2001/07/19 (Thu) 天翔ける風に
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ドストエフスキイ「罪と罰」をベースとした野田秀樹「贋作・罪と罰」を、さらにミュージカル化した作品です。原作のあらすじ
わたしは野田版を見たことがなく、ドストエフスキイの原作も読んでいないのですが、とりあえず主人公の青年が女性になっていることはわかりました、あと知っているのは主人公が高利貸しを殺すところから物語が始まることだけという状態で見ました。

主人公の三条英は女だてらに幕府の塾生という設定です。判事ポルフィーリイは都司之助。地主スヴィドリガイロフは溜水石右衛門。娼婦ソーニャにあたるのは、才谷梅太郎(坂本竜馬)。英の妹である智の扱いは教養不足で不明です。

さて全体の感想ですが、意外や感動しました。
第一幕を見ている時は「なんかちょっとバラバラにとっちらかってるよ。どうしよう…」と思っていたのですが、第二幕が進むにつれて、つまり物語が収束するにつれて目が離せなくなりました。
複数の対立構造が絡み合っているのですが、そのそれぞれの輪郭がはっきりしていてかぶっていないのが見事だと感じました。これは野田脚本のすごさなのでしょうね。
英vs梅太郎は信念vs寛容なのかな?溜水vs三条智は汚vs清で哀しい関係。聞太左衛門vs志士ヤマガタは共に俗っぽくて中途半端なんだけど、同じレベルのくせしてベクトルが違うので結局哀れな結末しか生み出さない。
英vs都司之助は思想や行動じゃなくて立場の対立(犯人vs司直)なのでしょうか。この二人、結構ものの考え方は理解し合えるように感じましたので。

さて、これはミュージカルですので、ミュージカルならではの要素も見ていきたいと思います。
【音楽】
音楽については特にどうこう言うものはなかったです。よく言われる「頭に残るメロディー」は特になかったけど、要所要所で「いい曲だな」と思うものはありました。ただ、レ・ミゼ的というのか、ウェストサイドのクィンテット的というのか、複数の歌詞とメロディーが一体となって作る曲がいくつもあったのはどうなんだろう?
ミュージカルファンならどうしてもレ・ミゼを連想してしまうので、損ではないのかと感じました。
【歌】
上手い人は上手い。そしてコーラスはイマイチというところです。
たまたま一回目の観劇がちょっと遅刻になってしまい、舞台が見えない階段でしばらく歌だけ聞いていたのですが、この時は「うわ。コーラス下手〜〜!」と思いました。視覚つきだとそれほど感じなかったのですがね。
【ダンス】
よく体が動いていました。上手いかどうかというとちょっとわからないんだけど、群舞だからいいのかな?
考えてみれば、支えるのは謝さんのTSファウンデーション。ダンスレベルは高いよね。ふと思ったのは、「コーラス要員をミュージカル座から、ダンス要員をTSファンデーションからつれてくれば、さぞやバックが充実するんだろうな」ということ。これでは人数ばかり多くなりそうだけどね。
【芝居&役者】
お芝居は上手かったです。
英の香寿たつきさんはどうしても宝塚臭さがありましたが、でも硬質で凛々しくてとても綺麗。
それから個人的には畠中洋さんが大ヒット!音楽座時代から知っているけれど今までは「星の王子様」の狐以外の印象がありませんでした。よく動けるし、歌えるし、それから「キッチン」で見たようなエキセントリックな演技もできることもわかっていました。しかし「凄い」と感じたのは今回が初めてです。畠中さんは小柄だから宝塚男役トップの香寿さんと並ぶと、せいぜい目線が一緒という程度なんだけど、全然不足を感じません。梅太郎の大きさが良く出ていてめちゃくちゃカッコよかったです。梅太郎のテンションの高さを維持するのって大変だと思うんだけど、パワフルに演じきっています。
立川三貴さん、福井貴一さんも重量感のある演技でとても良かったです。
伊東恵里さん。相変わらずの透明感と歌の上手さ。休憩時に彼女のプロフィールをチェックしている人が多いようにも思えました。二幕の危ないシーンの演技には手に汗握ってしまいました。
石原慎一さんは今回のお目当ての一人だったのですが、歌が少なかったのが残念でした。情けない父親役は案外良かったな。
【演技術】
さて、わたしが野田秀樹の舞台を見ないのは、独特の演技・台詞術がどうにも性に合わないせいです。
早口でまくしたてて泣き喚く表現方法は嫌いなんですよ。短時間ならいいんだけど、ずっとやられるとイライラしてきちゃって、物語や舞台どころじゃなくなってくるのです。あの台詞術も野田ワールドに引きずり込む要素なんでしょうが、わたしの場合は一瞬にして醒めてしまい、舞台の世界からはじき飛ばされてしまうのです。
今回はミュージカル化ということで、あの台詞回しがほとんど消えていたのために物語に感動できたようです。
そうとわかったのは、大詰めで英と司之助がやりあうシーンが例の台詞回しだったから。
「あああ、この演技は不快!」と感じたので、あら?もしかしてわたしって…?と気がつきました。
【衣装】
どうしても書いておきたい。
舞台は幕末ですが、衣装は文明開化後風。
で、男性陣は梅太郎以外はみんな胴長短足に見えてしまいます。
そして英の衣装は、背ビレがついているとしか思えませんでした。
色使いは悪くなかったですけど。


三条英:香寿たつき、都司之助:立川三貴、溜水石右衛門:福井貴一、甘井聞太左衛門:石原慎一、才谷梅太郎(坂本竜馬):畠中洋、志士ヤマガタ:平沢智、三条智:伊東恵里、目付護之進:笠原竜司

構成・演出・振付:謝珠栄  野田秀樹「贋作・罪と罰」より

参考:早稲田大学井桁研究室ホームページhttp://www.kt.rim.or.jp/~igeta/igeta/indexf.htmlより『罪と罰』のあらすじ
ナポレオンやマホメッドのような超人は既成の社会規範を踏み越えて人類の幸福を構築し得る、こうした理論に導かれて、元大学生ラスコーリニコフは、高利貸しのおばあさんを殺害します。しかし犯行直後からこの殺人者は孤立感にさいなまれます。そして予審判事ポルフィーリイの心理的な罠に脅かされ、地主スヴィドリガイロフの罪の意識の欠如した醜悪な姿を嫌悪します。やがて娼婦ソーニャの愛に癒されて自白におもむき、シベリアに送られ、精神の復活を遂げる、という物語です。

<一回目:7月19日PM6:30〜8:50>
<二回目:7月20日PM12:00〜>
<シアターアプル PM12:00〜 休憩15分>
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