目覚めのとき


土の中に隠れて早幾年
人の足音ばかり聞いて育った
長い迷路を手探りするうち
自分の非力さに打ちのめされた

誰もに未来があり
小さなきっかけで
巡り合える時が来る

暗いトンネルで彼は言っていた
俺たちの未来はそう長くないと

誰もに未来があり
人は夜明けを待つ
しかし明日は来ない
 ──未だ来ない

人は誰かになれる
世界が回るうちに
季節が廻るうちに
いつの間にか芽生えて飛び立ってゆく


川の底に潜んで息を止める
水の流れには為す術もなかった
天井から見張られているうち
言いようのない悲しみを覚えた

誰もが通りかかり
何かを感じ取り
やがてここを立ち去る

柱の影で彼は泣いていた
表の世界ではやっていけないと

誰もが通りかかり
ふと足を止める
知らぬ雑踏の中
 ──雑に踏み込む

人は誰かになれる
世界が回るうちに
季節が廻るうちに
目を離した途端に飛び立っている

人は誰かになれる
世界が回るうちに
季節が廻るうちに
未来の姿は誰にも分からない


 人が飛躍的に成長するとき。僕は未だその瞬間を見ることが出来ずにいる。生まれ変わった姿を目の当たりにし、不思議な感覚に囚われてしまう。同じ人物でありながら以前とは異なる人物。彼らは明らかに何かを積み上げたという自信に満ちていた。

 この成長は昆虫に似ているところがある。蝉は一生のほとんどを地中で、同じく蜻蛉は水中で過ごす。幼虫期と比べたら成虫期はあっという間で、変化の瞬間となるとほんの一瞬だ。
 プロスポーツを見ていると、誰しもの期待を超える選手が現れることがある。また、期待からは程遠い場所にいる選手もその時を迎えることがある。僕は数人の選手を知っている。しかしその瞬間に僕は立ち会っていない。彼らが輝く以前の、つまり燻っていた時期に僕は何の興味も向けていなかった。振り返ることは出来るが、今更彼らの苦悩の時期を掘り返しづらくもある。

 彼らは人知れず成長を遂げ、目を離した途端に飛び立っている。きっかけは些細なことだった。 人は誰かになれる。


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