2001年7月の感想






J・K・ローリング 『ハリー・ポッターと賢者の石』 静山社 2001年7月1日 (借りる)

流行りものだからと敬遠していたのですが、ゆみなさんにお借りして読み始めたら、さあ大変。仕事に差し支えるくらい夢中です。

子供の成長物語でそれが十一才くらいの年齢だったりすると、なぜかトキメキを覚える。でも、魔法使いものでこれほどツボだった小説は初めてだ。魔法学校の入学に対して準備する道具や教科書、魔法使いの卵たちのペットとか、魔法学校の授業という設定や背景にときめかされ、ハリーの孤独や戦い、ロンやハーマイオニーやハグリッドとの友情に涙して、漢字にルビが振ってある子供の本なのにどうしようもなく夢中になってしまった。登場人物たちそれぞれの長所短所のバランスもよくて誰も完全無欠ではなく、それなりの理由のある悪役とも簡単に馴れ合わないところがいい。あと、賢者の石に対する結末とそれをハリーに話すダンブルドア先生の言葉は味わい深い。


J・K・ローリング 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』 静山社 2001年7月1日 (借りる)

第一作でどうしようもなくはまってしまって期待しすぎるほどしたのだけれど、裏切られなかった。

子供たち同士ばかりでなく親同士も仲の悪いウィーズリー家とマルフォイ家の確執や、血筋にこだわるタイプの子供が登場したりして、そういう社会の縮図めいた部分も嫌味じゃなく楽しめる。最後の秘密の部屋でのハリーの危機、リドルとの相似点に悩むハリーにかけたダンブルドア先生の言葉には、大人気なくも涙ぐんでしまった。

蛇足だけれど、ウィ−ズリー家の年よりフクロウのエロールがなんだかけなげで可愛かった。


坂東眞砂子 『葛橋』 角川文庫 2001年7月2日 (借りる)

まなみさんからお借りしました。ありがとうございます。

一本樒、恵比寿、葛橋の三編からなる中編集。人間の愛憎と民間伝承のようなものを結びつけていて、どろどろとした大人のための日本昔話という感じがした。一本樒はあまりにも見え見えで、葛橋は最後の場面の想像がしづらかったけれど、恵比寿のシニカルな結末はちょっと気に入った。そりゃ馬鹿笑いもしたくなるかも。。。。。


辺見 庸 『赤い橋の下のぬるい水』 文春文庫 2001年7月3日 (購入)

平凡になったら愛せない?
それとも愛じゃなかったの?

「赤い橋の下のぬるい水」「ナイト・キャラバン」「ミュージック・ワイア」の三編からなる中編(いや短編かも)集。現実のようで現実じゃない奇妙な世界観のある小説。清水美沙さんが出演した映画のあらすじが知りたくて、表題作目当てで買った。一番奇妙で不思議なお話は表題作だけれど、個人的に一番おもしろかったのは「ミュージック・ワイア」だ。片づけられない一家と、片づける不思議な男との交流と、その後の描写がおもしろい。


カール・ハイアセン 『珍獣遊園地』 角川文庫 2001年7月5日 (図書館)

トード島の騒動が気に入ったので、他の作品はどんなものだろうと思って借りてきました。偶然にも、スキンクやジム・タイリーといったトード島の騒動と共通の登場人物もいて、物語自体には入り込みやすかったです。雰囲気だけでなくテーマも舞台も似ているのでどうしても比較してしまうのですが、こっちの方が途中までのテンションが非常に高く、代わりに結末がいまいちお洒落じゃなかった感じがします。漫画を読んで、同じ種類だけど異なるギャグで笑うという楽しみ方と似ていました。でも、そのギャグ部分の、鋭くて皮肉が効いていて妙に冷めた感覚が病みつきです。死んだ野生のパンサーの発信器つきの首輪をして動き回っては観察者を混乱させるスキンク(車に乗ると信じられないスピードで走ることになる)、ステロイド剤の多様で大事なところが小さくなると周囲に脅されて毎日測定するペドロ、ディズニーランドが嫌いだからといってミッキーとミニーのエッチな入れ墨をするキングスベリー、私がここに書いてもちっとも面白くないけど、読んでいると笑いが止まりません。私は一部のエコロジストが大嫌いで、環境保護をテーマにすると皮肉な目で見てしまうのですが、こういう風に上手に皮肉りつつ訴えられると、なるほどと思います。




森 博嗣 『有限と微小のパン』 講談社ノベルズ 2001年7月7日 (図書館)


リアルタイムで読んだ方ほどではないにしろ、シリーズ全部を読み通すのに数年かかってしまったので、いまいち最初の話との繋がりはわからないのだけど、結末に関しては「ふうん」としか言えない。それ以外何も感じなかった。他の森作品と同じで、頷ける言葉と反発を感じる言葉と失笑を感じる表現の三つの起伏が激しくて非常に疲れた。個人の認識が思いこんでいるほどは正しくないとか、意識はどこから来るとか、白黒はっきりさせなくても脳味噌のキャパがでかい人は平気だとかいうのは非常に納得がいくので、いいこと書くなあと感心する。でも、理系だからとか建築学科の生徒だからとか書かれると、そんな顕著な思考回路の特徴が果たして存在するのかね?と鼻で笑いたくなってしまう。そして、天才が云々とか書かれると妙に不愉快になる(凡人の僻みかも)。続きと結論が知りたくて一気読みだったんだけど、この三つの気持ちが自分の中でグラグラ揺れて悪酔いしてしまった気がする。


カール・ハイアセン 『殺意のシーズン』 扶桑社文庫 2001年7月11日 (図書館)


人に感動を与えることができるとしたら、
何か信じられないくらい極端なこと?

殺意のシーズンという題名からは、なんだか想像もできない内容の小説だった。これでは環境保護問題を訴えるのは悪役の方で、しかもシリアスにはほど遠い抜け作だったり、ある意味狂った感じだったりする。で、悪党のライバルとなる私立探偵はさっぱり頼りにならないようでそうでもない。変人の度合いは極端だけど、長所短所のバランスがよいとも言える。ドタバタ劇のまま突き進んで、シニカルでブラックユーモアの効いた大団円かと思いきや、驚くくらい切ない幕切れだった。偽善と思える行動もあそこまで極端なら茶化したりシニカルな目で見る余裕がなくなるかもしれない。それにしても、ジェンナって女はすごいかも。友達になるのも嫌だけど、知り合いすべてに近寄って欲しくないタイプだなあ。本で読む分には面白いんだけどさ。


リリアン・J・ブラウン 『猫は汽笛を鳴らす』 早川文庫 2001年7月13日 (図書館)


新しい家を建てることで神経症気味になるポリーになんとなく同情したり、エリザベスのファッションを生で見たいと思ったり、クィラランをボス(?)と慕うシーリアとのコミカルなやりとりが可愛かったり、楽しめる部分はたくさんあるんだけど、相変わらず結末が薄っぺらい感じがする。それでも、シリーズを読破したいって気持ちが少しも衰えないのが不思議だなと思う。シーリアのハンドバックに興味を示す猫たちや、電話をいつまでも不思議がる様子だけで帳消しになっちゃうのかも。


J・K・ローリング 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 静山社 2001年7月14日 (購入)

借りようと思っていたのだけど、どうしても我慢できなくて買ってしまいました。

ヴォルデモートの一番の仲間と言われているシリウス・ブラックという囚人がアズカバンから逃げ出し、ハリーは心配する先生方やウィーズリー一家やハーマイオニーに行動を著しく制限される。今回ではハリーの父の交友関係が明らかになり、スネイプとの確執の謎も少し明らかにされる。恐怖と戦う魔法の内容がなんだかすごく好きで、それをハリーがものにした場面は強く印象に残っている。ハリーが思い浮かべる幸せは、恐怖に対してものすごくささやかで当たり前のことでありそれで恐怖に勝てるという展開、物語の中で復讐を遂げさせないこと、そして前二作と異なる勧善懲悪ではない終わり方に、作者のプロフィールをなんとなく重ねてしまった。四作目も楽しみだ。


竹内 真 『カレーライフ』 集英社 2001年7月18日 (図書館)

祖父の葬式の時にいとこ同士でしたカレー屋を開こうという約束と、それを後押しする父親の遺言。主人公は成り行きのままに祖父が作ったカレーについて調べることになり、次第にその旅は祖父や父親たちのルーツや、自分たちの抱えていた問題の解決にも結びついていく。

可愛らしい青春グラフィティという感じ。不倫とか戦後の日本とかが出てくるわりには薄味に感じてしまう。登場人物にも全く感情移入できなかった。はっきりいって全員に興味がもてなかった。当たり前の普通の人間という意味ではそういう人格像が正しいのかもしれない。でも、頭を使わずにすっきり楽しめた。好き嫌いは別として、評価が高めのはわかる気がする。


カール・ハイアセン 『大魚の一撃』 扶桑社文庫 2001年7月24日 (図書館)

私立探偵のデッカーは、バスフィッシングに夢中である富豪ゴールトから人気の釣り師ロックハートの大会でのいかさまを調査して欲しいという依頼を受ける。しかし、いきなり殺人事件とその露骨な隠蔽工作に遭遇してしまう。デッカーはスキンクやジム・タイルといったおなじみのメンツと組み、危険やら本当の黒幕やらに立ち向かう。突き詰めれば今まで読んだ他の作品と特に違う雰囲気はないのだけれど、安定したおもしろさのある小説で楽しく読めた。

バスフィッシングに夢中になりすぎる男たちの様子や、それを理解できない女性の様子が、辛口でユーモラスに書かれていて笑いを誘う。結局行き着くのは環境問題や開発問題なのだけれど、それを直接訴えるわけじゃなくて、変化球で別の視点から見せているところがやっぱりいい。あと、現実にあって欲しいけどありえない悪趣味な因果応報があまりにも痛快だ。キャサリンとレニーというある意味では似ている二人の女性の対比も面白い。


津原泰水 『ペニス』 双葉社 2001年7月26日 (図書館)

ちょっと興味を惹かれたので借りてみたんですが、私の脆弱な脳味噌ではさっぱり理解できませんでした。というより、心がこれを理解するのを拒否している部分もあると思います。なんとなく、ストレスに強くなればなるほど人生損をするのかなあなんて、罰当たりなことを考えてしまうのです。耐えた見返りってあるのかなんて恐ろしい疑問を突き詰めて考えたりしないで暮らしていけるでしょうか。


ジム・トンプスン 『内なる殺人者』 河出書房新社 2001年7月27日 (図書館)

本当の心の闇は、悩みを探して悩むような人には無縁なのだろう。
探すまでもなく存在していて、その闇とつきあうことで手一杯なのだから。

言わずとしれた暗黒小説の傑作。これが初めて読んだトンプスンだったら絶賛していたと思うが、最近まで絶版だったこともあって期待しすぎていたので綺麗にまとまっているなという印象の方が強くなってしまったけれど、病的な心理があまりにも普通にさらりと描かれているところにかえって凄みを感じた。この普通さをスタイリッシュだと感じてしまう自分がいる。息子を殺された父親が病院で主人公にかけた言葉が最後に響いてくる仕掛けも洒落ていてかっこいい。確かにその言葉は真実だ。その光をどう受け止めるかで、道は破滅と平穏のどちらかに分かれていくのかもしれない。


ポーラ・アンダーウッド 『一万年の旅路』 翔泳社 2001年7月30日 (購入)

ネイティブ・アメリカンの口承詩(史かも)を文章化したもの。言葉の使い方が独特で慣れるまで非常に読みづらくて、ベーリング海の横断のところまでで五回は挫折した。でも、読み進めていくと、歴史だけではなく民族としての哲学みたいなものや価値観、今では普通になっている常識を発見する過程など、興味深い話がたくさん出てきてあっという間に読み終わってしまった。それはともかく、この民族の価値観は私の中にある理想を昇華させ現実化したようなものに似ていて、もしかしたらこのまま生きていってもいいのかもしれないという気持ちにさせてくれた。落ち込んだ時にはこの本を広げてみようと思う。その時には注釈や地図もじっくり眺めてみるつもりだ。癒し系とかいうものが流行っているらしいけど、べたべたした癒しとか求めているものをリサーチして体現している癒しなんかいらない。紛れもない現実で癒されたい。