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砂川重信という人


 砂川重信さんという物理学者がいた(99年に亡くなられた)。名前を始めて知ったのは、『ファインマン物理学』岩波書店の第5巻『量子力学』の訳者としてであった。以来、ほとんど忘れかけていたが、氏の書かれた物理の本で『理論電磁気学』紀伊国屋書店はだいぶ前に購入して、その難しさのため途中で挫折してそのままになっている。

 岩波書店から「物理の考え方」シリーズ1〜5が発売され、ぼくもとりあえず『電磁気学の考え方』というのを買って読んでみたら、これが実に面白い。文章がウィットにとんでおり、何気ない表現の中に物理を学ぶとき、こんな事も知っておくと面白いだろうなと思わせるようなことが、さりげなく表現されているのが心憎い。というわけで、残りの4冊『力学の考え方』『熱・統計力学の考え方』『量子力学の考え方』『相対性理論の考え方』というのも買ってしまった。これ、ずいぶん前の話。全部読んだわけではないので、中身を云々することはまだできないが、多分面白いと思う。

 実は、砂川氏の本は自分でも忘れてしまっていたのだが、『精講 物理』学生社という高校生向けの本も買って持っていたのである。それが運良く出てきて今手元にある。それを読むと、彼の物理の「語り口」のスタンスはすでにこの本の中にも十分に表れており、現在でも一貫していることがわかった。どんな初歩的な問題にでも自分できちんと解答をつけ、自分流(自分勝手にというわけではなく、非常に論理的に)に丁寧に説明していくのが彼のスタイルなのである。日本の物理学者には実に珍しい人である。この本にも示されているが、受験テクニック的なことには関心はなく、本質的なことを筋道をしっかり辿っていけば解答は自ずとできる、という確固たる信念を強く感じる。もう、この本は絶版になっているはずだから、手に入らないので、ぼくの「宝」である。

 氏の書かれた他の本で『電磁気学』岩波書店(物理テキストシリーズ4)は購入して、途中まで目は通してみた。他にも『散乱の量子論』という優れた著作があるが、こちらは内容が難しそうで、元同僚のTさんの本棚にあるのを背表紙を眺めるだけで、できるだけ近づかないようにしていた。物理の本といっても、全部が同じような感じで書かれているわけではなく、著者によって雰囲気は随分と変るのだ、ということを教えてくれる貴重な著者である。ぼくは、砂川氏の本はとても好きである。よく、理解できないけど…。

 物理の本だから誰が書いても同じ、と考えがちであるが実はそうではない。同じ内容の事柄でも、「語り口」によって理解の度合いに大きく差がでるのである。特に、この著者は「高校生レベル」のものから、大学院レベルのものまで同じスタンスで「手を抜くことなく」懇切丁寧に「わかってもらおう」という意気込みが見事に表現されていて、私にはその熱意がはっきりと伝わってくる。

 ぼくはこの砂川さんという著者がとても好きだ。でも、もう本でしか会えない。物理の専門以外の人にはあまり知られていないかも知れないが、こういう著者がこれからもどんどん出てくれることを願っている。
(この文章は相当前に書いたので、悪しからず…)

 2002/05/19 (日) 16:51:51

 砂川重信氏は、1998年8月7日に73歳で亡くなられている。腎不全のため。この情報は、わたしが偶然に朝日新聞の98年8月8日の新聞の死亡欄を見ていて気づき、その切抜きを氏の書かれた『量子力学』岩波書店の裏表紙のところに貼り付けておいた。きょう、ひさしぶりにこの本を読んでいたら、これを見つけた。

 2003/11/21(金) 14:22

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