Door
「行ってきまーす。」
トーストを咥えたまま、慌てて学生服を着込む少年。靴を突っ掛けて、乱暴に玄関の扉を開けると、もう一つ同一構造の扉があった。
少年はトーストを口から落下させた。
もう一度扉を開ける。
三度、同じ造りの扉が彼を待ち構えていた。
少年は呆れた面持ちで、自宅の誰かに助けを呼ぼうと振り返った。
背後に扉は無かった。
代わりに存在していたのは、夜闇にも似た長き降り階段だった。底の方から漂ってくる煉獄からの風が、少年の瑞々しい頬を愛撫する。
更に驚くべき事に、ここは最早少年と扉以外には、他の何物も存在していない空間だった。ただ、頭上を覆う天然素材の天幕を除いては。
暫し、思索に耽ってから、少年は眼前の扉を開く事を選択した。
ひたすら扉を開け続けていく内、辺りは朝の輝きから、夕闇の群青へとフェイドアウトしていった。扉を開ける事に情熱を傾けている彼は、当然気付く筈も無い。
何百と同じ行為を繰り返しただろうか?
少年の細腕が酷い筋肉痛に苛まれてきた頃、必死の思いで開けた扉の向こうにはルネッサンス期の宗教画を彷彿とさせるバベルの塔の如し建築物が聳えていた。表面は苔でも蔦でもなく緑青で彩られ、天辺に昇っている二つの太陽が密やかにそれを灼いている。
少年はたちまち建築物に吸い込まれて行った。
1999.10.07