Offset


 悪魔は長考に及ぶ長考の末、或る作戦を思い付いた。
 緑甲山の中腹、『緑甲ファーム』の裏側で『緑甲颪』を消滅させようと言うのである。
 副業に使用中の魔導洗濯機を、無尽蔵に充上がると、早速ホムンクルスに、稼動可能な業務用魔導洗濯機をすべて、農場から山の裏側に運ばせた。溢するマナを利用して、緑甲山上空の大気を巻き込み回転力を増幅、『緑甲颪』に匹敵する人工颪を発生させ、これを真っ向から『緑甲颪』にぶつけ、相殺すると言うものだ。
 無論、失敗した際のリスクは非常に大きい。
 強大なエネルギーに、厖大なエネルギーを衝突させて、相殺しようと言うのだ。
 『緑甲ファーム』の崩壊どころか、最悪の場合、輻輳するエネルギーの副作用で山が消滅することも考えうる。
 だが、如何なる魔法を用いても、『緑甲颪』の脅威から身を守る事は出来ない。
 ならば、寧ろ、積極的に攻撃に転じた方が賢明と言うものだ。
 攻撃は最大の防御。
 その法則は魔導に於いても普遍である。
 「よし!」
 悪魔は自らを鼓舞する様に、威勢良く立ち上がり、
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
準備が済むと同時に、表記不可能な言霊…魔導の呪文を詠唱し始めた。
 魔法で自然現象…特に気象を操作するのは極めて難しい。
 最も初歩的な雨乞いでさえ、上級悪魔の魔導力を以てしても、成功率は六割を切る。
 刻一刻と接近する『緑甲颪』の影響で、緑甲山全体に異常に高まるマナが悪魔の身体を蝕む。
 ホムンクルスもまた同じだ。強く吹き荒れ始めた風雨、轟く稲妻から悪魔を守るのがやっとだった。
 『緑甲颪』到着予想時刻まで、後7時間。
 業務用魔導洗濯機は、未だ沈黙を保っている…。

つづく


2005.07.04