2001年12月の感想
マーク・グレアム 『黒い囚人馬車』 早川書店 2001年12月06日 (図書館)
- 担当した誘拐事件で誘拐された子供を助けられなかったために左遷された主人公が、警備をしていた博覧会会場で少女の惨殺死体を発見した。自分を取り戻そうとその事件を追ううちに、博覧会でも幅を利かす富豪の触れられたくない過去を掘り返してしまう。あちこちから圧力がかかり、何度も挫折をくり返しながら追いかける様子には、無力感を伴う何とも言えない暗さがあって引き込まれる。怪しげな登場人物の背景や描写もいい。町の描写も雰囲気がある。でも、この主人公にはどうしても共感できない。間違った推理を何度も断言し、そのたびに周囲が振り回される様子が嫌でたまらないのだ。
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乙一 『天帝妖狐』 集英社文庫 2001年12月08日 (借りる)
- 杏さんよりお借りしました。ありがとうございます。
老練な文章なのに、文章の中に登場するテレビ番組やお菓子などが妙に現在に近くて、不思議な雰囲気がある。何でも著者がまだ二十歳そこそこだという。驚いた。表題作の天帝妖狐はあんまり好みじゃなかったけれど、最初に収録されていた「A MAKED BALL」というお話は日常と非日常のバランスがとてもよかった。トイレで落書きを見かけたら、思わず読んじゃうかも。でも、女子トイレの落書きは、幼稚な恋愛相談が多すぎてつまんないんだよな。。。。。
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乙一 『夏と花火と私の死体』 集英社文庫 2001年12月09日 (借りる)
- 杏さんよりお借りしました。ありがとうございます。
2つの作品が収録されているけれど、より好みだったのは「夏と花火と私の死体」の方である。死体の視点から書かれるというのも面白いけれど、五月と弥生という二人の女の子と緑という女性それぞれの持つ危うさが魅力的だ。弥生が強烈な嫉妬の心を持つのに対して、五月と緑にはその辺のところが妙に希薄なところが対象的だ。この希薄さが今時の子っぽくて(すごい偏見)、ちょっと怖い。
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エドワード・ゴーリー 『華々しき鼻血』 河出書房新社 2001年12月09日 (購入)
- ちょうど財布を忘れた日に「うろんな客」という絵本に出会って一目惚れしてしまったゴーリーの本。「蒼い時」という本も同時に購入しました。こちらは最初に惚れた時ほどの魅力は感じられなかったけれど、毒が弱くてちょっと可愛い本です。それはさておき感想は華々しき鼻血についてです。
副詞の深遠な活用と、暗い色彩で暗さを含んでいるのにユーモラスな線画が魅力的な絵本(いや、画集なのかも)。ダークでシニカルだけど、意味不明の言葉と絵を見ていると気分が妙に落ち着いてくるのが不思議だ。最近の精神安定剤かもしれない。
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乙一 『死にぞこないの青』 幻冬舎文庫 2001年12月10日 (借りる)
- 杏さんよりお借りしました。ありがとうございます。
いじめの話は上手であればあるほど読むのがつらい。集団が平和であるために生け贄がいるという構図はいつ自分が遭遇するかわからないだけに身につまされる。主人公がいじめられる存在にふさわしい心理状態になれるように言い含める教師の言葉が怖い。だけど、この結末のカタルシスはたまらない。自分の言動に対しての結果を正しく認識して受け入れるという当たり前のことができる人は意外と少ないってことをしばらく忘れられる。
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スティーヴン・ハンター 『ダーティーホワイトボーイズ』 扶桑社文庫 2001年12月13日 (図書館)
- 極大射程の外伝とも言えるお話。 ボブ・リー・スワガーの父が殉職した事件についてほんの少しだけ書かれている。
極大射程のシリーズだと思って読むと少しがっかりするかもしれないけれど、これはこれで面白い話だ。私が特に心を引かれたのは、脱獄囚のラマーと従兄弟のオーデル、ベテラン警官バドと息子のジェフという親子(片方は疑似だけれど)関係の対比だ。最後の事件に行く前のジェフとバドの語らい、強盗の前にオーデルの行く末をリチャードに頼む時などのラマーの言葉の数々は、似ているようで異なる愛情に満ちていて対決のシーンのやりきれなさを増幅させる。娯楽もの以外の読み方もできるようだ。
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乙一 『石ノ目』 集英社 2001年12月14日 (借りる)
- 杏さんよりお借りしました。ありがとうございます。
表題作が一番の力作に感じたけれど私はあんまり好きではない。だけど、「はじめ」の持つ一種の青臭いロマンチシズムはたまらなく好きだし、「BLUE」は使い古されたようなネタとストーリーなのに思わず涙ぐんでしまう。未完成でいまいち小粒という印象なのに、読んでいる間は否応なしに引き込まれてしまった感じがした。この人が描く子供や少年の世界は、諦観していて現実的な感覚で語られるのに、不思議な美しさがあると思う。
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ジム・トンプスン 『アフター・ダーク』 扶桑社 2001年12月15日 (図書館)
- 異性を愛することも自己愛の一種?
かつて一世を風靡したビル・コリンズは、精神的な病を抱え、街から街へと放浪していた。酒場で出会った魅惑的な未亡人フェイと出会ったことから、犯罪に引き込まれていく。いかにもトンプスンという感じのスタイリッシュな暗黒小説。自分を愛していた人間が、まだ自分は愛せるのに好きな自分には一生戻れなくなる。そして、違う形の好きな自分になることもできそうにない。そういう立場に置かれたらと考えることも怖いのだけれど、ビルが最後にした罪作りな行動は暗澹とした気持ちでやりきれなくなる。フェイの憎しみはビルにとって必要だ。でも、フェイには必要ではないかもしれない。
本筋とは関係ないけれど、巻末のトンプスン論もなかなか興味深かった。
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五條 瑛 『スノウ・グッピー』 光文社 2001年12月18日 (購入)
- 似てて非なるものに惹かれる。
事件がなければ起こせばいい。一歩間違えて暴走すれば危険なある会の陰謀は順調に進んでしまう。巻き込まれる三津谷と、流れを泳ぐ江崎という実は似た過去を持つ二人が対象的だと思った。後味の悪い結末だけれど、三津谷の選択には完全に納得できた感じがする。
本筋とは関係ないけれど、三津谷の仕事人としてのあり方にほっとした。私も普通に就職して普通に働いて生活することに全く疑問を感じない。そして、好きなことをしたいとか、こんなの私の自分じゃないって自分探しをする人は、経済的に恵まれ過ぎているんじゃないかとうっかり思ってしまうのだ。自分に課す価値観としては悪いとも思わないけれど、発想としてはあまりよろしくないとも思う。
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乙一 『暗黒童話』 集英社 2001年12月19日 (借りる)
- なかなか面白いホラー(?)だったと思う。いくつの話が同時進行するのかと、読み始めた時は心配だったけれど、それほど複雑でもなくて読みやすかった。鴉に関するエピソードや、不思議な手を持つ男の行為の気味の悪さと言ったホラーっぽいパーツよりは、左目の映像の謎を解き明かそうとする記憶喪失の少女の描き方がいい。もしかしたら周囲の一部のいい年した人たちよりもずっと大人びている考え方をしている。その大人びている部分が、自分が持っている願望の一つであるせいかもしれない。死にぞこないの青や夏と花火と私の死体に感じたきらめきみたいなものは感じなかったけれど、好きになれる小説だ。
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イアン・マキューアン 『アムステルダム』 集英社 2001年12月20日 (図書館)
- 一人の女が死ぬ。その女性を愛していた何人かの男は対象がよくわからない復讐のような衝動に駆られて、それぞれ破滅していく。そんなストーリーだと思った。私の読解力では非常に手強い変な話なのだけれど、人の心の不可解さがなんとも言えないいい雰囲気で表されているように思える。自分だけのものにできなかった彼女は、どうしても自分だけのものにしたい欲求で苦しめられたはずなのに、彼らにとって、現実を生きる人生のかすがいだったのかもしれない。
本の感想とは関係ないが、ヴァーノンという男が編集長をしている新聞の会議で、賭をしないでどうでもいいコラムを増やそうという意見が出るシーンがあった。そのどうでもいいコラムの形容が、私がここのサイトに垂れ流しの文章を書く姿勢とそっくりで苦笑してしまった。よく説教メールをもらったけれど、その原因はこれかと思った。でも、自分も疑っているような意見を世界中に強気で発信する勇気はないっつーの。
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パトリシア・カーロン 『四年後の夏』 扶桑社文庫 2001年12月22日 (もらう)
- 兄を亡くした妹は、なぜか事件の四年後に真相を知りたいと願う。兄が殺された現場にいた二人の少女のどちらかが嘘をついているはず。警察から紹介された腕はいいが地味なオフィスを構える地味な探偵に内心がっかりしながらも、二人の少女とその家族に会い、再び話を聞く。しかし彼女は知りたくなかった謎に愕然とする。
探偵以外の登場人物に対するなんとも皮肉で冷たい視線が面白い雰囲気の本格ミステリ。女性の目だからこそ女性に容赦がないのかもしれない。
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田口ランディ 『コンセント』 幻冬舎文庫 2001年12月25日 (購入)
- なんとも形容しがたい悪い波長で自分が駄目にされそうな小説だった。ヒロインのユキという女性に、私の生活圏全てに存在して欲しくない。そんな嫌悪感でどうにかなりそうだった。自分のことを好きでもなく愛してくれもしない人に見透かされるなんて絶対にごめんだからである。眉間に縦皺が寄せては「うう、むかつくー。」とつぶやきながら読んだのだけれど、印象に残っている部分がある。カウンセラーと臨床医とシャーマンの違いが語られるシーンと、心理学を専攻する人について登場人物が語るシーンだ。そういう知識は全くないけれど、なるほどねと思った。
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フォレスト・カーター 『リトル・トリー』 めるくまーる 2001年12月26日 (図書館)
- まじょるなさんのところで書評を見てから、ずっと気になっていたのですが、やっと図書館で見つけることが出来ました。(探し方が悪いだけかも。)
再評価しても汚点は消えない。
それもあるからこそ美しい話と思えるのは穿った見方かもしれない。
小学生向けの子供の本だけれど登場人物の愛情が身にしみるような本。部族は違うのかも知れないけれど、山での生活や昔から伝わる生活の知恵や伝承については、「一万年の旅路」「グレイ・アウル」に出てくるものと共通点がたくさんあって面白い。こういう信条を正しいと信じられて、それを実行して幸せでいられることに羨望を感じるからこそ、この民族が受けている傷が悲しくてたまらない。この本の本当のよさは、子や孫を持つ立場になるか、いっそ本当に子供じゃないとわからないかもしれない。だから私には本当の価値はわからないのだけれど、強烈な印象を持たないながらも読んでいて気持ちが穏やかになれるいい本だと思う。
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