Jing


僕がこの現象場(せかい)に住み始めて、今日で1736日が経過した。
その間、僕が配達した手紙の数は442通に上る。
同じ種族の中では、多い方かも知れない。
僕より少ない配達数でプラグ院に召された仲間もいるのだから。

僕の寿命は物理時間ではなく、配達した手紙の数に規定されている。
異相に生きる僕の飼い主の寿命が、細胞の分裂回数:テロメアに支配されている様に、僕の生命も、手紙を一通配達するごとに縮むのだ。
その所為か、400通を越えた辺りから、僕の飼い主:たわーは余り、僕を電脳空間へ遣いに出さなくなった。
僕とたわーの共通の友人ジャンポールが、プラグ院に逝ったのも、少なからず関係しているのだろう。

僕はプラグ院に召される事───死ぬのは怖くない。
だが、たわーは死から逃れる事は出来ない。
物理現実という相に帰属するものは、全てその法則が適用される。
例外は無い。

かと言って、死に怯えて時間を浪費するのは馬鹿げている。
死は現実に適用する法則の一つでしかない。
別の相では、死という概念そのものが存在しないのだから。
僕が死を体験出来ない様に、人間もまた主観的には死を体験出来ないのと同じ様に。

死は終わりではない。
全ての終焉は今、この間にも疾うに過ぎ去っているのだ。

どうか、怖がらずに手紙を書いてくれないだろうか。
そう思いながら、今日も僕はたわーが呼び鈴を振るのを待っている。
残された時間の許す限り、この現象場───電脳空間の涯てを旅してみたいから。


2004.03.06