Crystal Radio
子供の頃に拵えた鉱石ラヂオが見付かったので、徐に周波を合わせると、電子信号の如き音声が厳かに発せられてきた。
若き音楽家が、毎夜、自室に水の入った瓶を無数に並べ、手製の音匣を鳴らし、その界面の震えを記譜したものを、或る街の機密書庫の深奥に永年眠っていた通信機器で再現したものだと言う。
それは恐らく、あの街が軍事都市として機能していた頃、機密漏洩を防ぐべく、情報伝達韻号を変換する為に使われた、極めて稀れなる往時の名残に違い無い。
そう言えば、未だ戦争が起こる前、その街の寺院の回廊の至る所に刻印された点を、添えられた数の昇べき順に繋いでいくと、巨大な天球図が顕れるそうだが、刻々とその点の数や位置が書き換えられてしまうので、未だ誰もその全貌を目にしていないと聞く。
いつか、誰かがその天球図を解明する日が来るだろうか。
私は日課となっている作業───住居の裏手にある撮影所の廃棄箱から、遺棄されたセルロイド・フィルムを拾い来ては継ぎ接ぎ、亡くなった伴侶の生涯と同じ長さの個人映画を編集しながら、茫洋とそんな事を考えた。
2003.10.31