暗い闇夜の晩。
道端で何かが蹲って、こちらを視ていた。
粟立つ立毛筋。
なるべく視線を合わすまいと、懸命に歩みを速めたが、背後から迫り来る月のように、後を尾行てくる視線。
眼球の内に底知れぬ暗黒を湛えて、足元の影を喰らっている。
咀嚼される、別次元の己。
生命維持の限界値付近を彷徨う鼓動。
無酸素運動で、あてど無く疾走するが、加速すれば加速する程、眼差しは背中で大きな膜状の漆黒となり、高速移動する蛋白質を取りこもうと蠢く。
小脳を突き刺す空気の針。
マグネシウム洋燈の如く明滅する意識。
大きく口を開けた昏きものは、成す術を持たない蛋白質を呑んだ。
焼け付くような液体が纏わり付き、視えない闇の中に同化して行く自身。
ゆるゆると滑り落ちる雫と成り果てた思考が泡のように、内なる暗がりで音を立てる。
破裂する薄膜と共に、飛散する断章から、ぐずぐずと溢れ出す無限の虚空。
何時の間にか闇は晴れ、拡がる空域と共に無数の己の物語が漂い、こちらをじっと視続けていた。