Gift
時間が来たので、刑の執行に臨むにしては、余りにも通常でない死刑囚が掌握しているお茶を、職員が引き剥がして机の上に戻し、両手に前手錠を施す。そして、白い布を顔へ巻き付ける。
既に仕切りのカーテンが取り除かれ、木造の絞首台のロープが、重く垂れている。
例によって、一人立ちする事ができないので、刑壇の踏み台まで運搬する。
踏み台の脇には、三人の執行者が待機していた。一人は両足の膝を縛り、もう一人が鉄環の部分が首の後部に相当する様に、かつ絞縄と首との間に隙間が生まれない様に定着させ、一回だけ絞縄を首に掛けようとしたが、これが巧くいかない。
本来ならば、ほぼ同時に進む筈の三秒程度の作業ではあったが、死刑囚の全関節は、最早軟体動物に変貌を遂げてしまったからだ。
保安課長の確認指導により、一人が背中を支えて、最後の一人がハンドルを引いた。
医務技官がストップウォッチを押し、踏み台の片側が外れ、多少の音響(談・元拘置所所長)があり、身体が地下床から三十センチ程の所まで自由落下運動をして、懸垂する。身体の緊張によりロープの捩れが生じたので、その場で独楽のように回転した。また、痙攣が発症し、縛られた両足の膝を屈折させる形で、前後に激しく身体が動く。
絞縄を施した職員が、綱と身体とを軽く手で押さえる。その際、顔を立会検事の方へ向ける事は忘れない。
職員と医務技官は、共に階下へ参上する。そこで職員は手錠を外し、技官が目隠しを除き、脈拍を計る。
教誨師は、最後まで被処刑者を安心立命の境地へ導けなかった事を後悔し、ひたすら祈っていた。
脈拍が弱まり始める。技官は胸を開いて聴診器を当てる。
立ち会っている職員の一人の脳裏に、ふと、憲法第三十六条が浮かんだ。
<第三十六条【拷問及び残虐刑の禁止】公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。>
心停止。
死相を検して上へ昇り、所長に死亡時間を報告する。
全ての事後の後、五分経過したのを見計らって、所長と技官が被処刑者を下して、絞縄を解き、検死して寝柩に収める。
2000.08.23