2001年9月の感想






ディーン・R・クーンツ 『ウォッチャーズ(上・下)』 文春文庫 2001年9月02日 (図書館)

バノダイン研究所から逃げ出したDNA操作で作られた二種類の生物。世捨て人だったトラヴィスはその両方と出会い、人生を取り戻していく。

この物語に登場するアインシュタインという犬が、読んでいるだけで泣きそうになるくらい可愛い。この犬に出会って惹かれる人々もみんないい人で、犬を通して幸せを手に入れる。信じたい幸せが全部詰まっている物語だった。その一方で、犬の対極として描かれるアウトサイダーという生き物の背負う悲しさが身にしみた。

冷静に考えると怪しいところがたくさんある物語なのだけど、それをうち消すだけのパワーがみなぎっている。古い本なので(ソビエトが強い存在として登場するし)、ご存じの方の方が多いかと思うけれど、犬嫌いじゃない人にはお薦め。ブリジット・バルドーみたいな思想の人には自信ないけど。





小林泰三 『AΩ』 角川書店 2001年9月4日 (図書館)

ウルトラマンのパロディを含むスプラッタSFじゃないかと思う。宇宙人が地球人を学習するくだりはなんとなく家畜人ヤプーを思い出してしまう。スプラッタだけど性的には倒錯してないので不思議だ。こういう書き方が日本人にとってはメジャーなのかもしれない。パロディ部分やストーリー自体はそこそこ楽しめたけど、期待していた美意識も味わえないし、いろんな登場人物がどんどん無意味になっていく気がして、感情が全然動かなかった。





マイクル・Z・リューイン 『表と裏』 早川書房 2001年9月5日 (図書館)

作家であるウィリアムはスランプに陥り、知人の殺人事件の調査にどうしようもなくのめり込んでしまった。力になろうとする妻とは諍いを繰り返し、義理の姉を怒らせ、娘の夫にも痛烈な言葉を浴びせてしまう。一方、彼の小説の主人公であるハンクは迷走し、思いがけない成り行きに巻き込まれていく。ウィリアムに起こった出来事とハンクの言動の不思議な連動が楽しい。また、スランプに陥っているウィルとその時に書かれたハンクの言動は双方負けず劣らず嫌なやつで、こういう人が周囲にいたら相当迷惑だろうなあとも思うのだ。で、それを指摘するウィルの妻ナンの言葉がいかにも真実で笑える。





飯田譲治/梓河人 『アナザヘヴン(上・下)』 角川ホラー文庫 2001年9月7日 (古本)

テレビドラマを少し見ていたので、小説の方も読んでみた。この話はドラマの前のお話になるのだろうか。ちょっと話の内容を整理したくなった。映画とドラマも合わせて、ストーリー全体の流れにはすごく興味がある。でも、時々間に合わせたみたいなピースがあるようなのが気になってしまう。想像力での世界構築というのは大変な作業なんだなあとか考えちゃったりする。世界観がわりとわかりやすくて、読者層からはねのけられたという感じがしないだけに細部が気になってしまうのかも。





マイクル・Z・リューイン 『負け犬』 早川書房 2001年9月12日 (図書館)

ピントのずれた発想と視点を持つホームレスのジャンは、冬の間のねぐらにしている場所で犬をたくさん発見する。そして、柄の悪いピートという男に脅される。その後もなぜかこの事件に関わり合うこととなる。たくさん登場する笑い話の類は、文化が違うのでわかりづらいところもあるので読んで大笑いというわけにはいかないけど、そういう話で少しでもその場や自分の人生を明るいものにしようとする人々の雰囲気がなんとなく好きだ。無限の可能性をもう信じられなくても、自分の生活の限界が見えても、それでも人生を楽しむ姿勢が伝わってきて、微笑ましいと同時に身につまされる。あと、パウダーやプロフィットが登場するのも楽しめる。特に一線を退いているパウダーの変化も興味深い。


ジェフリー・ディーヴァー 『ボーン・コレクター』 文芸春秋 2001年9月14日 (図書館)

諦めて取り戻す?

期待しすぎてつまらないと感じてしまう本が多かったのだけど、久しぶりに期待通りに面白い本だった。登場人物の性格や過去と事件が緻密なパズルピースの一つ一つとなって結びついている娯楽(?)小説だと思う。素直じゃない思いやりで結びつく人々の暖かさが、悲劇の凄惨さを救っている上に、ストーリー展開もちょうどいい早さだったと思う。なんかすごく偉そうな感想だけど、とりあえず「面白かった」の一語が素直な感想だ。


マイクル・Z・リューイン 『探偵家族』 早川書房 2001年9月16日 (図書館)

平和なバースという街で家族で探偵業を営むルンギ一家が主人公のシリーズ。家族同士の軽口なんかはなかなか可愛いし、それぞれのキャラクターも可愛いのだけど、ミステリ部分は私としては面白くない。結末もいくつかの事件が絡まり合うのは仕方ないとしても、それが不明瞭に感じられてしまった。


グレアム・マスタートン 『黒蝶』 早川文庫 2001年9月17日 (購入)

掃除婦であるヒロインは、殺しの現場で悪魔の化身と言い伝えられるアステカの蝶を発見した。やがて自分の夫と息子も姿を消す。そんなあらすじの映画化も予定されているサスペンスホラー。でも、なんだか波長が合わなくていまいちだった。ホラーにしては辻褄が合いすぎているし、ただのサスペンスにしては都合がよすぎる展開に感じてしまう。モチーフに使われているアステカの悪魔は場合によってはものすごく高い効果もあるのだろうけれど、あんまりぴんと来なかった。あと、途中までどちらかというと賢明でいい意味での諦観も持っているヒロインがあまりにも唐突に愚かなタイプに変容するのについていけなかった。読解力がないから突然に感じるのだろうか。


スティーヴン・ハンター 『極大射程(上・下)』 新潮文庫 2001年9月19日 (図書館)

用心深い無敵の男でありながら、特に感情がないわけでもないというヒーローであるボブが活躍する文句なしのアクション娯楽小説。誠実だけが取り柄のFBI捜査官ニックとの対象も興味深い。ボブと事件が起こる前からのボブの友人サム・ヴィンセントとのくせ者ぶりもちょっとわくわくするし、犬に示す愛情も読んでいて嬉しい感じがする。登場する女性はいまいちご都合主義っぽいわりには、心の底に変てこで頑固なフェミニズムの発想を持っている私にも不快感を感じさせない。結末も爽快でとにかく楽しむために読むなら過不足のない作品だと思う。ボブやニックが登場する(ちょい役かもしれないけれど)「ダーティホワイトボーイズ」や「ブラックライト」もぜひ読みたい。


テリー・ケイ 『白い犬とワルツを』 新潮文庫 2001年9月21日 (購入)

話題作でハートウォーミングで大人の童話だのと書かれたら、100%読まないのだけど、魔が差して買ってしまった。最初を少し読んだだけで話の展開はほぼ丸見えだし、わくわくもしないし、特に好きな部分もないし、鼻につくところもたくさんあったのに、なぜか泣けた。ものすごく悔しいけど、丁寧な秀作だなあとは思う。


ヘレン・フィールディング 『ブリジット・ジョーンズの日記』 ソニーマガジンズ 2001年9月23日 (購入)

恋も仕事もうまく行かない三十過ぎのシングルトン(?)ブリジット・ジョーンズの日記形式となっている小説。日々の出来事の他に、体重や摂取カロリーも書いてあって、そこに書いてある言い訳がものすごく身につまされて笑える。日々のエピソードはドタバタコメディっぽい部分も多いのだけど、あまりにも身につまされて笑えないところもあった。これを読んでの純粋な感想じゃないんだけど、結婚できないことってそんなに悪いことかなあって言い返したくなることがある。いくら仕事がうまくいっても結婚してないだけで弱味になっちゃうのが悔しくて悲しい。そういう現状だから、架空の登場人物だけど同じような立場のブリジットが一生懸命突っ走っている様子を読むとちょっとだけ元気が出た。ハッピーエンドなら続きも読みたい。あと映画の方も見てみたい。


デイヴィッド・ピース 『1977リッパー』 早川文庫 2001年9月27日 (購入)

ヨークシャー四部作の二作目。前作の1974ジョーカーよりはかなり面白かったけれど、エルロイのLA四部作に対抗するにはやっぱり弱すぎる。前作との繋がりがいまいちうろ覚えでもハッシュハッシュの引用記事を無視してもLA四部作はガンガン読めたけど、この作品はその辺を粗末にしちゃうと意味がさっぱりわからない。普通は国も世代も違う著者同士を比べたりはしないのだけど、本人が「イギリスからのエルロイへの返答」なんて書いているから、そういう目でしか見られなくなってしまっている。そういうフィルターを取ったらもっと面白いのか、それともフィルターなしではさっぱり面白くないのかも判断しかねる。主要登場人物があまりにも救いのない人生の転落ばかりするのも気になる。LA四部作でいうと、ダドリー・スミスは存在してもエクスリーは存在しない。あとLAでの登場人物は社会的には失敗して正義には絶望しても、何か救いを持っているから時代の暗黒がストレートに受け止められるけど、この小説の登場人物たちは真相に近づいたなら何もかもを失って全く何も救いのない転落の道をたどってしまう。それがイギリスとアメリカの違いって言われたらよくわからないから納得するしかないけど、転落ものなのか時代の暗黒を描いているのかというところで、読解力のない私の理解能力を超えてしまうのだ。って悪口ばかり書いているわりには次作も買ってしまうんだろうな。。。。。


ヘレン・フィールディング 
『ブリジット・ジョーンズの日記〜きれそうなわたしの十二か月春夏篇』
『ブリジット・ジョーンズの日記〜きれそうなわたしの十二か月秋冬篇』
ソニー・マガジンズ 2001年9月30日 (購入)

ブリジット・ジョーンズの日記が面白かったので、我慢できずに続編を買ってきてしまった。前作がある意味強烈だったので、ブリジットがどうなってしまうかものすごく心配だったのだけど杞憂だった。やや現実味にかける部分もあるような気がするけれど、頭を使わないで大笑いできる。この本でいう独善的既婚者には前作ほどはイライラしない。前はマイナスにしか見えなかったブリジットとシャロンとジュードの友情も、やっぱり嫉妬が入りこんで相手の幸せを邪魔したり、お互いに変に流されすぎたりして、「駄目だよ。あんたたち。」と心配になってくるのだけど、最後にはそれでもあった方がいいと思わせるところが気に入ってしまった。現実味はあんまりないけど、なんつーかこういう夢に浸るのもいいかも。