていると言って断ってしまいます。しかしデーテおばさんは「ハイジが並みとは違った個性の強い子、性格のはっきりした子というご注文にピッタリだ」と言ってハイジをゼーゼマン家に置き去りにしたまま帰ってしまうのでした。
 見知らぬ土地のお屋敷に、たった一人取り残されてしまったハイジ。そこでハイジを待っていたのは体の弱い少女クララとロッテンマイヤーという恐そうなおばさんだったのです。しばらく我慢すればおじいさんにタバコ、ペーターのおばあさんに白パンを持って帰れると聞いてハイジは寂しさをこらえる事にしました。
第20話 新らしい生活
 フランクフルトのゼーゼマン家にとり残されてしまったハイジは、クララと仲良しになります。ハイジはすぐに山に帰るつもりでしたが、クララは自分が退屈なので遊び相手や、一緒に勉強する為に来てもらったと言うのでした。ハイジは食事の時に出された柔らかくておいしそうな白パンを見て、アルムの山で別れたおじいさんやペーターのおばあさんの事を思い出し、帰りたくなってしまいます。言葉遣いやお行儀が悪い事を口うるさく注意するロッテンマイヤーさんのお話しなど耳に入らないハイジは、楽しかった山での毎日を思い出しながら食卓で寝てしまうのでした。
 翌日、朝起きたハイジは自分がどこにいるのかわからず、思わずおじいさんやヨーゼフの名前を叫んでしまいます。ようやく自分がフランクフルトに来た事を思い出しました。ハイジはお日様は出ているか、樅の木が鳴っているか、花は目を覚ましているか、山羊達はどうしているかを知りたくて、まるで穴の中のように感じる部屋から外の様子を見ようと窓際に行きますが、窓は開かず雨戸が閉まっていたので外を見る事ができません。ハイジは悲しくなって「おじいさん、帰りたい… ねぇ、山はどっちにあるの。帰りたいよぉ〜 おじいさぁ〜ん」と叫ぶと泣き出してしまうのでした。
 ロッテンマイヤーさんはハイジをアーデルハイドと呼びます。アーデルハイドとはハイジの洗礼名でしたが、ハイジは今まで一度もその名前で呼ばれた事がなかったので、アーデルハイドと呼ばれても返事もしません。名前を呼ばれても返事もしないハイジにロッテンマイヤーさんが怒るとハイジは「私、アーデルハイドじゃないわ、ハイジよ」と言って反論しますが、ロッテンマイヤーさんには通用しませんでした。
 ハイジは食事の時に出される白パンをこっそりと隠して部屋に持って帰りました。ハイジはアルムの山に帰る時におばあさんに白パンをおみやげとして持って帰ろうとしていたのです。ハイジはそれからも食事のたびに白パンを隠して部屋に持ち帰るのでした。
 その日からロッテンマイヤーさんによる厳しいしつけや勉強が始まりました。しかしハイジはそんな事には気も止めず、ひたすら外の様子を知りたがります。ハイジはフランクフルトのゼーゼマン家の周りにも山や花や樅の木、土、水があると考えていたのです。クララはハイジがあまりにも外の様子を知りたがっていたのを不思議に思ってハイジに尋ねると、ハイジはびっくりしてしまいます。ハイジにとってこの世の中に外の様子を知りたがらない人がいるなんって思いもよらなかったのです。クララは体が弱く外にはほとんど出た事がなかったので、外の事は何も知らないと言うと、ハイジはなおさらびっくりしてしまうのでした。
 クララの提案で召し使いのセバスチャンに頼んで窓の外を見せてもらったハイジは絶望しました。そこにあったのは石造りの建物ばかりでハイジの望んでいたものは何一つなかったのです。そんなハイジを見ていたクララはハイジに同情し、ハイジに山に帰るように薦めます。しかしクララはせっかく仲良しになれたハイジがいなくなってしまうと思うと、つい「ママは小さい頃に亡くなったし、パパはお仕事でずっとパリ。明日からまた私は独りぼっち。でも独りぼっちには慣れちゃったわ」と、もらします。それを聞いたハイジは自分が帰るとクララがまた寂しくなると考え、とにかくしばらくフランクフルトにいて頑張ろうと決心しました。「クララ、しばらくあんた独りぼっちじゃないわ」「ありがとうハイジ」二人は手を取り合って友情を確かめ合うのでした。
第21話 自由に飛びたい
 ハイジはクララと一緒に勉強する事になりました。しかし家庭教師の先生はハイジの学力を見てABC(アー・ベー・ツェー)から教えた方がいいと言いますが、ロッテンマイヤーさんは、それではクララの勉強が遅れてしまうと言ってクララの学力に合わせてハイジも教える事になりました。しかし字の読めないハイジは家庭教師のお話しがあまりにも退屈なので眠くなってしまいます。そんな時、ハイジの耳に遠く耳鳴りのような音が聞こえてきたのです。その音を懐かしいアルムの山の樅の木の鳴る音と勘違いしたハイジは外に飛び出ますが、それは馬車の車輪の音でした。もうここはアルムの山ではなかったのです。
 ハイジがクララの部屋に行った時、クララの唯一の友達である小鳥をみつけました。ハイジは小鳥を鳥篭に入れているのが理解できません。ハイジにとって小鳥はピッチーのように山で暮らすものだと思い込んでいたからです。ピッチーだけではなくヨーゼフや山羊達もそうです。それを聞いたクララはハイジにたくさん友達がいる事をうらやましがりました。でもクララは自分にはたくさんの人形やドレスがあると言ってハイジに見せてあげたのです。ハイジは自分には帽子があると言って、おじいさんに買ってもらった帽子をクララに見せますが、帽子を見たクララは笑いだし、ちょうどそこへやって来たロッテンマイヤーさんに「何ですかその汚い帽子は」と言われて想い出深い帽子を取りあげられてしまったのです。ハイジはおじいさんとの想い出まで取り上げられがっかりしてしまうのでした。
 小鳥の鳴き声を聞いたハイジは、小鳥が自分と同じように山に帰りたがっていると思い込み、ハイジはクララの大切な小鳥を籠から逃がしてしまいました。しかしロッテンマイヤーさんに厳しく叱られ、ハイジは地下室に閉じ込められてしまいます。しかしハイジは地下室で鼠の子供とお友達になり屋敷まで持ってきてしまい大騒動になります。ネズミの苦手なロッテンマイヤーさんの怒りは頂点に達し、汚いハイジをきれいにする為、メイドのチネッテはハイジを無理矢理お風呂に入れて体を洗い、ハイジがいつも着ていた服を燃やしてしまうのでした。
 きれいな服に着替えたハイジがクララに会いに行くと小鳥が戻って来ていました。ハイジには小鳥が戻って来た事が理解できませんでした。クララは「みんながあなたと同じじゃないの、その小鳥は山なんか知らないのよ、私だってこの家からほとんど出た事がないわ、でもねここには山にはないものがあるわ」と言います。しかしハイジは「でも小鳥が山や林より籠の中のほうがいいなんってそんな事ないわ、山へ来てみればわかるわ、どんなに嬉しそうにピッチー達が飛び回っているか」と言って嬉しそうにはしゃぐのです。それを見ていたクララは「いいわね、ハイジは…」とつぶやくのでした。そうです、クララはピッチーのように山で飛び回る事ができないのです。ハイジは今初めてクララをかわいそうだと思いました。そしていつか必ずクララをあのアルムの山へ連れて行ってあげようと決心するのでした。
第22話 遠いアルム
 ハイジはアルムの山での生活、おじいさんやペーター、ユキちゃん、ピッチー、大角の旦那などの話をしてクララを楽しませます。ハイジは自分がクララに山の様子を説明しているうちに、あたかも自分が山にいるような気がして来ました。そして家の中しか知らないクララにとってもハイジの山の話はとても新鮮で何度聞いても飽きないものでした。しかしハイジはクララに口笛の吹き方を教えていて、再びロッテンマイヤーさんに怒られてしまうのでした。
 石の壁に囲まれたような毎日に息苦しくなったハイジはアルムの山が懐かしくなってしまいます。そんなハイジを見てクララは屋根裏に上がれば山が見えるかもしれないと教えますが、屋根裏部屋の窓から見えるものは石の壁と屋根ばかりで、山は見る事ができませんでした。がっかりしたハイジはそれでもセバスチャンから高い教会の塔がある事を聞き出し、無断で外へ飛び出して教会まで行こうとします。しかし高い教会の塔の場所がわからず、ハイジはオルガン弾きの少年に尋ねました。少年は案内する代わりに金品を要求しますが、あいにくハイジは何も持っておらず、20ペニヒをクララからもらうという条件で塔まで案内してもらいます。ハイジは教会の堂守に追い返されそうになりますが、ハイジがあまりに真剣に塔に登りたいとお願いするので、堂守は渋々承諾します。それほどまでにハイジは山が見たかったのです。しかし苦労して登った塔のてっぺんから見たフランクフルトの景色はハイジを絶望させました。どこを見ても石造りの建物ばかりでハイジの望んでいた山や谷や岩や草や木やお花畑はどこにも見えなかったのです。
第23話 大騒動
 ハイジはがっかりして教会の塔から降りる途中に10匹ほどの小猫を見つけました。ハイジはクララを喜ばせようと小猫を1匹だけ持って帰る事にしました。ハイジは再び20ペニヒを払う事を条件にオルガン弾きの少年に案内してもらってお屋敷に帰りますが、屋敷に入ると同時にセバスチャンに連れて行かれた為、少年にお金を払う事はできませんでした。しかも無断で外出した事をロッテンマイヤーさんに厳しく怒られ、さらにハイジが連れて帰った小猫は動物嫌いのロッテンマイヤーさんに見つかってしまい捨てるように言われてしまいます。でもハイジとクララは小猫にミーちゃんと名前をつけて、セバスチャンに頼んで内緒で屋根裏部屋で飼う事にするのでした。
 翌日、ハイジがセバスチャンからミーちゃんの食事をもらって屋根裏部屋に行き、ミーちゃんに食事をあげたり遊んだりとしました。しかもハイジはロッテンマイヤーさんに取り上げられていた、おじいさんに買ってもらった帽子も返してくれたので大喜びです。クララは動物を抱いた事がなかったので、最初のうちは恐がっていましたが、しだいに慣れてミーちゃんが好きになります。ハイジとクララが勉強中にオルガン弾きの少年が屋敷に訪ねて来ました。少年は昨日のお金をもらいに来たのですが、応対に出たセバスチャンは妙案を思いつき、少年を屋敷に入れるとハイジやクララの前で手回しオルガンを一曲弾かせ、ハイジとクララは大喜びし、少年は昨日のお金40ペニヒと今日のオルガン弾き代40ペニヒをもらって喜んで帰って行くのでした。
 そして今度は教会の堂守がハイジが昨日持ち帰りそびれた小猫の残りをバスケットに入れて持って来たのです。動物嫌いのロッテンマイヤーさんは逃げ惑い、恐怖のあまりに気絶してしまうのでした。小猫達はすべて捨てられてしまいましたが、ミーちゃんだけは無事で、ロッテンマイヤーさんに気付かれぬまま、相変わらずハイジとクララの良き遊び相手となるのでした。
第24話 捨てられたミーちゃん
 ある夜、ハイジが目を覚ますと外は嵐でした。ハイジはアルムの山で経験したのと同じ嵐だと思うとアルムの山での出来事を思い出し嬉しくなってしまいます。そしてミーちゃんが恐がっているのではないかと考え、屋根裏部屋にいるミーちゃんを連れて来て、今夜はミーちゃんを抱いて寝る事にしました。ところが翌朝、ハイジは寝坊してしまった為、あやうくミーちゃんがロッテンマイヤーさんに見つかりそうになってしまうのでした。
 今日は日曜日なので家庭教師の先生が来ません。しかもロッテンマイヤーさんも外出すると聞いてハイジもクララも大喜びです。早速ミーちゃんをクララの部屋の降ろして一緒に思いっきり遊ぶのでした。ところがどうでしょう、出かけたはずのロッテンマイヤーさんが忘れ物を取りに突然戻ってきたのです。ロッテンマイヤーさんはクララの部屋が騒がしいのでクララの部屋に入り、とうとうミーちゃんが見つかってしまいます。ロッテンマイヤーさんはミーちゃんをチネッテに預けると、猫はばい菌を持っているので体の弱いクララには良くないとクララを説得にかかりました。ハイジはミーちゃんを捨てるなど考えたくもなかったのですが、クララが決断を迷っているうちにロッテンマイヤーさんはチネッテにミーちゃんを捨てさせてしまうのでした。
 悲しさのあまり泣き続けるハイジ。ハイジはとうとうアルムの山に帰ろうと決心し、今まで食事のたびにこっそりと部屋に持ち帰っていた白パンをマントに包み、セバスチャンに返してもらった、おじいさんに買ってもらった帽子をかぶると「さようなら、クララ」と言ってこっそりと屋敷を後にしたのです。それからハイジはフランクフルトをあてもなく歩き続けました。ハイジはオルガン弾きの少年に再び出会い、駅に案内してもらおうとします。しかし少年から汽車に乗るにはお金がいると聞かされ、ハイジはアルムの山に帰れない事を悟りました。
 ハイジが途方に暮れているところをロッテンマイヤーさんの乗った馬車が通りかかりました。ハイジは山に帰ると言い張りますが、ロッテンマイヤーさんは聞く耳を持たず、ハイジはむりやり馬車に押し込まれ、白パンを包んだマントは道に落ちて白パンはばらまかれたまま、馬車は走りはじめます。ハイジは道にばらまかれた白パンを、いつまでも走る馬車の中から見つめていました。
 馬車が屋敷に戻ってもハイジは落ち込んだままでした。ミーちゃんはセバスチャンがチネッテから取り上げ、セバスチャンの知り合いの家に預かってもらっていると聞き、ハイジはようやく屋敷に戻るだけの元気をだしました。屋敷に戻ったハイジはクララから暖かく歓迎されました。クララはもうハイジが帰ってこないと思って心配しており、ハイジが屋敷に戻ると涙を流して喜んだのです。クララは「ハイジ、私ね、ハイジがもう帰ってきてくれないと思って、わぁわぁ泣いてたの。ハイジ、もう帰ったりしないでね、ねっ」と言うと、ハイジは「帰りたくても帰れないの」と言ってクララのひざでいつまでも泣き続けるのでした。
第25話 白パン
 ハイジはクララと一緒に毎日勉強しますが、字の読めないハイジには難しすぎて少しも身につきません。見かねた家庭教師の先生がハイジの為にレベルを下げてアルファベットから教えようとしますが、それでもハイジはアルファベットすら覚える事はできませんでした。勉強しているとハイジはなぜがアルムの山を思い出してしまい、突然騒ぎ出して我に返り、ここがアルムの山でない事に気付くのです。そんなハイジを見ていたロッテンマイヤーさんはハイジは頭がおかしいのではないかと考え始めました。ロッテンマイヤーさんにとってハイジがゼーゼマン家に来てからというもの、ハイジの行動はすべて常軌を異しているように見えたのです。
 ある日クララのお父さんのゼーゼマンさんが旅から帰ってくると知ったクララは大喜びです。ところがお迎えの準備でお屋敷中を点検して歩くロッテンマイヤーさんにハイジがペーターのおばあさんの為に、せっせとため込んだ古い白パンが見つかってしまいました。ハイジはアルムの山に帰る時のペーターのおばあさんへのお土産にする為、毎食出される白パンをこっそり部屋に持ち帰ってタンスに隠していたのです。ハイジは激しく抵抗しましたが、チネッテにパンを捨てられた上に、またロッテンマイヤーさんにひどく叱られてしまいます。ハイジはペーターのおばあさんへのお土産を捨てられてしまい、悲しくて泣き続けるのでした。
 そんなハイジを見ていたクララは「前から言おうかなと思ってたんだけど、あのパンはもう古くなって食べられないわ。ハイジが山に帰る時には焼きたてのパンをどっさり持って帰れるようにロッテンマイヤーさんに言ってそうしてもらうわ、約束する」と慰めるのですが、ハイジはミーちゃんも捨てられたこともあり、「誰もクララの言う事なんか聞いてくれないわ、私帰れないんだわ」と言ってベッドにもぐって泣き続けます。クララはそんなハイジを見て自分まで悲しくなりますが、クララは一生懸命ハイジを慰めました。クララはハイジに物語を語って聞かせ、おかげでようやくハイジは元気を取り戻し、いつものハイジに戻るのでした。
第26話 ゼーゼマンさんのお帰り
 クララの待ち焦がれていたお父さんのゼーゼマンさんが長い旅から久しぶりに帰ってきました。クララは大喜びです。ハイジもクララと一緒にお土産に素敵なお人形をもらい、すっかり嬉しくなってしまいます。そんな優しいゼーゼマンさんにロッテンマイヤーさんはハイジがクララのお相手としてふさわしくない事を訴えるのでした。ハイジの気が変だと聞いてゼーゼマンさんも少し心配になってきました。ゼーゼマンさんはハイジに冷たい水を持って来るようにお願いし、その間クララにハイジの事を聞きますが、クララはハイジの事を弁護し誉め称えるばかりです。一方ハイジは台所で水を汲みますが、冷たくなかったので遥か遠くの井戸まで冷たい水を求めて出かけてしまいます。そんな事とは知らない屋敷ではハイジがいなくなったと大騒ぎ。ロッテンマイヤーさんはハイジには放浪癖があると言ってゼーゼマンさんに訴えますが、そこへひょっこりとハイジが帰ってきて冷たい水をゼーゼマンさんに差し出したのです。ゼーゼマンさんは自分の為に遥か遠くの井戸まで冷たい水を汲みに行ってくれたハイジの事がとってもお気に入りになってしまうのでした。
 ゼーゼマンさんが帰って来てからというもの、ハイジとクララはとても楽しく過ごす事ができました。しかしゼーゼマンさんは、この家があまりうまくいっていない事に気付きます。「私がいなくなっても、うまくいく方法がないものか…」クララの顔を見る度にゼーゼマンさんはその事を考えていました。そしてあっという間にゼーゼマンさんが旅に出なければならない日が近づいてきました。ゼーゼマンさんはロッテンマイヤーさんにハイジを引き続きゼーゼマン家にとどめておくようお願いし、ゼーゼマンさんの代わりにクララのおばあさまをゼーゼマン家に来てもらえるように手配するのでした。
 ゼーゼマンさんは、たった10日で再び旅立つ事になりました。クララはお父さんと別れるのが辛くて駄々をこねてしまいます。しかしクララはお父さんからおばあさんがもうすぐやって来ると聞かされ、元気を取り戻しお父さんを暖かく見送るのでした。ハイジはクララにおばあさまがどんな人かを尋ねると、クララは笑いながらハイジもきっとおばあさまを好きになるわと答えます。おばあさまっていったいどんな人なんだろう? 本当にクララの言うように素敵な人なのかしら。ハイジも何だかそのおばあさまに早く逢ってみたくなってくるのでした。
第27話 おばあさま
 クララのおばあさまが来るというのでゼーゼマン家では朝からお迎えの準備で大変です。ハイジもロッテンマイヤーさんにご挨拶の仕方を口うるさくなおされ一生懸命練習するのでした。ハイジはクララのおばあさまがペーターのおばあさんのように優しい人だといいなあと思わずにはいられません。しかしいつになくイライラしているロッテンマイヤーさんを見るとハイジは不安になって来るのでした。ハイジはおばあさまの事を奥様と呼ぶようにロッテンマイヤーさんから言われていたのですが、ハイジは今まで奥様などという言葉を使った事がなかったので、覚える事ができず。「おくさまおくさまおくさま」と連続で繰り返して言ううちに、いつのまにか「さまおくさまおくさまおく」になっているのでした。
 おばあさまがゼーゼマン家にやって来ました。おばあさまは途中で出合ったサーカスから熊の着ぐるみを借りて着ており、それを見たロッテンマイヤーさんは仰天してしまいます。しかしそんなおばあさまを見たクララは大喜びでした。ハイジはロッテンマイヤーさんに言われた通りにきちんと挨拶しようとしますが、おばあさまがあまりに気さくな人なのでハイジはすっかりと忘れてしまい、「こんにちわ、おばあさま」と言ってしまいます。おばあさまはそれで十分でしたが、ロッテンマイヤーさんは教えた通りに挨拶するように言うので、ハイジは「いらっしゃいませ、さまおく」と言ってしまうのでした。
 それからおばあさまはハイジとクララにおもしろいお話しや手品、コップの楽器での演奏会を開いてみせます。ハイジやクララにとってそれはそれは楽しいものでした。ハイジはすっかりとおばあさまが好きになってしまうのでした。その夜、ハイジがベッドに入ってからおばあさまがハイジの部屋にやって来ました。おばあさまはハイジにお土産として絵本を持って来たのです。しかしハイジは字が読めないのでがっかりしてしまいます。そこでおばあさまはハイジに絵本を読んであげる事にしました。お話はとってもおもしろかったのでハイジは眠るどころではありませんでした。そしてとうとう3つもお話しを読んでもらいました。けれども4つ目のお話を聞いているうちにハイジはいつしか眠ってしまうのでした。
第28話 森へ行こう
 おばあさまに何度も絵本を読んでもらっており、ストーリーを知っていたので、ハイジはとうとうその絵本を読めるようになりました。ハイジはおばあさまのおかげで字が読めるようになったのです。それを知った家庭教師の先生は驚きのあまりショックで放心状態になってロッテンマイヤーさんに伝えます。ロッテンマイヤーさんも信じられませんでした。
 ある日クララが昼寝をしている間、独りぼっちになったハイジを見て、クララのおばあさまはハイジを誘って階段でジャンケンゲームを始めました。しかしそれもロッテンマイヤーさんに見つかってしまい、ハイジはおばあさまと一緒に遊んではいけないと怒られてしまいます。にもかかわらずおばあさまは再びハイジを連れ出すと、珍しい物がいっぱい置いてある魔法の小部屋へハイジを案内するのでした。ハイジはそこで見る物すべてが真新しく、ただただ驚くばかりです。しかしハイジはそこで燃えるようなアルプスの夕焼けや山の動物達の絵を見てアルムの山を想い出してしまい、つい泣き出してしまいます。そんなハイジを見ておばあさまはクララとハイジを森へピクニックに連れて行こうと決心するのでした。
 ハイジは森へピクニックに行くと聞いて大喜び。しかしクララは体が弱く足が不自由なので、ピクニックと聞いて少し不安になりますが、おばあさまからクララがお日様の下できれいな空気を胸一杯吸ったら病気なんかどこかに飛んでいくと説得され、喜んで行く事にしました。しかしそれを聞いたロッテンマイヤーさんはクララが家の中で安静にしていなければならないと断固反対します。おばあさまは「ロッテンマイヤーさん、いつでも自分だけが正しいと思っちゃいけないわ。まあ試しに一度、私の自由にさせて下さいな」と言うと、ロッテンマイヤーさんは「そうですか、ようございます。奥様のご勝手になさいませ。その代わりどんな事になっても奥様が責任をおとり願います」と言って怒って部屋を出ていってしまいました。おばあさまは「やれやれ、かわいそうなお人だ事」と言ってそれを見送るのでした。
 おばあさまに連れられて森にピクニックに来たハイジとクララ。久しぶりに自然の中に帰ったハイジ、そしてピクニックに行くのが初めてのクララ。二人の心は空高く舞い上がる雲雀のようにどこまでもどこまでも高く飛んで行くのでした。
第29話 ふたつのこころ
 おばあさまに連れられて森へピクニックに来たハイジは、ちょうちょを追いかけ、近くに住んでいる男の子達と楽しそうに走り回っています。しかしクララは野原を走り回るハイジを見て足の悪い自分が悲しくなり「楽しそうねハイジ、どうせ私はお手伝いできないわ、足が悪いんですもの。あなたはみんなと一緒に走り回っていた方がいいんでしょ。あたしなんかの相手してるより、ずっとその方がいいんだわ、きっとそうだわ。私なんかもうダメなんだわ。ハイジ、嫌だったら山に帰ってもいいのよ」と泣きながら言うのです。ハイジは「ごめんねクララ、私そんなつもりじゃなかったのよ」と言いますが、クララは「私の事なんか忘れてよその子とはしゃぎ回ってたくせに。もういいのよ、どうせ私は死ぬまで独りぼっちなんだから…」と言って泣き続けるのでした。
 クララはおばあさまにハイジを山に帰すようロッテンマイヤーさんに言ってほしいとお願いします。おばあさまはクララにロッテンマイヤーさんと一緒に家の中に閉じこもっている方が楽しいのか尋ねられますが、答える事はできません。さらに本当にハイジが山に帰ってもいいのかと問われると、クララはハイジがいつまでも自分の側にいてほしいと思わずにはいられませんでした。
 仲直りしたハイジとクララは森や野原ではしゃぎ回り、さらに蒸気船に乗って川をさかのぼります。川べりの牧場に船をつけ、そこに牛や山羊がいるのを見たハイジは、水をえた魚のように山羊を追いかけ、飼い主に頼んで乳しぼりまでさせてもらうのでした。ハイジにとってもクララにとっても、それはそれは楽しいピクニックでした。
 馬車でフランクフルトに戻って来たクララとハイジは、フランクフルトの町に入った頃から疲れ切ってぐっすりと眠り込んでしまいました。セバスチャンはクララを部屋に寝かせようと抱きかかえると、ひどい熱を出していたのです。ロッテンマイヤーさんはおばあさまを厳しくとがめました。そしてロッテンマイヤーさんはクララが妙な生き物に興味を持ったり、外の事に気を取られたり、奥様がピクニックを思いつかれたのも、すべてはハイジの山の話のせいだと言うのです。それを聞いていたハイジはクララが高い熱を出したのが自分のせいのような気がしてなりませんでした。自分が山の話をしたからクララが熱を出したのだ。クララは外に出る事すらできないのだ。そう思うとハイジは悲しくておばあさんに抱きついて泣くのでした。
 床に臥せたクララをハイジが見舞った時、クララはハイジに「どこにも行かないで。森であんな事を言ってしまったけど、山には帰らないでね。私、心細いのよ、急にハイジがいなくなったらどうしようかと思って… お願いどこにも行かないで、ずっと私の側にいて」とお願いするのでした。ハイジは「行かない。私ずっとクララの側にいるわ」とクララに約束します。ハイジは本当にクララをかわいそうだと思いました。そしていつまでもクララの側にいてあげようと思ったのです。その時ハイジは山の事もおじいさんの事もみんな忘れていました。
第30話 お陽さまをつかまえたい
 クララが病気になってからというものはクララの側で一日中看病する事がハイジの日課でした。ハイジとおばあさまはクララに赤頭巾ちゃんの人形劇を見せてクララを楽しませます。ハイジは早くクララが元気になってもらいたくて、薬をもらいに行く御者のヨハンに付き添って、ハイジはお医者様の所に行く事にしました。ハイジはお医者様からクララの病気に一番いいのは、たくさん食べて体を動かし明るいお日様の光に当たる事だと聞かされます。お日様の光は生き物の体の中に眠っている力を呼び起こす不思議な力があると知ったハイジは、さっそくヨハンに頼んで森へ出かけるのでした。
 森に着いたハイジはどうしたらお日様の光をいっぱい集めてクララに持って帰る事ができるのか考え込んでしまいます。ハイジはクララの為に花を摘みました。さらに川岸に転がっていた壊れかけの籠にお日様が反射しているのを見て、籠に花と蝶とお日様を詰めて、大喜びでクララの為に持って帰るのでした。
 ハイジは籠を屋敷に持って入る途中、ロッテンマイヤーさんに見つかってしまい捨てるように言われてしまいます。しかしおばあさまがやって来てどうにかその場は丸く治まり、無事に籠をクララの部屋まで運ぶ事ができました。クララの前で籠のふたを取るとちょうちょは部屋いっぱいに飛び回り、それはそれは美しい光景でした。クララはちょうちょや美しい花を見ると再び森に行きたくなり、その為には早く起きれるようにならなければと思うのでした。それからしばらくするとクララはすっかりと元気になり、外でお日様の光を浴びれるまでに回復するのでした。
第31話 さようならおばあさま
 おばあさまは別荘の方でお仕事があり、フランクフルトの屋敷を離れなければならなくなりました。おばあさまがフランクフルトを去る日が間近な事を知ったハイジとクララはとても悲しくなってしまいます。ハイジはおばあさまがとても大好きで、おばあさまはずっとこの屋敷にいてくれると信じていただけに、とてもショックでした。ハイジはどうしてもおばあさまに屋敷にいてほしかったので、おばあさまに残ってもらえるよう、クララに頼んでもらえないかと言いますが、クララはおばあさまにも都合があるのだから無理は言えないと言って引き受けてくれません。ハイジは一人でおばあさまの部屋に行くと、「行っちゃいやぁ〜」とおばあさんの胸で泣き続けるのでした。
 おばあさまは「人間ってね、どんなに楽しい事でもいつかは別れねばならない時が来るものなんだよ。悲しいけれど仕方がないのよ」と言ってハイジを慰めます。ハイジは今度いつ来てくれるかおばあさまに尋ねると、おばあさまは「私があげた本をお前は全部スラスラ読めるようになった頃、またきっと来るよ」と言うのです。それを聞いたハイジは、早くおばあさまに帰って来てほしいので、一生懸命本を読み続けました。そしてハイジはクララに「クララ、私、一日でも早くスラスラ読めるようになるわ。教えてねクララ」と言うのでした。
 おばあさんが帰る日が近づき、ハイジもクララも元気がありません。おばあさまは二人が別れを悲しんでいるのを気にして、二人を川岸の公園へ連れ出す事にしました。この時ばかりはハイジもクララも元気を取り戻して大喜びです。ちょうど公園の教会では結婚式が行われていました。ハイジとクララは花に囲まれた美しい花嫁さんに見とれてしまいます。そんな二人を見たおばあさまは屋敷に帰ってから楽しいお嫁さんごっこをしようと提案するのでした。
 屋敷に戻ったクララは花嫁衣裳を着飾り、屋敷の人間が歓迎する中、お嫁さんごっこは始まりました。しかしハイジやクララ、そして召し使いたちが楽しくダンスをしている最中、おばあさまはこっそりと抜け出し、馬車でフランクフルトを去ってしまいます。ハイジは途中でおばあさまがいなくなった事に気付き、慌てて玄関まで行くと馬車は走り始めた後でした。おばあさまは馬車の後を追うハイジに向かって「ごめんねハイジ、クララをよろしくね。さよならハイジ」と言うのでした。
 ハイジががっかりと肩を落として屋敷に戻ると、さっきまでの楽しいパーティーは既に終わり、屋敷の雰囲気はがらっと変わっていました。ハイジはクララの所に行くと、クララも窓辺で泣いていたのです。その日からハイジもクララも、心の片隅がぽっかりとあいてしまったような、そんな気持ちになってしまうのを感じていました。
第32話 あらしの夜
 おばあさまがゼーゼマン家を去ってからというもの、ロッテンマイヤーさんのしつけは日増しに厳しくなっていきました。勉強中にあくびをしただけでロッテンマイヤーさんから怒られ、難しい歴史の教科書を暗記するよう言われてしまいます。ハイジは暗記しようと努力しますが、机に向かうとアルムの山での出来事を想い出してしまい、ハイジは再び山に帰りたくなってしまいます。ハイジはおばあさまが帰って以来、すっかりと元気をなくし、食事もすすみません。ハイジの元気がないのでクララはハイジの気を引こうと自分のドレスをハイジに見せ、どれでも好きなのをあげると言いますが、ハイジは「私いらない、山でこんなドレス着たって仕方ないもの、こんなの着てたら山羊やペーターと転げ回って遊べないもの」と言って断るのでした。クララはハイジに山へ帰らないでほしいとお願いするのですが、ハイジは気乗りしませんでした。
 クララはハイジに元気になってほしくて再び森に行こうと提案しますが、おばあさまがいない今ではロッテンマイヤーさんが承諾するはずがありません。そこでクララは自分がロッテンマイヤーさんを引き止めている間に、ハイジに森に行って花を取ってきてもらう事にしました。作戦は成功したかのように見えましたが、ハイジは屋敷を出たところで買い物帰りのチネッテに見つかってしまい、再び屋敷に連れ戻されロッテンマイヤーさんに怒られてしまいます。
 クララはハイジが山の事ばかり考えているので、そのうちに山が恋しくて家出して山に帰ってしまうのではないかと心配しました。クララはハイジの事が好きでたまらなかったのです。その事を知ったロッテンマイヤーさんはハイジに山の事を考えさせないようにしようと考えるのでした。
 ハイジは魔法の小部屋のアルプスの山の絵の前でおじいさんやペーター、山羊達の事を考え、はしゃぎまわりまっていました。そこへロッテンマイヤーさんがやって来て、クララが悲しむから二度とアルムの山の事を考えてはいけないと注意するのです。ハイジは「嫌よ、私は山に帰るんです」と答えますが、山の事を考えたらクララが悲しんで、病気が重くなるとロッテンマイヤーさんに説得され、ハイジは山の事を想い出したり話したりする事も禁じられてしまったのです。
 その夜は嵐でした。ハイジは一人ベッドに入ると「おじいさん、ペーター… 呼んじゃいけないの? 大きな声で言っちゃいけないの? ユキちゃん… でも、言っちゃいけないの。でないとクララの病気が重くなってしまう」と言って涙を流します。そして外を吹く風の音を聞いて「風だけはどこも同じに吹くのね。風だけは同じだわ」と言い、アルムの山を吹く風を想い出しながら眠るのでした。
 その夜、嵐に見舞われたゼーゼマン家で不思議な事が起こりました。それは夜中にチネッテが白い人影を見たと言って騒ぎ出したのです。しかも鍵をかけたはずの玄関が開いており、泥棒が入ったのではないかと屋敷中をくまなく探しましたが、異常はありませんでした。
 翌日悲しみに沈んだハイジをクララは優しく慰めてあげるのですが、ハイジにはうわの空でした。ハイジは山に帰りたくて仕方がなかったのですが、それを口に出す事すら許されません。ハイジは山が恋しくて自分の部屋に戻ると「おじいさん、帰りたい。みんなの所に帰りたい」と叫んで一人で泣きますが、すぐにロッテンマイヤーさんがやって来て「お嬢様が寂しそうにしてらっしいます。あなたはまた山の話しをしたり帰りたいと言ったのではないでしょうね」と釘を刺されてしまいます。心配したクララはハイジに声をかけますが、ハイジは「いいの、いいの、もう何だっていいの。もう何も言ってくれなくてもいいの」と言ってベッドに伏して泣き出してしまうのでした。
 その日の夜、ロッテンマイヤーさんの命令でセバスチャンとヨハンは白い人影の正体を突き止めようと夜中に見張りをしました。ところが臆病な二人は白い人影を見たのに、逆に脅えて逃げ出してしまうありさまでした。
第33話 ゆうれい騒動
 ゼーゼマン家では夜ごとに出る怪しい白い人影の為に毎日大騒ぎでした。クララがあまりに脅えるのでロッテンマイヤーさんはゼーゼマンさんに手紙を書き、数日後ゼーゼマンさんは屋敷に戻って来ました。クララはお父さんに逢えて大喜びでしたが、ハイジは顔色も悪くすっかりとやつれて元気をなくし、まるで感情をなくしたロボットのようでした。ゼーゼマンさんは幽霊が本当なら科学者の目で見てもらった方が良いと考え、お医者さんを呼び、その夜二人で密かに白い人影を待ち伏せするのでした。
 一方恐ろしい夜が続く中、一人ハイジはアルムの山の夢を見、そして夢遊病者のようにフラフラと歩きだしたのです。ハイジは玄関を出たところでゼーゼマンさんとお医者さんに見つかってしまい部屋に連れて行かれました。そしてハイジはベッドに寝かされるとお医者さんに語り始めたのです。「気がついたら下にいたの。夢は毎晩見ます。いつも同じ夢なの。いつの間にかおじいさんの家にいるの。外で樅の木が鳴っている音がして。でも目が覚めてもやっぱりフランクフルトなの。重苦しくてひどく泣きたくなるの」「そういう時は思いっきり泣くかね?」「泣いてはいけないの。ロッテンマイヤーさんがいけないって」「それでいつもそれを飲み込んでしまうのだね。で、お前はフランクフルトにいるのが好きかね?」「ええ」「おじいさんはどこにいるのかね?」「アルムの山の上なの」「帰りたいかね?」「クララの為にここにいなくてはいけないわ」そう言うとハイジは泣き出してしまうのでした。
 ハイジは胸が重苦しく泣きたくなるのですが、ロッテンマイヤーさんに止められており、泣く事もできません。しかもアルムの山に帰りたくても帰る事もできず、クララの事もあるので誰にも相談できないまますべてを心の中にとどめてしまう為、とうとう夢遊病でホームシックになってしまったのです。それを知ったお医者様はハイジをアルムの山に帰さない限りハイジの病気は良くならないとゼーゼマンさんに言います。ゼーゼマンさんはハイジを痩せ衰えた姿でおじいさんのもとに帰す事はできないと言いますが、このままこの屋敷にいては、ますます病気がひどくなるばかりだとお医者様に説得され、とうとうハイジを山に帰す事にするのでした。
 ゼーゼマンさんはハイジを山に帰すとロッテンマイヤーさんに言いますが、ロッテンマイヤーさんはクララが悲しむからと言って反対します。しかしロッテンマイヤーさんがハイジに山の事を言ったり想い出したりしてはいけないと命じたと言うと、それを聞いたゼーゼマンさんは「あなたはあの子にそんな残酷な命令をしたのですか? あなたこそハイジを幽霊にした責任者だ」と怒るのでした。
 山に帰る事をゼーゼマンさんがハイジに告げるとハイジは大喜びしますが、すぐにクララが独りぼっちになってしまうから帰らないと言います。しかしゼーゼマンさんは、これからは私が毎日クララについていると言ってハイジを安心させます。クララはハイジが山に帰る事に反対しますが、ハイジがフランクフルトにいる限りハイジの病気は治らないとお父さんに説得され、泣く泣く承知せざるをえませんでした。クララはハイジが山に帰ると二度と逢えないような気がしたので、ハイジがここにいられないなら私が山に行くと言いだします。お父さんも来年の春には必ずクララを山に連れて行くと言って約束するのでした。
 クララはお父さんに頼んでハイジのバスケットを部屋に持ってきてもらい、ハイジの為にペーターのおばあさんへのお土産の白パンとおじいさんへのお土産のタバコをたっぷりと詰め込みました。クララはハイジの喜ぶ事なら何だってしてあげたかったのです。
 ゼーゼマンさんはデーテおばさんにハイジを山に連れて行くように言いますが、デーテおばさんは忙しいから1週間ほど行けないと断られた為、セバスチャンがハイジをアルムの山まで送り届ける事になりました。
 ハイジは別れ際「クララは私がいなくなったら…」と言うと、クララは「大丈夫よ。寂しいけど我慢するわ。それに来年の春になったらパパが私をハイジの山に連れて行ってくれるって約束してくれたの。だから我慢できるわ、きっと…」と言うのでした。「さよならハイジ〜、必ず行くわね〜 ハイジ〜」「待ってるわよ〜 クララ〜」春には必ずクララがアルムの山へ訪れると約束してハイジを乗せた馬車は走り始めました。山へ帰る。おじいさんとペーターと山羊達の待っている山へ帰る。ハイジの胸は別れの悲しさよりも懐かしい人や自然に逢える喜びで大きく膨らんでいました。
第34話 なつかしの山へ
 夢にまで見続けたアルムの山へ帰してもらえる事になったハイジは大喜びです。仲良しのクララと別れることはとても辛い事でしたが、汽車がフランクフルトを離れるともうハイジの胸にはおじいさんやペーター、おばあさんやユキちゃん、それにアルムの大自然が懐かしく思い出され山がもうすぐそこに見えてくるようでした。一方クララは時とともにハイジがどんどん自分から離れていくようで、悲しい思いをします。ハイジと一緒にアルムの山まで行くセバスチャンも、ハイジがお屋敷に来てからというもの退屈な思いをしなかっただけにハイジとの別れを寂しく感じていました。
 ハイジは汽車のデッキから遠ざかるフランクフルトの町並みを見て「さようならクララ、さようならおばあさま、さようならフランクフルト」とつぶやきます。しかしハイジは山に帰れる嬉しさで、セバスチャンに旅の間中、何度も何度もあとどのくらいでアルムの山に着くのかしきりに聞きます。そしてマイエンフェルトまであと3つの駅まで迫った時、トンネルを抜けるとアルムの山が目の前に広がって来たのです。ハイジは山に帰って来た嬉しさで「帰って来たのね、山へ帰って来たんだわ」と言って涙を流して喜ぶのでした。マイエンフェルトに着いたハイジは山の匂いがすると言ってはしゃぎ回ります。ハイジはデルフリ村までセバスチャンに送ってもらい、そこから先はハイジが一人で山小屋まで帰る事になりました。セバスチャンはハイジとの別れが寂しく「いつでも、いつでもまた帰ってらっしゃいよ。山が嫌になったらまた…」と言いますが、ハイジは「ありがとうセバスチャン、でも山が嫌になんって決して、決してならないわ。帰ったらクララによろしくね。山で待ってるから必ず遊びに来てって」そう言ってハイジは一人で山を登り始めるのでした。
 アルムの山小屋までの道のりをハイジは山に帰って来た喜びを噛み締めながら登っていきます。ハイジは途中ペーターの家に立ち寄り、おばあさんに声をかけます。おばあさんはハイジが帰って来た嬉しさで泣きながらハイジを抱きしめるのでした。ハイジは「おばあさん泣かないで、ちゃんと帰って来たのよ。もうよそへは行かないわ」そう言うとハイジはおばあさんにおみやげとして白パンを差し上げるのでした。おばあさんは久しぶりに食べる白パンを噛み締めながら食べます。そしておばあさんは「ハイジ、本当にありがとうよ。でもね、これからお前が毎日毎日この山にいてくれる事が私には一番嬉しいんだよ」と言うのでした。
 ハイジは美しいドレスを着ていましたが、こんなのを着ていたらおじいさんに逢ってもハイジだとわかってもらえないかもしれないと考え、ペーターの家で帽子とドレスを脱ぎ捨て、それを全部ブリギッテにあげてしまいます。それはもうハイジには必要のないものでした。ハイジはシャツとパンツにおじいさんからもらった帽子といういでたちで、おじいさんの住む山小屋に向かいました。ハイジはおじいさんを見つけるとその胸に飛び込んでいつまでも嬉し涙を流すのでした。
第35話 アルムの星空
 ハイジは初めてアルムの山へ来た時の姿でおじいさんのもとに帰って来ました。初めはあっけにとられていたおじいさんもハイジをしっかり抱きしめ暖かく迎え入れてやるのでした。おじいさんはハイジが屋敷を追い出されたか逃げ帰って来たものと思っていましたが、ハイジはゼーゼマンさんから預かった手紙をおじいさんに渡します。その手紙にはハイジが山に帰る事になったいきさつが詳しく書かれており、おじいさんはようやく事情を理解しました。おじいさんはハイジに尋ねます。「ハイジ、お前は本当にわしと一緒に山にいられるか?」「ずっとここにいるわ私、だってここが私の家なんだもん、私の家よ。そうでしょ、ねぇおじいさんそうでしょ」「ハイジ… そうだとも、そうだとも」「よかった」それを聞いたおじいさんは嬉しくて思わず泣きそうになってしまうのでした。
 ハイジは山小屋がちっとも変わっていないので大喜びです。おじいさんはハイジの昔の服を残していたのでハイジに着るように言いますが、わずか半年の間にハイジは成長していたので、服を着る事ができず、しばらくはシャツとパンツのままで生活する事になりました。ハイジは屋根裏部屋の自分のベッドを見に行きますが、そこにあったはずの干し草で作ったベッドはありませんでした。おじいさんはハイジに言います。「実は片づけてしまったんだ。あんなに喜んで出かけたお前がもうここへ帰って来るとは思っておらなんだ」「おじいさんは私がもう帰って来ないと思ってたの? 本当にそう思ってたの?」「あのなあハイジ、お前がデーテや町を好きになって、山やヨーゼフやペーターを忘れてしまうなんってとても信じられなかった。これも本当の事なんだよ。そしてハイジはちゃんとここに戻って来た。夢じゃない、本物のハイジだ」そう言うとおじいさんはハイジを抱き上げ、一緒に干し草のベッドを作るのでした。半年前にあった場所に半年前と同じに… ベッドが完成するとハイジは「おじいさん、私のベッドよね。ここは私の家よね。嬉しいの、とっても嬉しいの」そう言ってハイジは嬉しさのあまりはしゃぎ回るのでした。
 ペーターや山羊達が山から帰って来たのを見たハイジは喜んで飛び出していきました。。山羊達もハイジの事を覚えていてくれたようで、ハイジのもとに駆け寄って来ます。しかしペーターはハイジが帰って来た事が信じられず、最初は唖然としていましたが、本当にハイジが帰ってきたのだと知ると大喜びで跳ね回るのでした。ハイジは大好きなユキちゃんの姿を見つけ追いかけますが、ユキちゃんは逃げるばかりです。ハイジはどうして大好きなユキちゃんが逃げるのか理解できませんでしたが、ペーターにハイジが追いかけているのはユキちゃんの子供で、ハイジの後ろを追いかけている立派に成長した山羊がユキちゃんだと教えられハイジはびっくりしてしまうのでした。
 ハイジはおじいさんの山羊のシロのお腹が大きくなっているのでびっくりしました。するとおじいさんはシロはもうすぐ赤ちゃんを産むと言うのです。ハイジは何もかも以前の通りだと思っていましたか、フランクフルトへ行っていた半年の間に、どこかで何かが変わっていたのでした。
 夜になって山小屋にペーターがやって来ました。ペーターはハイジが本当に山小屋にいるかどうか見て来てほしいとおばあさんに頼まれて来たのです。するとおじいさんは「よしわかった大将、家に帰ったらおばあさんに言っときなさい。ハイジはもうどこにも行かない。ハイジはこの山が一番好きだからどこにも行くわけはない。そうはっきり言ってた。嘘じゃないって」と言います。それを聞いたペーターは喜んで家に帰っていきます。ペーターはおんじの山小屋を出てずいぶん歩いてから山小屋に向かって口笛を吹きました。すると山小屋からもペーターに向かって口笛が帰って来たのです。ペーターはその事が嬉しくてたまりませんでした。
 ハイジはやっとおじいさんの山小屋へ帰って来ました。アルムの星空と懐かしい樅の木に抱かれて、ハイジの見る夢はきっとバラ色に輝いたに違いありません。
第36話 そして牧場へ
 翌朝、ペーターはずいぶん早くに村の山羊達を連れて山小屋に来ました。ペーターは一刻も早くハイジに逢いたかったのです。しかしハイジは昨日の旅の疲れから寝坊しており、おじいさんにそっとしてやってと言われ、せっかくハイジと一緒に山の牧場に行けると思い込んでいたペーターは不機嫌なまま牧場をめざして歩き始めました。しかしすぐにハイジの目が覚め、ハイジも牧場に行く事になったのでペーターも大喜びするのでした。
 ハイジは懐かしい牧場へ出かけます。緑の斜面をペーターや山羊達と口笛を吹きながら元気に駆け登っていくハイジはもう嬉しくて嬉しくてたまりません。牧場のてっぺんに着いたハイジは目の前に広がるアルムの山に向かって「ヤッホ〜、ただいまあ〜」と叫び「いいわねぇ〜 山は…」とつぶやくのでした。夢にまで見たアルムの山々と青い空に囲まれてお弁当を食べ花を摘んで歩くハイジの心は大きく膨らむばかりでした。
 ハイジがペーターに連れられて牧場の周りを案内してもらっていた時、山羊のアトリが、いつの間にか大角の旦那達と一緒に崖を登って山の上まで行ってしまったのをペーターが目撃します。ペーターとハイジはアトリを追いかけて崖を登ると、そこは湖と氷河のある美しい野原だったのです。ペーターやハイジもこんな場所がある事はまったく知りませんでした。ハイジはそこで夕暮れを迎えました。ハイジは「燃えてる、ペーター燃えてるわぁ〜」と叫びます。ハイジはこの光景を何度フランクフルトで夢見た事でしょう。今燃え上がる山の夕焼けの中に立ち、夢ではない現実の感動でその小さい胸の中はいっぱいに膨れ上がっていました。
 一方、村に降りたおじいさんはハイジがフランクフルトから上等の洋服をいっぱい持って帰って来たにもかかわらず、自分で作った鷹の木彫りを売って仕立て屋さんで洋服を買って帰って来ました。それは以前ハイジが着ていた服とまったく同じ服でした。ハイジはその服を着ると、ペーターは「よかった、やっぱりハイジだ」と言い、おじいさんは「これでハイジになった」と言うのです。ハイジは大喜びで駆け回るのでした。
第37話 山羊のあかちゃん
 すっかり明るさを取り戻したハイジは、ある日ペーターから1通の手紙を受け取ります。それはフランクフルトのクララからの手紙でした。おじいさんとペーターはハイジが字が読める事にびっくりしてしまいます。手紙には次のように書かれていました。
 「拝啓、ハイジ様。無事に山に着きましたか? 山へ帰ってハイジは元気になった事でしょうね。パパはまたお仕事で今はいません。私は相変わらずです。ハイジがいる時はとても楽しかったけど、今はハイジが来る前と同じになりました。毎日毎日ロッテンマイヤーさんと二人だけ、それ以外の人といえばお勉強の先生だけで、とても退屈です。私はヨーゼフみたいに大きなあくびがしてみたいです。ハイジがいた時は毎日がとても楽しかったけど、ハイジがいなくなって今は本当に寂しいです。山では毎日何をしているのですか? ヨーゼフと…」そこまで読んだハイジは悲しくて泣きだしてしまいました。手紙には1日も早く山に行きたいと書かれていたのです。ハイジはクララに「お手紙読みました。私も元気です。ヨーゼフは寝ています。早く来て下さい。待っています」と返事を書くのでした。
 手紙を書いていたハイジは目の見えないペーターのおばあさんに本を読んであげようと考えつきました。おじいさんも秋風が吹く前にペーターの家を修理しようと考え、ハイジはおじいさんと一緒にペーターの家を訪れます。ペーターの家ではおじいさんが家を直してくれたおかげで、おばあさんやブリギッテはおじいさんに大変感謝しました。そればかりではありません。ハイジは棚の上からお祈りの本を取り出すと、おばあさんの前で声に出して読み始めたのです。おばあさんは何十年ぶりに耳にするお祈りの歌に感激します。その日はおばあさんにとって胸の中が明るく輝いた一日となったのでした。
 ハイジは山小屋に帰ってからもクララのおばあさまからもらった本を一心に読み続けました。そんなハイジを見ていたおじいさんは「ハイジ、学校に行きたいか?」と尋ねます。ハイジはおじいさんの質問が耳に入りませんでしたが、おじいさんはハイジを学校に行かせようと決心するのでした。
 翌日おじいさんはデルフリ村に行き、冬の間ハイジを学校に通わせる為、家を借りる交渉をします。家主は前金で家賃を払うなら貸してもいいと言い、おじいさんはもうすぐ山羊の赤ちゃんが生まれるから、それを売ってお金を払う事にして家を借りる事にしました。その日、いよいよシロは出産間近になり、ハイジは早く生まれないかと楽しみにしています。ハイジはシロの赤ちゃんが生まれたらユキちゃんと同じように可愛がろうと考えていたのです。しかしおじいさんはハイジに山羊の赤ちゃんを売ってしまう事をまだハイジに話しておらず、複雑な心境でした。
 翌日ハイジが首を長くして待っていたシロの赤ちゃんが生まれました。ハイジはシロの赤ちゃんに付ける名前をあれこれ考え、チーと名付けます。ところがおじいさんは名前を考える必要はないと言うのです。ハイジはおじいさんから子山羊を売って冬の間、家を借りハイジを学校に行かせると聞きました。ハイジは楽しみにしていたチーちゃんが売られると知って、悲しくて泣き出してしまうのでした。
 しかし子山羊を売ると聞いた時のハイジの悲しみようを見ていたおじいさんは子山羊を売るのをあきらめ、デルフリ村まで降りて家主にお金の支払いを待ってほしいと頼みますが、家主は了承せず家を借りる話しはなくなってしまいます。その代わりにおじいさんはデルフリ村で建築途中で長い間放置された大きな家を見つけます。その家は2階建でしたが屋根がなく、村人達はお化け屋敷と呼ぶ廃墟でしたが、おじいさんは手を加えれば住む事ができると考えるのでした。山小屋に帰って来たおじいさんから子山羊は売らないし、冬になれば学校にも行けるようになると聞かされたハイジは大喜びでします。ハイジは幸せでした。おじいさんが自分を心から愛してくれている事を体中で感じていたのです。アルムの山は深い秋の色に包まれてきました。
第38話 新しい家で
 冬の間おじいさんとハイジはデルフリ村の古い家で過ごす事にしました。干し草の取り入れをいつもの年より早く済ませたおじいさんは冬の間住むデルフリ村の古い屋敷をなおしに毎日毎日山を降りるようになりました。そんなおじいさんを見て村の人達は色々と噂をしあいましたが、結局あの頑固なおんじが決心したところをみると、おんじはよほどハイジをかわいがっているのだろう、山を降りて村で暮らす事はとにかく喜ばしい事に違いないというところに話が落ちつくのでした。おじいさんが村へ降りている間、子山羊のチーちゃんの世話はもちろん、小屋の掃除から食事の支度まで家事の一切をハイジが受け持たなくてはなりませんでした。
 こうして忙しく働いているうちにたちまち短い秋は過ぎ去り、とうとう初雪がちらちらと舞い落ち始めました。いよいよ新しい家に移るのです。ハイジはアルムの山小屋に別れを告げ、おじいさんや手伝いのペーター、ヨーゼフや山羊達と共に期待に胸膨らませながら一歩一歩山を下って行きます。ハイジはボロボロの大きな家を見て驚きますが、中に入るととても大きくて素敵で、たちまちハイジはこの家が好きになってしまうのでした。
 そんな粉雪の降る晩におじいさんとハイジとペーターの3人で、ささやかなお祝いの会が開かれました。3人は楽しく過ごした後、ペーターは帰り際、ハイジから明日学校で逢おうと言われます。しかしペーターは学校に行くのが嫌だったので、雪が降っているから明日は休むと言いますが、ハイジは学校に行くのが初めてで、ペーター以外に知っている人がいなかったので、とうとうペーターに明日学校に来るようむりやり約束させ、約束を破ったら針千本飲ませると言うのでした。
 次の日、ペーターはいつもより早く目が覚め、ハイジとの約束を守ろうと一番乗りで学校に行きました。ところが村のおばさんに、ついさっきマイエンフェルトの駅に向かった親戚のツィンデルさんが荷物を持って帰るのを忘れたから、追いかけてほしいと頼まれてしまったのです。ペーターは渋々追いかけますが、いくら走っても追いつけず、とうとうマイエンフェルトの町の近くまで来てしまいます。そこでようやくツィンデルさんに出合い、ペーターはツィンデルさんに強引に誘われるままマイエンフェルトのホテルでおいしい料理をご馳走になります。しかしペーターはハイジとの約束を破った事が気が気ではありませんでした。
 ハイジが学校に来てもペーターの姿はありません。クラスメイト達はペーターは今日も休みだ言いますが、ハイジはペーターは今日は来ると言い張ります。しかし授業が始まってもペーターは現れません。2時間目の授業中にようやくペーターは戻って来ますが、お中いっぱい食べた直後にマイエンフェルトから全力疾走で走ってきたので、お腹が痛くなってしまい、それを見たハイジはペーターが約束を破ったので自分で針千本飲んだのだと勘違いしてしまうのでした。
第39話 がんばれペーター
 冬もすっかり深まり雪が降り続きました。ハイジは学校が終わってからペーターの家に行っておばあさんに逢うのを楽しみにしていましたが、雪が深くて行けそうにはありません。そこでハイジはおばあさんに手紙を書いてペーターに届けてもらう事にしました。ところがどうでしょう。ペーターがおばあさんに手紙を渡すと、目の見えないおばあさんはペーターに手紙を読んでくれと言うのです。お母さんのブリギッテも字を読めなかったのでペーターの家で字を読めるのはペーターしかおらず、字を読むのが苦手なペーターがハイジの手紙を詰まりながらも何とかおばあさんに読むのでした。
 ペーターはハイジの家に行った時、おじいさんの木工仕事に興味を持ちました。ペーターはおじいさんに道具を借りて使ってみます。ペーターにとってそれは何か新鮮なものでした。翌日、デルフリ村の学校でソリ滑り競争が行われる事を知ったハイジは自分でソリ滑り競争に出ようとしますが、女の子は出られないと知りペーターに出るように薦めます。ところがペーターには競争用のソリがありません。困ったペーターはおじいさんに木工道具を借りて使い方を教えてもらい競争用のソリを自分で作る事にしました。ペーターとハイジは毎日学校が終わってからせっせとソリ作りに精を出しました。いざ始めてみるとなかなか大変でしたがペーターは勉強の時とはまるで人が変わったように生き生きと仕事に励み、ようやくソリは完成しました。完成したソリを見たおじいさんはソリを仕上げようとしますが、ハイジはペーターが一人でソリを作った事を自慢したかった為、おじいさんの親切を断ってしまうのでした。
 ペーターはハイジと一緒にさっそうと試運転に出かけて行きました。ところがソリはまっすぐ走らず、どうしても右に曲がってしまうのです。ペーターはソリの右と左の高さが違うからだと判断し、すぐに修理に取り掛かりました。そんなペーターを見ていたおじいさんはペーターに木工仕事の素質があるのではないかと考えるのでした。そしてソリ競争の日、ペーターのソリは一等となってハイジやおじいさんを喜ばせます。おじいさんはペーターの腕を見込み、冬の間おじいさんの家で木工大工を習うように薦めるのでした。
第40話 アルムへ行きたい
 ハイジがデルフリ村の古くて新しい家から毎日毎日学校へ通っている間に長い冬もいつしか去り再び明るい春がやって来ました。雪割草も花を咲かせ、ハイジとおじいさんは村からアルムの山小屋へ帰って行きます。ハイジは久しぶりに戻ってきた山小屋に大喜びし、樅の木にただいまと言うのでした。それから大変でした。荷物の片づけと家中の大掃除で夕方までかかってしまいました。洗ったり拭いたりベッドを作ったり目のまわる忙しさでした。だけど働いた後の晩御飯はすごくたくさん食べられました。
 その頃フランクフルトではハイジの手紙を読んだクララが一日も早くハイジに逢いたいと来る日も来る日も遠いアルムの山の事ばかり考えていました。そこでクララはお父さんが忘れているのではないかと考え、早くアルムの山に行きたいとロッテンマイヤーさんに手紙を出してもらうよう言いますが、ロッテンマイヤーさんはとんでもないと言わんばかりでした。
 そんなある日クララはアルムの山に連れて行ってくれるまでは食事をしないと言いだします。ハイジはクララに手紙を出し続けていましたが、クララからの返事がいっこうに届かないので、もしかして自分の書いた字が読めなかったのではないかと思い心配になって来ました。クララは約束したアルムの山になかなか行けないので返事を出す気になれなかったのです。ゼーゼマンさんはクララをアルムの山に行かせてやりたいと思うのですが、お医者様はアルムの山がどんな所かわからないと言います。確かにアルプスのおいしい空気を吸って養生すればクララの体にとっていいと思われましたが、その為には1ヶ月以上滞在しないと疲れに行くようなものだし、アルムの山に受け入れてくれる場所があるか、さらに車椅子が使えるかどうかが心配でした。そこでお医者様はアルムの山に下見に行く事になりました。それを聞いたクララは自分がアルムの山に行けなくて残念でしたが、お医者さんにアルムの山やヨーゼフや山羊達を見てきてもらうという事で納得しハイジにお医者さんが行くと返事を書くのでした。
 手紙を受け取ったハイジはクララが来ると思い込み「わぁ〜い、クララが来る〜、クララが来る〜」と大喜びで、野原を走り回ります。ハイジはクララが来られないとは思ってもみませんでした。クララと逢う日を夢みて一人胸をときめかせているのでした。
第41話 お医者さまの約束
 いよいよお医者様がやって来る日、ハイジはクララが来ると朝から大喜びです。手紙を読んだおじいさんは、今日来るのはお医者さんだけではないかと言いますが、ハイジはクララが来るものと信じていました。ペーターがお医者様を連れて山小屋にやって来ましたが、クララが来る事を心待ちにしていたハイジはお医者様だけがアルムの山に来た事を知りがっかりしてしまいます。しかしお医者様はアルムの山がクララの病気にとって良い所かどうかを調べに来たのだとハイジに説明すと、それを聞いたハイジはこのすばらしいアルムの山をよく見てもらい必ずクララを連れて来てもらおうとお医者様を山の牧場へ案内するのでした。
 お医者様は搾りたての山羊のミルクを飲み、次々と目の前に繰り広げられるすばらしい眺めに一つ一つ感嘆の声をあげ、またのびのびと山を駆け回るハイジとペーターの姿に強く心を打たれるのでした。ハイジはそんなお医者様を見てすっかりクララをよこしてくれるものと信じ込んでしまいました。お医者様はこのアルムの山はクララの体にとっていい所だと判断しましたが問題が一つありました。それは坂が多い事です。クララは足が悪く車椅子で生活しているので、この坂では車椅子は使えないのです。それを聞いたハイジは「クララだって好きで車椅子に乗っているんじゃない、この草の上で座っている方がいいに決まっているわ。クララの気持ちなんか先生にはわからないの」と言って泣くのでした。お医者様はハイジの言葉に、クララがいつまでも歩けないのは車椅子に頼っているからであって、例え不便でも車椅子を降りて、この素晴らしい大地の草花にじかに触れたらクララは歩けるようになるかもしれない、そう考えるとお医者様はクララをアルムの山に来させる事を決心しました。それを聞いたハイジは野原を転げ回って喜びます。クララが来る、クララがこの山へやって来る。ハイジにとって新しい山の生活が始まろうとしていました。
第42話 クララとの再会
 お医者様からアルムの山に行ける事を聞いたクララは大喜びでした。しかしロッテンマイヤーさんも一緒にアルムの山に行くと聞いて、クララは楽しみが半分になってしまったと言ってがっかりしてしまいます。お医者さんはクララに話します。「私は初めクララが行くのは無理だと考えた。アルムの山の不便な生活。それをクララが頑張ってやってゆけばクララの足の為になると考えた。私は今クララの治療に一番必要な事はクララの意欲だという事に気か付いた。自分の足で大地に立ちたい、立ってみようという気持ちだな。それを感じさせるにはここの生活は便利すぎる。今クララに必要なのは大地に触れる事だ。難しく言うと歩く為の平行感官を養うという事だ。しかしその為にはクララがやってみようという考えが必要なんだよ。アルムの自然の中で耐えてみる事ができるかな? 苦しくて辛い事があるかもしれないが信じるんだ。山がクララを丈夫にしてくれると…」それを聞いたクララは山へ行ける喜びと、自分が歩けるようになるかもしれないという期待で嬉しくてお医者さんに抱きついて喜ぶのでした。
 ハイジは山へ来る日を知らせるクララからの手紙がなかなか来ないので、とても心配になってしまいます。そんなある日、待ちに待った手紙が届きます。手紙にはクララはすぐフランクフルトを出発すると書いてありました。ハイジはクララと再会できる喜びで胸が一杯になってくるのでした。ところが手紙を読むうちにハイジの顔は、なぜか急に曇ってくるのです。それはロッテンマイヤーさんも一緒についてくると書いてあったからです。それでもハイジはクララが来るという喜びで駆け回るのでした。
 ハイジはさっそくペーターのおばあさんにクララが来る事を報告しました。おばあさんはハイジが再びフランクフルトに行ってしまうのではないかと心配しましたが、ハイジは「大丈夫よ、もうフランクフルトには行かないわ」と答えるのでした。
 それからしばらくの間、ハイジとおじいさんにとって楽しく忙しい日が続きました。クララとロッテンマイヤーさんの為に冬に過ごした村の家のベッドを組み立てたり大掃除をして冬の家を少しでも住みやすくしなければなりません。しかも夏の前の山の仕事も色々あります。干し草刈りやらチーズ作りやらおじいさんの細工仕事やら、まるで目の回るような忙しさでした。一方クララはアルムの山へ行く前に、少し手前のラガーツの温泉で旅の疲れを癒していました。クララの足の為にも良いと思われたからです。そしてとうとう明日ハイジのところに来るという手紙が届きました。
 クララが馬車でデルフリ村にやって来ました。ハイジとクララはとうとう感激の再会を果たす事ができたのです。お互い手を取り合って再会を喜びあうのでした。デルフリ村の冬の家に着いたクララ一行は、あまりの家のボロさにびっくりしますが、中に入ったクララはお気に入りでした。しかし動物嫌いのロッテンマイヤーさんは山羊小屋が側にあり匂いが漂ってくるとしかめっつらです。ロッテンマイヤーさんは冬の家ではなく宿屋に泊まろうと考えますが、あいにくデルフリ村に宿屋はありませんでした。さらに一緒にやって来たセバスチャンも今日フランクフルトへ帰ってしまうので、召し使いを雇おうと考えますが、デルフリ村では男も女も一日中働いているので、召し使いをする人など一人もいませんでした。
 アルムの山を見たクララは感激し、今からアルムの山に登ろうと考えます。しかしロッテンマイヤーさんに、今から登ったら夜になると反対され、おじいさんからも朝登った方がずっときれいだと説得され、クララは明日、ハイジやペーター、ヨーゼフに山羊達と一緒に登る事で納得するのでした。やがてペーターも山の牧場から戻り、クララと出合います。おじいさんとハイジ、ペーター、クララ、ロッテンマイヤーさんの5人は楽しく食卓を囲んで夕食をともにしました。そしてハイジとクララ、ロッテンマイヤーさんを冬の家に残し、おじいさんは山小屋へ、ペーターは自分の家へ、セバスチャンはフランクフルトへとそれぞれ帰っていくのでした。
 久しぶりに再会したハイジとクララはとてもすぐには眠れませんでした。山はクララを待つかのように輝く星を頭の上に飾って夜の闇の中にどっしりとそびえているのでした。
第43話 クララの願い
 久しぶりの再会を心ゆくまで楽しんだハイジとクララは、デルフリ村の冬の家で初めての朝を迎えました。いよいよ今日はアルムの山へ登る日です。クララはフランクフルトとは違って誰も手助けしてくれる人がいないので、自分一人の力でベッドから車椅子に乗ろうとしますが、できませんでした。ロッテンマイヤーさんは朝早くから村のリンダおばさんに頼んで朝食の支度をしてもらい、さらにクララの乗せた椅子をかついでくれる人を2人雇いました。山小屋から降りてきたおじいさんとヨーゼフ、そして山羊達を連れて山の牧場へ行くペーターと一緒にクララとロッテンマイヤーさんは山小屋をめざします。ロッテンマイヤーさんは動物嫌いでしたが、ここではそうも言っていられないようでした。
 クララはあまりにも美しく雄大な山々と木洩れ日の差す樅の木、そしてかわいい動物達を見て嬉しくなってしまいます。そしてアルムの山小屋に着く頃にはクララはすっかり山の虜になってしまいました。クララは山小屋に到着すると「とうとう来たのね、山へ。まるで夢のよう。本当に青い空。雲が輝いているわ。風が当たっていくわ。樅の木の音ね」と言って感激します。クララはハイジから何度も聞かされ、夢にまで見たアルムの山へとうとうやって来たのです。
 クララは樅の木の下の素敵な食堂でおいしい空気を吸いながら楽しく食事をし、山小屋の中を案内してもらいました。ハイジの寝る干し草のベッドに寝かせてもらった時、クララはこのままずっとここにいたいと思います。そこでクララはさっそく無理なお願いをロッテンマイヤーにするのでした。ロッテンマイヤーさんはクララがデルフリ村ではなくアルムの山小屋で暮らす事に反対しました。おじいさんは「お医者様はここで思い切って暮らしてみる事がクララの足を直す事につながると結論を持って帰られた。そして今クララはその気になっている。その気持ちをどうして大事にしてやれないのです」と言って説得し、結局ロッテンマイヤーさんは山小屋では生活できそうになかったので、デルフリ村の冬の家で生活し、毎日山小屋まで登ってくる事にして山を降りていき、クララはアルムの山小屋で暮らす事になるのでした。
 その夜ハイジとクララは干し草のベッドに並んでアルムの星空を眺めながら二人の胸はこれからの生活を思っていっぱいに膨らんでいました。
第44話 小さな計画
 次の朝クララはハイジよりも早く目を覚ましました。太陽は谷の底にも小屋の中にも金色の光を投げかけていました。クララは山小屋での生活がすっかりと気に入り、朝からご機嫌です。一方ロッテンマイヤーさんは、昨日馬に乗って山小屋まで登って来たのに懲りて、自力でペーターに案内されて山小屋まで登ろうとしますが、かかとの高い靴で山登りなどできるはずもなく、とうとう途中でへばってしまいます。困ったペーターは自分の家に行ってお母さんの靴を借りるとロッテンマイヤーさんに履かせて再び登り始めました。しかしお母さんの靴はロッテンマイヤーさんには少々小さく、とうとうロッテンマイヤーさんは靴を脱ぐと裸足で山小屋めざして歩き始め、疲れ切って山小屋に着いた時には靴下はボロボロになっていたのでした。
 クララはお花畑へ行きたい、小鳥達の声ももっと聞きたいと思いました。ところがロッテンマイヤーさんはクララを山小屋から出してくれません。そしてじかに野原に座る事すら許してくれないのです。ロッテンマイヤーさんはおじいさんに「クララを地面に座らせる時は毛布を敷いてからお願いします」と言うと、おじいさんは「そんな必要はないでしょう。こんな素晴らしい草の絨毯があなたの目には入らないようだ」と言うのでした。またペーターを山の牧場に見送った後、クララとハイジはおじいさんのチーズ作りを学びます。ロッテンマイヤーさんはクララに勉強するように言いますが、おじいさんは「クララは今チーズ作りの勉強しておる」と言うのでした。
 クララは草の絨毯の上に座ると、少し離れたところに咲いていた花を摘みたいと思い、どうにか這っていって花を摘む事ができました。クララはこれで首飾りを作ろうと思いますが、これっぽっちの花で首飾り作る事はできません。クララはハイジから山の上にはお花畑があると聞くと、自分もそこへ行ってみたい、早く歩けるようになればと心から思うのでした。
 クララがお昼寝している時、ハイジは山小屋をこっそりと抜けだすと、山のお花畑に行きました。ハイジはクララの為に花をたくさん持って帰ってあげようと考えたのです。お花畑でペーターと出合ったハイジは、きっとクララをお花畑に連れて行ってあげようとペーターと一緒に内緒の計画を立てました。それはペーターがクララをおぶって山の牧場に行こうというものでした。それを聞いたハイジもクララが山のお花畑まで来れると思うと大喜びするのでした。その計画はクララには内緒にしましたが、ハイジはペーターと約束をした小さな計画に胸が一杯になっていました。
第45話 山の子たち
 そのあくる日の朝、ハイジは朝早く起きるとペーターの家に行ってペーターのズボンを借りて来ました。ハイジはクララにペーターのズボンをはかせようとします。スカートのままではクララを背負えないからでした。しかし事情を知らないクララはズボンをはく事を嫌がります。仕方なくハイジはクララに計画を話しズボンをはいてもらう事にしました。クララは山のお花畑と聞いただけでもう嬉しくてたまりません。それを聞いたクララは喜んでズボンをはき、そして背負ってくれるペーターとペーターの代わりに山羊の番をするハイジにクララはあらためて感謝するのでした。
 ペーターはクララを背負って山の牧場を目指して歩き続けました。しかし急な斜面をクララを背負って登るのはペーターの予想以上に辛いものでした。ペーターの苦労の甲斐あって、お花畑に着いたクララは一面に咲き誇る花を見て「来たんだわ、本当に夢みたい。こんなにお花があるなんって、なんって素敵なんでしょう」と言って感激します。クララはお花畑の中を立って歩きたい、この中をハイジのようにはしゃぎ回ったりお散歩したらどんなに素敵かしら。一つずつ名前を覚えながらお花達とお友達になれたら… クララは心からそう思うのでした。
 山小屋に来たロッテンマイヤーさんはクララが山に登った事を知り、おじいさんになぜ一緒について行かなかったのかと責めます。おじいさんはクララがお花畑に行って本当に歩きたいと心から思ってくれる事を望んでいました。その為には子供達だけでお花畑に行かせる必要があったのです。大人が一緒について行くと、つい大人に頼ってしまい、それではクララが歩けるようにはならないと言うのです。おじいさんはクララが大人を頼りにせず、何事も自分の力でやってみよう、試してみようという気になってほしいのでした。
 帰りもペーターはクララを背負って山を降りますが、途中ペーターは力尽きてしまいます。ハイジはおじいさんを呼びに先に行きましたが、おじいさんが迎えに行こうとした時にはクララを背負ったペーターが戻って来ました。おじいさんはペーターを誉め称え、ペーターからクララを預かるとペーターは疲れてその場に倒れ込んでしまうのでした。
 クララはおじいさんと二人っきりになった時に泣き出してしまいました。クララは今日生まれて初めて自分が多くの人に迷惑をかけているのだという事に気が付いたのです。そしてハイジにもペーターにもおじいさんにも本当に済まないと思ったのです。
第46話 クララのしあわせ
 その日、ペーターは家に帰るなり疲れて寝てしまいましたが、次の日、朝早くに起きるとペーターは背負子を作り、山羊達を連れて山小屋にやって来ました。みんなに迷惑のかかる事を気にかけていたクララでしたが、一生懸命なハイジとペーターを見ていると再び牧場へ行きたいと思うのでした。ロッテンマイヤーさんはいつものごとく反対しますが、おじいさんから子供たちに気持ちよく行かせてやりなさいと言われ、ロッテンマイヤーさんも渋々承諾せざるをえませんでした。ペーターの作った背負子はクララが乗るのにぴったりで、今日はペーターもクララを背負うのが楽で、昨日のお花畑までではなく、山の牧場まで行く事にしました。青い空やお花畑、そして優しいペーターやハイジ、クララは本当に幸せでした。
 ところがしばらくすると雨が降りだしたのです。山小屋で留守番をしていたおじいさんとロッテンマイヤーさんは子供たちが心配で雨の中を山の牧場まで出かける事にしました。スカートでは山に登れないからと、おじいさんはロッテンマイヤーさんに自分のズボンをはかせると、2人は雨の中を牧場に向かって山を登り、子供たちが雨宿りしていると思われる岩棚まで行きましたが誰もいません。その頃、子供たち3人は牧場で毛布をテント代わりにして雨宿りしていたのでした。子供たちは雨には濡れませんでしたが、雨に濡れた草の為にクララは牧場を滑り落ちてしまい、それを止めようとしたハイジとペーターまでがずぶ濡れになってしまいました。3人はそのままでは帰れないので服を脱いでお日様の光で乾かします。そこへおじいさんとロッテンマイヤーさんがやって来て、裸のペーターにシャツとパンツのハイジ、シミーズ姿のクララを見つけました。ロッテンマイヤーさんはゼーゼマン家の一人娘がはしたないと言いますが、自分もズボンをはいている事をクララに指摘されてしまうのでした。その時、大きな虹がアルムの山にかかりました。それはクララが今まで見た事もないほど大きくて美しい虹で、それを見たクララは再び感動するのでした。
 翌日クララはおじいさんに担がれてハイジと一緒にペーターの家に行き、ペーターのおばあさんにお祈りの本を読んであげました。おばあさんはクララがあまりに上手に本を読むので感激してお礼を述べると、逆にクララが感激して「こんな事で喜んでいただけるのでしたら、いつでも呼んで下さいね」と言うのでした。今日はクララにとって素晴らしい日でした。いつも人の世話になり、いつも面倒をかけていたクララが人の為になる事ができるとわかったからです。クララにとってこれはすばらしい発見でした。
第47話 こんにちはおばあさま
 ようやくクララも山の生活に慣れはじめたある朝、クララのおばあさまがアルムの山を訪ねるという知らせが届いたのです。ハイジとクララは胸をはずませておばあさまを待つのでした。しかしロッテンマイヤーさんはおばあさまが来る事が好きになれず、機嫌が悪くなる一方でした。そして何日かたったある日の事、おばあさまはとうとうアルムの山にやって来ます。山へ来たおばあさまは楽しげで健康そうな顔になったクララを見て驚いてしまい、おじいさんやハイジ、ペーターにそしてアルムの自然にあらためて感謝するのでした。
 ロッテンマイヤーさんはおばあさまに、クララがここにいてはお勉強もお昼寝もお薬も忘れてしまうので、そろそろフランクフルトに連れて帰るべきだと言います。ところがおばあさまはクララに「いけない子ね。お薬も飲まないのにそんなに元気になって、お勉強を忘れてしまうほど毎日が楽しいの? 素晴らしいじゃない」と言うのでした。
 おばあさまはクララやハイジから山での生活について詳しく聞くうちに、子供同士で山の牧場に行く事を不思議に思います。おばあさまはおじいさんに尋ねると、おじいさんはクララを歩けるようにしたいと言うのです。クララを歩かせようとする度に失敗して絶望するので長い間ゼーゼマン家ではクララが歩くという事は考えもしなくなっていました。おばあさまはその考えが夢のように思えました。しかしおじいさんは「クララは必ず立って歩けるようになる、立てるようになるまでには時間がかかるかもしれない、立てる事が信じられなくなり、途中でクララがくじけてしまうかもしれない。でも、もしクララが大人を頼らず子供同士で遊ぶ事の楽しさを知った時、自分から立ちたい、どうしても歩きたいと心から願うようになった時、そしてそれを助け励ましてくれる友達がいれば必ずクララは立って歩けるようになる」と言うのでした。おばあさまはおじいさんの言葉に感激し、クララが薬も飲まないのに元気になった理由を理解します。そしてクララを引き続きおじいさんのもとに預け、ロッテンマイヤーさんにはフランクフルトに帰るように薦めるのでした。
 おばあさまの説得もあってロッテンマイヤーさんはフランクフルトに帰る事になりました。明日からおばあさまとの新しい生活が始まります。二人は期待に胸をふくらませていました。
第48話 小さな希望
 次の日ロッテンマイヤーさんがフランクフルトに帰った後、おばあさまは再び馬に乗って山小屋までやって来ました。ハイジとクララはおばあさまから今日プレゼントをもらえると聞いていたので楽しみにしていましたが、おばあさまは今日は疲れているからまた明日にすると言うのです。ハイジとクララはそれを聞いてプレゼントが物ではない事を悟りますが、それが何かは教えてもらえませんでした。
 今日はおばあさまは山小屋でゆっくりしたいと言うので、おじいさんとおばあさまとクララが山小屋で留守番し、ハイジはペーターの後を追いかけて山の牧場に行きます。お昼寝の後、おばあさまはアルムの山で本を読むクララの声を聞きながら暖かい日差しの中で長い旅の疲れが出たのかいつしか眠ってしまうのでした。ところがそこへ一頭の大きな牛がクララの方に向かって近づいて来たから大変。驚いたクララは必死に逃げようと不自由な両足を大地に力一杯ふんばり木にもたれかかりながらもクララは立ち上がったのです。それを見ていたおばあさまは大喜びでクララを抱きしめるのですが、それ一回きりでもう立てなくなってしまうのでした。でもクララが立てた事を聞いたハイジは「わぁ〜い、クララが立てたぁ〜」と野原中を駆け回って大喜びし、ヨーゼフに抱きつくと「クララが立った」と言って嬉し涙を流すのでした。クララは牛に驚いて立った瞬間、気絶してしまったので自分が立てた事が信じられませんでした。
 おばあさまはおじいさんに感謝しました。おじいさんが「クララは立てる」と言った言葉が嘘ではなかったからです。おばあさまにとってクララが立って歩けるようになるのが待ち遠しくて仕方ありませんでした。そしておばあさまはおじいさんに明日のプレゼントの話しを説明しました。それはクララ達を山の上の湖に連れて行くという話でした。おばあさまは湖に行けばクララもハイジのように自分の足でそこに行きたくなるに違いないと考えたのでした。
 そして翌日、おばあさまからのプレゼントとしてクララは村の人の担ぐ椅子に乗せてもらい山の湖まで連れて行ってもらいます。美しい滝、珍しい動物や美しい草花、高い高い山の湖。フランクフルトの家に閉じこもりきりだったクララがとうとうこんな所まで来られたのです。それを思ってクララの胸はいっぱいになるのでした。
第49話 ひとつの誓い
 クララはすばらしい眺めの山の上の湖を眺めながら「ハイジのように歩けたらなぁ〜 自分の足でこんな所に来られたらどんなにすてきだろう」と思いました。クララは今度ここに来る時はハイジと二人で来ようと決心するのでした。
 おばあさまには山の暮らしは辛いので、当初フランクフルトに帰るつもりでしたが、クララの足が直りそうな気配だったので予定を変え、クララが歩けるようになるまでラガーツの温泉で養生する事にしました。ハイジとクララはクララの足の様子を毎日手紙に書いておばあさまに出す事を約束します。そしておばあさまは手紙に「クララが立てるようになった」と書いてほしいとお願いするのでした。
 クララは自分が本当に立てるようになるのか不安でした。ハイジにその事を告白するとハイジは「一度立てたんだもの。絶対、絶対なおるに決まってる」と言ってクララを励まします。それを聞いたクララは「本当に信じてればいいのね。ありがとうハイジ」と言って安心して眠るのでした。しかし翌日、気の早いハイジはクララに早く立ってほしくて、クララに立ってみないと言うと、クララの手を引いて無理に車椅子から立たせようとしました。クララは足が痛くて悲鳴を上げ、ハイジは手を放して謝ります。クララはみんなが期待してくれるのに、本当に自分が立てるようになるのか不安で仕方ありませんでした。
 クララを背負ってくれたペーターへのお礼を込めてパーティーがデルフリ村の冬の家で夕方から行われる事になりました。おばあさまは一足先に冬の家で準備をし、夕方になってからハイジ達が冬の家に行くと、庭にはランプがたくさん灯り、そしてマイエンフェルトから楽団まで呼んで、それはもう盛大なパーティーが始まりました。ハイジは村の子供達も招待してみんなで鬼ごっこをします。子供達が元気に駆け回っている姿を見てクララも自分も立って走り回りたいと心から思うのでした。でも弱気なクララは自分が本当に立てるようになるのか自信がありません。そんなクララを見ていたおじいさんはクララに「心配ないよ、お前が心から立ちたい歩きたいと思って一生懸命努力すれば必ず足はなおる。もちろん慣れない事をするのだから思うようにいかないだろう、痛いかもしれない、すぐには立てないかもしれない。だがそれでもくじけてはいけないよ、今クララに一番必要なのは頑張りだな。明日から立つ練習を始めてみようじゃないか」と言って励ますのでした。
 その日の夜、おばあさまはラガーツの温泉に旅立って行きます。クララは別れ際「おばあさまぁ〜 きっと立てるようになるわぁ〜 立てるようになったってお手紙書くわぁ〜」そう叫んで、遠くなっていく馬車に向かっていつまでも手を振り続けるのでした。
第50話 立ってごらん
 次の日からクララの立つ練習が始まります。しかしクララは自分が立てるようになるまでおばあさまがラガーツの温泉で待っていると思うと気が重くなってしまいます。ハイジはさっそくクララにベッドから自分で起きあがって立たせようとしますが、クララは床に転んでしまいます。おじいさんはクララが立てないのは足の筋肉が弱っているからだと言って、足を動かす練習から始める事にしました。
 ハイジはクララの足を動かして訓練を続けました。山の牧場へ行くペーターが山小屋に立ち寄った時、ハイジはペーターに「夕方にはクララが立てるようになったか楽しみにしてね」と言います。しかしそれはクララにとってプレッシャーでしかありませんでした。弱気なクララには本当に立てるようになるのか不安でたまりません。それでもハイジは根気よくクララの足を動かす訓練を続け、とうとうクララは車椅子に座ったまま自分で足を少しだけ動かす事ができるようになったのです。ハイジやおじいさん、ペーターも大喜びでした。クララは自分で足を動かせるようになったので、少しだけ自信をつける事ができたのです。さっそくハイジとクララはその事をおばあさまに手紙で報告するのでした。
 クララはそれから毎日毎日、痛みをこらえて一生懸命練習に励みました。足を動かす事、物につかまる事。でもなかなか立てるようにはなりません。クララはみんながクララに「いつ立てるようになるのか? もう立てるようになったのか?」と聞きに来るのでとうとう泣き出してしまいました。「みんなが立て立てって言って… でも、もしかして立てなかったらどうなるの? いいのよ、歩けなくたっていい、一生立てなかったっていいのよ。あたしもう練習なんかしない、しても仕方ないもの… しても立てないもの。それをみんなで立て立てって言って、立てない私が悪いみたいに… 私もうフランクフルトに帰るわ」そう言ってクララは泣き崩れるのでした。それを見ていたおじいさんは「もう泣くな。誰もお前をせめてなんかいないさ。ただみんなせっかちなんだ、ハイジもペーターも、それにおばあさんも。クララに一日も早く立ってもらいたいんだ」と言います。しかしクララは「ごめんなさいおじいさん。でもいいんです、私やっぱりフランクフルトに帰ります」と言うと、おじいさんはクララを車椅子から抱きあげて夕陽の見える野原に座らせると「クララ、練習する前はクララはここへ置かれた時、向きを変える事はできなかったね。しかし今はできる。それはクララが一生懸命練習したからだよ。いくらやっても練習し始めの頃のように目に見えて進歩しない、いや練習すればするほど立てないような気がしてくる、こんな事をしていて本当に立てるようになるのか…」「おじいさん、どうしてそんな事まで?」「はっはっはっ、何を習ってもそういう時があるものだよ。クララ、お前は本当にフランクフルトに帰りたいのかい? いやいや、クララがそんな事を考えるはずはない、クララはそんな弱虫じゃない。クララは立ちたいんだ、立ちたいからこそなかなか思うようにいかなくて泣いたり怒ったりするんだ。なあクララ、世の中には足が悪くて一生歩けない人がいっぱいいる。だがクララの足は運のいい事に必ず立てると決まっているんだ。いつ立てるかなんってどうでもいいじゃないか、そんな事気にしないで頑張るんだ。さあ、勇気を出しなさい」「おじいさん、心配かけてすみません、私頑張ります」「うん、偉いぞクララ。見てごらん、あんなに夕陽がきれいだ!」そう言ってクララを励まし、アルムの山に沈む真っ赤な夕陽をクララとおじいさんは眺めるのでした。
 それからというもの、おじいさんはクララの為に村においしいバターを買いに行ったり匂いの良い草を取って来て、とびきりおいしい乳をクララに飲ませようとします。そんなおじいさんを見ていたクララは、自分の為におじいさんが一生懸命してくれるのを嬉しく思うのでした。
 アルムの夏も次第に深まり緑の色も一段と濃さを増す頃、クララは何とかつかまり立ちができるようになっていました。しかしもう少しのところで恐がってしまいクララはなかなか一人で立てるようにはなりませんでした。転ぶ事を恐がり、ちょっとした事で理由をつけて練習をやめようとする弱気なクララを見たハイジは泣きながら「クララのバカっ! 何よ意気地なしっ! 一人で立てないのを足のせいにして、足はちゃんとなおってるわ、クララの甘えん坊! 恐がり! 意気地なし! どうしてできないのよ、そんな事じゃ一生立てないわ! それでもいいの? クララの意気地なし! あたしもう知らない! クララなんかもう知らない!」そう叫ぶとハイジはクララをおいて駆け出してしまったのです。クララはハイジを追いかけようと思わず立ち上がってしまいました。そうです、クララは一人で立てたのです。振り返ったハイジはクララが一人で立っているのを見てびっくりしてしまいました。「ハイジ… 私、私立てたわ」クララがそう言うとハイジはクララのもとに駆けつけ「よかったねクララ」「ええ、嬉しいわ。ありがとうハイジ」そう言うと二人は泣きながら抱き合って喜びあうのでした。
第51話 クララが歩いた
 ハイジはおじいさんを呼ぶと、おじいさんもクララが一人で立っているのを見て「よく頑張ったな、えらいぞクララ。とうとう立ったんだ、それも自分の力で」そう言ってクララを励まします。クララは本当に嬉しくて仕方ありませんでした。そこへペーターも山の牧場から帰って来ました。クララはペーターを驚かしてやろうと思い、再び車椅子に座ります。今日も立てなかったと言うクララの言葉にがっかりしながら帰っていくペーターをクララが呼び止めると、そこには一人で立っているクララの姿があったのです。ペーターはびっくりしてハイジ、クララ、ペーターの3人で大喜びするのでした。
 さっそくおばあさまにクララが立てた事を手紙で報告しようとしますが、クララの提案でおばあさまには内緒にしておく事にしました。クララは自分が立つだけでなく絶対歩けるようになってみせるから、それまで内緒にしておいて、おばあさまとお父さんに歩く姿を見せて、びっくりさせるのだと考えたのです。
 次の日からクララの歩く練習が始まりました。クララはハイジやペーターの肩につかまって山小屋の周りを歩き続けました。こうして夏の終わりも近い頃、クララはやっと伝い歩きができるようになりました。その頃ラガーツの温泉ではクララのおばあさまががっかりしていました。今日ハイジやクララから届いた手紙にもクララが立てるようになったとは書かれていなかったからです。おばあさまはクララが立てるようになる日をラガーツの温泉で心待ちにしていました。
 クララは車椅子があると、つい頼ってしまうから、もう車椅子をしまってほしいとおじいさんに頼みました。クララは自分の足で歩きたかったのです。それを聞いたおじいさんは「よく決心したな」と言ってクララを誉めました。クララも「車椅子さん、長い間ご苦労様」と言って車椅子に別れを告げるのでした。
 それから車椅子のないクララの生活が始まりました。クララはハイジの肩を借りて山羊小屋まで歩きます。ハイジが山羊の乳を取りに行っている間にクララは一人で歩いてみようと思い、柵から手を放して一人で歩き出したのです。クララは一人で歩けた事に大喜びしましたが5歩ほど歩いた所で目を回し倒れてしまいます。ハイジはクララが一人で歩けた事に大喜びでしたが、クララは一人で倒れた事がショックで落ち込んでしまうのでした。
 クララはその日、練習を休み、ずっと元気のないまま食事もほとんど食べませんでした。翌日になってもクララは元気がありません。クララは歩く事が急に恐くなってしまったのです。クララにとっては車椅子に乗っていた頃の方がずっと自由でした。クララは急に車椅子が恋しくなってしまいます。苦労しながら壁づたいに納屋まで歩いたクララは車椅子を取り出そうとしますが、納屋から出そうとした所で倒れてしまい、車椅子は山の斜面を滑り落ちて岩にぶつかりバラバラに壊れてしまいます。クララはもう車椅子を使わないと決心したのに車椅子に頼ろうとした自分が恥ずかしくなって泣いてしまうのでした。そんなクララを見ていたおじいさんは「いやいや、恥ずかしい事なんかちっともないさ。よ〜くわかるよ、クララの気持ちは。それよりどうだ、久しぶりに山の牧場へ遊びに行こう。大将も寂しがっている事だろうしな。干し肉でも持ってみんなで遊びに行ってやろうじゃないか」と励ますと、クララはおじいさんの胸にすがって、いつまでも泣き続けるのでした。
 おじいさんは気分転換にとクララを山の牧場まで連れて行きました。クララも久しぶりに訪れる山の牧場に、すっかり元気を取り戻します。そこでクララはペーターとハイジの肩を借りて再び歩く練習をしてみます。急にクララはそばに咲いていた花を摘みたいと思いました。クララはペーターとハイジの手を離し、クララは一人でゆっくりと歩きだし花を摘んだのです。「摘んだわ、生まれて初めて自分の足で歩いてお花を摘んだわ」そう言ってクララは感激し、おじいさんの胸に飛び込みました。ハイジとペーターは「クララが歩いたぁ〜」と言って牧場を走り回って大喜びするのでした。
第52話 また会う日まで
 その日もアルムの山々は美しい朝を迎えました。クララは弱々しいながらも自分の足で歩けるようになりました。ペーターが持って来た手紙にはラガーツの温泉にゼーゼマンさんが来ていて、今日の昼過ぎにおばあさまとゼーゼマンさんがアルムの山に来ると書かれていたのです。ハイジやクララは大喜びでした。おばあさまやゼーゼマンさんに逢える喜びもあったのですが、何よりも立って歩けるようになったクララの姿を見せてびっくりさせたかったのです。ペーターもゼーゼマンさんやおばあさまがびっくりするところを見たかったのですが、ペーターは昼間は山の牧場で山羊の番をしなければならないので、見る事ができません。するとそれを知ったおじいさんは「おいヨーゼフ。今日は大将と山の牧場に行ってくれ。昼過ぎに大将はちょっといなくなるかもしれないが、しっかり山羊の番を頼むぞ」と言ってくれたのです。それを聞いたペーターは大喜びでヨーゼフを連れて山の牧場に向かうのでした。
 おばあさまとゼーゼマンさんはデルフリ村に向かう馬車の中で、クララに逢えるのを楽しみにしていました。それも見違えるほど元気になったクララに逢えるのです。しかし自分の足で立ったクララに逢えないのは少々残念な事でした。それでもクララが健康になっただけでも十分アルムの山に来させた甲斐があったものだと思うのでした。
 おばあさまとゼーゼマンさんがアルムの山小屋にやって来ました。クララは椅子に座ったままお父さんとの久しぶりの再会を喜びます。ゼーゼマンさんはクララがフランクフルトにいた頃には考えられないほど、さらには自分で思っていた以上に元気になっていたのでびっくりし、クララを元気にしてくれたおじいさんやハイジ、ペーターやアルムの山に感謝するのでした。ところがおじいさんは「驚くのはまだ早いですよ、子供達を見てやってください」と言います。クララを見たおばあさまとゼーゼマンさんはクララが椅子から立ち上がった姿を見て目を疑いました。「立った、クララが立ち上がった…」「クララが一人で立っている…」しかも立っただけではなく、クララは一人で歩きだしたのです。クララとおばあさま、そしてゼーゼマンさんは抱き合い「ああ、私は夢を見ているのじゃないでしょうね」「夢じゃないわ、歩けるのよ、私。立てるのよ、歩けるのよ、パパ」そう言って3人は涙を流して喜びました。お父さんに抱きかかえられたクララにハイジが「クララ、よかったねクララ」と声をかけると、クララは「ええ、ハイジ。私、幸せよ」と言うのでした。
 ハイジやクララ、おばあさまにおじいさんとゼーゼマンさんはペーターの家に行きました。ペーターのおばあさんはハイジが再びフランクフルトに行ってしまうのではないかと心配でしたが、クララのおばあさまからハイジを連れて行ったりはしないと聞かされ安心します。そしてハイジはおばあさんにいい話しをもってきました。それはおばあさんの為にハイジがフランクフルトで使っていた豪華なベッドをおばあさんの家に届けさせると言うのです。ハイジはクララが歩けるようになったお礼に何が欲しいと聞かれた時、真っ先にそう答えたのでした。おばあさんはハイジの優しさに感激してハイジを抱きしめるのでした。
 その夜、おじいさんとハイジ、クララとペーターはキャンプファイヤーをします。そこでクララはフランクフルトに帰らなくてはならない事をペーターに告げます。クララはアルムの山の冬の寒さに耐えられないのでフランクフルトで歩く練習をしなければならないのでした。でも来年の春には必ず戻ってきて自分の足で歩いて山の牧場まで登れるようになっていると約束するのでした。
 次の日の朝、クララは山羊達やヨーゼフ、アルムの山小屋、樅の木に別れを告げ山を降ります。デルフリ村まで見送りに来たおじいさんとハイジ、ペーターは来年の春には必ず再会しようと約束してクララと別れるのでした。
 クララがフランクフルトに帰ってからすぐアルムの山々は秋を迎えました。ペーターの家にはフランクフルトから豪華なベッドが届き、おじいさんはペーターの家の修理、ハイジはおばあさんにお祈りの本を読んで聞かせ、幸せな日々を送ります。クララからの手紙には「私は一生懸命歩く練習をしています。春になったらアルムの山をハイジやペーターと一緒に駆け回りたいと思います」と書かれていました。クララはその為にフランクフルトのゼーゼマン家でロッテンマイヤーさんの指導のもと、階段を上る練習をしていたのです。ロッテンマイヤーさんもクララの上達ぶりに感心し、これなら来年の春にはアルムの山を登る事ができると、クララが来年の春に再びアルムの山を訪れる事を認めてくれました。クララは来年の春には、きっとアルムの山に行き、ハイジやペーターと一緒に自分の足で歩いて山の牧場まで行こうと希望に燃えるのでした。
 短い秋はすぐ冬になりました。ハイジやおじいさんは再びデルフリ村の冬の家に移動し、ハイジとペーターは学校に通い、ペーターは学校の帰りにおじいさんから木工仕事を学びます。クララは練習の甲斐あって走れるまでになっていました。ハイジとペーターはソリ遊びの途中、マイエンフェルトの町を走る汽車を見かけます。あの汽車に乗ってクララがやって来るのだと考えると、思わず「クララ〜 早く来いよぉ〜」と叫ぶのでした。2人は春になってクララがやって来て3人で野原を駆け回る夢を見、そしてクララがやって来る春を待ち焦がれるのでした。
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