2001年10月の感想






ゼイディー・スミス 『ホワイト・ティース(上・下)』 新潮社 2001年10月02日 (図書館)

ルーツに縛られすぎては動けない?

ジャマイカ人の母とイギリス人の父を持つ著者の半自伝的な要素を含む小説。結構読みづらいところも多かったので苦戦したのだけれど、版権が取り合いになったのもうなづける秀作だと思う。いろいろな民族と宗教が入り乱れて登場しイギリス独特の階級意識も当然のように(って当然か)描かれていて、自分のルーツや階級にどうしても縛られざるを得ない登場人物の言動が興味深い。だから、最後のシーンでのアイリーと父とのやりとりが強く印象に残っている。


山之口洋 『われはフランソワ』 新潮社 2001年10月04日 (図書館)

ジャンヌ・ダルクが処刑された年に誕生にしたフランソワ・ヴィヨンという詩人を主人公とする歴史小説(?)。悪を美とする美意識、異民族としてのアイデンティティ、わりと斬新に見える歴史の捉え方なんかも盛り込まれた意欲作なんだろうと思う。でも、読んだ順番が悪すぎた。スピード感があって読ませる話ではあるのだけど、クライマックスであろうフランソワが「俺はフランス人をやめる」と言うシーンがやけに唐突に感じられてしまう。シャルルやマリーとの友情や愛情も全く印象に残らない。とにかくお話の展開は楽しめるけど、感情が少しも動かないのだ。ホワイト・ティースでより強烈な自分のルーツとの戦いを読んだ後なのでそちらの余韻が強烈すぎるせいでもあるし、詩の読解力がまるっきりないので挿入される詩がかったるくてほとんど斜め読み状態だったせいでもあるだろうし、単に波長が合わないせいかもしれない。


ドン・ウィンズロウ 『カリフォルニアの炎』 角川文庫 2001年10月09日 (購入)

どれだけ必要でも諦めなくてはいけない。希望のために。希望のためでなくても。

自分の信念を貫き通せる人生を得る人は、ほとんどいないと思う。なのに信念もないのに、自分探しばかりしている人もいる。希望はあるけれどあまりにも苦い結末を読むと、なんだかわけのわからない怒りが燃えさかってきてしまうような気がする。


貫井徳郎 『神のふたつの貌』 文芸春秋 2001年10月10日 (購入)

同じ間違いをしたくなくても、同じやり方しか知らない。
望まないのに同じ道をたどってしまう。
だけど。。。

宗教観という題材には面食らったけれど、まさに私がこの著者に求めていた要素を持っている作品。ミステリっぽい仕掛けは
慟哭修羅の終わり両方と似ているものでそれ自体に驚きはなかったけれど、内容そのものや読後感に重く響いて時間差で共鳴していくような感じである。子供時代の早乙女が大人を見る冷めた視線が悲しすぎる。


ジェームズ・ハーバート 『魔界の家(上・下)』 早川文庫 2001年10月15日 (借りる)

生きていくのに必要な力はほんの少しでいい?

絶版だという貴重な本なのですが、こめっちさんにお借りしました。
ありがとうございました。

手に入れた素晴らしいはずの田舎の家で、主人公とそのガールフレンドは悪い魔法とよい魔法両方を経験することになる。悪い魔法の描き方やそれにまつわる謎はやや唐突な感じもするけれど、よい魔法を表現する色彩の鮮やかさがなんとも美しい小説。科学で証明できないことに対する主人公やその友人たちの反応や心の様子の表現が細やかなところも興味深い。


ヘレン・フィールディング 『セレブリティを追っかけろ!』 ソニー・マガジンズ 2001年10月16日 (図書館)

いくら自分を駄目にしていしまう恋愛でも、それを終わりにするには簡単じゃない。だから、脳味噌を洗って、ねばねばしたものを簡単に落とせたらいいっていうのは大賛成かも。

ブリジット・ジョーンズの日記があまりにも面白かったので、この著者の他の小説も借りてみた。登場人物たちのかなりデフォルメされた言動がありがちで滑稽で大笑いしてしまった。でも、振り回されてしまうヒロインの言動は理解しやすいけれど、セレブとつきあいたいっていうような気持ちをもう忘れてしまったので(おばさんは嫌だわ)、ブリジットほどには感情移入はできなかった。


D・H・ロレンス 『新訳チャタレー夫人の恋人』 彩流社 2001年10月18日 (図書館)

あまりにもきわどい内容なので最初は完訳されなかったことで有名な作品の完訳の一つらしいです。日頃読んでいる本が本なので、どうしてこの程度の内容で大騒ぎになったのかさっぱりわかりませんでした。訴える内容自体はシンプルで悪くないと思うのですが、時代のせいかセックス描写が妙にきらきらしていて華美で気持ち悪かったです。自分を高見に置いて読者を見下ろす文章ではないかという印象を受けてしまうのかもしれません。


倉橋由美子 『暗い旅』 新潮文庫 2001年10月20日 (いただきもの)

ナルシシズムと極度の傲慢さは同居する?
自らを非凡であるという主張は、自主的な転落?

だぶっていたとのことで雫くんより譲っていただきました。ありがとうございました。

行方不明になった恋人を捜して、鎌倉と京都をあてどなく旅するヒロインの姿と心情の描写の間に、恋人との出会いや過去の回想が挿入される小説。なんとも耽美で退廃した雰囲気が舞台となった年代へのイメージとぴったり重なる。ヒロインやヒロインの恋人の持つ閉塞感を主観的に楽しむなら怖い小説だけれど、客観的に楽しむには美しいかも。でも、完全に他人事として楽しむのもいかがなものかとも思ったりする。


ジェイムズ・エルロイ 『アメリカン・タブロイド(上・下)』 文春文庫 2001年10月25日 (購入)

人生のピークは一度しかないなら
どういうピークを選ぶべきだろうか?

ケネディ暗殺に絡む暗黒(?)小説。ケネディ大統領とその父と弟、FBIのフーヴァーなど著名な人物も登場するが、メインとなるのはその下で暗躍する元FBIのエリートでケネディ陣営に送り込まれるケンパー・ボイド、ケネディを憎む富豪の下で働く私立探偵ピート・ホンデュラント、ケンパー・ボイドの弟分で正義感の強いウォード・リテルという三人の男たちである。いずれも、汚い仕事に手を染め、人生のピークや転落を経験し、お互いに惹かれたり憎みあったりしながら、結局社会の流れに翻弄されていく。無常や絶望感よりも、人生はそういうものかもしれないという諦観が支配しているような気がする。特に、自分の強すぎる信念に振り回されるウォードが、ボビー・ケネディやケンパーと自分の人生における決着をつけるシーンは残酷で強烈な透明感がある。


中村方子 『ミミズに魅せられて半世紀』 新日本出版社 2001年10月26日 (購入)

戦後すぐに新制大学を出て、日本の女性学者のパイオニアにもなってしまいながらも、主にミミズの研究を続けてきた中村方子さんの、自伝でもあり研究の初歩的な紹介でもある本。突然、ミミズの本に興味を惹かれたキーワードは炭疽菌である。ミミズに強烈な印象を持ったのは、子供のころパスツールの伝記を読んだときのことである。炭疽病の研究に取り組んだパスツールが土の中に埋められた炭疽病の家畜の死体から、どうやって地上に炭疽菌が運ばれるのか疑問を持ち、最終的に菌の運び手がミミズだったというエピソードがあって、それが忘れられなかったのである。

ミミズの種類によって土の様子が変わったり、表面上は元の自然を残しているようでも土の中のミミズはいつのまにか入れ替わってしまっているというのが印象的だった。自然保護をうるさく強要するわりには目に見える動物や植物のことしかわからない人はこういう本をちゃんと読んだ方がいいと思う。だいたい「私はこんなに働いてるのよ!」って自信満々の人に限って、学者でもなくどちらかというと馬鹿に属する私すら知っていることを知らなかったりする。こういう視点で丁寧に守ろうとするなら、かなり激しい発言をしても許せるんだけどなあと思った。また、この本にはミミズや自然のことばかりでなく、戦後まもない日本で女性が学者としてやっていくにはどれだけ大変であったかということも案外淡々と書かれている。確かに未だに女性が働くのは大変だけれど、最低限と思われる条件(定年が法的には男女共通であるとか)すら昔はなかったのだと思うと、まだまだ私は幸せだなあと思う。一応フリーランスになっても食えるだけの仕事はあるもんね。間接的だけれどこうやって戦ってきた女性の恩恵を受けているのに、後輩のために戦う気が全くない自分がちょっとだけ恥ずかしいかも。


藤本ひとみ 『離婚まで』 集英社 2001年10月28日 (図書館)

親の支配力は絶対じゃないはず。

親に恵まれたと思う。だけど、親の思う理想の人生像に囚われているし、親が私のためにならないこともたくさん言ったとも思う。恵まれているというのは、ためにならないことを言われててその通りにしてしまったり親の価値観に必要以上に囚われていると自覚しても親を慕えること。親を若干とはいえ冷静な目で見てしまうのは親不孝だとも思うけれど、もういい年だし親も人間ってことをわかった上で愛していきたいと私は思っている。そういう風に育ててくれたのだと親を信じている。だから、この小説はヒロインの母親への怒り半分、ヒロインへの怒り半分なのだ。ヒロインの母親もヒロインも決して肉親に愛されずに育ったわけじゃないと思う。なのに、母親の人生を自分が望まない形でコピーしてしまう運命はどうしても避けられなかったんだろうか?ヒロインの祖父母の気持ちや、ヒロインの娘たちの気持ちを考えるとなんともやりきれなくなる。完全なコピーじゃなかったから下の娘の優しい言葉があったと信じたい。


エリック・シュローサー 『ファストフードが世界を食いつくす』 草思社 2001年10月29日 (購入)

ファストフード業界が社会全体から搾取している(?)という観点で書かれたノンフィクション。書かれている内容自体についてはある程度知識があったけれど、企業が義務教育の範囲内の学校のスポンサーになるという記述には驚いた。企業が自分たちの不都合な事実を削除してしまった教科書、学校内におかれる販売機、学区内でのスポンサー企業の商品の購入義務。どれも、恐ろしいことだと思う。そして、材料を納めている企業の現状(全部がそうなのかは知らないけれど)はもっと怖かった。学生の頃、レタス畑のご主人に大規模なアメリカの農業の話と価格では勝負できないという話を聞いた。漠然と日本の農業よりはアメリカの農業の方が健全なのかもしれないと思った。でも、そうでもないらしい。個人の中小規模農家をどんどん破滅させて、工場のような農業を営み、食肉加工工場では労働者を使い捨てにする。どこまで著者の主観が入っているのかはわからないし、食品の危険度なんてどれがどこまで安全なのかほとんどわからないけれど、もしできることなら頑張っている生産者や誠実な企業の製品をできるだけ買いたいって思った。でも、危険ってわかっていても、便利だからとか一人で入りやすいからとか遅くても早くても開いているからとかいろいろな理由で利用しちゃうんだろうなあ。なんだか悔しい。ただ、何かを避けることをあんまり強く主張するのは難しいなと思った。


牧野 修 『呪禁官』 祥伝社 2001年10月30日 (図書館)

内容の紹介のところに、青春ホラーと書いてあって「うさんくせー」と思ったのですが、その通りの内容でした。主人公を含む4人の少年の成長物語と、主人公の父親たちの世代からの確執が軸になっていて、すっきりしていて読みやすいです。でも、文系が理系を云々って売り出し文句はやめた方がいいかも。どちらかというと単に現状を皮肉っている感じがします。科学を粗末にしても、生活には使わざるを得ないというような表現が笑えました。あと成長による主人公の心境の変化の書き方に照れがあるところがちょっと可愛いです。