本の紹介 1996年







1996年に「独断と偏見によるお薦め本」で紹介した本を、作家別に並べました。



阿刀田高 『風物語』

あの時、こうしていたら……。とは誰もが考えること。でも、結局今と変わらなかったのではないでしょうか?そんなブラックユーモアのきいた恋愛(?)風景小説連作集です。

安正孝 『ホワイト・バッジ』

ヴェトナム戦争における韓国軍部隊がテーマの小説です。無知な私はヴェトナム戦争に韓国の軍隊が参戦していたことすら知りませんでした。戦争から身体は帰還しても心は帰れない二人の戦争との関わりが緻密に書かれています。

ウィリアム・T・クローズ
 『エボラ〜殺人ウイルスが初めて人類を襲った日〜』

1976年のザイールでのエボラ出血熱の流行がテーマのドキュメンタリー・タッチの小説です。封鎖されたヤンブク地区の修道院の尼僧たちが主人公になっています。極限の状況の中で人間はどこまで正気でいられるのか考えてしまいました。

川田文子 『皇軍慰安所の女たち』

もと従軍慰安婦(この言葉は適切ではないというけれども)へのインタビューを本にしたものです。個人的には、早く当時の調査を正確に行って適切な補償を行ってほしいと切実に思います。やらせだとかいう説があるそうですけれど、私にはそうは思えません。

倉橋燿子 『29歳のサンクチュアリ』

久しぶりに顔を合わせた高校時代の同級生の3人。精神科医の薫、フリーライターの朋子、エリートサラリーマンの妻で一児の母の真弓、性格や境遇は全然違います。親友といいつつ、お互いにコンプレックスを持ち続けてもいます。女同士の友情について考えさせられる小説でした。

小池真理子 『恋』

直木賞を受賞した作品です。いろいろなところで紹介されているので内容紹介はしません。世代の違う私には感情移入できないところも多かったのですが、美しい小説でした。特にマルメロのエピソードが泣けました。

高野史緒 『カント・アンジェリコ』

最初、ルイ14世の時代に電話があるのが納得できなくて(都市の描写で時代考証がしっかりしているところもあるから尚更)、何度も読み返してしまいました。読もうと思ったきっかけはカストラート(映画を見に行こうとしたらみんなに止められてしまいました)なんですけれど、難解なパラレルワールドにはまってしまいました。

高野史緒 『ムジカ・マキーナ』

音楽(何でもそうですけど)を追究していくと、自分の腕がはがゆくなる気持ちはすんなり納得できます。そして、機械と人の手によるものでしたら、私は絶対に後者です。なんて熱くなりながら読んでしまいました。高野さんの音楽の知識に圧倒されました。「月に代わってお仕置き」の一文に目が点になってしまいました。これはもしかして○ーラームーン??

藤堂志津子 『風と水の流れ』

親が再婚して、新たに姉弟になった互いの連れ子同士は特別な感情をいだくが、遠慮から親のいいなりの人生を歩いてしまう。その仮の人生が修正されるまでの日常が書かれています。投げやりな生活をしている二人の独特の恋愛観が、すごく私を不安にさせました。

藤堂志津子 『男と女の肩書き(上・下)』

銀行員の主人公がいわゆるキャリアウーマンとなっていく様子が書かれています。キャリアウーマンというと、女を捨てているとか肩肘を張った生き方なんてイメージを実は持っていましたけれど、認識を改めました。

籐堂志津子 『恋人たちの憂鬱』

籐堂さんの小説のファンです。シニカルな話でも暖かい雰囲気があります。結婚祝いの席で仲間だと信じていた人たちに、心の中だけにしまい続けるつもりの気持ちを追求される「優等生」などの作品を含む短編集です。

我ら冷たき闇の中に

お嬢様育ちの主人公と家政婦との密接な関係が描かれています。それは母娘のようで人生と人格の相互支配のようでもあります。今話題になっている密接な母子関係のアブノーマルな究極といったところでしょうか?

東京ナース研究会 『「おたんこナース」のびっくり裏話』

佐々木倫子さんの「おたんこナース」(1〜3巻発売中)とセットでおすすめです。

西岡常一 『木に学べ』

作者は、法隆寺と薬師寺の宮大工をしている方です。昔ながらの棟梁としての心構えや生活について、法隆寺や薬師寺の建築技術(というと近代っぽいですけど)など、内容は多岐にわたっています。

平岩弓枝 『女らしさの知恵』

中には古い価値観という人もいるかもしれませんが、私は共感できるところが多々ありました。こう生きた方が得をするとか、こう生きるべきだという押しつけがなくて、著者の人柄が感じられました。

帚木蓬生 『臓器農場』

ケーブル・カーで出勤できる山腹にある新しい病院は新人看護婦である主人公にとって理想の病院と思われたのですが、無脳症児に関する謎から病院の裏の姿に気づかされていきます。こんなことがあったらすごく怖いです。

帚木蓬生 『三たびの海峡』

三たびの海峡とは、まず故郷の朝鮮から強制的に日本へ連れてこられ、日本から故郷に帰り、そして最後にもう一度日本に戻るということを暗示しているわけです。死を目前にして息子たちに手紙を書き、復讐を企てる主人公が悲しくてたまりませんでした。私としても方法はそうするしかないと考えたかもしれません。日本女性を連れて故郷に帰った時の村人の反応、そして在日朝鮮人に対する軽蔑、妻であるもと従軍慰安婦の生き様。すべてが重くのしかかってきそうです。反日的な見方が印象に残りました。歴史の真実は果たしてどうなっているのでしょうか?

帚木蓬生 『閉鎖病棟』

精神科医である著者の本領発揮といったところでしょうか?ちょっと時間がとぶので、1回読んだきりでは登場人物の生い立ちと現在を結びつけられませんでした。主要な登場人物の心の美しさが光っています。

帚木蓬生 『賞の棺』

ノーベル賞を受賞したアーサー・ヒル博士のライバルたちはなぜかほぼ同時期に死を迎えていました。主人公はそのいきさつに疑問を持つようになります。学者や学会のどろどろした実情の片鱗を、気づかないうちに頭の隅に入れられてしまったような気がします。

帚木蓬生 『空夜』

空っぽな主人公が恋愛(といっても不倫)によっていきいきとした姿に変わっていきます。生活に張りが出るのはいいのだけれど、やっぱり主人公の不倫の行方が不安になってしまいます。そんなことを考えるのは私だけでしょうか?

ミヒャエル・エンデ 『モモ』

主人公のモモが、灰色の時間泥棒に盗まれた時間を取り戻しに行くというのがあらすじです。奥の深い名作だと思います。エンデを読み漁ったという友人K(随分あっていないけど元気かな)さんは、これが一番よかったといいました。

宮本昌孝 『剣豪将軍義輝』

戦国時代の足利将軍義輝を描いた小説です。影武者を立てて武者修行に出て、生き方と剣を学び、都に帰ってそれを生かそうと画策しますが、既に足利将軍には何の力もなかったというのが皮肉です。そして、非業の最期を遂げるのですが、義輝自身を含め登場人物はあきらめることない前向きな生き様に心が洗われるようです。信長、家康、秀吉、斎藤道三、謙信、信玄等、戦国時代の大物との絡みもあってかなり楽しめます。

渡辺淳一 『麻酔』

ごくありふれた子宮筋腫の手術で入院したはずの妻が、麻酔のミスで植物人間と化してしまいます。周囲の人たちの状況が細やかに表現されていました。読んでいる間ずっとなんともやりきれない気持ちでした。

渡辺淳一 『ヴェジタブル・マン』

ありそうで、とても怖い医療サスペンスです。ヴェジタブル・マンというのは植物人間のことです。事故を起こして、その被害者が植物人間になってしまったといえばこのお話の怖さは予想できるのではないでしょうか?

渡辺淳一 『白き手の報復』

こちらも同じ医療サスペンスです。学生時代にとても明るい後輩が貸してくれました。読んでみて彼女の奥の深さを感じたのを覚えています。病院に勤めるのがなんとなく怖くなるような話です。心情的には理解できるんですけれど…………。