渦巻偽典

綾取り


 友人と歓談している時、重要な商談を取り付ける時、大切な人に手紙を認める時、詩作に耽る時、恋人と愛を囁き合う時…言の葉を紡ぐ折に、必ず織られてしまうのが綾である。

 綾は、言の葉の間隙に見える独特の文様で、紡ぎ手の意志とは無関係に織り込まれる糸のことである。注意深く言の葉を紡いでいれば、混紡率を下げられるが、ふと気を抜くとたちまち織り込まれてしまい、言の葉をひもとく相手に大きな誤解を与えかねないので、綾を見付けたなら、速やかにそれを巻き取らねばならない。

 だが、えてして己の綾には気付き難いものである。従って、綾を取る者は自分とも、相手とも関わりの無い第三者である事が望ましい。それ故か、専門に綾取りを営む者は他者との関わり合いを厭うと言われており、定まった住居や名前を持っていない。

 また、綾取りの多くは紡績を兼業している。糸巻きによって巻き取った綾を使って、新たに言の葉を紡ぎ上げるのだ。

 その様な言の葉は、人の裡より生まれたばかりのまっさらなものとは違い、深みのある風合いを秘めている為、造る端から売れていってしまい、滅多に手に入れる事は出来ないのだそうだ。

 もし、貴方の心を揺さぶる様な言の葉に出会ったら、是非その糸を良く調べる事をお薦めする。もしかすると、それは綾糸によるものなのかも知れないからだ。


2002.02.25

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