2001年5月の感想
衛 慧 『上海ベイビー』 文春文庫 2001年5月01日 (購入)
- なんとなく買ってきたけれど、意外と面白かった。中国で発禁となった女流作家の小説とだけ騒がれていたら、ちょっともったいないかも。自己愛の強い主人公のココも、彼女の恋人である不能で繊細過ぎる天天という男性も絶対に知り合いにだってなりたくない人間なのに、読んでいる分にはするっと気持ちに入り込んでくる。ココという女性の自分の愛し方は潔い。傷ついても自分に嘘がつけず、やってしまったことから自分をスポイルすることができないのだ。だから、とにかくどこかへ行こうとするのかもしれない。
藤本ひとみ 『恋情』 講談社 2001年5月01日 (図書館)
- フランス革命の時代を背景に描く「恋情」「接吻」の二篇から成る中篇集。死刑執行人とその初恋の人を描く「接吻」はなかなか面白かったけど、「恋情」は物足りなかった。でも、印象に残るのは「恋情」の方かもしれない。もしも男は女を愛さなくてもよくて、女は男を愛さなければいけないとしたら、そんな場所では生きていたくない。いくら恋愛のウエイトが低い私でも耐えられないだろう。読んでいて胃が痛くなってきた。
イアン・ランキン 『蹲る骨』 早川書房 2001年5月06日 (購入)
- そう望んでしまうけれど、望んではいけない望みとは気づいている。
カファティの「死体が見つからなければ、殺人事件じゃない。」という言葉が頭から離れない。証拠がなければ何もできないという現実に挑戦し続けるには、壊れていなければいけないのか、それとも挑戦し続けるから壊れるのか。そんなことを考えさせられた。そして、出世していくだろうリンフォードと、シボーンの言動や性格の対比も切ない。
リリアン・J・ブラウン 『猫は床下にもぐる』 早川文庫 2001年5月08日 (図書館)
- その宝物だけは勘弁してください。
ココ・シリーズには珍しく、珍しく比較的ストーリーの印象が残った。口紅は唇に使うのが正しいけれど、そういう使い方のできなくなる彼女がちょっと可哀相だった。手渡された箱の意味に気づくことができるのだろうか?
リリアン・J・ブラウン 『猫は幽霊と話す』 早川文庫 2001年5月09日 (図書館)
- 幽霊は本当にいたの?
古い町の人が幽霊に夢中になる様子や、幽霊を信じ始めたクィラランの様子が興味深い。だけど、幽霊にはいろいろなタイプもいるのだ。それはともかく、ヤギとクリスティが可哀相かも。警察が本気になるきっかけだったとしても可哀相過ぎるんだけど。。。。。
恩田 陸 『麦の海に沈む果実』 講談社 2001年5月10日 (図書館)
- 閉鎖された学園を舞台にした「三月は深き紅の淵を」が鍵的な存在となっているミステリ。ミステリだそうなのだけれど、謎自体はあんまり面白くないし、どちらかというと詰め込まれている要素に乙女心を目一杯刺激されて夢中になった。美形も大量に登場するし、社交ダンスだの、薔薇の庭園だの、塔だのととにかく全て揃っている。傷つきやすくて、残酷でもある少年少女の心の描き方も好きだ。でも、結末にはものすごくがっかりした。期待しすぎなのか、それとも。。。
リリアン・J・ブラウン 『猫はペントハウスに住む』 早川文庫 2001年5月12日 (図書館)
- マッシュルームを切る感触はエロティック?
私の感覚では、あのペントハウスには住めないだろう。エレベーターがまともに動かなかったり、ヤムヤムの女性(?)らしさに吹き出しながら読んでしまった。結局行動で自分の主張を押し通してしまったり、ウォーターベッドで寝てばかりいたりと羨ましい。ちょっと見習おう(?)かなあ。
トニーノ・ベナキスタ 『夜を喰らう』 早川文庫 2001年5月16日 (購入)
- 夜に起きて、パーティーに潜り込んで飲食物を得るという暮らしをしている夜の住人と、吸血鬼伝説(?)とが合わさった不思議なノワール(らしい)小説。主人公たちの無気力感と、頑迷な無気力の正当化の理論が、ボーモンという老人に関わり、ジョルダンを探すうちに微妙にあるいは劇的に変化していく様子が面白い。一つの疑問は吸血鬼伝説というのはパリの住民にも深く浸透しているのかということである。破綻寸前というか大胆すぎるように思える最後の謎解きの展開が納得いかなかった。
リリアン・J・ブラウン 『猫は鳥を見つめる』 早川文庫 2001年5月18日 (図書館)
- 前作「猫はペントハウスに住む」では出まかせだったリンゴ園の納屋を改装して移り住む計画をクィラランは実行に移した。しかし、その建物は快適さとセンスの良さとは裏腹に不吉な過去のある代物で、またもやここで不幸な事件に遭遇してしまう。
相変わらず殺人事件自体はぱっとしないけれど、クィラランと恋人ポリーの関係の危機はなかなか面白いし、キャットウォークや猫専用部屋のある豪華な建物での暮らしにはうっとりさせられる。極めつけは、ヤムヤムがハーネスに反抗するくだりで、もう笑うしかない。ただ残念なのは、この小説を読むとおなかがすくとよく聞くのだけれど、ついついその食生活はいかんだろうと思ってしまうのだ。ミルドレットじゃないけど、痩せる努力は放棄しようかなあ。
五條 瑛 『断鎖』 双葉社 2001年5月19日 (購入)
- いなくなることも知らずに、いなくなっちゃえばいいと気楽に考えた自分を、後でどれだけ呪うことになるだろう。だからこそ、間に合った方、どうにもならなかった方、両方が泣けた。
そして、ユミの駆け込んだ教会の神父さんの言葉にはぐさりときた。事実の周囲に派生している問題に気づかないこと、気づいても本当は何もできないという無力感は、心当たりがある。何かできるだろうって信じつづけられることの傲慢さも知っている。でも、そういうものだと思っても、生きていくうちに何度も愕然とするのだろう。
リリアン・J・ブラウン 『猫は山をも動かす』 早川文庫 2001年5月22日 (図書館)
- 遺産を本格的に相続できることになったクィラランは、今後についてゆっくり考えるために、ココとヤムヤムを連れて山に行くことになった。借りた家は法外な家賃の上に、一人と二匹には巨大過ぎるもので、しかも殺人が起きた家だった。そんな訳で人生について考えるはずが、地元の争いに巻き込まれ、過去の殺人事件について調べることとなる。
本筋は例のごとく尻切れとんぼで、なんだか事件の真相は未消化だった。根っからの地元民であるテイターの描き方や、テイターと新しくきた住民との抗争や、環境破壊のつけでもある結末はしゃれているのかもしれない。父親からは冷たくされて、悪い男に引っかかったシェリーがちょっと哀れだった。本筋はともかく、ヤムヤムを見ることになった獣医さんの腕前にうっとりした。こういう獣医さんって本当にいるのかなあ。
リリアン・J・ブラウン 『猫は留守番をする』 早川文庫 2001年5月24日 (図書館)
- 猫たちを残して、スコットランドへの旅行ツアーに出かけたクィラランは、そこでも恐ろしい事件に巻き込まれる。また、猫は山をも動かすの最後にポリーの身辺をうろついていた怪しい男の正体も明らかになる。
なんだか知らないけど、メリンダという女性に過剰にいらいらさせられる小説だった。そのイライラを救ってくれるのが今回は大活躍のヤムヤムかも。つめ磨きのエピソードはとにかく可愛い。
ディック・フランシス 『敵手』 早川文庫 2001年5月28日 (古本)
- 競馬ミステリで二度以上登場するのは、シッドとキッドだけ。そのシッド・ハレーが登場する3作目。シッドは、元親友エリスの罪の証拠を見つけ、その事実の受け入れに苦しみ、またエリスを告発したことによって社会から受けたダメージにぼろぼろになりながらも、真実を追究していく。
とにかく無難に面白い。他の作家がこのレベルの小説を書いたら、素晴らしいって思うのだけれど、ディック・フランシスに限っては無難にしか思えない。ただ、シッドとエリスの関係、シッドと元妻の関係のなんとも言えない切なさは心に残った。
藤堂志津子 『風の部屋』 角川書店 2001年5月28日 (図書館)
- どうしてもいかがわしい匂いの男に引かれる女。
男を買う女と、男を売る男。
男を売る男のばかばかしい言動だけでなく、彼女の手元にあったストーカーまがいかつ亭主気取りの男と何人もの女に誉めることを強要する男にも胸が悪くなる。そして、そんな男を選ぶ彼女にもイライラする。
でも、自分が馬鹿だとわかっていても、どうしようもない男を好きになってしまう気持ちがどうにもならないことだけは共感できた。
リリアン・J・ブラウン 『猫はクロゼットに隠れる』 早川文庫 2001年5月29日 (図書館)
- クィラランは、雪深い冬の間、ジュニア・グッドウィンターの祖母の屋敷を借りることになり、ココとヤムヤムを連れて引っ越してきた。この屋敷には無数の作り付けのクロゼットがあり、ココはクロゼット内の宝捜しに熱中する。ココが見つけ出した山火事の記録を元にクィラランが作った一人芝居は大評判になる。その中で家主が亡くなり、ジャガイモ農場の主が行方不明になる。
今回はとりあえず犬ぞりに乗りたくなった。あと、クィラランの捜査(?)に協力する老婦人と孫息子クレイトンがすごく可愛い。ココが集めた宝物の脈絡のなさも笑いを誘った。今まで読んできたこのシリーズの中で一番ほほえましいお話だと思う。
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