渦巻偽典

郵便


 郵便は嘗て大流行した言語遊戯の一種である。
 差出人の書いた仮説を配達夫が回収する。
 配達夫は差出人の仮説を独自に解釈した文書を捏造する。
 受領人は配達夫を介して配達された文書を元に、差出人の仮説にひとつの結論を導き出すのだ。

 最も旧い郵便の記録に次の様なものがある。

 差出人[青い色は知性をあらわす]

 配達夫[私は青い色を好まない]

 受領人[故にあなたは知性を持っていない]

 言葉の綾を利用したこの遊戯は、広く大衆に親しまれ、豊かな言語文化を育んだものであるが、時代を経るにつれ、こうした時間と手間を掛けた遊戯は好まれなくなり、今では貴族趣味の強い、優雅な遊戯と看做されている。

 成程、聖書に書かれている通り、言は神かも知れない。
 だが、神も言も人間が作り出したものだ。
 その言を用いた遊戯が廃れる事は、人間の衰退と言えなくはないだろうか。
 郵便が消え滅びる時、人間の心もまた消え滅びるのかも知れない。


2001.06.022005.07.08

電脳虚構閲覧所ニ戻ル  渦巻偽典索引ヲ開ク