Crow


 鴉が一羽、空を駆っていた。
 世界は融けた夕陽の色をますます濃くし、水の下に沈んだ憐れな
旧世界を、優しく浮かび上がらせていた。
 鴉は、水面から僅かに出ていたアンテナの上で羽根を休め、遥か真下を見下ろした。その眼は、かつての主人と同様に、憐憫と嘲笑の入り混じった複雑な表情をしていた。
 鴉は音を立て、大きく翼を広げると、薄い皮膜に覆われた世界の上を滑空して行った。
其の時、鴉の足に陽光が白く反射した。
一瞬のきらめきの後、其処には666と記されたプレートが下がっているのが見えたが、其れを眺められる人の姿は、最早何処にも無かった。


2000.04.132003.09.30