セルオートマトンと複雑系

Complex Systems Created by Cellular Automata

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ランダムネスと複雑性

我々が通常、ランダムまたは確率的(stochastic)と言っている現象はどういうものでしょうか?最も身近な例の一つとしてコイン投げを考えます。例えば、コインを一枚投げては表か裏かを記録していくことにします。記録された系列には規則性がないことは容易に確かめることができるはずです。我々はこのような現象をランダムまたは確率的と呼んでいます。我々は、次にどちらが出るかを正確に予測することはできませんが、これを理解しがたく知的好奇心を刺激する現象と考える科学者はいないでしょいう。すなわち、コインの表(または裏)がほぼ確率1/2で出ると理解すればそれ以上探究することはないはずです。無論、複雑系は上記のようなランダムな現象を生成する系を指しているわけではありません。

さて今度は非常に多数(例えば1000人)の人間が一斉にコインを投げるとします。こんなこと実際に試した人はいないと思いますが、500 人くらいが表を出すことを疑う人はいないでしょう。表が出る人数が490人から510人の間である確率を実際に計算してみると約5割です。要するに、かなりでたらめだと思ったことでも統計的には最初からかなり予測可能です。言うまでもなく、500という数字はコイン一個あたりの確率1/2に人数の1000を乗じるという計算から出てきます。我々は何の気なしにこの計算を行っていますが、どうしてこのような計算が可能なのでしょうか?その理由は個々の人間がコインを投げて表か裏を出すという事象はそれぞれ独立に行われているのでその確率を足していってもかまわないからです。気体の分子運動論は、上記の「マスコイン投げ」に似ています。我々は統計物理学の講義において、個々の分子の運動エネルギーを重ねあわせて系全体のエネルギーを表し、それが巨視的な物理量である温度に比例していることを習います。物理学史上最も重要な発見の1つである気体の分子運動論は「部分を足していけば全体を表すことができる」という実に簡潔で普遍的な経験則を我々に与えることになりました。大分遠回りしましたが、純粋なランダムネスというのは決して理解しがたいものではなく、逆に分かりやすいものなのです。

それでは複雑性はランダムネスとどう違うのでしょう?ここで上記のコインをスピンに置き換えて見ましょう。スピンは隣接しているスピンと相互作用します。ここでまた、1000個のスピンのうち何個のスピンが上向きになるかを推定する問題を考えます。このスピン系の温度が十分高い場合には、スピンどうしの相互作用は無視でき、常に約500 個のスピンが上向きでしょう。すなわち、上記のような「部分の足しあわせ」に帰結させることができます。今度は温度が低い(具体的には臨界温度より低い)場合を考えます。この場合、任意の隣り合ったスピンは逆向きより同じ向きになろうとします。これによって、今までの計算のよりどころだった独立性が失われます。実際、上向きスピンの数が500から相当離れている可能性が高くなり、「ほぼ500個のスピンが上向きになる」というような安易な予測はできなくなります。すなわち複雑系では、微視的な現象を重ねあわせて巨視的な現象(ここでは上向きスピンの密度)を予測できません。すなわち、複雑系は予測不可能な系ですがランダムネスとは本質的に異なっています。また複雑系においては、個々の要素が相互作用していますので、モデル化するためにはどうしても状態変数どうしの乗算が入ってきます。よって複雑系は非線形の系になり、一般には解けない動力学方程式になります。これが、予測不可能性の動力学的な説明です。

まだ複雑系に厳密な定義は存在しませんから、「これこれが複雑系である」と断定することはできません。しかし、私がここで提示した複雑系の”定義”は複雑系として一般的に共有されている概念とほぼ同じ範囲をカバーしていると考えて間違いないと思います。このように、ある系が複雑系であるということは、「全体的な現象を観察・分析することにより部分的な現象に分け、それぞれの部分現象を微視的な物理的相互作用によってモデリングを行う」という従来の方法によって理解することが困難であることを意味しています。従って、複雑系の解析では、精密な微視的相互作用のモデリングを行えばすべてが明らかになるという、固定観念または幻想から脱却しなくてはなりません。

複雑系と自己組織化


複雑系の最も重要な特徴の一つが、系の外部からの直接的な拘束がないのにもかかわらず系自身がひとりでにある種の規則性を獲得することです。このような現象は自己組織化(self-organization)と呼ばれています。この典型的な例が、形態発生や進化などの生命現象です。これらについては、実のところまだまだ肝心なところは何も解っていません。例えば一つの卵細胞から複雑な個体が形成されるメカニズムのほとんどは謎のままです。無論、遺伝子に遺伝情報が書き込まれていることはわかっていますが、それが発生過程でどのように発現していくのかについては解っていません。このように複雑系の研究の核心部分ともいえる自己組織化について、まだ定式化された理論というものは存在していません。

このホームページの主題であるセルオートマトンは自己組織化を研究するのに適したツールです。例えば、実際に観測される複雑現象を再現するようなセルオートマトンを計算機探索(または人による探索)により多数生成させ、それらのルールを統計的に処理することにより、問題となる自己組織化現象がどのような条件のもとで発生するのかを調べることができます。多くの場合、自己組織化現象は相転移となって現れます。得られたセルオートマトンの相転移が、現実の世界の現象にどのように対応しているのかを調べることも重要になります[Su99]。

昨今、巷ではナノテクノロジーという言葉をよく聞きます。ナノというのは正しくはナノメートル(10億分の1メートル)のことで分子の大きさ程度の長さの単位です。すなわち、ナノテクノロジーというのは分子程度の微小な”機械”を作り、それに人間が直接できないような様々な仕事をやらせる技術のことです。問題はこの機械をいかに作るかです。一つ一つ手作りで作っていたのではコストが高くなってしまいますので、なんとかこのプロセスを自動化したいわけです。現在、上で述べた自己組織化を使った製造法が検討されています。現時点ではまだまだ研究段階ですが、これは将来有望な複雑系研究の工学への応用になると期待されています。まだ想像の域を出ませんが、セルオートマトンを用いて自己組織化による効率的な製造法を発見できるかもしれません。

カオスと複雑性

カオスもまたローレンツ系[Lo63]やヘノン写像の例でも明らかなように、相空間上の解曲線がフラクタル構造に自己組織化されることが知られています。その上カオスでは、初期値の微小なずれが指数関数的に拡大していくという意味で予測不可能な系です。これらの点においてカオスと複雑系は似ています。それではカオスと複雑系の違いはなんでしょうか?カオスがこれほどまでに人の目を引いた理由は言うまでもなくローレンツ系のように小自由度系から非常に複雑で予測不可能な挙動が観測されたからです。これを逆問題に置き換えて為替の変動などの現実の世界で見られるような予測不可能な現象が小自由度の式で表現できるかもしれないという期待が大きく膨らんだ時期がありました。ただしこのようなもくろみのほとんどは破綻し、その反省としてはやはり大自由度系は大自由度系でモデリングしなくてはならないということでした。すなわちカオスはどちらかといえば、小自由度系が研究対象になってきました。異論があるかもしれませんが、大まかに言えば複雑系は大自由度のカオスということができます。小自由度カオスの研究分野がなくなってしまったわけでないのですが、数学の抽象的な世界ではなく現実の世界に興味のある人はモデルの自由度を増やすことが必要です。

複雑系研究の実体

複雑系という研究分野は通常の研究分野とは少し違う面があります。複雑系とは、上記にように、非常に簡便に言えば、「微視的相互作用から明確に帰結できないような巨視的現象」を見せる系です。よって複雑系とは単に抽象的なものを指しているだけで、「私は複雑系の研究をしています。」と誰かにいわれても、「私は微分方程式の応用を研究しています。」と言われるのと同じように、何をやっているのか皆目検討がつきません。実際には、ほとんどの研究者は複雑系に属するなんらかのインスタンスを研究しているわけです。以下にその例を少しだけあげました。無論、この他にもいろいろな研究対象があると思います。
  • 政治経済システム
  • 交通流
  • 気象、海洋
  • 生態系
  • 生命現象
  • 人工知能
  • 化学反応
  • ゲーム理論


参考文献

[Lo63] Lorenz E. N.: "Deterministic nonperiodic flow", J. Atoms. Sci., 20, 130(1963).
[Su99] Suzudo, T. "Crystallisation of two-dimensional cellular automata", Complexity International,Vol. 6 (1999). to download pdf-formatted file

複雑系、複雑性に関するお勧め文献

  • Nicolis, G. and Prigogine, I. "Exploring complexity", R. Piper GmbH and Co. KG Verlag, Munchen (1989). (安孫子誠也他訳 ”複雑性の探究”、みすず書房 1993).(やや専門的だが読みやすい)
  • 吉永良正 ”複雑系とは何か”,講談社現代新書,1328 (1996).(一般向け)
  • M. Michell Waldrop "Complexity -The emerging science at the edge of order and chaos", (1992)(田中三彦,遠山峻征 訳 ”複雑系”,新潮社 1997)(一般向け、ベストセラー)

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Last Modified on 29, January, 2004