2001年6月の感想
ジャック・ケッチャム 『地下室の箱』 扶桑社文庫 2001年6月01日 (購入)
- 不倫でできた子供を堕胎しようと病院にきたところをさらわれて監禁された女性と、監禁する夫婦の駆け引きが興味深い小説。帯には隣の家の少女の恐怖再びと書かれているけれど、あのなんとも言えない閉塞感はない。虐待されつつも、チャンスを伺って冷静に観察眼を働かせるサラという女性の強さが際立っている。でも、それが母性のなせる技なのか、サラ自身の強さなのかを感じ取れるほどは私の感性は鋭くない。
ジェイムズ・エルロイ 『クライム・ウェイブ』 文芸春秋 2001年6月01日 (図書館)
- 自分の母親の死と、その同時期の殺人事件についての中篇集。フィクションとノンフィクションの中間のような微妙な作品に感じられる。エルロイ自身の情熱が感じられたり、LA四部作などで取りこぼされたエピソードが読めるのが興味深い。エルロイの魅力は文章や構成とかじゃなくて、自身の強さと情熱なのだなと再認識した。特に母親に対しての気持ちを綴った短い文章が印象的だった。
リリアン・J・ブラウン 『猫は島へ渡る』 早川文庫 2001年6月03日 (図書館)
- クリンゲンショーエン資金が後押しした、ムース郡のある島の観光プロジェクトに後ろめたさを持っていたクィララン。しかし、元秘書のローリ・バンバと夫のニックがその島釣り宿を買って営業を始め、ニックに島で起きたさまざまな事件の話の裏にきな臭いものを感じると相談され、ココとヤムヤムを連れて島へ渡る。
事件とその結末は猫は山をも動かすと似ていて途中で予測がついてしまって、ココとヤムヤムが大好物のはずのミートローフを食べない理由の方が気になった。こっちの仕掛けはなかなかお洒落だったと思う。
横森理香 『壁の花』 幻冬舎 2001年6月04日 (図書館)
- ある種のいかがわしさがなくなったら、もてなくなる。
自分が醜くなっているから結婚に執着しようとする。
身につまされすぎて、笑うしかない。
チャールズ・フレイジャー 『コールドマウンテン』 新潮社 2001年6月08日 (図書館)
- 南北戦争の時代、父親を亡くし農場で自立する道を選んだ娘エイダと、戦う意味を見出せず軍を脱走した男インマンの、二つの物語が交互に語られる。エイダの農場の仕事を助けるルビーという少女も印象深い。二つの物語は、かたや地に足をつけて生活を積み上げていくものであり、もう片方は戦いの残酷さと虚無と一筋の希望である。この対象も興味深い。
ラストを希望と感じるか、悲しみと感じるかは、人によって分かれると思う。それでも私は彼女たちが二人とも幸せをつかんだと信じたい。
藤本ひとみ 『貴腐』 文藝春秋 2001年6月10日 (図書館)
- フランス革命の時代の対称的な二人の貴族の女性の性愛(?)を描いた「貴腐」「夜食」からなる中編集。エロティックというよりは淡々としているけれど悲しさの方が強調される作品で、今の時代には関係ないと思いきや意外と通じるものがあって、なんとも物悲しい。もしも、もっと若ければ、夜食に出てくる司祭、貴腐のジャックにうなづいたのだろうけれど、今の私には貴腐ならオデール、夜食なら老婦人の心の方がわかる気がする。いくつになっても、オデールや老婦人の気持ちを少しもわからない女とは友達になれないなとか的外れなことを考えた。
桐野夏生 『ローズガーデン』 講談社 2001年6月10日 (図書館)
- 「ローズガーデン」「漂う魂」「独りにしないで」「愛のトンネル」の四編からなるミロシリーズの短編集。表題作の「ローズガーデン」には自殺した夫博夫が登場して、なんとなくミロという人間のパズルのピースを一つ手に入れたような気分になる。一見一番特徴の薄い「漂う魂」も、今までの長編全部のミロの言動が凝縮されているようで興味深い。
キラン・デサイ 『グアヴァ園は大騒ぎ』 講談社 2001年6月12日 (図書館)
- 仕事も生活にもうんざりしている郵便局員サンパトは、局長の娘の結婚式で尻丸出しで踊ったためクビになった。そして、自由(?)を求めてグアヴァの木に登ったまま、降りてこなくなってしまう。ところが、彼はいつのまにか聖人として崇められ、家族の金づるとなる。そして、なぜかスパイに狙われる。
サンパトを変わり者と見なす家族や隣人(?)もいずれ劣らぬ立派な変人で、だんだん何が普通かわからなくなって、物語の大騒ぎに巻き込まれて、気づいたらニヤニヤしているというような小説だった。特に聖人に見せかけようという家族会議には笑った。どうして簡易寝台はよくて、ハンモックはOKなんだろう。とにかく、荒唐無稽なわりに、物語を伏線を含めて、全部それなりに収束させているのが妙に生真面目でおかしい。
ダリアン・ノース 『蝶のめざめ』 文春文庫 2001年6月14日 (購入)
- 緻密な取材がどうのって書いてあったので重厚な小説だと思って買ったのに、いまいちハーレクインっぽい感じがした。ヒロインが嫌悪感をそそるほど上手に書けているのに、彼女を助けるジャックという男性が妙に都合よく感じられて、全体的に陳腐な印象を持ってしまった。ただストーリー展開はテンポがよくて、すごく読みやすい小説だった。ハッピーエンドなのもいいけど、結局パパのことはどうしたんだ?>デイヴィッド
小林聡美 『マダム小林の優雅な生活』 幻冬舎文庫 2001年6月17日 (購入)
- 立ち読みしていたら吹き出してしまったので、買って帰宅。私の好きな女優さんである小林聡美さんのエッセイ集だ。特に猫の話は大好きでここんところ毎日読んでは同じところで笑っている。
帚木蓬生 『薔薇窓』 新潮社 2001年6月19日 (購入)
- 万国博が開かれていた頃のパリを舞台に、裁判所に勤務する精神科医が連続女性失踪事件を追う。当時の精神科の医療の様子や主人公が趣味としている写真の撮り方や、パリの様子などが興味深い。背景に書きこまれた雰囲気やわりとどうでもいい登場人物とか主人公の恩師の言葉なんかはすごく好きなんだけれど、音奴がらみの話に男性独特のねちっこさが強くて不愉快で、結末が最初の方の写真展のところまででほぼ予想できてしまったのが残念。面白くなかったのか、それとも「逃亡」以上の出来を要求してしまうから物足りないのかはちょっと判断しかねる。
カール・ハイアセン 『トード島の騒動(上・下)』 扶桑社文庫 2001年6月21日 (購入)
- ロビイストのストウトが車の窓からゴミを投げ捨てたことから、なんともめちゃくちゃな物語は始まる。ゴミを捨てることや環境破壊に対する怒りをどうしても押さえられない若者トゥルリーがそれを偶然にも目撃してしまうのだ。彼をこらしめようとするうちに、トード島と呼ばれる小さな島の開発も阻止しようということになり、それらの問題は思いもよらない形で収束する。登場人物の変人ぶり、物語に深く関わってくるストウトの飼い犬のブードルの描写はとにかく笑える。力いっぱい笑っているうちに、正体不明のトゲが心に刺さってくる不思議な痛快さだ。
マイク・ダッシュ 『チューリップ・バブル』 文春文庫 2001年6月25日 (購入)
- チューリップの栽培の歴史、美術史上の役割から、オランダで起きたチューリップ・バブルという経済現象にまで言及しているノンフィクション。モザイク病にかかったチューリップがもてはやされたとか、トルコでも大流行したとか、球根を食べると苦いとか、雑学好きとしても面白いことがたくさん書いてあったけれど、チューリップという花についてだけでなく、最近日本で起こったバブル崩壊についても考えさせられた。ただ、予測部分が多くて、ノンフィクションの割にはなんだかすっきりしない感じだった。
クライヴ・バーカー 『死都伝説』 集英社文庫 2001年6月27日 (借りる)
- 絶版になってしまって、古本屋でも見当たらなかったのですが、ゆみなさんのご好意で貴重な本を読むことができました。どうもありがとうございました。
イスラム教の伝説をベースに描かれたファンタジックなホラー小説。イマジカなどと比べると小さく纏まった感じだけれど、それだけに親しみやすくわかりやすい。死人の少女バベットと主人公の恋人のローリーの不思議な心の繋がりに心を惹かれた。生きるための糧を得る時の残虐さ、欲望に対しての素直さは獣人と描写されているのにふさわしいミディアンの住人たちより、生きている人間たちの心のが恐ろしいという皮肉(?)がいかにもバーカーらしい。もしかしたら、人間らしさより、獣らしさの方が、美しく優雅なのかもしれない。
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