2001年4月の感想
ダン・シモンズ 『愛死』 角川文庫 2001年4月4日 (古本)
- 真夜中のエントロピー・ベッド、バンコクに死す、歯のある女と寝た話、フラッシュバック、大いなる恋人という、悲しいエロティシズムが漂う5つの中編集。特に「バンコクに死す」がお気に入り。悲劇の主人公という自覚が全く感じられない悲劇の主人公って、やっぱり美しい。(う、なんて酷い感想だ)
五條 瑛 『夢の中の魚』 集英社 2001年4月5日 (購入)
- 自分の場所はどこにある?
自分の場所に連れてきていいのは誰?
プラチナ・ビーズ、スリー・アゲーツで、脇役として登場する洪と彼の仕事仲間(?)の人間模様を描く連作短編集。葛藤したりしなかったりする洪の心の動きを見ていると、孤独について考えこまずにはいられない。おなじみの登場人物の行動に思わずにやにやしたり、居場所を求めたり仲間を求める複雑な気持ちに切なくなったりして読みながら久しぶりに百面相をしていた。全部の物語が繋がった時の爽快感もたまらなかった。
バーリー・ドハティ 『蛇の石 秘密の谷』 新潮文庫 2001年4月6日 (購入)
- 過去と未来は連続するけれど違うもの。
過去があったから未来があるのだけれど、暗い過去に暗い未来がついてくるわけじゃない。少年の旅は自分の未来を勝ち取り、少女の暗い過去を精算した。十代で子供を産んだ少女と、その時産まれた少年が包まれている愛情がまぶしいくらい美しい。
篠田節子 『女たちのジハード』 集英社 2001年4月7日 (図書館)
- 篠田節子じゃなければ文句なく面白いと思った。さすがに読みやすくて面白くて、適度に甘口で、読後感もすっきり爽やか。紀子以外の三人の女性の言動は、どれも部分的に心当たりがある。自分に一番似てるのは誰だろうとかとんちんかんなことを考えると、康子と沙織には似たところがあるかなあと思う。たぶん5年前に読んだら希望を感じただろうと思うけれど、今の私には現状に比べて甘すぎると感じてしまうのだ。ジハードっていうよりも、辛口に味付けしたファンタジーだなあと思ってしまう自分が嫌だ。現代のファンタジーとして見るなら秀逸だとは思う。
バーリー・ドハティ 『ディア・ノーバディ』 新潮社 2001年4月9日 (図書館)
- 蛇の石 秘密の谷を読んで面白かったので同じ著者のこの作品もいいという信兵衛さんの書き込み情報に飛びつきました。
十代の女の子が妊娠し不安を抱えながらも母親らしくなっていく姿と、子供の父親でもある少年のゆっくりとした成長を描く物語。女の子の急速な成長と男の子の少年らしさが対照的だった。ヘレンの「この人の一生の責任はとれない」と思う心情が印象的だった。今まで子供が出来ると(あ、今は授かるっていうのか)男の人が責任をとるという世間的な図式を想像していたので、はっとした。母親になるとか父親になることだけでなく、周囲の大人たちも含めて過去と和解していく登場人物の姿には元気をもらえたような気がする。
ジョディ・シールズ 『イチジクを喰った女』 早川文庫 2001年4月11日 (購入)
- フロイトが書いたといっても疑わない官能的でホラーっぽいミステリーらしい。大袈裟な紹介だからやばいなと思ったけど、本当にいまいちだった。
一次大戦前あたりのウィーンを舞台に、科学捜査を重んじる警部と、昔ながらの呪いを信じる妻がそれぞれ同じ殺人事件を調べていく。登場人物がみんな病的でおどろおどろしくて不思議な雰囲気を醸し出していて、それと時代背景が合っているとは思う。官能的な描写も怖い美しさがあると思う。でも、心理学を知らなくても登場人物の言動を何かに無理矢理はめこんだような印象を感じてしまった。しかも、結末にはものすごくがっかりした。
ダン・シモンズ 『ハイペリオン(上・下)』 早川文庫 2001年4月23日 (購入)
- はっきり言ってSFは苦手だ。でも、この作品はSFではあるけれどダン・シモンズの小説ということで入り込みやすかった。学者の物語と探偵の物語が特に好きだ。学者の物語で逆行する時間の流れを見守る夫婦の姿が妙に心に残って切なくなる。探偵の物語はレイミアという女性が好きなタイプだったからお話やモチーフがどうのという問題ではないのだけれど。訳ありの登場人物たちが語る物語同士の繋がり、物語と現実との繋がりのもたらす浮遊感がたまらない。
黒田研二 『ペルソナ探偵』 講談社 2001年4月23日 (図書館)
- ウエディング・ドレスがまあまあ面白かったのでどんなものかなあと思って借りてみた。文章との相性はいいのだろうけれど、パズル要素やアナグラムによる謎解きはやっぱり駄目だったし、星や星座というモチーフについては妙な思い入れがあるので使い方に割り切れないものを感じてしまった。蛇足だけど、ネット人格みたいなのを持ってる人って不思議だよなあ。そういうことをする人に私は偏見があって、自分で自分の人格を認めたくないから、本当の自分探しをしてるんじゃないかというイメージを持ってしまう。でも、弱さが撲滅されたら、きっと世の中に面白い本や、芸術も音楽もなくなっちゃうのかも。
マヌエル・プイグ 『天使の恥部』 図書刊行会 2001年4月25日 (図書館)
- 強くて完璧な男なんて絶対にいない。
なのに、そんな男を求め続ける3人の女性。
そういう男に自分がふさわしいと自惚れられる女性。
彼女たちが、自分の理想を投影した男たちは、どうにもチンケで繊細で、
そのギャップに、なんだか泣き笑いしたくなる。
男が強いって信じられることは果たして幸せなのか不幸なのか。
信じるからこそ、無性の天使ならよかったのにと強く願うようになるのだろうか。
ジェームス・ハーバート 『ムーン』 早川文庫 2001年4月26日 (図書館)
- 超能力者対殺人鬼のB級映画っぽいホラーに感じた。面白かったので一気読みだったし、全然中だるみも飽きもなかったのに、不思議なくらい心に何も残らない小説だった。親子の情愛や、自らの能力への苦悩とか、何かを残しそうな要素がたくさんあるのに、そういうところに限って軽く流されてしまっている感じがする。しかも、全体的に陳腐な印象が強い。こういうのが娯楽小説というのだろうか。
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