Unfinished
永い睡眠りから目醒めると、傍らで睡眠っていた筈の恋人の姿は喪失われ、代わりに巨きな三叉樹が慰める様に寄り添い、聳えていた。
窓の外を見遣ると、街は無数の塩の柱と化し、深深と降り頻る灰が無をつのらせている。
最早其処には誰の姿も無く、崩壊した博物館の地下室に残された、水の無い水槽に浮かぶ蒼い蛹だけが静かに微睡み、その時が来るのを待ちわびていた。
その物語は、何時も未だ始まらず、かと思えば何時の間にか全てを語り終えてしまい、また他の物語を紡ぎ始めるので、彼等はその物語に参加する事は出来ない。
呼ばれる筈の無い名を語られるの、ただぢっと待つだけだ。
もしかすると、そんな物語そのものが最初から存在しておらず、これは単なる夢の残滓に過ぎないのでは無いかとさえ思われたが、私は黙って瞼を伏せ、その考えを伏せ置いた。
何もかもを優しく覆い尽くしていく夢の残り火。
私はここで何をしていたのだろうか?
私はここで何を望まれていたのだろうか?
足元に転がる穢れた無数の『未来の死者』達は、どういう訳か全て胎盤に汚れたぬいぐるみばかりであった。
2002.07.31