2002年2月の感想
ジョー・R・ランズデール 『人にはススメられない仕事』 角川文庫 2002年2月01日 (購入)
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ハップ&レナードシリーズの四作目。ハップと恋人のブレットの恋人の前に妙な二人組が現れた。彼らのいうことにはブレットの娘が娼婦を辞めたがっているとのことで、ハップとブレットとレナードは救出に向かう。今までは下品なセリフに似合わないリリカルなハップとレナードの心情を楽しんできたのだけれど、今回はブレットという女性の強さが炸裂している感じがする。ハップの持つ将来への不安と、途中から登場するハーマンという男の一生のことも考えあわせると、男の弱さをしみじみと感じてしまうのだ。出番は少ないけれど今後レナードのペットとなるかもしれないアルマジロのかわいさまでも、そういうところに繋がってしまうような気がする。
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花井愛子 『「ご破産」で願いましては』 小学館文庫 2002年2月02日 (購入)
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中村うさぎさんの対談集「A HREF="rd_0201.html#rd_00853"TARGET="main">人生張ってます
」で興味を惹かれたので読んでみた。この人が仕方ないって思うことの半分くらいしか、本当に仕方ないって思えないという意地の悪い自分を発見してしまった。一番不思議だったのは20才過ぎても子供の視点で親を見ているところだ。親の弱味って二十歳過ぎれば随分客観的に見えてくるもんじゃないのかなあ。親戚づきあいだってねえ、いくら親のフィルターがあったとしても、ある程度あの人はああいう人だから親はこう接しているとか普通は悟るもんじゃないの?なーんて考えてしまうのだ。あと、何を書いても花井愛子の文章なんだなあとも思った。ま、それは割り引いてもものすごいお話で事実は小説よりも奇なりというのは本当かも。
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牧野修 『だからドロシー帰っておいで』 角川ホラー文庫 2002年2月03日 (購入)
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ごく平凡な主婦が義母のプレゼントの赤いハイヒールとと昔懐かしいワンピースで普通のお使いに出た。しかし、彼女は帰れなくなってしまったのだ。そして妄想の世界を旅している間に現実の世界では彼女の行く先々で惨劇が起こっていた。
オズの魔法使いがベースのホラーらしい。オズの魔法使いという物語と妄想の世界と現実の世界が上手に組み合わされていて、唇の片方がくっとつり上がるような皮肉な笑いを誘う物語となっている。神聖な存在の歌があまりにも身近な歌だったところは吹き出してしまった。これはこれで面白いかも。
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エリザベス・ハンド 『マリー・アントワネットの首飾り』 新潮文庫 2002年2月04日 (購入)
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映画のノベライズと気づかずに買ってしまいました。いかにもノベライズでした。一番の疑問は枢機卿がそんなにおつむが弱くて大丈夫なんですか?ってことです。ただ映画の写真は素晴らしいです。もう結末もわかっちゃったけど、映画は見たいです。
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チャールズ・デ・リント 『リトル・カントリー(上・下)』 創元推理文庫 2002年2月07日 (購入)
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こめっちさんよりお薦めいただきました。ありがとうございました。
民族楽器のプロ演奏者であるジェーニーは、二冊しか本を出していない大好きなファンタジー作家ダンソーンが一冊だけ出した秘密の本を見つける。その本を開いた時、本の持つ魔法を手に入れようとして灰色の鳩という秘密結社が動き出し、ジェーニーの身辺はにわかに騒がしくなる。そんなジェーニーの物語と、ジェーニーが読み進めるダンソーンの本に書かれた物語が平行して語られていく。
ジャンルとしてはファンタジーなのかもしれないけれど、現実的な接点が多いし、サスペンスみたいな部分もあって、それほどファンタジー好きでもない私でも十分楽しめる。最初の方はかったるかったのだけれど、上巻の真ん中あたりからは先が気になって一気読みだった。何とも言えない美しい世界観や概念が、ちょっと困ったちゃんなところも多いジェーニーやジョディといった登場人物の存在でいかにも嘘っぽいものではなくなっているのがいい。一番印象に残る登場人物は、最初は悪役で登場するリーナだ。実際問題、誰かの人生にとって自分が悪役となってしまった場合、こうありたいと思うのだ。
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貫井徳郎 『殺人症候群』 双葉社 2002年2月08日 (購入)
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失踪症候群、誘拐症候群に続くシリーズ三作目。というかもしかしてこれで完結でしょうか?あまりにも哀しくて不可解な結末に呆然としています。
身内や恋人を殺したのが未成年や心神喪失とされた者であったら、復讐を遂げたいと思うものなのだろうか?そんな復讐を請け負う職業的殺人者の捜査依頼を倉持は断った。しかし、捜査をする原田と武藤の前に倉持はちらちらと姿を覗かせる。倉持の過去を知り、事件に関わるうちに武藤や原田の心もゆらぎ始めていく。職業的殺人者を脅かすことになった被害者の妻の言葉と、特に武藤の心の揺らぎの対象がなんとももの悲しい。最後の対決シーンの何とも言えないやるせなさには圧倒されてしまった。圧倒されつつも、このシリーズをこんなに哀しく締めくくるつもりなのだろうかという疑問は残る。それとも答えが出ない問いを語る本だから、この結末になるのだろうか?
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岩井志麻子 『岡山女』 角川書店 2002年2月10日 (図書館)
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亡くした片目に写る、時には不確かな映像。それを元に霊媒師として生きるタミエという女性と、彼女が遭遇した事件を描くホラー(?)小説。死霊の気味の悪さや、血なまぐさい描写よりも、タミエ自身の業やタミエが覗く他人の心の綾の方がおどろおどろしい感じがした。そんなに字が詰まった本ではないけれど、詰め込まれた情念みたいなものは濃厚かもしれない。
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ジョアン・ハリス 『ショコラ』 角川書店 2002年2月12日 (図書館)
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時間が停滞したような空気を持つ閉鎖的な小さな村に、秘密を持つ母と娘がチョコレート屋を開いた。店だけでなく母と娘も村に似つかわしくないと思いこんだルノー司祭は、教会を信じる村人をけしかけ、母と娘を村から追い出そうとする。それでも、村人たちは次第に母と娘とチョコレートに惹かれていく。
全体的には暖かい雰囲気の現代ファンタジーなのだけれど、母と娘に影響されて幸せを掴んでいく村人たちと、ところどころに挿入されるルノー司祭の日記の異常さが対照的かつスリリングだと思った。でも、何より心を捕らわれたのはいくつか並行する死の問題である。どういう死を迎えたいかという希望と、これだけのことはしないといけないという介護する側が縛られる道徳は両立し得ないものなのだろうか。
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skysoft
スティーヴン・ミルハウザー 『三つの小さな王国』 白水社 2002年2月15日 (図書館)
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・J・フランクリン・ペインの小さな王国
・王妃、小人、土牢
・展覧会のカタログ〜エドマンド・ムーラッシュの芸術(1810−46)
の三編からなる中編集。
文学的かつ幻想的な表現を多用している文章であり、お話自体が小さな段落ごとに途切れているような書き方なので、なけなしの記憶能力をフル回転させなければ、あらすじさえ追えないありさまでした。だけど、飾りの多い文章にも関わらず、あちこちにちりばめられた登場人物の感情の断片がなぜか印象的でした。一番気に入ったのは、J・フランクリン・ペインの小さな王国です。自分が持つものを奪われていき、一番こだわりたい技術は時代から取り残されていくという変化の中で、あまりにも静かに自分を貫こうとする主人公の姿に不思議な美しさがあるような気がしました。
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skysoft
J・R・R・トールキン 指輪物語(1〜9) 評論社文庫 2002年2月20日 (購入)
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映画「ロード・オブ・ザ・リング」の試写会に行ったものの名前すらわからない登場人物は多いし(レゴラスとかギムリとか)、あまりにも中途半端なところで終わってしまって気持ち悪いので、仕方なく読むことにしました。というのは一度挫折している本だからです。でも、今回はある程度世界観がわかっていたためか、すんなり読むことができました。
読み終えてみて、子供のころの私が読めなかったわけがよくわかりました。というのは、どうやって読んでも、人間社会の持つ問題を色濃く反映した部分を全部フィルターで覆うことが不可能な、甘い夢ばかりは見させてくれない厳しさを持つ物語だからです。特に読んでいて辛かったのは、第二部から先です。登場人物のうちで自分を投影して入り込める登場人物がフロドがサムだったためか、ピピンやメリー、アラゴルンやレゴラスやギムリの物語となっている時でも、フロドとサムの辛い旅が絶えず頭の中からはなれなかったからです。モルドールという国の気味の悪い造形、ホビット族の体の小ささから来る心細さ、飢えや渇き、指輪に抵抗するのに必要な強い意志力。そういう強烈な印象と、感情移入の相乗効果で読んでいるだけなのにぼろぼろになりそうでした(大人げなさすぎ)。二人については、未来に輝かしい伝説として伝わらないところが納得いきませんでした。だけど、冷静になって考えてみれば、そういうやりきれなさや厳しさが、この物語の持つ奥深さに繋がっているのでしょう。
一冊一冊リンクするのが面倒なので、指輪物語関連の記事に直接飛ぶようにしました。
結構面白いことが書いてあると思いますので、興味のある方はぜひ。
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skysoft
スティーヴン・ミルハウザー 『バーナム博物館』 福武書店 2002年2月22日 (図書館)
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・シンドバッド第八の航海
・ロバート・ヘレンディーンの発明
・アリスは、落ちながら
・青いカーテンの向こうで
・探偵ゲーム
・セピア色の絵葉書
・バーナム博物館
・クラシック・コミックス#1
・雨
・幻影師、アイゼンハイム
の十編からなる短編集。
相当優れた映像の想像能力がないと読みこなすのが難しいと感じました。つまり、お恥ずかしながら私は玉砕しました。それでも、「ロバート・ヘレンディーンの発明」については、なんとか雰囲気に浸って読むことができました。作品中に漂う将来が閉じられたようなモラトリアム的が現実から幻の世界に移行して閉塞していくような感覚は底のない穴に落ちて覚める夢に似ていて、ちょっと怖い感じがしました。だけど、大部分の作品で、物語の世界に入り込めなかったし、「クラシック・コミックス#1」についてはなんとか映像を思い描くことはできても肝心のストーリーがさっぱりわからないという大馬鹿そのものの状態でした。ダリとかマグリットの絵画となぜか高橋洋介の漫画を想像しつつ、すっかり取り返しのつかない迷子状態でした。でも、また機会があったらチャレンジしたいです。ちょっと波長があったかなーと思うと、なんとも気持ちのいい浮遊感と絶望感を感じますので。
村上春樹 『スプートニクの恋人』 講談社 2002年2月23日 (図書館)
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抱きたいけど抱けない。ストレートに書けばそういう気持ちが詰まっている恋愛小説なのかもしれない。部分的には共感できるところもあるのだけど、私も本の核心を遠く離れてただ回っていただけのような気がする。ひきこまれはするけれど、消化不良な状態から先に進めない。
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ベルンハルト・シュリンク 『朗読者』 新潮社 2002年2月25日 (図書館)
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世の中に断言してよいことがいくつあるだろう?
白黒つけられることなんか、本当はないのかもしれない。
ベストセラーになった本なので、それほど興味はもてなかったのだけれど、ちょうど借りることができたので読むことにした。今更言うまでもないけれど、いい本だった。法廷での再会からの展開が少年の初恋物語で終わらせない。戦犯は本当に正しく裁かれたのか(正しい裁き方ってものが本当に存在するなら)、戦犯を愛したら自分も戦犯なのか、主人公の葛藤に締め付けられるような悲しさを感じた。主人公の苦悩だけではなく、プライドを守るために犯していない罪も一緒に背負うハンナ、裁判が終わっても決して許す気持ちにはなれないユダヤ人の少女。どの気持ちも全て理解できるわけではないのに、痛いくらい伝わってくる不思議な小説だと思う。
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skysoft
岩井志麻子 『夜啼きの森』 角川書店 2002年2月26日 (図書館)
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戦時中の貧しい山村で起きた惨殺事件の原因は何だったのか。村や村人たちや村人が恐れる森を、一人称の視点を次々に変えながら描くホラー(?)小説。濃密な血縁関係と何代にも渡る因縁、根拠も忘れられた言い伝えなどと、閉塞感の中で狂気を帯びていく心理描写が絡み合って、辛気くさくて暗い雰囲気なのに妙にクールな感覚で読めるのが面白い。登場人物が狂気を帯びつつも、暗い諦観に支配されているからかもしれない。
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ポール・オースター 『偶然の音楽』 新潮社 2002年2月27日 (図書館)
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大切な人間を失うたびに、自分を転落させたいというどうしようもない欲求に駆られてしまうジム。破滅に惹かれる気持ちなどはわかりたくもない。なのに、どうして我慢できないのだろうという苛立ちを感じるどころか、読んでいるとジムの気持ちに同調してしまう。しかも、救いのない暗い物語なのに美しいとさえ感じてしまう怖い本だ。
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