生産管理講座 - コーチング

コーチング

コーチング


 現在、コーチングが話題になっているのは、過去において暗黙知として企業の中に持っていたが、組織としてコーチング能力を残し伝えることができなかったためである。 そのため、形式知として残っている海外から逆輸入する結果になってしまった。 つまり、人事部門が労働組合とノンプロのスポーツ選手を利用した社員の囲い込みを主とした人事政策を採用していたためろである。
 経営のパラダイムが“生産指向”から“顧客指向”に転換したことと対応して、社員の企業家的な能力を活用しなくてはいけなくなった。 例えば、顧客満足度を上げるには、顧客に直接対応している末端の社員を重要視せざるを得ない。
 しかし、人事部という名称を人財管理部に名称変更する以上のことができているだろうか。 実力主義とか成果主義の名のもと給与体系を変えるだけで、社員のモラール(労働意欲)とモラル(倫理観)を向上させることができるだろうか。
 企業内でのマクロ政策の給与体系の変更と、ミクロのコーチングの両方が必要となる。
 コーチングほど、他人の能力を伸ばすうえで重要なものはない。こんな警句を聞いたことがあるはずだ。 「男に魚を一匹与えれば、1日、生きられる。魚を釣る方法を教えれば、男は生涯、食うに困らない」。 これがコーチングだ。命令するのとやり方を教えるのではまるで違う。優れたリーダーは、あらゆる場面を指導する機械だととらえている。
 もっとも効果的なコーチング法は、まずその人物の行動を観察し、役立つフィードバックを行うことだ。 その際、優れた点や改善すべき点を、具体的な行動や業績を挙げて指摘すべきだ。(87ページ『経営は「実行」)
 組織の行動改革とは、企業組織を根底から支えている従業員1人ひとりを、自立したリーダシップを備えた有能な人材へと自己変革させることから始まる。 この自己変革を誘発し、組織を活性化させるスキルこそ『コーチング』である。 アメリカでは、その効果と意義を理解しているため、トップが率先してコーチングの導入を進めている。 また、それは有能な人材を対象としているため、コーチングを受けられることは名誉であり、従業員のインセンティブとなっている。
 『コーチング』は、リーダーシップ論 に書いた『状況に呼応するリーダーシップの理論(SL理論)』の4つの段階に沿った対応が重要である。
  • 高指示/低協労
  • 高指示/高協労
  • 低指示/高協労
  • 低指示/低協労
 『高指示/低協労』では『コーチング』よりは、元日本海軍・の山本五十六連合艦隊司令長官の下記の短歌が当てはまる。
 やってみせ 言ってきかせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ
 『コーチング』は協労という面で重要であり、実務能力が高まってきた『高指示/高協労』と『低指示/高協労』の状況におけるリーダーシップにとって重要なものである。 『低指示/低協労』の状況においては、広義には『コーチング』であろうが、『メンター』ということになる。 ミッシュランに勤務していた時代のカルロス・ゴーン氏とフランソワ・ミシュラン氏の対話が参考になる。
 ブラジルから本社に進捗状況の報告に戻ると、彼(フランソワ・ミシュラン氏)は話を聞きながらアドバイスしてくれた。 時に私の意見に首をかしげることはあっても、口を差しはさんだり、私の判断を頭ごなしに撤回させるようなことは一度たりともなかった。 彼は現地にいる私を信頼し、支えてくれた。かれはいつもこういう言い方をした。
「君が知っているいちばん効率的な方法で仕事を進めなさい。そして結果を出しなさい。もしも良い結果がでなければ、その理由を教えてもらうよ」
「必要なものがあれば言いなさい。何か私にできることはないかね?」(100ページ『ルネッサンス』)
 コーチングと聞くと、大方の人はスポーツのコーチを連想されるだろう。 事実、コーチングのルーツはスポーツ界にある。 ただし、通常、スポーツの世界でコーチングというと、その特定の競技に習熟した人たちを『何かを教え込み、指し導くこと』だと誤解されている。  コーチという言葉の語源に溯ると、もともと中世の時代に『馬車』という意味で使われていた。 いまだにその名残りで欧米の長距離バスのことをコーチと呼ぶし、航空会社によってはエコノミー・クラスのことをコーチ・クラスと呼ぶ。 馬車とは、乗客を目的地まで連れていくための乗り物である。 ここで乗客を選手と見立てると、コーチとは選手をその目的地、すなわち、しかるべき成果を上げたり、特定の技術を身につけたりという状態まで『連れて行く存在』である。

 この時、自問自答すべきは、『では、いったい誰が主役なのか』ということである。 はたしてコーチが主役なのか、それとも選手が主役なのか。 しかしスポーツの世界では、コーチが自分の思い通りに選手を指導し、自分の行きたいところに選手を連れていってしまっていた。 具体的に、それがどのようなかたちで表れるのかと言えば、コーチと選手のコミュニケーションが『C&C型(command and control:命令と統制)』になってしまう。 このようなコミュニケーション環境で育てられた選手は、往々にして受け身となり、コーチに言われたとおりやろうと必死になる。 もちろん、コーチの指示が的確であれば、その場はできるようになるかもしれない。 しかし、随時コーチの的確な指示が受けられない状況に直面すると、どうすればよいのかわからなくなってしまうことが多い。 つまり、選手がコーチに依存した状態になってしまう。

 受け身のままでは、自主独立の精神は育たない。 そのような精神を育むには、『答えを与える』のではなく、むしろ相手が自ら『答えを見つけられる』ようにサポートすることから始めなければならない。 それにはまず、相手に問いを投げかけるという、質問型のコミュニケーションが重要になってくる。 『自分で考え、自分で動ける』自立・自律型の人材を育てるのが、コーチングの目的である。

 コーチングでは、『その人が必要とする答えは、すべてその人の中にある』と考える。 言い換えれば、答えは外から与えられるのでは意味がなく、自分から生み出さなければ、その人の身につかないということだ。 これこそ『コーチングの鉄則』であり、これを信じ、この信念に従って行動すること、それに尽きる。
 コーチングの哲学は次のとおりである。

  1. 人は無限の可能性を持っている
  2. 人が必要とする答えは、すべてその人の内部に保有されている
  3. 答えを見つけるためには、パートナーが必要とされる
  4. 「気づき」を重視する

 コーチングの考え方には、マズローの「欲求5段階説」の生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、自我の欲求、自己実現の欲求のうち、最終的な自己実現を目指して人は進むと考える。 同様に、マグレガーが提唱した「X理論・Y理論」で、Y理論の「人間は本来勤勉であり、環境条件が整備されていれば指示されなくても行動する。 さらに自ら責任をとろうとする自発的人間である」とする立場を取っている。

 コーチング導入に当って事前に考えておきたいチェックポイントは以下である。

  1. 組織のビジョンを明示しているか
  2. コーチングが人材マネジメントの一環として認識されているか
  3. 組織が言行一致しているか
 第一番目の、“組織のビジョンを明示しているか”という点に関しては、既に“ビジョナリーカンパニー”等で指摘されている。 顧客指向の時代になって、社員が自立・自立的に動くには、企業理念や企業目的が明確になっていなくてはならない。 これによって、社員1人ひとりの努力の方向と、企業の方向性が明確になって初めて協働関係を樹立でき、個人は確固たるコミツトメントに基づいて最大限の力を発揮する。

 組織がビジョンを明示していない放任の場合、まずエグゼクティブ個人が会社のベクトルを歪める。 つまり、エグゼプティブは個人の利益や部門・グループの利益のために身勝手を押し通そうとしベクトルを歪める。 その後、歪められたベクトルに従業員の合さされ、結果として従業員はそこそこの能力しか発揮できなくなる。

 第二番目は、コーチングが単独のプログラムとしてではなく、人材マネジメントの一環として位置づけられ、他のプログラムと連動しているかどうかという点である。

  • 業績管理や評価制度のなかで、コーチングがどのような役割を果たすのか、それが明確になっているか。
  • 中間管理職だけでなく、トップ・マネジメントが自らコーチング・スキルを用いて、部下とコミュニケーションできるか
  • コーチングがリーダーに必要な要件の1つとして認識され、そのスキルの高いリーダーが適正な評価を受けているか

 第三番目の、“組織の言行一致しているか”という問題は、顧客指向の企業に転換しているかという問と同じである。 顧客指向によってのみ、真に組織の分化や仕組みそのものが、従業員の自律性をサポートできる。

 コーチングでよく取り上げられるスキルを紹介すると下記になる。

 傾聴する  話だけでなくトータルに聴く
 承認する  対象者の行なっていることを認め、力づけること
 質問する  対象者から様々なことを引き出すために質問すること
 要約する  課題を絞りこんでいくためのステップ
 フィードバック  対象者にコーチの感じたことを返す(伝える)こと

傾聴する
 コミュニケーションは相手が自分を受け入れてくれる、と感じることで成立するものです。 そのためには対象者の情報を正確に収集する必要があります。
  1. 客観的に聴く
     偏見や先入観、固定概念を捨て、客観的に人の話しに耳を傾ける

  2. 積極的に聴く
     「はげまし」「うなずき」を加える。ポジティブな3つの質問を駆使し広がりを持った質問をする

  3. 対象者のために聴く
     自分のためではなくて、本当に対象者のために、対象者の立場になって聴く

承認する
 コーチングはその人が本来持っている力を引き出してあげることです。 そのためには、本人が自分の力を信じていなければなりません。 すなわち自信を持つことです。 この「承認する」とは、自信を持つよう対象者を力づけ、即座にそれを承認してあげましょう。 「はげまし」「うなずき」は承認のための方法の一つです。

質問する
 コーチングの実践は「質問により関心を持ってくれるよう対象者をナビゲートしていく過程」である。 ポジティブな3種類の質問は、対象者の持つ力を最大限引き出し発揮させることを目的に投げかける質問です。

《ポジティブな3つの質問》
  1. 拡大質問(開かれた質問)
     すぐには答えられないような質問。正解が複数あり、どれか1つに特定できないような質問
     「それが実現した時、あなたはどんな気持ちになりますか?」
  2. 未来質問
     将来のことについて尋ねる質問。
     「来年は、その夢をどのレベルまで実現したいですか?」
  3. 肯定質問
     否定形の言葉を含まない質問。対象者の望む方向に意識を向ける質問。
     「どこを改善したら、うまくいくとおもいますか?」

《ネガティブな3つの質問》
  1. 特定質問(閉じた質問)
     誰でもが同じ答えとなったり、一言二言で答えられる質問。
     「あなたの進みたい道は、独立の方向ですか?」
  2. 過去質問
     終わってしまった過去のことを聞く質問。
     「なぜ、あの時そんなふうにかんがえたのですか?」
  3. 否定質問
     否定形の言葉を含む質問。対象者の望まない方向に意識を向ける質問。
     「その方法がうまくいかないのは誰のせいでしょうね?」

要約する
 対象者が抱えている様々な課題を整理したり、大きな固まりとして存在している問題点を小さな単位に砕いたりする(チャックダウンとも言う)。 気づき・洞察に至れば、次に採るべきアクションは明確になります。 ところが成長の過程において、何が問題なのか、あるいは問題があるのはわかっているものの原因が特定できない、ということがよくあります。 要約は、それを一つづつ解決していくステップなのです。
 ただ要約で気をつけなければならないことは、コーチの解釈を押し付けない、ということです。 答えはあくまでも本人が持っているということなのです。

フィードバック  コーチングでは、対象者に対して感じていることをそのまま率直に伝える(返す)ことを指します。 それは、反応、感想、意見です。 これがスキルとして位置付けられているのは、「率直に伝える」ということが、実は大変難しい。
 スキルとしてのポイントは「あなたは…ですね」ではなく「私は…と感じています」というメッセージパターンにすることなのです。 主語が「あなた」ではない「私メッセージ(Iメッセージ)」になるように心がけることです。
 このようにフィードバックは、コーチ自身が自己をマネジメントするスキルでもあります。 あくまでも対象者の立場になって伝えること、これがコーチに求められる姿勢です。


コーチングサイクル

 コーチングはこれまで説明してきたスキルを自在に活用しながら、対象者のパフォーマンスを支援していくものです。 以下のような流れで回していくのがコーチングサイクルです。

1.準備
     実際のコーチングをスタートする前に、その目的や対象者が持っている問題について確認します。

2.目標の明確化
     生み出される成果である『パフォーマンス目標』と成果を生み出すためにやらなければならない『学習目標』を定める。

3.体験
     目標が定まった後は、その達成に向けて実際の行動を起こす。

4.振り返り
     対象者が実際の行動を通じて、何を気づき、どのようなことを得たかを振り返る。 新しい発見や疑問点を対象者自身が確認し洞察につなげていきます。 「気づき」を促すために「質問」や「要約」が使われます。 そして「フィードバック」という、コーチと対象者とのインタラクティブなやりとりを通じてコミュニケーションを深めます。

参考文献

  • 『「コーチング」に強くなる本・応用編』  本間 正人・本間 直人著  2003年1月20日  PHP文庫(ほ62)
  • 『「コーチング」につよくなる本』  本間 正人著  2001年11月15日  PHP文庫(ほ61)
  • 『コーチングのリーダーシップ論』  DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2001年3月号
  • 『部下を伸ばすコーチング』  榎本英剛著  PHP研究所  1999年
  • 『カウンセリング&コーチング クイックマスター』  TBC受験研究会編著


カウンセリング


 カウンセリングは、健常ではあるが何か問題を抱えているクライアントに対し、カウンセラーがコミュニケーションを重ねることによって良好な人間関係を形成し、クライアント自身の自律性をテコにしながら行動変容を果たしていくものである。 カウンセリングを説明する際に欠く事のできないキーワードが3つある。

  1. 援助的人間関係
  2. 行動変容
  3. クライアントの自律性尊重
 コーチングは、特定分野におけるパフォーマンス向上を期待を中心とした、目標達成の手ほどきとしてのイメージが強い。 ゼロからプラスの方向に向かってベクトルが伸びるイメージが強い。
 一方、カウンセリングは精神的な問題を抱えている健常者が中心で、マイナスからゼロに向かってベクトルが伸びているイメージである。

 来談者中心療法を提唱したロジャーズは、カウンセラーが備えておくべき条件を下記の3つあげています。

  1. 自己一致
     クライアントの前で自分が感じていること・経験していることを否定したり歪めたりしてはならないという態度

  2. 共感的理解
     クライアントの私的な世界をあたかも自分自身のものであるかのように感じ取り、“あたかも…のように”("as if")という性質を失わないこと
  3. 無条件の肯定的尊重(受容)
     あいづちを打つような単純な受容ではなく、相手に対する深いレベルでの受容

 カウンセリングの理論は、歴史の流れに沿って下記の8つある。
  1. フロイトが創設した『精神分析(理論)』
  2. 心理テスト(検査)を中心とする『特性・因子理論』
  3. ロジャーズが提唱した『自己理論(来談者中心療法)』
  4. 心理療法の新しい考えに基づくパールズの『ゲシュタルト療法』、エリスの『論理療法』、バーンの『交流分析』
  5. 哲学的志向の『実在主義的アプローチ』
  6. これまでの理論と対照的なスタンスをとる『行動療法』
  7. 既存の各理論を柔軟に活用・併用する『折衷主義』
  8. 集団を対象とした『エンカウンター・グループ』『家族療法』

 企業改革でよく使われるのは、エンカウンター・グループ(encounter group)です。 エンカウンター・グループは、1960年代半ば頃ロジャーズにより創始されました。 エンカウンターとは『出会い』を意味します。 他人の思惑や評価を気にしないでいられる雰囲気の中で、グループのメンバーが相互に本音を出し合い、心のふれあいを体験することによって、各個人の人間的(内面的)成長を促進していくものである。 同時に、組織そのものを内面から成長させようという試みでもある。

 『なぜ会社は変われないのか』の柴田昌治氏が行なっているオフサイド・ミーティングは、エンカウンター・グループの手法を取りいれていると私は考えている。 ただ、人は何も予備知識のない人の前では、本音を話すことが難しい。 そのため、オフサイト・ミーティングは、自己紹介から始まっている。 一般に、人々が本音で話し出す瞬間を、改革の瞬間と呼ぶ。

 また、アメリカの電機メーカーのGEでは、ワークアウトという新しい改革を始めた。 ワークアウトとは、従業員を支援し、気持ちよく働けるようにするものだ。 会社にとって、自分は大切な人間だと、従業員に思ってもらうのが目的だ。 それまでは管理職の責任だった生産性の向上を、工場の従業員ひとりひとりが担うエンパワーメント(権限の委譲)を行なった。 博愛主義で従業員に親切にしようというのでもなく、工場労働者のほうが頭がいいと感じているわけでもない。 従業員は事業に不可欠の要素であり、そのように扱えば従業員の生産性は高まり、経営にプラスになると考えている。
 官僚体質がしみついた組織に、いきなり権限を委ね、成約を解き放ち、活性化しようとしても不可能だ。 従業員にショックを与えるだけで、真意は伝わらない。 従業員が自由に発言できる環境を作る。 ニューイングランド地方には、タウン・ミーティングという制度があり、市民は地域の代表者と話し合うことができる。 GEではこれを応用して、全ての部門がタウン・ミーティングを開く。 まずは簡単なテーマから話し合う。 あまり努力しなくても解決できる問題について、出席者が自分の意見を言うようにする。 誰も指摘しないまま長い間放置され、生産性向上を妨げていた無意味な慣習が取り上げられる。 上司にはっきりものを言うことに抵抗がなくなれば、もっと率直な話し合いができるようになるはずだ。 そうなれば、もっと困難な問題も解決できるようになるだろう。

参考文献

  • 『カウンセリング&コーチング クイックマスター』  TBC受験研究会編著
  • 『ウェルチ(リーダーシップ・31の秘訣)』  ロバート・スレーター著  日経ビジネス人文庫

参考ホームページ


ヘルピング


 『ヘルピング法』は、アメリカのカウンセリング心理学者のロバート・R・カーカフによって提唱された。 カーカフはあえてカウンセリングという表現をとらず「ヘルピング」と命名しています。 これはカウンセリングというと、どうしてもカウンセラーという専門家とクライアントという来談者というように両者の固定的な役割イメージが出来上がってしまう。 今日は部下のヘルパーになった課長が、明日はヘルピーになって部下からワープロの扱い方を教わることである。 今日はヘルパーの教師が明日はヘルピーになって生徒に『この学級はどうしたらもっとまとまるようになるだろうか』『ぼくの教え方の改善点はどこだろうか』とヘルプを仰ぐ図がカーカフにはある。 つまりヘルピーとヘルピーは同じ仲間同士であるとの思想である。

 カーカフの『ヘルピングの心理学』の序論の始めには、下記のような記述がある。

「私たちは成長する潜在能力を持って生まれている。 私たちはそれ以上の存在でもなく、それ以下の存在でもない。 この潜在能力を開花させる方法を習得した者は、言葉で言い尽くせないほど豊かな、感動に満ちた人生を経験するであろう。 成長する術を身につければ、私たちはどの方向に進出しても、また、何を企てても、望んだことを達成することができよう。 他方、潜在能力を開花させる方法を習得しなかった人は、無意味な、悲劇に満ちた人生を送ることになるのである」

 私たちはどこかで読んだことのある内容が書かれている。

 体系的に展開されたクライエントの洞察に行動計画を補うと、クライエントは最も効果的に活動できるようになるのである。 同じように、うまく組み立てられた行動計画に、深められた洞察が結び付けられ、両者が統合されると、最大の効果を収めることができるのである。 つまり、人生における人間の成長発展は、以下のように進むものと考えられる。

   洞察 → 行動 → 洞察 → 行動(以下無限に続く)

 援助技法の革新的な発展は、援助の効果についての調査研究から生まれたものである。 基本的には、援助の効果は、2つの要因、つまり、応答技法と行動化への手ほどき技法から導き出されることが分かったのである。
 応答技法とは、ヘルパーが、ヘルピーの思考の枠組みに入り、ヘルピーの経験について自分が理解したことを正確にヘルピーに伝えることである。 ここで重要視されるのは、ヘルピーの経験に対するヘルパーの共感、感受性、尊敬、暖かさ、そして、時には、その理解の具体性、明確性である。 ヘルピーの応答技法は、ヘルピーの自己探索を促し、洞察を深めたり、拡げたりするのを助けるのである。

 次に、行動化への手ほどき技法は、ヘルピーの経験をヘルパーの経験というフィルターにかけることから始まるが、多くの場合、ヘルパーとヘルピーはその後一緒になって、問題の解決に至るすじ道をつかみ、その方向に進むきっかけをつくるのである。 行動化への手ほどき技法において強調されるのは、ヘルパーの純粋性、素直さ、自己開示、分かち合いの精神、問題解決と行動計画設定の具体性、明確性、さらに、ヘルピーの言行に不一致が見出された時の指摘、直言などである。 つまり、行動化への手ほどき技法とは、ヘルピーが自分の問題の解決に向かって行動を起こし、目標に突き進むのを助けることである。 援助の過程において、応答技法と行動化への手ほどき技法は、両々あいまって、ヘルピーが洞察から行動に向かって進むのを助けるのである。

 くらし、学び、しごとの場における広範な調査と面接の結果、援助の過程は更に洗練されたものとなった。  
事前段階第一段階第二段階第三段階
ヘルパーかかわり技法応答技法意識化技法手ほどき技法
↓ 
ヘルピー参入自己探索自己理解行動化
フィードバック

参考文献

  • 『ヘルピングの心理学』  ロバート・R・カーカフ著  1992年3月20日  講談社現代新書(1091)


メンタリング


 人生経験や経験豊かな人、指導者、後見人、助言者、教育者または支援者という役割をすべて果たす人を包括的に意味する言葉として、メンターと呼ぶ。 メンターが未熟な人に対して、キャリア形成や心理・社会的な側面から一定期間継続して行なう支援行動全体を、メンタリングと呼ぶ。

 メンターの語源は、トロイア戦争後オデュッセウス王の漂流を扱ったホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物「メントル(Mentor)」からきています。 叙事詩の中でオデュッセイア出征後、メントルは王の息子テレマコスの教育を託された賢者で、テレマコスにとって良き理解者、良き支援者としての役割を果たした人物です。

 一般に、新入社員は入社して身近な人たちの中から、自分の仕事のスタイルの見本となる人をロール・プレーヤーを見つけ出し、仕事のスタイルをマネする。 仕事に成熟するにつれて、ロール・プレーヤーはその時の状況に合わせて変わってくる。 日本で女性の管理者が少ないのは、マネをすべきロール・プレーヤーが少なくて、自分なりの仕事のスタイルが身についていないためと言われている。 メンタリングによって、良き社風は良き社風として受け継がれ、悪しき社風は悪しき社風として受け継がれることになる。 これがいわゆる企業の持っているDNAと呼ばれているものである。

 企業風土を変える試みと社員育成としてメンタリングが、多くの企業で行われている。 経営管理者が分担して、将来の見込みのある30歳代の社員たちと定期的に面談を行っている。 若手社員は経営管理者と接する機会がないか、非常にすくない。 経営管理者が積極的に若い社員のロール・プレイヤーとなることによって、全社的な視野を持つよい機会を得る。

 日産自動車のカルロス・ゴーン氏は自分の著書『ルネッサンス』でおもしろいことを書いている。

 『何百ものコメントの中に、印象に残る意見がひとつあった。彼はこんなふうに書いていた。
「他の自動車メーカーには会社の特徴を形作ったリーダーがいる。 たとえばトヨタの場合、創業者とその一族の打ちたてたトヨタならではの特徴を見てとることができる。 ホンダにも創業者本田宗一郎の強い個性が息づいている。 しかし、日産には社員全員が尊敬できるような人物はいない」
 このコメントは胸にぐさりと突き刺さった。 日産にも誇るべき歴史と先達があるが、これぞ日産という強い個性があるかというと、確かにこの指摘通りというほかない。
 現在、日産はコア・バリューの再構築に全力を挙げており、コア・バリューに基づいた優先順位を決定している。 日産は強力なリーダーシップのもと、一歩ずつ日産の特徴を作り上げているさなかだが、やがては日産社員たちの自動車産業への貢献が評価されるようになり、そこから会社の個性が立ち上がってくるだろう』


 豊田喜一郎氏、豊田英二氏や本田宗一郎氏とともに仕事を共にした人々は、彼らをロール・プレイヤーとして仕事のスタイルや価値観を受け継ぐ。 更に、仕事のスタイルを受け継いだ人たちはロール・プレイヤーとなり、次の世代の人たちに仕事のスタイルを受け継いでいく。 これをカルロス・ゴーン氏は、コア・バリューと呼んでいる。

 豊田喜一郎氏、豊田英二氏や本田宗一郎氏等の個性的な創業者の意思が、社員の中に生き続けている。 トヨタ自動車の奥田社長が使命された時の状況を、『「トヨタとホンダ」勝ち組の自信と不安』では下記のように書いている。

 『しかし大方の予想を裏切り、章一郎氏が名指ししたのは奥田碵氏であった。
「人をよく見ぬいているな」
章一郎氏が名誉会長の豊田英二氏からそう言われたとの噂も流れてきた。』


 また、奥田氏が社長に就任するときのインタビューで、下記のようにも伝えられている。

『とくに言うほどの感想はない。ただ、豊田家は尊重するが、人事については公平にすすめていきたい』

 豊田喜一郎氏や豊田英二氏の経営スタイルや価値観をより強く受け継いだ奥田碩氏が社長に就任した。 豊田家を尊重するとは、豊田喜一郎氏や豊田英二氏の経営スタイルや価値観を尊重することであり、現在でもトヨタ自動車の多くの社員の心の中に存在し行動規範になっているからである。

 同様に、本田技研でも本田宗一郎氏の経営スタイルや価値観が受け継がれている。 本田宗一郎氏に関する多くの書物が、これを強化している。 『トヨタの哲学』とか『ホンダイズム』と呼ばれ、企業のDNAとして受け継がれていく。

参考資料

  • 『ルネッサンス』(再生への挑戦) カルロス・ゴーン著 2001年10月25日 ダイヤモンド社
  • 『「トヨタとホンダ」勝ち組の自信と不安』 上杉 治郎著 2000年9月15日 エール出版

参考ホームページ