Town
この街に住みついてから結構な年月が経過した。始めの頃は生活習慣や風俗の違い故の戸惑いも多々あったが、今ではすっかりとこの街の仕組みにも慣れ、このような書き物をする余裕すら出来た。
それにしても、ここは大変な街である。何しろ尋常でない規模と速度で以って、日々刻々と気が遠くなる程の変容を遂げ続けるのである。
いや、諸君はそれを当たり前の事だと思われるかも知れないが、つと目を離した隙に我が家の隣の空地に銭湯が立っていた、などという事は有り得ないであろう? だが、この名も無き街では、そういった奇怪な現象がまるで気紛れな風の如く、当然の顔をして我々の間を通り抜け、翻弄するのだった。
全く、不可思議な街だ。
不可思議ついでであるが、この街の固有の波動と共鳴しあえる者だけが、ここに漂着するのだそうである。そう言えば、小生がこの街に迷い込んだ時に奇妙な引力を感じた。
己の追憶が左巻きの螺旋に解けてしまうかのような錯覚。
青とセピアの交じり合う懐かしい原風景。
還り着いたという安堵感。
あれは、一体何だったのか。
小生が街を求めたのか、それとも街が小生を呼び寄せたのか。
いずれにしても、ここはそら恐ろしくも、愉快極まりない街なのである。
1999.09.28