渦巻偽典

自転車


 自転車が発明されたのは、今から凡そ二百年以上も前の事になる。この画期的な車の出現に伴い、天から与えられた周期に因らず、自分の思うがままに時間を操れる様になった。

 夕焼けを何千回と見たければ、小さな惑星の上で何度も椅子の角度を変えずして、只自転車に跨り一漕ぎすれば良いし、数日前に交わした約束を忘れてしまった時は、その誓いを結んだ時刻まで車輪を回せば良いのである。

 こんな具合なので、自転車はたちどころに売れ、生産が需要に追い付かず、暴動寸前の騒ぎにまで発展した事がある。

 しかし、自転車の普及につれ、自転車を漕いでいない人との時間的相対性の問題が浮上してきた。即ち、自転車を漕いで、物理的時間を縮めようとしている人と、天の力による時間の流れを生きる人との加齢の速度が、釣り合わなくなってしまったのである。

 また、時間を戻し過ぎて、自己の誕生以前へと溯った人さえ出てしまった。

 現在では、その調和を保つ為、世界標準時が設けられる様になり、正しく元の時間に戻れるようにと、自転車に乗る人は原子時計を二つ所持する事と、教習所へ通う事が義務づけとなっている。


2001.06.02

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