Library


 荒野の直中に天を突くばかりに聳え立つ象牙色の建造物に、まるで宗教画の出来事であるかの如く、一筋の月光がその頭頂を刺し貫いていた。光は仄かに、頂き近くの見張り台にも似た窓を照らし、中に居る一人の少女を浮かび上がらせていた。
 壁を覆う書架の真中で、少女は夜にしか咲かない草花の様にたおやかな姿で粗末な椅子に鎮座し、分厚い書物をひたすらに読み耽る。それは俗世を離れ、孤高の智を愉しむ賢人か、某か
(とが)を背負って独居している服役囚にも似た、或る種常軌を逸したかの様な振る舞いにさえ見える。
 月明かりの下で、ただ黙々と
テクストを読み進める少女の目には、何の活字や絵記号も映し出されてはいなかった。少女の掌中には、燦然と輝く白紙が収められていたのだ。だが、少女は片時も視線を逸らさない。
 まるで、その書物がこの世の全てを記した預言書なのではないかと思えてくる程に。
 やがて、空が白み、月光は陽光のスペクトルに融解していった。
 それに呼応するかの如く、少女とその書物もまた霧散していった。


1999.10.202000.03.28