Stigma
「お姉ちゃん、大丈夫?」
傍らで見守る幼い弟が、不安げな視線で少女を見据える。
少女は、鮮明に血痕の残る包帯を外しながら、弟の頭に手を当てた。
「大丈夫だよ。こんなの大した事無いんだから。」
じりじりと熱く鼓動を刻む額の傷痕。もう、十日十晩血が止まっていない。少女は、溢れ流るる血液をそっと拭い
「もう、遅いから先に寝なさい。」
と、朽ち果てた厩に僅かばかり残留していた藁で、彼の為に寝台をこさえる。
だが、彼はそんな彼女の背に浮かぶ痩せ衰えた肉体から目を離さず
「でも…。」
打ち捨てられた包帯を抱き締める。
「いいから、あんたは余計な心配しないの。たくさん寝ないと、大きくなれないぞ。」
「…うん。」
弟は言われるがままに、みすぼらしいベッドへ寝転び、目を閉じる。
少女は、天窓から射す月光を見上げた。
そして、両手をしっかりと組み、その場に跪いて歌を歌う。
天界へ届かんばかりのソプラノが、小屋の外の荒野を震わせた。声は、辺りに美しい波紋を投じ、その波は微かなエネルギーを帯びたまま、何処までも何処までも遠く遠くへと伝わって行った。
月光に照らされた額に刻まれた十字の傷には、じっとりと鮮血が滲み、艶やかに小屋を照らす灯火の如く輝いていた。
1999.10.07→2001.05.15