対人関係学的労務管理

1 これまでの人材・マニュアル型労務管理

 これまでといっても、有史以来ということではなく、おそらく、高度成長期の末期、バブル経済の時代に始まり、バブル経済の破綻から主流として定着している労務管理を、対象として論を進めることになる。

 この労務管理は、人材・マニュアル型労務管理というところが特長だと考える。即ち、労働者を資材のひとつとして扱うように「人材」と呼び、労働力の流動を国家政策の主要なテーマと位置づける。労働者個人の裁量の余地を狭め、マニュアル通りの行動を義務付ける。その場の事情に応じた適切な判断をすることは有害とされ、上司の判断を仰ぎ、事を進める。

 こういった労務管理のメリットは、合理的、合目的的な行動を保証する。そのため、労働力を削減できる。一定の作業成果が予想され、統計的手法に基づいた計画を立てやすい。熟練が不要となり、新規労働力が即戦力となる。企業秘密が保たれる等がある。従って、この型の労務管理も、妥当する職種があることは否定できないかもしれない。


2 人材・マニュアル型労務管理の弊害


対人関係学的に言えば、ひとつは、このような裁量の範囲が狭く、具体的な支援が少ない作業内容は、労働者のストレスを強化する(ジョンソン、カラセックモデル)。このモデルは、現代においては、古典的な労務管理の議論となった。

  さらに、マニュアルという方式は、現在の使い方では、非効率的な部分を看過しえない。なぜならば、マニュアルは、過去の限られた体験の中の、いわば死んだ情報を体系化したものであり、必要と思われる範囲の最大公約数が記載されているだけだからである。このマニュアルに縛られて、発展を阻害するというデメリットもある。現場の労働者は、マニュアルがあっても、現実の労働、特に顧客対応に、不自然さ、不合理さを感じている。

  また、上司の意思の具体化を至上命題にしてしまうと、その上司の考えから一歩も前に出ないことになる。異なった観点からの改革をしようとすると、企業から排除されることとなる。一言で言えば、独創的な商品、サービスを生むことが著しく困難になる。

  対人関係学から言えば、一番の問題は、労働者が企業利益を上げるよう労働することのモチベーションが生まれないということである。むしろ、このようなモチベーションを、最初から放棄し、マニュアルや上司という型の範囲内での労働だけを期待しているように思われる。現代の労務管理は、このような積極的な行動へのモチベーションを諦め、その代わりに、雇用不安を利用し、労働者に生活の不安定を提案し、雇用継続のために、積極的にマニュアルや上司の判断の型にはまって行かせようと誘導する。

  このような観点からすると、現代日本の状況は、生まれるべくして生まれている。多くの労働者が、過労死、過労自死に至るということは、深刻な事態である。日本経済全体から見ても、他の業種を犠牲にし、痛みを伴わせて進めようとした、IT産業等による輸出重視型経済政策も、一定の成果を見ているにもかかわらず、それが国家全体の利益に結びついていない。家電メーカーは、国際競争力を失い、低価格競争を迷走している。そうして絞り出した全てが、円高により崩壊する危険が厳然として存在している。

  失っているのは、独創性、自発性による生産性という、日本経済が世界の中で優位であった頃のセールスポイントではないのだろうか。不況は、自然発生的に起きたのではない。好況時からの企業の過剰な予期不安が、縮小再生産という悪循環を招いたように感じる。

  社会病理的には、企業の自然な道徳が欠落し、コンプライアンスということを意識的に追求しなければならない状態となった。頭脳流出も当たり前のようになっている。クレーマーが発生している一因ともなっている。


3 対人関係学的労務管理


 対人関係学的労務管理は、ひとりひとりの労働者の企業に対する帰属意識を高めて、企業利益を図っていくことの自己決定を促し、モチベーションを獲得していくという観点を導入する。

  企業が、労働者を尊重することによって、労働者は企業に自分を受け入れられているという実感をもつことになる。企業が自分が帰属すべき群れだという考えに達した場合、企業の利益と自分の利益が合致する。自分が企業利益のためにできることを考え、行動するようになる。その際、裁量の余地を広げ、プラスポイント評価を行うことによって、帰属意識は高まっていく。これは実は、高度成長経済を生み出したホワイトカラー層の労務管理政策である。起源としては大正時代に発生したと言われている。社会政策的には、良質な労働力の確保という文脈で語られているが、それだけの効果ではなかったと考える。

  意識の高い労働力は、顧客情報に最も身近に、最も具体的に接している。わざわざ、マーケティングを外注して、統計的な分析をしてもらい、会社の方針に合わない提案を斬新なものとして受け止める必要がない。事情を熟知している従業員に、無理のない提案をしてもらうほうが実用的である。統計的分析は、あくまでも計数上の議論である。アンケートという手法は、必要な情報、不要な情報を混在させて、数字で糊塗するものである。

  このように、従来の人材・マニュアル型労務管理は、お金をかけて業者に結果を提案させ、労働者に結果を出せと指示命令する労務管理である。対人関係学的労務管理は、労働者に結果を出させるよう誘導する労務管理である。モチベーションの高まりは、独創性や工夫という日本が忘れかけている労働の復活を約束する。

4 対人関係学的労務管理とマニュアル

対人関係学的労務管理においても、マニュアルの存在は否定し得ない価値があると考えている。問題は、その使い方である。マニュアル通りの行動が求められている現場であっても、マニュアルの内容を徹底する以上に、マニュアルの目的を徹底することに力点が置かれるべきである。

  ひとつはそうすることによって、マニュアルの想定しない不測の事態、労働者から言わせれば日常の事態に、適切に対応できるようになる。

  それよりも重要なことは、形式的に自分が動かされているという意識を軽減することができるようになる。決まりには意味があるということを丹念に説明することによって、労働者は、自分が尊重されていると感じるようになる。

 こうすることによって、マニュアルを通じて対人関係学を学んだ労働者はクレーマーを作りにくいという利点がある。現実のクレーマーが生まれないということは、クレーマーの背後にある対応の不満をもった顧客の意識がかわるということである。その労働者と接することで安らぎや程良い緊張感を持つ顧客は、クレーマーではなくリピーターとなるであろう。


5 対人関係学的労務管理と部下の失敗(PMG)

対人関係学の真骨頂は、部下の失敗に対する対応である。

  失敗に対する事後対応の重要な一つは、再発防止である。これについても、再発防止は、ノウハウが確立されなければならない。今の労務管理は、この点が手薄である場合が多い。気合等の精神論で乗り切ろうとしているとしか感じられない。「集中力」という言葉はすべてを解決すると考えているようだ。そうではなく、失敗に対する評価、原因の分析、その結果得られる将来的な対策という3本柱を、当事者と上司が自由に検討しなければならない。企業としての改善ポイントが見つかるかもしれない大きなチャンスである。

  また、労働者の企業への帰属意識を高める大きなチャンスである。単に温情を示して感謝させるということで終わらせてはもったいない。失敗に対する反省を有効なものとすることによって、真の意味での尊重感、再生感を得ることができるのである。そして、失敗を土台に新たな成長を見込まなければ、大人の集団とは言えないのではないかとさえ考えている。PMG

( Post-Mistaking Growth )という考え方を提案する。


平成26年1月17日

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