Grown Up


 一日の始まりを告げる鳩の合成声に起こされて階下へ降りると、両親はせわしなく朝食の準備をしたり、出勤前の身支度を整えていた。

 僕は食卓の上に投げられたままになっている新聞を掬い、TV欄とその裏面だけ見る。

 お悔みの所に、中学年の時好きだった外国の児童作家の訃報があった。年齢を確かめようとした時、もう片方の手に持っていたトーストの屑が落ちて、薄い再生紙に油が滲んだ。地方局の番組が透けて見えた。僕は黙って新聞を畳み、TVのボリュームを上げた。

 食品会社の不渡りも、政権交代も、戦争も、有名人の不倫も、全部同じ時間、同じ声の大きさで報じられる。世界は平和で平等だ、と僕は思う。

 輸入物のベーコンを噛み千切っていると、父が三人分の紅茶を手に席に着いた。彼ら二人はこれをストレートで飲むけど、僕の分にはいつも牛乳が入っている。成長期の僕に配慮して、カルシウム添加の奴を入れてくれているのだ。お陰で最近膝が痛くて仕方が無い。後三年は痛むだろうかと思うとうんざりする。

 そうこうしていると、朝の連続ドラマが始まった。と同時に、母が素早く席に着いて、僕らの内で最も簡単な朝食を摂り始めた。三人の中で、母が最も家を出る時間が早いのだ。軍人並の速度で一皿空けてしまうと、リフレックス出勤の父に洗い物を頼んで、バス停へと小走りして行く。番組が始まって五分と経っていなかった。

 やがてその番組、と言っても十五分しかないドラマも終わったので、僕は食器を流しにつけて鞄の中身を確かめる。忘れ物にうるさい教師の理不尽な罰で、二十四時間を無駄にしたくない。まして塾へ行く時間を遅らせることなんて出来る筈が無い。

 一通り点検を終え、マンションのエレベーターに飛び乗る。タールと消毒液の匂いがする。膝が痛む。

 マンションの前に設置された時計が始業三十分前を指す。このまま行けば、学校行事の朝マラソンで二週走れる程度には間に合うだろう。

 こんな生活も後半年で終わりだと思うと、気が楽になる。

 その後は受験して、六年電車通学して、受験して、四年寝て、三十七年やり過ごせば後は死ぬだけだ。

 その日の為に、僕たちは生長する。悪意と、打算と、利己主義を吸って。

 すくすくと。ぬくぬくと。


2002.01.31