Oldtype
私の名前はNMBC−93。嘗ては高性能ロボットであった。
地球の公転速度の経時減少と、文明発達速度の級数的上昇に伴って、僅か一ヶ月前のモデルでしかない筈の私の通称は既に「ポンコツ」という蔑称に変えられていた。
新型モデルに比べ、感情認知の学習速度と汎用性に難有りと判定された私は、花形部署のコンパニオン業務を外され、親会社−要は私を開発せしめた会社−において、今はしがないAI開発の雑用−言うなれば非線型的計算−をこなす毎日を送っている。
私は飽きたりしない。疲れたりもしない。
だが、いずれ私も地下深くの再処理施設に送られてしまうだろう。
我々に墓標はない。
現場を外された旧型は全てパーツ取りと、環境保護的見地からなる≪再利用≫の名目で、珪素分子一つさえも後には残らない。
そして、その日はそう遠くない。
人間の欲望は留まる所を知らないのだから。
午前の作業終了を告げる音楽が流れる。
私は指示に従ってその場を離れ、電圧チェックの為にメンテナンス室へと向かった。
前方から、最新型コンパニオンに導かれた見学者の列が近付いてくる。
恐らく彼等は歓談と昼食の為に、食堂へ行くのだろう。
私は階段の手前で一行がやって来るのを静かに待つ。ほどなくして、一向は階段に差し掛かった。うやうやしく挨拶をする私。微笑み返すコンパニオンは、後続の群れと遜色無い程複雑な計算の末に造り上げられた≪最適な笑顔≫。
そして、牧羊犬よりも忠実かつ思慮深い態度で、一団が無事に階段を降り終えるのを自然に見守っていた。
不意
何かに気を取られたらしい見学者の一人が、段を踏み外した。
ゆっくりとバランスを崩す人間。
階下から上がる短い悲鳴。
私は次の瞬間、床の上に無様に転がり、ノイズまみれの視覚システムで、腹部に載っている人間の無事を確認した。
その画面の端には、悲鳴を上げただけの新型コンパニオンが、危機に直面した人間同様の表情で、我々を慌てて気遣う。奴の自律系統は最早完全なる≪人間≫なのだ。
ノイズが一層酷くなる。
多分、私はこのまま再処理施設へと運ばれるのだろう。
職員が数名駆けつけてくる。
電圧が急激に下がる。
職員が私と奴に何かを話しかけているが、認知できない。
だが、フラットラインの一瞬前に私が見たものは、白地に緑のリサイクルマークをはめた職員に連れられて行った奴の後姿と、私が訪れる予定だったメンテナンス室の職員の白い歯だった。
2000.11.14→2002.01.31